104.テンタグロス
無事、カイザルスコーピオンを倒し、目的の毒を入手することが出来た。これで、目的の二つの素材を手にした私たち。
砂漠を進み、町まで戻っている最中だった。
「早く屋敷に帰って、調合したいな」
「町に戻ったら、すぐに帰り支度をしないとね」
目的の物が集まって、調合欲がむくむくと沸いて出る。そんな私を見て、アマリアお姉様は穏やかに笑っていた。
「なんだ、すぐ帰るのか? もう少し、町を堪能していけばいいのに」
「兄さんを治してくれたお礼もまだなのに……」
「お礼はしてもらったから十分だよ。二人がいてくれて本当に助かったよ」
本当にセリウス兄妹がいなかったら、今頃砂漠で迷っていたかもしれない。だから、二人が協力してくれた事が何よりものお礼だ。
このまま、真っすぐに町に帰って、それで――と、思った時。船の下から衝撃が走った。
「な、なんだ!?」
後ろを振り返ると、緑色の触手みたいなものが飛び出ているのが見えた。
「テンタグロスだ!」
どうやら、船に魔物が取りついたらしい。船の後方にしっかりとしがみつき、ゆっくりと船体に上がってきていた。
「船を止めるよ!」
ロイザが風魔法を操り、船を急停止させた。その間にも、テンタグロスが船体に上がってきた。
触手の塊のような姿。手も足もない。あるのは赤く光る目が二つと、体中に生えている緑の触手だけ。
うねうねと動きながら、こちらに近づいてくる。
「だったら、触手を切るまで!」
大剣を抜いたアマリアお姉様は駆け出し、大剣を振り上げる。それだけで、簡単に触手が切られて数が減った。だけど、ケインは――。
「そんなことをしても無駄だ! 触手はすぐに生えてくる!」
「えっ?」
その言葉に驚き、切り口を見た。すると、新しい触手が生えてくるのが見えた。……凄い自己再生能力だ。
「とりあえず、私たちは船から下りよう。船外に誘いこんで、そこで仕留める」
ロイザが先頭を切って船から降りる。私たちもそれに続き、船から飛び降りた。すると、テンタグロスはきょろきょろと周囲を見渡し、私たちの姿を見つけると飛び上がって船から下りた。
「テンタグロスは切っても自己再生をする、厄介な魔物だ。切るよりも魔法の方が効く」
「まぁ、魔法で傷を負っても自己再生されちゃうんだけどね」
「じゃあ、どうやって倒せばいいの?」
「心臓を貫けば、しばらくの間は動けない」
「えっ? じゃあ、心臓を貫いても死なないってこと?」
私の言葉にセリウス兄妹が頷いた。まさか、自分の心臓までも自己再生するなんて……とんでもない魔物だ。
「だから、この魔物は心臓を貫いて、しばらく動けなくなったところを逃げるのが勝ちだ」
まさか、普通に倒せないなんてある? ……いや、きっと何か手段があるはずだ。こういう時は鑑定ちゃんに聞くのがいい。
私はテンタグロスに鑑定をかけた。
【テンタグロス】
サンドリーナ乾燥地帯の砂漠に生息する触手型魔物。全身を覆う触手で獲物を拘束し、捕食する。
高い自己再生能力を持ち、切断された触手や傷ついた肉体を瞬時に修復する。その力は心臓内部に存在する『心石』によるもの。心石が無事な限り、心臓すら再生する。
火属性に弱く、高熱による攻撃は再生能力を大きく低下させる。
「あっ……。私の鑑定で自己再生能力の原因が分かったかも」
「何? それは本当か?」
「うん。心臓の内部に存在する心石のせいみたい。だから、それを取り除けば、テンタグロスは再生しないと思う」
「そんなものが存在していたなんて……。でも、やってみる価値はありそうね」
どうやら、心石の存在は知られていなかったみたいだ。私の鑑定が役だったようで嬉しい。
「じゃあ、私の火魔法とロイザさんの風魔法を合わせて攻撃しよう!」
「そうね、それがいいわ!」
ケインとアマリアお姉様がテンタグロスを引き付けている間に、ロイザさんが詠唱を始めた。私も四属性金属リングに魔力を通す。
そして、ロイザの詠唱が終わる頃、私は特大の火魔法を放った。巨大な炎がテンタグロスを包み込むと、そこにロイザの風魔法が合わさる。
すると、火の渦になってテンタグロスの体を焼き尽くしていく。悲鳴が聞こえ、それがだんだんと小さくなっていく。弱くなっているのを確認して、私たちは魔法を解除した。
すると、丸焼きにされたテンタグロスが現れた。
「よし、心臓を刈り取るぞ!」
「えぇ!」
すかさず、ケインとアマリアお姉様が飛びかかる。ケインが場所を指定すると、アマリアお姉様が大剣で切り裂く。そこにケインの槍が差し入れられた。
少し動かした後、何かが引き抜かれた。
「これがテンタグロスの心臓だ。これで、体は再生しないだろう」
テンタグロスの体に視線を向けると、体が再生している様子はない。だけど、心臓の方が未だに動いていた。
ケインが心臓を切ると、中から白い石を取り出した。
「これが心石か。このせいで、自己再生が止まらなかったんだな」
「これは凄い情報よ。早速、町のみんなにも知らせなくちゃ」
心石を取り除いた心臓は動きを止めて、朽ちていった。改めて心石を見てみる。本当になんの変哲もない石だ。
この石に自己再生能力があるなんて……。もしかして、これって錬金術にでも使える素材なんじゃないだろうか?
例えば、ロザンお父様の腕と足を生やすとか……。うん、出来そうな気がした。
「ねぇ、その心石をくれないかな?」
「これか? あぁ、いいぞ。でも、何に使うんだ?」
「錬金術の素材になると思うんだよね」
「そういう使い方ね。何か役に立てばいいね」
ケインから心石を受け取ると、【素材保管】に入れておいた。落ち着いたら、この素材を詳しく鑑定して、使えるものなのか確かめないと。
「テンタグロスも倒したし、町に戻ろう」
その一言に私たちは頷く、船へと戻っていった。




