第42話:週末のジム(谷川莉子)
週末、土曜日の午後。
ジムの空気は、やっぱり平日とはだいぶ違う。
扉が開いて、直也くんが入ってくると――やっぱり、胸の奥がすっと軽くなるのを感じた。
「こんにちは!直也くん」
自然に声が出た。
私がこの時間に合わせて来ているなんて、直也くんは気づかないだろうけれど。
※※※
ストレッチエリア。
直也くんが腰を下ろすと、私はタオルを肩にかけて隣に腰を下ろした。
「前屈、手伝ってあげるよ」
「おっ、莉子、ありがとう」
背中を軽く押してあげると、彼はちょっと苦笑して息を吐いた。
「仕事を理由に、最近運動不足だったから、流石にちょっとキツいな」
「ダメだよ。……ちゃんと運動しないと」
――だってそうじゃないと、なかなか会えないじゃん……。
トレッドミルでは、横並びで走る。
速度設定をできるだけ合わせて――ほんの十五分くらいなのに、不思議と楽しい時間になる。
その後、汗を拭きながら並んでベンチに座ると、自然と町内会の話になった。
「そろそろ夏祭りの準備があるみたい」
「櫓の組み立てとか?」
「そうそう。あと境内の清掃も。保奈美ちゃんはまだこの町内会には全然慣れていないだろうし、力仕事が多いから、やっぱり直也くんが来てくれたらすごく助かるんだけどな」
直也くんは水を飲みながら、即座に頷いた。
「もちろん時間作るよ。こういうのは皆でやらないとね」
その一言に、胸が温かくなる。
――昔から変わらない。本当に、優しいなぁ。
※※※
休憩スペースで少し涼んでいる時、ふっと口から出てしまった。
「ねぇ、直也くん。保奈美ちゃん、ますますキレイになったね」
彼は一瞬だけきょとんとした顔をして、それから少し目を逸らした。
「うん? まぁ、そうかな」
私は思わず笑ってしまった。
「ダメだよ。ちゃんと褒めてあげないと。
女の子にはそれがすごく大切なんだから」
「……ああ。でもオレがそういうキャラじゃない事くらい、莉子は分かるだろう」
「へへっ。それはそうだよね」
昔から知ってる。
直也くんは素直じゃないけど、優しい。
だからこそ――彼の隣にいると、安心できる。
だから、できるだけ隣にいつもいたい。
※※※
ジムを出る頃には、夕方の風が少し涼しく感じられた。
歩きながら、心の中でそっと呟く。
――夏祭り、また一緒に準備できるのが嬉しいな。
きっと保奈美ちゃんも手伝うだろうけど。
その中に自分もいられることが、ただただ嬉しい。
幼馴染としての距離感。
でも、直也くんと2人だけのこの時間が、少し特別に感じてしまう。




