第41話:谷川莉子
土曜の午後。
ジムの空気は、どこかいつもと違う。
扉が開いて、直也くんが入ってくると――やっぱり、胸の奥がすっと軽くなる。
「こんにちは!直也くん」
自然に声が出た。
私がこの時間に合わせて来ているなんて、気づかれていないだろうけど。
※※※
ストレッチエリア。
直也くんが腰を下ろすと、私はタオルを肩にかけて隣に腰を下ろした。
「前屈、手伝ってあげるよ」
「お、ありがとう」
背中を軽く押してあげると、彼はちょっと苦笑して息を吐いた。
トレッドミルでは、横並びで走る。
速度を少しだけ合わせて――ほんの十五分くらいなのに、不思議と楽しい時間になる。
汗を拭きながら並んで座ると、自然と町内会の話になった。
「そろそろ夏祭りの準備があるんだ」
「櫓の組み立てとか?」
「そうそう。あと境内の清掃も。保奈美ちゃんはまだこの町内会には全然慣れていないだろうから、直也くんが来てくれたらすごく助かるんだけどな」
直也くんは水を飲みながら、即座に頷いた。
「もちろん、時間作るよ。こういうのは皆でやらないと」
その一言に、胸が温かくなる。
――昔から変わらない。本当に、優しいなぁ。
※※※
休憩スペースで涼んでいると、ふと口から出てしまった。
「ねぇ、直也くん。保奈美ちゃん、ますますキレイになったね」
彼は一瞬だけきょとんとした顔をして、それから少し目を逸らした。
「うん? まぁ、そうかな」
私は思わず笑ってしまった。
「ダメよ。ちゃんと褒めてあげないと。女の子にはそれが大切だもん」
「……ああ。でもオレがそういうキャラじゃない事くらい、莉子は分かるだろう」
「へへっ。そうだね」
昔から知ってる。
直也くんは素直じゃないけど、優しい。
だからこそ――彼の隣にいると、安心できる。
※※※
ジムを出る頃には、夕方の風が少し涼しく感じられた。
背中にタオルを掛けたまま歩きながら、心の中でそっと呟く。
――夏祭り、また一緒に準備できるのが嬉しいな。
きっと保奈美ちゃんも手伝うだろうけど。
その中に自分もいられることが、ただ嬉しい。
幼馴染としての距離感。
でも、この時間だけは少し特別に感じてしまう。




