105.お別れ
砂漠を越え、町まで戻ってきた。一休みする前に、ロメネクスに立ち寄った。建物に入ると、中にいた職員たちが待ちかねたように近づいてきた。
「ケイン! 怪我の具合はどうだった?」
「ちゃんと動けたか? 痛みはどうだ?」
「病み上がりなのに、良く行けたな」
みんな、ケインを心配しているようだった。やっぱり、あの怪我は普通では治らないものだったに違いない。だけど、ケインはポーションを飲んで元気に回復した。
「俺は絶好調だ。痛みもないし、動きも以前と変わらなかった。全く、錬金術で作ったポーションっていうアイテムは凄いぜ」
「そ、そうか……。そんな凄い薬があるなら、ぜひ取り扱いたいものだが……」
「そうよね。あれがあれば、万が一の備えになるし……」
そう話をすると、みんなの視線が私に向く。
「なぁ、ルイ。あのポーションを売ってもらうことは出来るか?」
「もちろん、出来るよ。ただ薬師協会で売っている値段で売ることになるけれど、いい?」
「もちろんだ。いくらでも払う」
だったら、ここで私が販売しても構わないだろう。【素材保管】から十本くらいのポーションを取り出すと、お金と交換をした。
「おぉ! これで、大けがをしても大丈夫だ!」
「もし、足りなくなったら薬師協会を通じて買うといいよ。でも、今は販売は王都近辺だけだから、買うのは大変だろうけど」
「それでもいい! こういう薬があるって分かれば、どうでもできる!」
ここでポーションの販促が出来たのは大きい。その効果を実感して貰えれば、少々高くても買ってもらえるはずだ。
「そうそう、報告があったんだ。テンタグロスの弱点が分かったんだ」
「な、なんだって!?」
そう話すと、職員たちは驚きの声を上げた。そこで、心石の事を話すと、職員たちは喜びに沸いた。
「あのテンタグロスの再生能力を止められるなんて、なんていう朗報だ!」
「ルイちゃん、見つけてくれてありがとう!」
「これで対処が出来る! 早く伝えなければ!」
すると、内部はお祭り騒ぎのようになった。喜びに沸く人、すぐに知らせに走る人、私にお礼を言う人。
「流石はルイね。こうなるだろうと思っていたわよ」
隣では、アマリアお姉様が自慢げに胸を張っていた。私もみんなの役に立つことが出来て、とても嬉しくなった。
「よーし! ケインの快気祝いとテンタグロスの攻略法が見つかったお祝いに、今日は宴を開くぞー!」
「みんなで騒ぎまくるぞ!」
「準備を急げー!」
そして、話しはなぜが宴の方向に進んでいった。もちろん、当事者の私が逃げられるはずもなく……。
その日の夜は大勢の人と騒がしい宴を楽しんだ。
◇
その翌々日、私とアマリアお姉様は町の外にいた。
「もう、行っちゃうなんて、寂しいわね。もっとゆっくりしていけばいいのに」
「帰りを待っている家族がいるから、帰らなくちゃ。すぐに薬を作って良くして上げたいの」
「家族思いなんだな……。薬、上手くいくといいな」
「うん!」
馬にまたがり、セリウス兄妹とお別れの言葉をかわす。分かれるのは寂しいけれど、会おうと思えばいつだって来れる。だから、寂しくない。
「ルイに出会えて本当に良かった。怪我を治してくれてありがとう」
「それにポーションも売ってくれてありがとう。しばらくは安心して活動が出来そうだよ」
「私の錬金術が役に立ったみたいで本当に良かったよ。錬金術のこと、忘れないでね」
「あぁ、忘れない。もし、何かあった時はルイを頼るよ。その時はよろしく」
誰かにこうして頼られるのは気持ちがいい。私の作ったアイテムで誰かが笑顔になれれば、それで十分だ。
「じゃあ、二人とも……。またね」
そう言って、二人に別れを告げると、馬が歩き出す。後ろを振り向いて手を振ると、二人が大きく手を振っているのが分かった。
そんな二人に見送られながら、私たちは自分の領地へと帰っていった。
◇
顔を上げると、そこには久しぶりの我が家があった。
「ふー、ようやく着いた! 馬に乗ってて、腰が痛いよぉ……」
「それは大変! ポーションを飲んで、すぐに治さなきゃ!」
「そ、そこまでは痛くないかな……」
アマリアお姉様の過保護にも困ったものだが、心配してくれるのはありがたい。丁重に断っておくと、馬から降りた。
「じゃあ、私は馬の世話をしてくるから、ルイは先に屋敷に戻ってて」
「うん、ありがとう!」
その言葉に甘えて、私は屋敷の中に入って行った。駆け出して真っ先に向かうのは、イザベルお母様の下。
「イザベルお母様、ただいま!」
声を上げて部屋に入ると、すでにイザベルお母様は体を起こしていた。
「元気そうで何よりだわ。おかえり、ルイ」
そう言って手を広げるイザベルお母様に、私は優しく抱き着いた。久しぶりの温もりに匂い、家に帰ってきたっていう実感が沸いた。
「旅はどうだった? 大変じゃなかった?」
「大変だったけど、楽しかったよ。色んな所を見て、色んな人に出会って、冒険したって感じだった」
「それは良かった。ルイが楽しく過ごせるのが、何よりもいい知らせよ」
そう言って、私の頭を撫でてくる。その感触に身を委ねていると、ハッと思い出す。
「そうだ! イザベルお母様の薬の素材もちゃんと見つけてきたよ!」
「本当? それは良かった。怪我とかしなかった?」
「怪我はしてないよ。でも、色んな魔物と戦ったかな」
「まぁ、そうなの? アマリアと協力して倒せた?」
「うん! アマリアお姉様は強いから、つい頼っちゃうんだ。あっ、私もちゃんと活躍したんだからね」
「ふふっ、はいはい」
私が話すと、イザベルお母様は嬉しそうに笑った。それだけで、頑張ったかいがあるというものだ。
私は離れていた分、何があったか詳細に話した。その話を聞いたイザベルお母様は色んな表情をしてくれて、話しているだけなのに楽しい気分になった。
家に帰ってきた私は、今まで離れていた分、埋めようとたくさん話をして時間を取り戻した。
いつもお読みくださりありがとうございます。
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