クリスマス
お久しぶりです。
クリスマス当日。
部屋の装飾や、クリスマスツリーの装飾も完璧で迎えたクリスマス当日。
放課後、平太が保育ルームに向かうと、すでに部屋から楽しそうな声がもれてきていた。
「……失礼しまーす、あれ? もう居る――」
静かにドアを開けると、大きな白い袋を広げながら、すでにサンタクロース――ではなく、サンタクロースに扮した校長が、子どもたちにお菓子を配っていた。
それから平太に気付くと、校長は少し苦笑してから口を開く。
「あぁ、つい早く来てしまったよ――この前、梅田さんから手紙をもらったら、子どもたちに早く会いたくなってしまってね」
そう平太に答えてから目尻を下げると、校長は子どもたちの頭を順番に撫でた。
すると、辰が嬉しそうに訊く。
「サンタさん、てがみよんだのか?」
「あぁ、読んだよ。皆からの手紙は、ちゃんと保管してあるからね」
それを聞いて、薫や彩、杏もにっこりと嬉しそうな顔になる。
そんな子どもたちに、校長も微笑んで続けた。
「辰くんは怪獣を描いてくれていたね。口から炎を噴いていて、強そうでカッコよかった」
「だろー!」
ふふんと胸を張る辰に頷いて、校長は次に薫に顔を向ける。
「薫くんは丁寧に言葉を綴ってくれていたね。空いてる所にはサンタが描かれていたが、あれは私かな……?」
「ぁ、うん……! あんまりうまくはないかもだけど……」
自信なさげに笑う薫に、校長は「そんなことはない」と首を横に振って言った。
「上手だったよ、ありがとう」
「そっか……、よかった」
少し照れながら笑う薫に微笑んで、今度は隣の彩と杏に顔を向ける。
「彩さんと杏さんは、綺麗なお花と星を描いてくれていたね。見ていて思わず笑顔になったよ」
そう校長は穏やかな笑みを浮かべる。
彩と杏は顔を見合わせると、少し照れくさそうに微笑んだ。
「よかった!」
「よかった……!」
子どもたちと校長のやり取りを見ながら、平太もよかったな、と少し微笑む。
初枝も少し離れた所から、笑顔で子どもたちと校長を見守っていた。
子どもたちにお菓子を配り終えた校長は、最後に平太のもとにやってきて、袋からスナック菓子を取り出した。
「松城くんも、メリークリスマス」
「あ、ありがとうございます」
校長から差し出されたお菓子を、平太は軽く頭を下げてから受け取る。
「松城くんも、手紙ありがとう――子どもたちに喜んでもらえていたのがわかって、安心した」
「いやいや――今日の子どもたちと同じですね」
そう平太は、お菓子を嬉しそうに見つめる子どもたちに視線を向けて微笑んだ。
校長も子どもたちに視線を向けて「そうだといいんだが」と微笑む。
「喜んでもらえたなら、サンタにとってこれ以上の幸せはないな」
校長は空になった袋を畳みながら、ふと壁に掛かっている時計に視線を向けて「おっと」と呟いた。
「この後リモート会議があったんだ。そろそろ戻らないと――」
ドアに向かう校長に、初枝は「ありがとうございました」と見送りに向かう。
「――今年も良いクリスマスになりました」
「いやいや。喜んでもらえてよかった、それじゃ、失礼するよ」
そう校長がドアを開けると、子どもたちが「もういっちゃうの?」と集まってくる。
校長は一つ咳払いすると、子どもたちの頭を順番に撫でてから言った。
「あぁ、そうなんだ。これから他の子どもたちの所にも行かないといけなくてね。名残惜しいが……」
そう申し訳なさそうな顔で校長が伝えると、四人は校長を見上げて口を開く。
「そうなのか」
「しょうがないね」
「がんばってね!」
「きをつけてね……!」
四人からそれぞれ言葉を受け取って、校長は「あぁ」と優しく微笑んでから、初枝と平太に「それじゃあ」と一言残し、保育ルームを後にした。
校長が去ってから、お菓子に夢中な子どもたちに、初枝は「さ、皆」と軽く手を叩いて、視線を集める。
「お菓子は後にして、ティータイムにしない?」
初枝の提案に、子どもたちはお菓子と初枝の顔を交互に見て、それから顔を見合わせた。
「……いま たべないのか?」
子どもたちを代表して、辰が少し不満げな顔で初枝に訊く。
他の三人もお菓子を食べる気でいたので、そわそわしながら初枝の返事を待った。
「お菓子は……、今は食べません」
きっぱりと否定した初枝に、子どもたちは「え〜」とあからさまに残念な声を出す。
普段めったに不満を口にすることのない薫や杏も、少し拗ねたように口を尖らせている。
「……さすがにそれは可哀想なんじゃ……」
近くで聞いていた平太が、こそっと初枝に声をかけると、初枝は「いいのよ」とくすっと笑ってから続けた。
「今日はね、ケーキを買ってあるの。だから、お菓子は後でね」
その言葉に、子どもたちは一瞬で目を輝かせる。
「ケーキあるの?!」
「ええ、あるわよ――今年は特別ね」
驚きと喜びの混じった声を発した彩に答えて、初枝は笑顔で子どもたちに顔を向けると「準備するわよ」と手を叩いた。
「さ、冷蔵庫にしまってあるから、皆テーブルに集まってくれる?」
辰と彩は「やったー!」と両手を上げて、初枝に従ってテーブルに向かう。
薫と杏は「フォークとか じゅんびしなきゃね」「そうだね」と初枝の後に続いた。
平太も薫と杏に続いて、準備の手伝いに向かう。
「あ、平太くん――飲み物なんだけど、りんごジュースとオレンジジュース、炭酸はカルピスソーダがあるから」
「結構買いましたね……」
給湯室からひょっこりと顔を出した初枝は、右手にりんごジュース、左手にオレンジジュースのペットボトル――しかも1.5リットル入りを持っていて、平太は目を丸くした。
「ちょっと楽しくなっちゃって――カルピスソーダは冷蔵庫にあるから」
「持ってってくれる?」と少し肩を上げて笑う初枝に「そうなんですね」と平太もふっと笑ってジュースを受け取る。
テーブルにジュースを置きに行くと、辰と彩が「まだ〜?」と口を開いた。
「お前らも薫と杏を見習え――。働かざる者食うべからずだぞ」
てきぱきとフォークやコップを準備する二人を見て、辰と彩は「え〜」と面倒くさそうな声を出す。
そんな二人に、平太はわざとらしく溜め息を吐いた。
「はぁ〜あ、辰と彩は準備手伝ってないから、ケーキ少ないかもな〜、残念だな〜」
「えっ、なんでだよ! いわれたとおり テーブルにあつまったろ!」
「そうだよ!」
やいやいと反発する二人に、平太は「そうだけど、そうじゃないだろ?」と続ける。
「“皆で”美味しく食べるために、薫と杏は動いてるんだぞ? 辰と彩は、“皆で”美味しく食べたくないのか?」
「それは……」
「……そうかもだけど」
と二人は少し肩を落とした。
平太はそんな二人に優しく促す。
「なら、やることは一つだろ?」
平太の声掛けに、辰と彩は顔を見合わせてから、初枝の居る方に向かって、声を張った。
「「せんせー、じゅんびするー!」」
「あら、助かるわ。じゃあ切ったケーキ、持ってってくれる? あとジュースもまだ冷蔵庫にあるから、それも持ってってね。炭酸だから、揺らさないように気をつけて」
給湯室から顔を覗かせた初枝に、辰と彩は「はーい!」と返事をして向かっていく。
そんな二人を見送って、平太も手伝うかと二人の後に続くのだった。
「――皆、準備はいい?」
テーブルにケーキの乗ったお皿を運び、それぞれ好みのジュースを選んでコップに注いだ。
辰と薫、平太はカルピスソーダを注ぎ、彩はオレンジジュース、杏と初枝はりんごジュースだ。
皆でコップを片手に持って、初枝の言葉を待つ。
「それじゃ、メリークリスマース」
『メリークリスマース!』
「メリークリスマース――」
それぞれコップを軽く掲げると、そのまま口に運んで一口飲んだ。
「ぷはー、うまー!」
「しゅわしゅわだ」
辰と薫は少し眉間に皺を寄せながらも、美味しそうにまたコップを口に運ぶ。
「久しぶりに飲んだな、うま――」
平太も一口飲んで、こんな美味かったか、と少し驚いてコップを見つめた。
彩と杏も「おいしい」と呟いて、にっこりと笑顔になる。
「オレンジジュースおいしい!」
「りんごジュースも、おいしいよ……!」
彩と杏は互いに笑いあって、楽しそうに会話をしていた。
初枝も皆の反応を見ながら、微笑んでコップに口付ける。
それから一息吐いて、初枝は笑って皆に言った。
「――クリスマスといったら、やっぱりケーキよね。苺のホールケーキにして正解だったわ」
皆の前に置かれたケーキは綺麗に等分され、一人一つ必ず苺がいくようになっている。
「イチゴ、おおきいね!」
「ね!」
彩と杏はにこにこしながら手を合わせ「いただきます」と呟いてからフォークを手にすると、上に乗っている苺に刺して口にもっていく。
それからぱくりと齧ると、美味しそうに目を輝かせた。
「ん……、あまい!」
「すっぱくないね!」
「おいしい!」と頬を綻ばせる彩と杏。
辰と薫も「いただきます」と呟いてから苺を食べると、同じように目を輝かせた。
「うんまー!」
「こんなにあまいの、はじめてかも……!」
美味しそうに口を動かす子どもたちを見ながら、平太も「いただきます」と呟いて、どれどれと苺にフォークを刺して口に運ぶ。
少しは酸味があるだろうと思っていたのだがそんなこともなく、口の中いっぱいに甘さが広がった。
「めちゃくちゃ甘い……! なんだこれ」
続けてケーキを一口食べると、甘過ぎない生クリームが苺の甘さと中和され、ちょうど良い塩梅になっている。
皆が感動しながらケーキを食べていると、初枝も満足そうに微笑んで言った。
「ふふふ、このお店ね、厳選したフルーツを使ってるんだけど、そのフルーツの甘さに合わせて生クリームとか作ってるらしいの。私も初めて食べた時感動しちゃって、皆にも食べてほしかったから」
「買ってよかったわ」と初枝もフォークをケーキに伸ばして一口切り、口に運ぶ。
子どもたちと平太は、初枝の言葉に「そうなんだ」、「そうなんですね」と相槌を打ちながらも、味わうようにケーキを堪能するのだった。
*
ティータイムも終わり、子どもたちはそれぞれ本を読んだり人形で遊んだり、校長から貰ったお菓子を自分の鞄にしまったりしている。
平太は食べ終わったお皿や空になったコップを、給湯室で洗っていた。
「――まぁ、洗ってくれてるの? 後で私がやるのに」
洗い物をしに来た初枝に、平太は「いやいや」と口を開く。
「たまにはやりますよ――ケーキ、美味しかったです。ありがとうございます」
「そう? ありがとう――喜んでもらえてよかったわ」
そう初枝は微笑んで、それから思い出したように訊いた。
「そういえば、勉強の方はどう? そろそろ本番よね」
「そうですね、ラストスパートって感じですかね。それで、来月なんですけど……」
と少し申し訳なさそうに平太は初枝を見る。
「受験本番なので、終わるまでは保育ルームに来るのを少し減らしてもいいですか……? 終わったらまた来ますんで……!」
「もちろん大丈夫よ、自分のこと優先してね。後悔してほしくないもの」
そう穏やかに微笑む初枝に、平太も「ありがとうございます」と安心したように笑った。
「悔いのないように、頑張ります」
「ええ、頑張ってね。応援してるわ」
「なんのはなし してんだ?」
そこに辰がやってきて、二人の会話に参加する。
他の子どもたちも、なんだなんだと集まってくるので、平太と初枝は「狭いから一旦出て話そう」と子どもたちを給湯室から外に出した。
「それで、なんのはなし?」
「来月は、平太くん受験があるから、あんまり来られないかもって」
辰の問いに初枝が答えると、子どもたちは顔を見合わせる。
「あー……ごめんな」
平太が気まずそうに謝ると、子どもたちは首を横に振って言った。
「あやまんなよ」
「がんばってるの、みてたから」
「がんばってね!」
「おうえんしてるよ……!」
子どもたちの言葉に、平太は一瞬言葉に詰まりそうになる。
それをなんとか堪えて、平太は笑って子どもたちの頭を撫でた。
「っ、そうだな……、ありがとう。頑張ってくるわ――でも、今日はめいっぱい楽しむぞ! 何する?」
いつものように明るく笑った平太に、子どもたちも顔を明るくさせる。
それから怪獣ごっこや本の読み聞かせ、人形遊びや家族ごっこなど、子どもたちから要望が上がった。
平太は「はいはい、順番にな」と子どもたちの背中を押して、場所を移動する。
そんな四人を優しく見送って、初枝は残りを片しに給湯室に戻る。
今年のクリスマスも、楽しく終えられそうだわと、初枝は一人微笑むのだった――
子どもたちの言葉を思い出した帰り道。
平太「……はぁ、涙腺脆くなってね?(苦笑)」




