第三章 TAパイロット
アトランティック連邦最大都市ニューヨークは、ペルシア統一政府による大規模なミサイル攻撃を受けた。突然戦火に巻き込まれた新渡戸零は生き残るために必死の逃走を続け、故郷・極東連合への帰国を目指して空港へ向かう。しかし、その希望は離陸直前の旅客機が目の前で撃墜されたことで打ち砕かれた。爆撃が終わった後も、仕事も住まいも失った零を待っていたのは絶望だけだった。飢えと疲労に限界を迎えた彼は、最後の力を振り絞り求人広告で見つけた民間警備会社「アトランティック・セキュリティ」へ連絡を取る。やがて病院で目を覚ました零は、事務員と名乗る男との出会いをきっかけに、自らの運命を変える採用試験へ足を踏み入れることとなった。
2099年2月、ワシントンにてついにTAパイロット適性試験が実施された。TAという兵器は零を含め一般の人には何一つ情報がなく周囲の人はただの新型の戦闘機だったりUFOだろうなどと軽口を出しながら自分の番が来ることを待っていた。
試験内容としてはVRを用いた実践や反射神経、ランニングマシンを用いた体力試験などが行われた。周囲の人は元軍人や、何かスポーツをやっていたのが伝わるような筋肉質な人も多く、男性だけでなく女性も多数参加していた。年齢もまだ学生なのではと疑うほど若いものからすでに髪が白くなり始めていた老人なども参加し、人数にして約150人規模が集まっていた。さらに事務員が言うにはこれがアトランティック連邦各地で同時に開催されているとのことでおそらく人数は数万規模であると考え、零は事務員から話を聞いた後に深呼吸して会場に入室した。
事務員は入っていく姿を見届けると手元にあったスマホであるところに電話を掛けた。「新渡戸零、経歴からしても問題なく試験は通ると考えられます。それ以上に心配なのは彼の精神が持つかでしょう」その言葉の後に相手からの返信が届く。「気にすることはない。親父さんが立派なんだ。必ず最後までやるだろう。それに傭兵なら逃げたいときに逃げるのだから他のやつのように難しく考えることもないであろう。君には申し訳ないが教育機関からオペレーターとして支援してもらいたい」事務員は落ち着いた声で「監視の意味を含めてでしょうか?」というと相手は「状況による」とだけ伝えて電話を切った。
そして零は会場に入り試験番号を受け取ると待機室に着いた。待機室ではダンベルやランニングマシン、様々な器具がおいてあり同じ試験者の何人かはひたすら訓練をしていた。その姿に圧巻していると後ろから肩に手を置かれる。
「お前、アトランティック連邦の人間じゃないだろ?」そう言われ振り返ると身長が2メートル近い筋骨隆々の黒人がいた。零は「極東連合が生まれです。仕事でこっちに来ていたのですが諸事情で試験を受けることになりました。」と伝えると顔をじっと見られた後に「俺はノーマンだ。よろしく」と手を振って近くのダンベルを持って練習を始めた。
零は珍しいのがいるなと感じながら椅子に座ってTAに関する情報がないか調べていると「横座ってもいいですか?」と尋ねてくる人がいた。零は振り返って「大丈夫ですよ」と伝えると相手は横に座った。零は初めは気にしながったがどうしても気になって話しかけた。「あなた女性ですよね?なんでこの試験に?」そう言うと相手の女性は下を向きながら話し始めた。「私、神崎藍っていうの。あなたさっき極東連合の出身って言ってたよね?私、極東連合の統合議長神崎誠一の娘なの。昔から議長の娘なのに情けないって周りから言われて何かできるようになりたいってお父さんに相談したらここで成果を出せばみんな黙るっていうから...」彼女は少し気まずそうに話した。その言葉に零は「すごいなあの議長の娘さんがいるなんて。TAの初の女性パイロットになれば確かに誰も文句言わなそうだ」と少し羨ましそうに上を眺めながらつぶやいた。
彼女が何か聞こうとしたときに突然机の上に座って我が物顔で話しかけてきた人物がいた。見た目は貴族のような白いコートを着ていて周囲は少しざわついていた。零と藍は誰なのかと困惑していると「君、新渡戸零だろ?なぜここにいるんだ?てっきり既に帰国したものだと思ったんだが。帰れないならプライベートジェットでも貸すぜ?」と少し鼻に触るような言い方で思わず言い返そうとしたときにノーマンが勢いよく机ごと投げ飛ばした。
その光景に周囲は唖然とし零と藍ですらも何も言えず少し恐怖すら感じていた。ノーマンは部屋に響く声で「ボナパルト!そんなに喧嘩したいなら俺とやろうぜ!」言葉には気はあったがどうやら悪意はないようだった。ボナパルトと呼ばれた吹き飛ばされた相手もゆっくり立ち上がり「ノーマン。俺はただ天才にあいさつしただけじゃないか」とめんどくさそうに話していた。
零はノーマンに「知り合いなのか?」と尋ねると「親同士が知り合いでな。なんでも昔あった戦争の時に一緒に戦ってから親交があってボナパルトとは昔からの友人だ」と話すとボナパルトはほこりを払って少し姿勢を立て直すと「フランス貴族「クリーク家」のボナパルト・クリークだよ。君にはぜひ一度会ってみたくてね。」そういうと一礼し机をもとの位置に戻した。
そしてボナパルトは零に質問を投げかけてた。「君は家族の状況からしてもわざわざこっちに来る必要もなかっただろう?正直私ならわざわざ海を渡ってまでパイロットになりたいだなんて思わないな」そういうと零は「たとえ金持ちでも勝てない時はあるんだよ。それを言うならボナパルトだってなんでわざわざ来たんだ?」そう言うと待ってましたと言わんばかりに髪をまくって自信満々に「そんなの決まってるだろう?フランスで最初の、そして世界で1番のTAパイロットとして歴史に名を刻むためだ」と語っていた。
そして次々に試験者が試験を受け、ついに零の番になり、試験を待つ、ノーマン、藍、ボナパルトは一言応援して見送ってくれた。そしてついに試験会場に入ると会場には複数の球体のようなものがあり試験官に案内されながら球体の中に入りVRゴーグルをつけ、試験官の注意事項と操作説明を受ける。
しかし、この時零はずっと違和感を感じていた。そして試験官がすべて話し終えるまでに動かし始めていた。外ではどうなっていたかわからない。しかし、VRゴーグルの先にあるものは小さいころ、エンジニアとして仕事をしていた父親とともに描いていた設計図と似たものであった。確かに機体も見た目も違う。でも中に乗せられたときのボタンの配置、レバーの見た目、コクピットは昔から「こんな見た目がかっこいい」と父に思いをはせていた小さいころに書いた設計図通りであった。
そのとき父は「じゃあこのボタンには何の機能を付ける?」とはなし、いつも無理難題を話ながら二人で笑っていた。その記憶がよみがえる。目をつぶってもそこにあるものがまるで手に取るように分かった。そして操作を覚えると試験官が話し始めた。
「この試験では一対一で試験を受け、勝利したものが合格者となる。60秒後自信から数メートル離れた場所に同じ試験者が出るため撃破してください」そう言われると零は深呼吸して時間が来るのを待っていた。やがて60秒立ち、数メートル圏内に敵となる試験者が登場する。今回は相手が悪く真後ろに立たれさらに銃をすでに向けていた。
しかし、相手が銃の引き金を引いた瞬間、零には銃弾が止まっているように見え、一瞬で相手の後ろに回って左手に内蔵されていたブレードで敵を両断した。零は撃破した機体を見た時に小さく「すべて思い通りに動いてる。まるで昔作ったものが現実になったみたいだ」戦闘開始してから10秒足らずで勝利した結果に試験官も思わず資料を二度見するほどの結果となり、零が退室した後も試験官はこの結果に驚きを隠せず不正をしていないのかやプロフィールを確認するために監視室に何人も殺到する事態になっていた。
待機室に戻るとボナパルトだけが椅子に座っており、零が挨拶したら片手をあげて挨拶のサインを送った。零は向かい側に座るとスマホを確認しながら「ボナパルトはもう終わったのか?」と話しかけると「まだだよ。あと数人後だね」と軽く返した。
少しの沈黙の後、ボナパルトが少し前かがみになって小さな声で尋ねた。「君は自分の父親のことを知ってるのか?」そう尋ねると零は驚き「ただのエンジニアだろ?」と聞き返した。ボナパルトは小さくため息をこぼして「だから狙われてるんだ」と声を漏らした。零は「はっ?」声がでて、思わず「誰が狙ってるんだよ?」と少し張った声で聴き返した。
ボナパルトは片手で静かにするように静止し、周囲を確認した後にまた小さな声で答えた。「いいか。君の父親はただのエンジニアなんかじゃない。君は極東連合だけじゃなくアトランティック連邦にすらTAパイロットとして狙われてるんだ。君の父親は...」続けようとしたときに放送でボナパルトの試験案内が響く。
ボナパルトは少し悩んだ末、「ここでのことは誰にも言うなよ。命落とすぞ」とだけ残し、試験を受けに向かった。零は今の言葉に対して疑問を持ち「親父が何したっていうんだ?」と不満を漏らした。それからは返ってくる同じ試験者にモヤモヤしていることを気づかれないようにスマホとにらめっこし、少し時間がたつとノーマン、藍も待機室に帰ってきた。
零は少し安心したように雑談しながら待っているとやがてボナパルトも待機室に帰ってきた。零は「少し用事あるから」と席を立ち、ボナパルトを連れて少し遠めのトイレに連れていくと「さっきの話。親父は何者なんだ?犯罪者なのか?」そう焦り気味で尋ねるとボナパルトは少し落ち着くように諭しながら「君の父親はアトランティック・極東共同研究会の会長なんだ。つまりTAの初代設計者なんだ」その言葉に零はここまでの試験のすべてに納得がいった。その顔に確信したのかボナパルトはさらに続ける。
「おそらくだが、父親のことを言われなかったのは役職が重要だからスパイなんかに狙われるのを防ぐためなんだろうな。ただ、今の君はアトランティック連邦にとっても極東連合にとっても重要なパイロットとして扱われるはずだ。そして他国からも同じ目で見られる。ここでの話は誰にも言うなよ。もしばれれば誰が君の背中を刺すかわからないからな」そう言い切られると零はゆっくりと頷いた。内心は納得していないがそれが事実であるとき非常に危険であることは理解していたためだ。そして二人で目が合うとゆっくりと外に向かった。
トイレを出た瞬間「親父さんめっちゃ優秀なんだな」と聞き覚えのある声が聞こえた。二人は肩を震わせ勢いよく振り向くとそこにはノーマンと藍がたっていた。
「二人が焦り気味に遠くのトイレまで行くから何か隠してるんじゃないかってノーマンさんが」藍は少し震える声で事の経緯を話した。零は警戒しながら「誰かに言うのか?」と尋ねるとノーマンは笑いながら「誰が言うかよ。俺たちだけの秘密にしようぜ」と腕を前に出すとボナパルトも腕を出し藍と零に向かって「これは俺たちの約束する時の合図だよ」と諭すと二人も腕を出し約束を守ることを誓い合った。
そして夕方になり適性試験の結果が表示されると150名中50名が採用され、無事4人とも合格することができた。4人は安堵し軽く話した後連絡先を交換し解散した。零が少し歩くと横の道路に車が一台止まり、窓から見覚えのある顔をのぞかせた。
「事務員さん。無事、試験は合格しました」そう笑顔で零が伝えると事務員も少し安堵したような声で「では車に乗りますか?家まで送りますよ」と伝え零は一言礼を伝え車に乗車した。車の中で事務員は運転しながら「あなたのお父さんの話。知っていますか?」そう尋ねられ、零は一瞬ビクッと体を震わせた。
その様子を鏡で見ていた事務員は「安心してください。命を狙ったり人質にしたいとは考えていませんから」と伝えとりあえず敵意がないことを伝えた。零は「じゃあなんでそんなことを聞くんですか」と少し不満そうに聞いた。
「あなたのお父さんはTAについて多くの情報を持っています。だから息子に当たるあなたについてもアトランティック連邦政府から監視の指示を受けているんです」そう言うと零は少し疑いながら「じゃああなたは監視のためにここにいるんですか?」と尋ねた。
事務員は少し悩みながら「指示には従っています。ですが、それを続ければあなたはただの戦争兵器だ。だから提案があります」そう言うと少しの沈黙の後に「あなたにはずっと傭兵として働くことをお勧めしますよ」と提案した。
零は不思議そうに「なんで傭兵にこだわるんですか?」そうすると事務員は「傭兵なら経歴を提出する必要もなく、名前すら隠すことができます。軍には多少の実績をわが社の情報を共有するだけでいい。つまりあなたに関する個人情報はいくらでも書き換えることができるんです。そして何より、背負うものがないのも一つの理由でしょう。会社としては信頼があるから傭兵には逃げずに死ぬことを強要しますが事情を知っている私からしてみればいつ逃げてもいいと思いますよ。あなたが逃げると決めれば私が時間稼ぎしますから」と伝えた。
零はこの状況に混乱し「あなたは敵なの?味方なの?」と尋ねると事務員は「両親に言われたことがあります。どんな事情があっても決めたことはやり遂げなさいと」そういい、事務員はまた沈黙した後に「私の家族はペルシア統一政府の本土攻撃によって亡くなりました。亡くなったことを知ったのは攻撃が止んでから数日たった後です。私は自分の無力さに打ちひしがれTAパイロット試験を受けました。それでも、私には才能がなかった。だからこの気持ちを誰かに託したいんです。あなたに。私の人生はこれ以上華やかにできません。だから私は今の命を使ってあなたの人生に花を持たせたいんです」と言い切ると零は「傭兵になること、あなたの気持ちはわかりました。じゃあ、あとは任せてもいいですか?」と尋ねると事務員は自信満々に「今は裏切られたように監視するかもしれませんがいざというときには必ず助けます」と言い切った。それからは日が沈み、家まで届けてもらうと一礼をしてその後は解散した。
そして数日後ついに訓練が本格的に始まり、TAが初めて一般公開されることになった。
to be continued...




