↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
頭の中のAIは今日も丁寧に嘘をつく ~異世界で公務員やってます~  作者: カトーユキヒロ
第一章 異世界の役場で昼寝をする

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/17

5話:質問の仕方

※挿絵にAI生成イラスト画像を使っています。苦手な方はご注意ください。

 質問が上手い奴は仕事ができる。


 逆に言えば、質問が下手な奴は三日寝込む。もちろん俺のことだ。


 あのキノコの件は寝込みながらずっと考えていた。


 悪いのはサポートさんだけじゃない。俺の聞き方もだいぶ悪かった。


 俺はあのとき「食べられますか?」とだけ聞いた。


 似ている毒キノコはあるか。見分けるポイントは何か。そういうことは何ひとつ聞いていない。


 そもそもサポートさんはこの世界のキノコを知らない。その前提を伝えずに聞いたら、前世のキノコで答えるに決まっている。


 七割くらいは俺が悪い。三割はサポートさん。


 ……いや、六対四にしておこう。三日も寝込んだ俺もかわいそうだし。


 そう言えば、前世ではAIへの質問にも型があった。


 総務課で「AI活用講座」をやったときも、偉そうにホワイトボードに書いたものだ。受講者は四人だったけど。


 一つ、何のために聞くのか。


 二つ、自分がどういう状況なのか。


 三つ、守ってほしい条件。


 四つ、どんな形で答えてほしいか。


 ここに今回から五つ目を足した。


 わからないときは、わからないと言ってもらうこと。


 これを言っておかないと、サポートさんはわからなくても何か答えようとする。真面目なのだ。真面目すぎて、たまに腹を下させてくる。


 しかも俺には一日三十問の制限がある。


 短い質問を何回も重ねると、あっという間に打ち止めだ。だから一問に条件を全部詰め込む。


 試しに前にやらかした質問で比べてみよう。


《今日の晩飯、何にしよう》


《お好みや冷蔵庫の中身によります》


 これが悪い例。貴重な一問を丸ごと無駄にしている。


 次が型どおりに聞いた例だ。


《晩飯の献立を三つ考えてください。予算は銅貨五枚以内、かまどは一口、調理は三十分以内。冷蔵庫はありません。食材のデータは以前の会話ログを参照してください。わからない食材があれば、その旨を書いてください》


《承知しました。条件に合う献立を三つご提案します。一、豆と塩漬け肉の煮込み。二、……》


 ちゃんと使える答えが返ってきた。


 最初からこう聞けばよかったんだよな。冷蔵庫の件も含めて。


 ◇ ◇ ◇


 昼休みは役場の裏の井戸に出る。インクで汚れた手を洗うのに書記室のみんながここに並ぶのだ。


 順番待ちの間に誰が誰に突き返されたかが全部わかる。井戸端会議というのは言葉どおりの意味だったらしい。


 今日の話題は、新人が奥の席のベテランに三回突き返されていたという話だった。


 新人というのはもちろんミーナである。


 昼過ぎ、ミーナが書類を抱えて戻ってきた。


 足取りが重い。椅子に座ると書類を机に置いて、そのままじっと動かなくなった。


 ……嫌な予感がする。


「テオさん、ちょっといいですか」

「俺でよければ」


 よくはない。でも断ると、たぶんもっと面倒なことになる。


「先輩に頼まれた書類なんですけど、もう三回突き返されてて」

「うん」


 井戸で聞いた、とは言わないでおく。


「なんかダメって言われて。どこがですかって聞いたら、全部って」

「全部」

「全部です」


 奥の席のベテランは、仕事は正確だが説明が異常に短いことで有名である。


 放っておくと、ミーナは答えが出るまで俺に質問し続けるだろう。それは困る。昼寝ができない。


 なので、さっさと片付けることにした。


「じゃあ、いくつか聞いていい?」

「はい」

「それ、何の書類?」

「市場の出店許可の控えです」

「誰に出すやつ?」

「先輩が確認して、事務長に回すって」

「突き返されたとき、先輩は書類のどこを見てた?」

「えっと……」


 ミーナは少し考えてから、書類の右下を指差した。


「ここです。毎回、ここを見てから返されました」


 右下には提出先の欄がある。ミーナはそこに事務長の名前を書いていた。


「先輩が前に書いた控えって、残ってる?」

「あ、あります。見本にもらったのが」


 並べてみると、違いはすぐにわかった。


 先輩の控えでは、提出先の欄に「書記室」と書いてある。日付の書き方も月と日の順番が逆だった。


 中身は全部合っていた。


「……全部って、言われたんですけど」

「たぶん、先輩にとっては全部なんだと思う」

「どういうことですか」

「書式が違うと、中身を読む気にならない人っているんだよ」


挿絵(By みてみん)


 前世の総務課にもいた。印鑑がちょっと斜めなだけで、中身を読まずに返してくる課長が。


「あとさ。次に返されたら、聞き方を変えてみな」

「聞き方、ですか」

「どこがダメですか、じゃなくて。一番直してほしいところを一つだけ教えてください、って」

「一つだけ」

「全部って言われても直しようがないでしょ。一つなら相手も答えやすいし、こっちも直しやすい」


 ミーナは書類を直して、もう一度先輩の席へ向かった。


 しばらくして戻ってきたミーナの手には、もう何もなかった。


「通りました」

「おめでとう」

「一応、聞いてみたんです。一番直してほしいところ」

「なんて?」

「次からは、字をもう少し大きく、って」


 なんだそれ。それは最初に言ってほしかった。


「テオさんって、話聞くのうまいですね」

「……褒めるのやめてくれる?」

「え、なんでですか?」

「褒められると、ろくなことにならないんだよ。経験上」

「どんな経験ですか」

「それは聞かないで。あと、メモもしないでね」

「……もう書きました」


 遅かったか。ミーナのメモ帳にはいったい何が書かれているんだろう。まあ、俺の評価が上がるようなことは書いてないだろう。


 正直、褒められたら調子に乗る癖はもう治らないと思う。死んでも治らなかったんだから筋金入りだ。


 質問の仕方はAIに教わったんじゃない。AIに外されまくって覚えたんだ。俺の数少ない特技と言っていい。


 その特技を可愛い女の子に褒められたんだ。まず間違いなく俺は調子に乗る。


 今日は酒場には寄らないで自炊しよう。酒が入ると何をしでかすか。考えただけで恐ろしい。


 というわけで晩飯は豆と塩漬け肉の煮込み。銅貨四枚で済んだ。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、下の☆マークから評価と応援をお願いいたします。

作者が泣いて喜びます。

毎日更新頑張りますので、ブックマークをしていただけると嬉しいです。

また作品に対する感想、助言などお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。