97.サンドリーナ乾燥地帯
準備が終わると、私はアマリアお姉様と一緒にサンドリーナ乾燥地帯に向かった。移動は乗馬で十日間。かなり長い旅路になった。
道中、魔物に襲われたり、盗賊に襲われたりしたが、アマリアお姉様と一緒に撃退した。特に問題なく、進んでいった。
そして、とうとうサンドリーナ乾燥地帯に入った。
サンドリーナ乾燥地帯へ足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
それまで見えていた緑は急激に減り、大地はひび割れたように乾燥している。風が吹くたびに、細かな砂埃が舞い上がった。
木々も少ない。生えていたとしても、葉の小さな低木ばかりだ。厳しい環境の中で、どうにか生き延びているのが分かる。
「ここから先が、本格的な乾燥地帯なのね」
アマリアお姉様が周囲を見回しながら呟く。さらに進んでいくと、景色はより過酷なものへ変わっていった。
地面から草が消え始め、代わりに広がるのは一面の砂。ざらりとした黄色い砂地が、どこまでも続いている。
植物は完全になくなったわけではない。だが、それも水辺の近くや岩陰など、本当に限られた場所だけだった。
そして何より――暑い。頭上から照り付ける太陽は容赦がなく、まるで焼かれているみたいだった。
空気そのものが熱を持ち、息をするだけで喉が乾いていく。普通なら、かなり厳しい環境だろう。だけど、私たちは事前に対策をしていた。
【素材保管】から小瓶を取り出し、冷感クリームを腕や首筋へ塗り込む。ひんやりとした感覚が広がり、熱がすっと引いていった。さらに、その上から厚手のローブを羽織る。
乾燥地帯では、直射日光を防ぐために肌を隠した方がいい。熱気を遮断しつつ、冷感クリームの効果も合わさって、驚くほど快適だった。
アマリアお姉様が感心したように息を漏らす。
「ルイの冷感クリームのお陰で、平常時と変わらない暑さだわ。流石は錬金術で作ったアイテムね」
「ふふっ、凄いでしょ」
ちょっと得意げに胸を張る。実際、この環境で普通に活動できるのはかなり大きい。もしこれがなかったら、もっと頻繁に休憩を挟まなきゃいけなかったはずだ。
そんな話をしながら、砂漠の道を進んでいく。すると――。
「あれ、見て」
アマリアお姉様が前方を指差した。揺らめく陽炎の向こう。砂色の景色の中に、ようやく人工物らしき影が見えた。
高い外壁。砂色の建物群。そして、その周囲を行き交う人影。サンドリーナ乾燥地帯の町が、ようやく見えてきた。
◇
町の中へ入ると、外の乾いた景色とはまるで別世界だった。人々が忙しなく行き交い、あちこちから話し声が聞こえてくる。思っていた以上に賑やかだ。
乾燥地帯の町というから、もっと静かで寂れた場所を想像していたけれど、そんなことはなかった。市場の近くを通ると、その活気はさらに強くなる。
「安いよ安いよ! 今日採れたばかりだ!」
「こっちの肉は朝締めだぞ!」
「果実酒もあるよー!」
威勢の良い声が飛び交い、人々の熱気で満ちていた。並べられている商品も豊富だ。
乾燥地帯特有の硬い果実や香辛料。吊るされた肉。見たことのない野菜まである。
特に驚いたのは、新鮮な作物が普通に並んでいることだった。この環境なら食料事情は厳しいと思っていたけれど、どうやら水源を中心に農業が発展しているらしい。
町全体に、確かな活力があった。そんな中、アマリアお姉様は周囲の人に声をかけながら情報を集めていた。そしてしばらくすると、こちらへ戻ってくる。
「ルイー、ヒスコックさんの居場所が分かったわ」
「本当?」
ヒスコックさん。ロザンお父様の旧友の一人で、この町を治めている人物だ。
今回、私たちはその人に協力を仰ぐためにここまで来ていた。案内された道を進み、町の中心部から少し離れた場所へ向かう。すると、やがて大きな邸宅が見えてきた。
「わぁ……」
思わず声が漏れる。そこだけ空気が違った。
高い外壁の向こうには青々とした木々が見え、水路には透き通った水が流れている。乾燥地帯の中とは思えないほど緑豊かで、まるでオアシスそのものだった。
きっと、この町の中でも特別な場所なのだろう。門の前には槍を持った門兵たちが立っていた。アマリアお姉様は落ち着いた様子で前へ進み、一通の手紙を差し出す。
「グレンジャー家より参りました。こちらをヒスコック様へ」
門兵は手紙を受け取ると、中身を確認し、態度を改めた。
「少々お待ちください」
そう言って一人が邸宅の中へ入っていく。私たちは門の前で待機することになった。
しばらくして――。邸宅の奥から、一人の女性が現れる。どうやらメイドさんみたいだ。
「お待たせいたしました。ヒスコック様がお会いになるそうです」
丁寧に一礼すると、門がゆっくりと開かれる。私たちはそのまま邸宅の中へ案内されることになった。




