98.人材の紹介
応接間の扉が開かれると、声がした。
「ようこそ、ニニベールト家へ。私がヒスコックだ」
一人の男性がソファーに座りながら、こちらを見てきた。
「突然の訪問にもかかわらず、受け入れてくださりありがとうございます」
「旧友の子供が来たのであれば、歓迎するしかない。さぁ、かけなさい」
にこやかに対応されて、私たちは向かいのソファーに座った。
「手紙は読ませてもらったよ。サンドリーナ乾燥地帯にある、カイザルスコーピオンと天水のサボテンに用があるんだってね」
「はい。母の病気をよくするために、その二つの素材が必要なんです。ぜひ、協力していただきたいです」
「あの……こちらが手土産になります」
私は手に持っていた小さな壺を手渡した。
「メセグリンという蜂蜜で作ったお酒です」
「何、酒だと!?」
酒と聞くと、ヒスコックさんが身を乗り出した。すぐにメイドにコップを持ってくるように言い、コップを受け取るとその中に少量入れた。
「これは……いい香りだ。甘い匂いがしているのに、刺激的でもある」
うっとりとした顔をして、メセグリンを一口飲む。すると、カッと目を開いた。
「なんだこれは……!」
ヒスコックさんは驚いたように目を見開き、もう一口ゆっくりと口に含んだ。
「甘い。だが、ただ甘いだけではないな。蜂蜜の濃厚な風味が舌に広がった後、喉を通る頃には熱が抜けるように消えていく……」
感心したようにグラスを揺らし、香りを確かめる。
「香りも実に良い。花畑の中にいるような柔らかさがあるのに、後から草木のような爽やかさと、わずかな刺激が鼻を抜ける」
「はい。少しだけ辛みが出るように入れています」
「なるほど……面白い。蜂蜜酒は知っているが、これは別物だな。口当たりは優しいのに、酒としての力強さもある。飲みやすいくせに、飲み進めればしっかり酔わされそうだ」
ヒスコックさんは楽しそうに笑うと、再びグラスに口をつけた。
「いやいや、最高の手土産を持ってきてくれてありがとう。ぜひ、協力させて欲しい――だが」
笑顔だったヒスコックさんが表情を曇らせる。そして、自分の足をテーブルに乗せた。その足は頑丈な石膏で固められている。
「あいにく、私は骨折していてな。私が手伝うのは無理のようなのだ」
えっ、そ、そんな! その時、こそっとアマリアお姉様が耳打ちしてくる。
「ねぇ、ポーションじゃ治せないの?」
「ポーションはあくまで傷を治すものだから、骨折は無理かな……」
「そ、そうなのね……」
ど、どうしよう……。協力者がいないと、広い砂漠を当てもなく歩く羽目になる。そうしたら、カイザルスコーピオンも天水のサボテンの見つからない。
「わざわざ、来てもらってすまないな。私は協力出来ないが、町の有力者を紹介出来る」
「有力者?」
「『風船』を操る集団がいる。その集団に協力してもらえるように手紙を出そう」
風船を操る集団?
「集団の名前は『ロメネクス』。このサンドリーナ乾燥地帯を自由に行き来する船を持つ集団だ。彼らはサンドリーナ乾燥地帯の事をよく知っている。彼らの協力を得ることが出来れば、探すものも見つかるだろう」
陸上に船? その疑問が頭から離れない。
「では、ロメネクスに手紙を書いてもらえませんか?」
「もちろんだ。すぐに書こう」
ヒスコックがメイドを呼びつけて、道具を持ってこさせた。便箋に文字を書き、封筒に入れ、封蝋をする。
「さぁ、出来た。もし、何か困ったことがあれば、また尋ねてくると良い」
「ありがとうございます」
アマリアお姉様は手紙を受けると、お辞儀をして私たちは屋敷を出た。
◇
私たちは教えられた拠点へと向かった。そこは町はずれにあって、近づくと本当に船が並んでいた。
「うわー、本当に船がある。どうやって動かすんだろう」
「気になるわね。船は後回しにして、事務所に行くわよ」
「はーい」
後ろ髪を引かれながら、私たちは建物の中に入った。そこには広いカウンターがあって、お姉さんたちが対応してくれていた。
「あの、この手紙を読んで欲しいんですけど」
「手紙? ……ヒスコック様から!? しょ、少々お待ちください!」
アマリアお姉様が手紙を差し出すと、お姉さんは驚いた顔をした。そして、すぐに手紙の内容を確認して、カウンターの奥へと消えていった。
しばらく待っていると、そのお姉さんが一人のおじさんを連れてやってきた。
「お待たせしてすいません。お手紙読ませていただきました。ぜひ、協力させてください」
「ありがとう、助かるわ」
「それで、どのような協力をお望みなんでしょうか?」
「カイザルスコーピオンと天水のサボテンを探したいのだけれど」
「なっ……強敵だけじゃなく、希少な天水のサボテンをっ!? むむむっ……」
話をすると、おじさんがとても悩まし気に腕を組んだ。
「かなり難しいですが、適任者がいないわけでもないんですけど……」
「何か、問題がありますか?」
「えぇ……。それに適した人材はセリウス兄妹なんですが……兄の方が怪我をして、すぐには出航出来ないんですよね」
怪我?
「それなら、私のポーションで治るかもしれないよ」
「えっ? そ、それはなんですか?」
「傷を治す薬かな。ねぇ、その兄妹がいる場所を教えて」




