108.テンタグロスの心石
「気を付けて歩いてね」
イザベルお母様の手を取って、窓際まで移動する。窓際に置いた椅子にゆっくりと腰かけさせると、背もたれに体を預けた。
開けた窓から気持ちのいい風が吹いてくる。その風を感じて、イザベルお母様は気持ちよさそうに目を閉じた。
「今日もいい天気ね。こうして外の空気に触れられると、心が穏やかになるわ」
「そうでしょ? それに暇つぶし用の本もたくさん用意したんだよ」
椅子の隣に用意したサイドテーブルには、たくさんの本を用意した。
「いつの間に用意したの? それに、本は高いんじゃ……」
「えへへ、大丈夫! ポーションと風邪薬の売り上げが順調で、まとまったお金が入ってきたから!」
高いからそう簡単には売れないと思っていた二つの薬。それが、売りだしたら大反響だったらしく、すぐに完売したそうだ。
その売り上げが何千万デルと入ってきたから、一気に大金持ちになった。一部は私が貰い、他は領の為にロザンお父様に渡した。
ロザンお父様は遠慮をしたが、無理やり押し付けてきた。私はこうして錬金術を使えるのは、みんなの協力のお陰だから。
それで色々買い足した。イザベルお母様が体を起こすことが出来るようになったから、少しでも楽しめるようにたくさん本を買ったという訳だ。
「ルイのお陰で退屈しなくてすむわ、ありがとう」
「どういたしまして。じゃあ、私は次の調合に取り掛かるから、部屋に戻るね。また、様子を見に来るよ」
「えぇ、頑張ってね。私も病を治すから」
気合を入れるようにイザベルお母様が手で拳を作って見せる。その意気込みにやる気を貰い、私は部屋を後にした。
◇
「さてと、ようやく落ち着いたし。次の調合に取り掛かろう」
自分の部屋に戻り、机と向き合う。【素材保管】からテンタグロスの心石を取り出し、机に置く。
「やっぱり、この素材だよね。失った体の一部を再生する力を持つ石」
サンドリーナ乾燥地帯の砂漠で出会った魔物。その魔物の特性を引き出した、不思議な石。
もし、あの再生能力が素材に使うことが出来れば、ロザンお父様の腕や足が元に戻るかもしれない。
「どうすればいいんだろう? 石を移植するとか?」
心石を当てただけだと、元に戻らなかった。だから、他の処置が必要だ。体に心石を移植するって、そんな技術はないし。
「やっぱり、ここは経口摂取かな……。でも、石を食べるってどうすればいいの?」
他の素材のように、食べて素材の効果が体に効くのが一番いい。
「とりあえず、鑑定をしてみよう。どうやったら、素材の効力が引き出せるのか」
心石に向かって手を翳し、鑑定を発動させた。
【テンタグロスの心石】
・自己再生能力がある石
・消化、吸収することで効果を発揮する
「うーん。消化して吸収しないと、効果が発揮出来ないのか」
人間って石を食べて、消化と吸収って出来るんだろうか? ……きっと、出来ない。そんなことが出来たら、きっと化け物だ。
「まさか、お手上げ? ……でも、この効果を捨て置くには惜しい……」
何か案はないか? 頭を抱えて考える。
もし、石を消化吸収する生物がいて、その生物を食べれば、効果が発揮出来るような……。
「ん? 今の案、結構よくない?」
そうだよ。何もロザンお父様が石を食べて吸収出来るような化け物に変わる必要はない。そういう生物を探して、食べさせて、効果を引き継げばいい。
「石を食べて、消化吸収をする魔物……。可能性はある。この案、結構いけるんじゃない?」
そう、そういう魔物を探せばいい。そして、その効果を引き継いだ魔物をロザンお父様が食べれば……腕と足が戻る。
「じゃあ、魔物を調べないと……。ここには、情報が少ないから王都で……あっ! 魔物っていえば、ロザンお父様が詳しいじゃん!」
そうだよ! 各地で魔物と戦ったロザンお父様の知識を借りれば、そういう魔物がいることが分かるかも!
それを思いつくと、私は急いで部屋を出ていった。
◇
「ん? どうした、ルイ」
執務室に入ると、ロザンお父様が不思議そうな顔をして出迎えてくれた。
「今、次の調合に入っているんだけど、魔物の知識が欲しくて。それで、ロザンお父様の知識に頼りたいの」
「あぁ、そういうことか。俺で良ければ協力するぞ。それで、どんな魔物の事が知りたいんだ?」
「魔物の中に石を食べて吸収する個体はいる?」
私の話にロザンお父様は顎に手をかけながら、唸る。
「石を吸収する魔物、か。確か、そういう個体がいたような……」
「えっ、いるの!?」
「まぁ、色んな魔物がいるからな。それくらいのことなら、出来る魔物がいる」
良かった、魔物に石を食べて消化吸収する魔物がいるみたいだ。ワクワクとした気持ちで待っていると、ロザンお父様はハッと目を見開いた。
「そうだ、思い出したぞ。ロックリザードという爬虫類の魔物だ。そいつは食べた石で身を固める性質があってな、とにかく硬くて大変だった思い出が……」
「ロックリザード……」
その魔物にテンタグロスの心石を食べさせて、消化吸収させる。そして、その肉をロザンお父様が食べると……腕と足が生えてくる!
「ロザンお父様! 私、ロックリザードがいる土地に行きたい! そして、ロックリザードを捕まえたい!」
希望が見えてきた! ロックリザードを捕まえれば、きっと!
「だ、ダメだ! そこにはアマリアでも手が負えない、ドラゴン種がいる!」
「……えっ? ドラゴン?」
「ドラゴン種を倒すには、魔力が必要だ。ルイの魔法は通るだろうが、アマリアの剣は効かない」
そんな、アマリアお姉様の剣が効かない? だったら、私一人で行く? ……でも、戦闘経験の浅い私だけで行かせてはくれないだろう。
じゃあ、諦める? ううん、諦めきれない。だったら、ロックリザードを捕まえに行くには――。
「だったら、アマリアお姉様の病気を治して、魔力を使えるようにする」
手がかりはないけれど、やるしかない。先にアマリアお姉様に魔力を使えるようにするんだ。




