私はあの日、主様と出会えた奇跡に感謝したい。【私の幸せは私が決める】
主様と、であった時の日のことはよく覚えています。
奴隷、であった私。
その時、主様は、今のような立場ではなかった。どちらかといえば、主様だって、私と同じような立場だった。そう、主様は………、一般的に言う弱者であった。立場的に言えば、まがいもなく、そういう立場にあった。だけど………、その心は、誰よりも気高かった。私は主様の見た目にも惹かれた。それは確かだけれども、私は何より、主様のその心に私は惹かれた。どうしようもなく惹かれたからこそ、私は主様に買われたのだ。
私は主様に出会った日、いつも通りコロシアムで過ごしていた。奴隷同士を戦わせる、そんな場で私は生きていました。
負ければ死ぬ、そんな状態の中に生きていた私は特に生きる希望も何も感じていなかった。私は……ただ、死なないように生きていただけだった。死にたくない、という気持ちはあった。だから私は戦い続けていました。
そんなある日、主様は……、現れました。
コロシアムのある地域が、災害に襲われた。
建物が倒壊し、人が沢山死んだ。私はそのどさくさに紛れて逃げ出した。
そこに、同じように逃げ出そうとしていた主様———いや、主様はまだ奴隷ではなかったけれど、奴隷にされる直前だった。主様は奴隷になる気はなかった。奴隷としてそのまま命を失う気はなかった。私は奴隷から解放されたらとか、そんなこと何も考えていなかった。だけど主様は、私を見かけておっしゃられたのです。
「お前、行く場所あるのか?」
主様を初めて見た時、その緋色の目が珍しいなと思いました。
首を振った私に、「お前来るか」といった。
主様の気まぐれから、私は主様と一緒にその場から抜け出した。コロシアムが崩壊した段階で、私も死んだと判断されていたと思われる。だから私はそのまま、主様についていかなくてもよかった。でも、私は主様と話をして、主様がいった言葉に頷いてしまったのだ。
「―――貴方は、これからどうするのですか」
そう聞いた私に主様はいったのだ。
「………これから、か。俺は、このままでは終わりたくない」
「………どう、するんですか」
「お金を稼いで、いい生活をする。俺が俺がしたいように生活する」
主様はその時そういった。お金をめいいっぱい稼いで、いい生活をするんだって。自分がやりたいように生活をしていくんだって。
それは、明確な目的でもなかった。だけど、そんな風に言い切って、叶えるんだって、そんな風に言い切った主様に惹かれたのは確かだった。だって私にはそんな目的がなかった。自分が何をどうしたいか、といったことが何もなかった。そんな私が、主様に出会って、いえ、主様に出会えたからこそ、”主様のために生きたい”という目標が出来たのだ。
「……お前、俺に買われるか?」
「……貴方に、買われる」
「ああ。お前に払えるものは、正直ない。あるとすれば……これからのことか」
「これからのこと……」
「ああ。俺はこれから成り上がる。これは決定事項だ。だからこれからお前が欲しがっているものを与えることは出来るかもしれないが……、まぁ、ついてくるかついてこないか決めるのはお前次第だ」
私がこれから、どうしたいか。
私は自分が何をしたいのか、よく分からない。私は奴隷であって、自分で何がしたいかなんて考えたこともなかった。主様がいった言葉の意味を、当時の私は考えた。私はおそらく、主様と会わなかったら、自分が何をしたいかも考えることもなかっただろう。奴隷から例え解放されたとしても、ただ生きていただけだっただろう。
でも、私は主様に出会えることが出来たから。主様は奴隷になりかけていた段階だったから、お金なんてなかった。なのに、私を買うといった。これから、成り上がってほしいものを与えることは出来ると。それは対価が支払われるか分からない、そんな契約だった。私は主様についていかないことだって選べた。
だけど……目標も、希望もなく、ただ生きていた私には、私と同じような立場に居ながらも目標を持って、生きようとしている主様が、とても眩しかった。眩しくて、惹かれて、私は主様と、一緒に居たいと思いました。それは確かな感情だったから、私は主様についていくことになりました。
それが、私と主様の始まりでした。
私は、当初主様のことを、主様とは呼んでおりませんでした。惹かれて、ついていくことを決めましたが、私が主様のために動けることが幸せだと、そんな風に思ったのは主様と共に過ごしていく中で、主様という存在にどうしようもなく心惹かれたからなのです。
ああ、主様。
私は人々が信じる神様なんて信じていません。私にとっての神様は、いつだって主様です。ですから、主様に何度だって心から思います。私と、であってくださりありがとうございます。私のことを買ってくださってありがとうございます。
あの時、主様は欲しいものを与えるとおっしゃいました。その後私は、ずっと、ずっと主様の側に居たいといいました。主様のために力をふるえるのが私の幸せなのだと。私が初めてそういった時、主様は笑ってくださいました。
主様、私は主様に出会えたからこそ”生きている”のです。主様が、私の生きる意味なのです。これからも、傍にひかえさせてください。
100作品突破記念企画の短編、これで終了になります。
活動報告で企画に参加してくださった読者様、本当にありがとうございます。
希望された短編、全て回収できずにすみません。後々のネタバレになりそうなものなどもあったので選んでこんな感じになりました。
少しでも読者様が楽しんでくだされば嬉しいです。
2018年2月3日 池中 織奈