100.砂船
「なるほど。俺たちにカイザルスコーピオンと天水のサボテンの素材取りを手伝って欲しいと」
私たちが事情を話すと、セリウス兄のケインが真剣に話を聞いてくれた。
「カイザルスコーピオンは全長五メートルもある魔物で、強靭なハサミと尻尾の毒針で攻撃してくる。やっかいな魔物だ」
「天水のサボテンはサンドリーナ乾燥地帯内のオアシスに生えるもの。結構希少な素材で、探すのは大変な素材ね」
二人はこの二つについてどうやら詳しいようだ。これは、絶対に素材採取を手伝って欲しい。
「どれも砂漠地帯にあるもので、素人が入って行ったら、道も分らずに死んでしまっていただろうな。だから、現地の人に頼るのが正解だ」
「じゃあ、二人さえよければ手伝って貰ってもいい?」
「もちろんさ。完治に一年以上もかかる怪我を治してくれたからね。張り切って、手伝わせてもらうよ」
セリウス妹、ロイザの言葉に私たちは顔を見合わせた。良かった、これで素材が手に入るかもしれない。
「明日、ロメネクスの事務所前に来てくれ。そしたら、砂漠地帯の案内をしてやろう」
「分かった。ありがとう!」
どうして、ロメネクスの事務所前なのか分からないが、協力してくれるのだったらなんでもいい。
私たちはセリウス兄妹と約束をして、今日は宿屋へと向かっていった。
◇
翌日、私たちは約束通りにロメネクスの事務所前までやってきた。そこには、冒険者装束に身を包み、厚手のローブを羽織ったセリウス兄妹がいた。
「二人とも、おはよう!」
「よぉ、おはようさん。じゃあ、船まで行こうか」
「船? そういえば、陸地なのに船があるのはどうしてなの?」
「ふふっ、それは乗ってからのお楽しみ」
どうやら、あの時見ていた船に乗り込むらしい。動力は一体なんなのか、不思議でたまらない。
そうして、ロメネクスの敷地内に入って行くと、周りがざわついた。
「お、おい! ケイン! 足は大丈夫なのか!?」
「お陰様で、この子のお陰で完全回復だ」
「ケイン、もう動けるのか!?」
「見ての通りよ!」
周りにいた人々が集まって、ケインに話しかけていた。みんな健常に戻ったケインを見て、安堵に胸を撫でおろしていた。
「あの怪我を見て、もしかしたら復帰は無理そうだって思っていた人ばかりだから、みんな驚いているのよ。私たちの廃業の危機をルイが救ってくれたわ」
とても嬉しそうに微笑むロイザを見て、とても嬉しくなった。すると、アマリアお姉様が微笑んで頭を撫でてくれる。気持ちいいんだけど、子ども扱いされているようで複雑だ。
「とにかく、役に立って良かったよ。問題なく動けそう?」
「問題どころか、絶好調だ。俺たちもその恩に報いなきゃな」
「えぇ、二つの素材を手に入れられるまで帰れないわ」
二人がやる気になってくれていて、本当に助かる。これならば、絶対に素材が手に入りそうだ。
たくさん船が並んでいるところを歩いていると、一隻の船の前に立ち止まった。
長さ十メートル、横幅三メートルくらいの船体に、帆柱には大きな帆が着いてある。近くで見ると、動力が見当たらないようだけど……。
「さぁ、乗ってくれ。それなりに広いから、四人でも平気だ」
船から垂れ下がっている縄はしごを上り、ケインが船体に降り立つ。私たちもそれに続き、船体に乗ってみた。
「これ、本当に動くの?」
「帆はちゃんとあるね」
帆があるから、風を利用して進むってこと? でも、それに必要な風は吹いているようには見えないし……。
「大丈夫だ。風魔法使いのロイザがいるからな」
「……あっ! 風魔法で動くってこと?」
「正解よ。見てて」
ロイザが縄を引っ張って器具に括りつけると、帆が広がった。そして、一本の杖を持って詠唱を唱える。
「――風よ吹け!」
杖の先の石が光り、そこから風が吹く。その風に帆が張り出すと、船がゆっくりと動き出した。
「動いてる! アマリアお姉様、見て!」
「えぇ、凄いわ!」
こんな方法で陸地で船に乗るなんて思ってもみなかった。感動で声を上げると、船の速度は上がっていく。
「外の人には驚くだろうな。だが、これが広大な砂漠地帯を行き来する交通手段なんだよ」
「へー、だからあんなに船があったんだ」
「サンドリーナ乾燥地帯でも、砂漠地帯は厳しい自然に囲まれているからね。こういう便利なものが発展するのさ」
船は砂の上を走り、あっという間に町から離れてしまった。船の先を見ると、太陽の日差しが照り付けている広大な砂漠が見える。
これは、アマリアお姉様と二人で来なくてよかった。絶対に行き倒れる自信がある。
「砂漠地帯の案内は任せな。必ず、二つの素材を見つけてやるから」
「それまでは砂の船出を楽しんでいて」
頼もしいセリウス兄妹の言葉に私たちは頷いた。砂地を行く船に乗って、砂漠地帯を飛ぶように飛んで行った。




