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第二章 人生の転換点

 2093年、中東に展開していた超国家主義者らによってアラビア連邦が実効支配され、「ペルシア統一政府」が出来るとアトランティック連邦は自由と解放を名目についに両国間での戦争に発展した。100万人を超える大規模な海兵隊の上陸により、一時はアラビア半島が陥落し戦争は終結に迫ったが海兵隊の現地司令部に突然の轟音とともに巨大はヒト型兵器「TacticalArmor」が降下し瞬く間に前線は崩壊し上陸していた海兵隊は大きな損害とともに撤退した。これによって両国の戦争は終戦しないまま5年経ち各国でも同様のTAの開発競争とともに生産を開始した。その裏では、この戦争の影響で国際警備会社「ワールズ・セーフティ」が大規模なリストラを敢行し、その中で新渡戸零も退職を迫られ、極東連合に帰国しようと準備していたホテルの外から爆発音と悲鳴が響いた。そして彼が振り返った時背筋が凍ったように戦慄していた。

 2098年、ニューヨークで仕事をしていた彼は突然のリストラ通知を受けて肩を落としながらホテルの一室で準備していた時外から突然の爆発音とともに人の叫ぶ声が響いた。彼は「なんだよこんな時に」とすこしイラついたように振り返ると彼の頭は真っ白になった。「...は?」


 その言葉とともに目の前に広がっていたのは巨大なアパートが大きく倒壊し周囲は炎に包まれている光景であった。建物からは瓦礫とともに飛び降りている人も何人もいるほか下では泣き崩れているものや必死にバケツで水をかけている姿があり、その光景に唖然としていると奥の方でまた赤い光が広がっていた。彼はすぐに正気を取り戻して走って窓に向かって何が起きているか目を凝らして空を見つめる。


 すると彼の目に映ったものは考えられないものが映っていた。空には数十発のミサイルであった。直感的に危険を感じ取った零はすぐに廊下に飛び出し階段に向けて走る。エレベーターには同じように休んでいた観光客やスタッフがいち早く逃げようとお互いを押し合っていた。


 そしてやっとの思いで零は階段につくと階段でも逃げようとしている人がお互いを押し合って走っていた。零は少し戸惑いながらも「ここで止まれば次に死ぬのは俺だろう」と覚悟を決め、その人の波に飛び込み階段を下り始めた。幸いというべきか彼が泊まっていた部屋は4階だったこともありすぐに外に避難できた。外では次々と車が中に入り家族や友人と思しき人たちが車に飛び乗って逃げていた。


 彼はとにかく走って距離を取ろうと車が動き回る道路に飛び出しひたすら空港に向けて走った。途中逃げようとする車にひかれかけるなどの危険もあり、また走り始めてすぐに彼が泊まっていたホテルが攻撃され瓦礫が飛び散り腕を負傷したりと体はボロボロになりながらも必死に走り続けた。


 そして周囲は夜とは思えないほどの炎で染まったニューヨークで唯一の国際空港に息を切らしながら到着した。時間はすでに午前1時を回り零は空港に着くと時計を見て「あれから4時間も...よく走れたな俺」と自画自賛しながら深呼吸しゆっくりと中を歩き始めた。中には避難してきた人や負傷者、離陸を待つ人などでごった返しており、席も埋まっている状態でまともに休める状況ではなかった。


 そしてようやく午前3時になって外から爆発音が止み始めてきた。7時間続いた攻撃はついに終わったと周囲の人は泣いていたり冷静にニュースを見つめる者もいた。そんな中でも空港内でのアナウンスで攻撃が終了した旨の連絡がされた。「アトランティック連邦政府よりペルシア統一政府による報復攻撃はもうないとの発表がありました。今回の攻撃は対空火器のシステムエラーによる防空網の崩壊が原因でしたが現在は修復が完了し大西洋にて防衛に成功しているとのことです。そのためこれより極東連合行の飛行機を順次離陸いたしますのでお乗りのお客様は2番ゲートまでお越しください。また、本日負傷者も多いため健康の方を優先してお乗りいただき、負傷者の方は現在、救急の方がこちらに向かっておりますので治療後お乗りください。繰り返します...」とついに離陸準備が整ったとの連絡が入り周囲の人は歓声や安どの声が出ていた。零も乗ろうとゆっくりと立ち上がったがその時に突然腕に痛みが走る。


 「っ!そうか逃げるときに瓦礫が刺さったままだったのか」その腕からは血が出血しており彼は少し落胆したように空港で包帯を購入すると腕に巻き止血した。「これじゃあ乗れるのは当分先だな」とつぶやきながら離陸を開始した飛行機を眺める。そして外を眺めていた時、ふと違和感を感じた。


 零はゆっくりと天井を見上げ「この音、飛行機じゃないよな」その言葉に周囲の人々は静まり返り次々と上を見上げて聞き耳を立てた。あるものは「何も聞こえない」と呟き、またある者は「なんか風を切ってるような音だな」と口にした。その直後、音が突然大きくなり滑走路が爆音とともに炎に包まれた。何かが落ちた先にはすでに離陸準備していた飛行機が下り、爆発とともに跡形もなく崩れていた。


 周囲では悲鳴が響き、彼は何もできずに立ち尽くすことしかできなかった。しばらく沈黙していた中で周囲から「逃げろ!」という声とともに再度地面が爆発音とともに揺れたことで正気を取り戻し、彼は入り口に向けて走り始めた。


 空港から出た後、避難所に向かうことも考えたが、またミサイルが落ちてきて狙われることを考えると零は人があまりいない場所に逃げようと小さな公園に向かい、ベンチに座って恐怖に体を震わせながら就寝に着いた。目が覚めると太陽は真上にありおそらく正午を回ったころ、ようやく周囲の人も救助を始めていた。


 零はゆっくり体を起こすとずっと走り続けたからなのか両足はひどく痛み、来ていたスーツはボロボロになっていた。零は頭を抱え「これからどうすればいいんだ」とうなだれることしかできなかった。周囲では攻撃が止んだからなのか救助している姿が見え、人の声しか聞こえないことからおそらく救急車なども来ていない様子だった。


 零はスマホを開いてまず状況の確認を行った。ニュースはずっとアトランティック連邦へのミサイル攻撃でもちきりだった。どこのニュースも同じ報道を繰り返しており、犯人は現在戦争中であったペルシア統一政府のようだった。どうやら大陸間弾道ミサイルを用いた攻撃のようでニューヨーク以外にもボストンや東海岸の数か所に攻撃があったようだ。アトランティック連邦政府は今回の結果に対して「これがテロリストのやることだ。彼らは立場の弱い民間人を狙い国家の安定を破壊しようとする。我々は断固として対抗し、世界の恒久の平和のために必ずテロリストどもを逮捕し自由を取り戻す」と宣言していた。それに伴い、極秘作戦も始動していることを表明しており着々と反撃の準備をしていることを国内外に伝えていた。零はニュースをあらかた確認すると激痛の走る足を引きずって歩き始めた。


 「お金もない。家もない。頼れる人もいないのにどこに行けばいいんだ」そう心の中で呟きアトランティック連邦最大都市だったニューヨークの変わり果てた姿を眺めながら行く当てもなく進み始めた。


 歩き始めて日が沈み始めたころニューヨーク市内にもようやく救急隊が到着し辺りから救急車のサイレンが響き始めた。零はすでに体力が限界を迎えており空腹も重なって体はふらつき視界はずっとぼやけていた。そんな中でひときわ目立つ掲示板を見つけた。光っているわけではない、おそらく幻覚なのだろう。しかし彼にはそれを判断する力はなくただそこに向かって歩くことしかできなかった。


 目の前に着いた時その掲示板が何かに気づく。「求人情報...こんな時にか」そう小さく口にしたが、少し視線を下に向けた時ひときわ視線を奪う広告を見つけた。「民間警備会社 アトランティック・セキュリティ...。給料も高いし住まいもある。ここなら飯も食えるか?...電話番号はここか」そう言い終えると彼は震える手でスマホで電話を掛けた。少しの沈黙の後電話がつながった。「こちらは民間警備会社アトランティック・セキュリティです。ご用件をお伺いします」と返信が返ってきた。零は限界状態の声を精一杯振り絞って伝えたいことを端的に言い始めた。「仕事...家...飯...」そう話していると全身から力が抜けて意識を失った。


 次に目が覚めると彼は病院の一室にいた。前進には包帯が巻かれ、点滴も刺さっていた。ゆっくり体を起こした時、外から鳥のさえずりが聞こえた。外を眺めると外には炎や黒煙はなくきれいな青空が広がっていた。「これは...生きているのか?」思わず外を眺めながらつぶやく。


 そうして数分経った頃、病室のドアがノックされ少し待つとゆっくりドアを開けて看護師が入ってきた。そうして少し状態を聞かれ答えるとやがて医師とスーツを着た人物が入ってきた。医師と看護師は少し目を合わせると零に一礼すると病室を後にし、病室にはスーツ姿の男性と零のみとなった。


 そしてスーツ姿の男性はクリアファイルと確認しながら話し始めた。「あなたが新渡戸零さんですね?私は民間警備会社アトランティック・セキュリティの広報担当で参りました。本来なら自己紹介しなければいけないところですが時間がないのでもし御用があれば事務員とでも呼んでください」その言葉に零は意識を失う前のことを思い出し、思わず話をさえぎって質問する。「ここはどこだ?なぜここにいる?」その言葉に事務員はクリアファイルを閉じて目を見て話し始めた。「あなたはニューヨークで倒れていましたので電話の発信元から場所を割り出してこちらに搬送しました。ここはワシントンD.Cにあるわが社が所有する民間病院です。私たちの会社は完全成果主義で採用条件は体力試験に合格するか否かです。正直あなたが体力が残っているかはわからないため本社では採用するか否かの瀬戸際におりましたが経歴で国際警備会社ワールズセキュリティに所属していた点で期待を込めて採用しています。わが社含めて国内ではどこも人材不足で優秀な人材を探しています。あなたがその一人であることを期待しますよ。退院した後はこちらの事務所に訪れてください。こちらで正式な手続きと今後の予定をご連絡します。」そう言い終えると電話番号、住所が書かれたメモと現金100ドルの入った封筒が渡された。零は少し驚きの顔をしていたがひとまずは感謝の礼をして退室する姿を見送った。


 そしてその後も幾度か見舞いに事務員の方が訪れて仲良く話すことが増えてきたころ、ついに零は退院した。体は少しなまってるが少しストレッチすると元気よく走りだし、住所の書かれたメモを頼りに事務所に走り始めた。ワシントンはニューヨークと違って周囲の人の目には絶望がなく何事もなかったかのように過ごしている。おそらく数か月攻撃がなかったことでみんな油断しているのかもしれないと走りながら零は眺めていた。


 季節は少し寒くなり始めたころであった。走ってくるときに聞こえたラジオでは、アトランティック連邦都市では初雪が観測されたことなどの少し平和な話からいまだに戦争が集結せず講和会議も進んでいないことが語られていた。国会では講和を求める以前の爆撃被害者らによるデモも発生していたことも語られており、零は走りながら「あの惨劇を見れば誰でもやめたくなるだろうな」と心の中で呟いた。


 そして数十分かけて事務所の前に立つと少し息を整えてついに中に入った。中には受付と事務員の姿があり、事務員は零に気づくと手を伸ばして一室に案内してくれた。零は一礼して中に入り目の前の椅子に座って待った。そして数分後、事務員も中に入りクリアファイルを開いて手続きが始まった。


 内容の多くは個人情報の管理などについてものが多く零は渡された書類を一つ一つ確認し署名していく。その中で一つの書類に目を通した時に手が止まった。そこまで円滑に進めていたため事務員も少しこっちを見ていた。そこに書いてあった内容は「派遣先についての機密情報の取り扱いについて」という内容だった。一見すると何の変哲もない書類だが零は書類を見ながら事務員に尋ねた。


 「事務員さん。これって書いてある内容が明らかに軍事関係のことですよね?TAって何ですか?パイロットになる可能性もあると記載されていますよ」そう言うと事務員は少し目を背けて悩んだ後に答えた。「この書類は警備だけでなく国家の命令によっては傭兵として活動することを認める書類になります。以前私もパイロットとしての経験があり適性検査で落ちました。しかし、洞察力の高さからこうして広報係や今後生まれるであろうパイロットのサポートとして活動しています」その言葉に零は思わず焦るように質問した。


 「つまりこの警備会社は傭兵も兼任するんですか?人を...殺せと?そんなことやったことない。あるのは練習だけだ」声は震え、手には汗をかきながら質問すると事務員は静かに頷いた。しかし、事務員は冷静に続けた。「あなたの気持ちはわかります。誰だっていくら限界でもすぐに人を殺せと言われてできるわけがないんですから。ですが、それをやらなければより多くの人が死にます。特にあなたは目の前で亡くなった人を見ていたでしょう。あれが戦争です。軍です。無理にやる必要はありません。難しければ適性検査で落選すれば私と同じように広報として活動できるでしょう。私はあなたが選ぶ道に進むことができるように最大限サポートします。たとえ人を殺す選択肢を選んだとしてもその時は共に」そう言い切ると下を向いたまましばらくの沈黙が続いた。


 そして零はゆっくりと声を出した。「俺に才能があるとは思わない。けど、それで逃げた結果があの惨劇なら。俺はやり切りますよ」そう言うと最後の書類に署名して事務員に手渡しした。事務員は署名を確認すると「必ずやり遂げてください」と一言伝えその後は今後の予定が伝えられ、雪が降る中、ついにTAパイロット採用試験に向けての適性検査が始まった。周囲には個人的に参加しているものや会社のロゴを背負っているものなどもおり、事情や立場は様々だった。零は一呼吸すると試験会場に入り試験を受け始めた。


to be continued...

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