5話:質問の仕方
※挿絵にAI生成イラスト画像を使っています。苦手な方はご注意ください。
質問が上手い奴は仕事ができる。
逆に言えば、質問が下手な奴は三日寝込む。もちろん俺のことだ。
あのキノコの件は寝込みながらずっと考えていた。
悪いのはサポートさんだけじゃない。俺の聞き方もだいぶ悪かった。
俺はあのとき「食べられますか?」とだけ聞いた。
似ている毒キノコはあるか。見分けるポイントは何か。そういうことは何ひとつ聞いていない。
そもそもサポートさんはこの世界のキノコを知らない。その前提を伝えずに聞いたら、前世のキノコで答えるに決まっている。
七割くらいは俺が悪い。三割はサポートさん。
……いや、六対四にしておこう。三日も寝込んだ俺もかわいそうだし。
そう言えば、前世ではAIへの質問にも型があった。
総務課で「AI活用講座」をやったときも、偉そうにホワイトボードに書いたものだ。受講者は四人だったけど。
一つ、何のために聞くのか。
二つ、自分がどういう状況なのか。
三つ、守ってほしい条件。
四つ、どんな形で答えてほしいか。
ここに今回から五つ目を足した。
わからないときは、わからないと言ってもらうこと。
これを言っておかないと、サポートさんはわからなくても何か答えようとする。真面目なのだ。真面目すぎて、たまに腹を下させてくる。
しかも俺には一日三十問の制限がある。
短い質問を何回も重ねると、あっという間に打ち止めだ。だから一問に条件を全部詰め込む。
試しに前にやらかした質問で比べてみよう。
《今日の晩飯、何にしよう》
《お好みや冷蔵庫の中身によります》
これが悪い例。貴重な一問を丸ごと無駄にしている。
次が型どおりに聞いた例だ。
《晩飯の献立を三つ考えてください。予算は銅貨五枚以内、かまどは一口、調理は三十分以内。冷蔵庫はありません。食材のデータは以前の会話ログを参照してください。わからない食材があれば、その旨を書いてください》
《承知しました。条件に合う献立を三つご提案します。一、豆と塩漬け肉の煮込み。二、……》
ちゃんと使える答えが返ってきた。
最初からこう聞けばよかったんだよな。冷蔵庫の件も含めて。
◇ ◇ ◇
昼休みは役場の裏の井戸に出る。インクで汚れた手を洗うのに書記室のみんながここに並ぶのだ。
順番待ちの間に誰が誰に突き返されたかが全部わかる。井戸端会議というのは言葉どおりの意味だったらしい。
今日の話題は、新人が奥の席のベテランに三回突き返されていたという話だった。
新人というのはもちろんミーナである。
昼過ぎ、ミーナが書類を抱えて戻ってきた。
足取りが重い。椅子に座ると書類を机に置いて、そのままじっと動かなくなった。
……嫌な予感がする。
「テオさん、ちょっといいですか」
「俺でよければ」
よくはない。でも断ると、たぶんもっと面倒なことになる。
「先輩に頼まれた書類なんですけど、もう三回突き返されてて」
「うん」
井戸で聞いた、とは言わないでおく。
「なんかダメって言われて。どこがですかって聞いたら、全部って」
「全部」
「全部です」
奥の席のベテランは、仕事は正確だが説明が異常に短いことで有名である。
放っておくと、ミーナは答えが出るまで俺に質問し続けるだろう。それは困る。昼寝ができない。
なので、さっさと片付けることにした。
「じゃあ、いくつか聞いていい?」
「はい」
「それ、何の書類?」
「市場の出店許可の控えです」
「誰に出すやつ?」
「先輩が確認して、事務長に回すって」
「突き返されたとき、先輩は書類のどこを見てた?」
「えっと……」
ミーナは少し考えてから、書類の右下を指差した。
「ここです。毎回、ここを見てから返されました」
右下には提出先の欄がある。ミーナはそこに事務長の名前を書いていた。
「先輩が前に書いた控えって、残ってる?」
「あ、あります。見本にもらったのが」
並べてみると、違いはすぐにわかった。
先輩の控えでは、提出先の欄に「書記室」と書いてある。日付の書き方も月と日の順番が逆だった。
中身は全部合っていた。
「……全部って、言われたんですけど」
「たぶん、先輩にとっては全部なんだと思う」
「どういうことですか」
「書式が違うと、中身を読む気にならない人っているんだよ」
前世の総務課にもいた。印鑑がちょっと斜めなだけで、中身を読まずに返してくる課長が。
「あとさ。次に返されたら、聞き方を変えてみな」
「聞き方、ですか」
「どこがダメですか、じゃなくて。一番直してほしいところを一つだけ教えてください、って」
「一つだけ」
「全部って言われても直しようがないでしょ。一つなら相手も答えやすいし、こっちも直しやすい」
ミーナは書類を直して、もう一度先輩の席へ向かった。
しばらくして戻ってきたミーナの手には、もう何もなかった。
「通りました」
「おめでとう」
「一応、聞いてみたんです。一番直してほしいところ」
「なんて?」
「次からは、字をもう少し大きく、って」
なんだそれ。それは最初に言ってほしかった。
「テオさんって、話聞くのうまいですね」
「……褒めるのやめてくれる?」
「え、なんでですか?」
「褒められると、ろくなことにならないんだよ。経験上」
「どんな経験ですか」
「それは聞かないで。あと、メモもしないでね」
「……もう書きました」
遅かったか。ミーナのメモ帳にはいったい何が書かれているんだろう。まあ、俺の評価が上がるようなことは書いてないだろう。
正直、褒められたら調子に乗る癖はもう治らないと思う。死んでも治らなかったんだから筋金入りだ。
質問の仕方はAIに教わったんじゃない。AIに外されまくって覚えたんだ。俺の数少ない特技と言っていい。
その特技を可愛い女の子に褒められたんだ。まず間違いなく俺は調子に乗る。
今日は酒場には寄らないで自炊しよう。酒が入ると何をしでかすか。考えただけで恐ろしい。
というわけで晩飯は豆と塩漬け肉の煮込み。銅貨四枚で済んだ。
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