99.セリウス兄妹
セリウス兄妹。サンドリーナ乾燥地帯を拠点に活動している冒険者の兄妹らしい。兄は槍術を得意とする前衛、妹は風魔法を操る魔法使いで、二人で長年この過酷な乾燥地帯を渡り歩いてきたという。
請け負う仕事は護衛や輸送、魔物討伐、素材採取など多岐にわたる。特に砂漠地帯での経験は豊富で、危険地帯の地形や魔物の習性にも詳しいらしい。
噂では、砂嵐の中でも迷わず目的地へ辿り着けるほどだとか。とにかく、実力も経験も兼ね備えた、かなり頼りになる冒険者のようだった。
その話を聞いて、是が非でも協力して欲しいと思った。私たちだけじゃ、サンドリーナ乾燥地帯をまともに移動出来ないと思うから。
「えーっと、確かこの辺……あった、あの家よ」
アマリアお姉様が地図を見て住宅地をうろついていると、目的地の家を発見した。こじんまりとした、小さな家だ。ここにあのセリウス兄妹が住んでいるらしい。
「ごめんください。セリウス兄妹はいますか?」
アマリアお姉様が扉をノックして、声をかける。すると、家の中から物音がした。しばらくすると、ゆっくりと扉が開く。
そこから現れたのは、お姉様と同じ年くらいの女性だった。
「……誰? 今、休業中なんだけど」
鋭い目で睨みつけてきた。私は怖くてビクリと体を震わせたけど、アマリアお姉様は平然としている。
「ロメネクスからの紹介で来たの」
「ロメネクスから? ……休業中って知ってて、紹介したの? 悪いけど、手紙は受け取れないよ。相棒である兄さんが怪我をして動けない状態だから」
「大丈夫。私の妹、ルイならその怪我を治せるから」
「は? まさか、希少な神の奇跡を持っているとか?」
疑わしい目はさらに強くなった。だけど、アマリアお姉様は毅然とした態度で口を開く。
「神の奇跡ではないけれど、それに似た事を起こせるわ」
「……信じられないね。帰りな」
「そう言う訳にはいかないわ。ここで、証明してあげる」
「証明? 深い傷を負って、すぐに回復でも出来るのかい?」
「出来るわ。ルイ、ポーションを出して」
セリウス妹の話しにアマリアお姉様が乗った。私は言われるままにポーションを取り出すと、お姉様は剣を手に持った。
「この剣で私の腹を突き刺すわ」
「あ、アマリアお姉様! そんなことをしなくてもいいよ!」
「いいえ。ルイの凄さを分かってくれるためには、この方法しか……」
「痛いから止めて! あのっ、このポーションを飲ませるだけでいいの! 本当に傷が回復するから!」
マジなアマリアお姉様の目が怖い。必死になってセリウス妹に訴えかけると、セリウス妹もアマリアお姉様の行動には度肝を抜かれたのか――。
「腹なんか刺さなくてもいいよ! もう、いい。中に入りな」
そう言って、扉を開いてくれた。アマリアお姉様は残念そうな顔をして中に入り、私も続いた。
「分かってもらうには、兄の傷を見てもらった方が良さそうだね。言っとくけど、そう簡単には治らない傷さ」
そう言いながら、セリウス妹は家の奥まで案内してくれた。扉を開けると、キツイ薬品の匂いが漂ってきた。
その部屋に入ると、部屋の奥のベッドに一人の青年が横たわっているのが見えた。苦しそうに顔を顰め、両足はたくさんの包帯が巻かれている。
「ちょっと、しくっちゃってね……サンドドラゴネットに両足を噛まれたんだ」
セリウス妹が足元に近づくと、包帯を取っていく。包帯は赤い血が滲んでいて、傷を見る前から大けがだと分かる。
そして、包帯を取ると――その怪我が露わになる。
「これは……酷いわ」
「うわ……」
思わず声を失った。強靭な足に無数のくぼみが出来ており、そこから肉が見えていた。状況は思ったよりも酷いみたいだ。
「この怪我は治るのに数か月、完全復帰にも一年以上かかるって言われたんだ。あんたたちは、これを本当に治せるのか?」
先ほどまで疑わしい目で見てきたが、今度は助けを求めるような目で見てきた。
「この怪我なら、ポーションで治るよ。これを飲ませて」
私は強く頷く、ポーションの瓶を手渡した。セリウス妹は信じられないような顔をしたが、すぐに表情を引き締める。
「飲ませてみるよ」
セリウス兄の枕元に近づくと、しゃがみこむ。
「兄さん、薬だよ。飲んで」
頭を支えながら、口元にポーションを寄せる。そして、ゆっくりと飲ませていく。喉がゴクゴクと鳴るのを見届け、瓶の中身が無くなった。
「……傷の方は――なっ!?」
足を見てみると、傷口がゆっくりと修復しているのが見える。血は止まり、くぼみは段々と無くなり、普通の肌に元に戻っていった。
「嘘……こ、こんなことが? これは、神の奇跡なんじゃ……」
信じられない顔をして、セリウス妹が兄の足を見る。足は完璧に戻っていて、傷の一つも見当たらない。
「本当に傷が……塞がった……」
おそるおそる、手で足を撫でる。そこには普通の素肌があるだけで、痛々しい傷は無くなった。
「うっ……痛みが、なくなった?」
「兄さん! 傷が、傷が治ったよ!」
「な、何っ!?」
セリウス兄が驚いたように起き上がり、自分の足を見た。
「ほ、本当に傷が無くなった……。どうして?」
「この子がくれた薬のお陰だよ! 飲んだら、傷が治っちまった!」
「そんな貴重なものを、俺に!? あ、あんたたち! 本当にありがとう!」
「私からも礼を言うよ、ありがとう!」
セリウス兄妹は涙目で感謝を言ってきた。こんなに感謝されるのは久しぶりだ。なんだか、とても嬉しい気分になる。
すると、頭に手が乗って撫でられた。見上げると、アマリアお姉様が笑顔でこっちを向いてた。
「流石はルイのポーションね。私を助けたように、この人も助けてくれた」
その言葉に嬉しくなって、私は笑顔を浮かべた。




