103.カイザルスコーピオン
天水のサボテンを手に入れた私たちは次の目標、カイザルスコーピオンがいる岩場へと向かっていった。
砂船は順調に進み、すぐ目の前に岩場が見え始めた。遠くから見ても、何か大きなものが動いているのが見えた。
離れたところで砂船は止まり、私たちは目を凝らしてその光景を見た。
「うわー、なんだか沢山いるね」
「あの岩場はカイザルスコーピオンの巣みたいなものだからな。だから、沢山いるんだよ」
「このままだと、沢山のカイザルスコーピオンと戦わないといけなくなるわね」
「そこで、私たちの出番って訳さ。カイザルスコーピオンの戦い方を教えてあげるよ」
そういって、ロイザは船の甲板の板を外しだした。すると、中から小さなヨットを出した。
「この小型な船を操ってカイザルスコーピオンに近づき、注意を引くのさ。そして、一匹を誘いだして、離れたところを仕留める。これが、カイザルスコーピオンとの戦い方さ」
なるほど、引き付けて離れさせて戦うんだ。そんな戦い方、私たちでは思いつかなかった。流石、現地の人たちだ。
砂船から下りると、少し離れる。
「よし、ここで迎え撃とう。ロイザ、頼んだ」
「任せて」
ロイザは小船に乗り込むと、詠唱を唱えて風魔法を発動させた。すると、小船の帆に風の力が加わり、すぐに飛ぶように進んでいった。
「ロイザさん、大丈夫かな?」
「大丈夫だ。何度もやってきた戦法だから、しくじることはない」
「ロイザさんを信用しているんだね」
「そりゃあ、長年一緒にやってきた妹だからな」
ケインは笑ってそう言った。お互いに信用しているのか……なんだか羨ましい。
「いいなー。私もアマリアお姉様に信用されたい」
「えっ!? わ、私は信用しているわよ!」
「だって、すぐ心配してついてくるじゃん。それって信用されてないってことなんじゃない?」
「いや、それは違うわよ!」
意地悪を言うと、アマリアお姉様は焦りだした。やっぱり、信用しているんじゃなくて心配で溜まらないっていう気持ちの方が強いらしい。
「さぁ、二人とも。どうやら、敵が釣れたようだぜ」
ケインの言葉に私たちは前を向いた。そこには小船を操作して近づいてくるロイザと、その後ろから追ってくるカイザルスコーピオンがいた。
体長は五メートルあるからとても大きい。だけど、ここには戦える人が四人もいる。負ける気はしなかった。
「まずは俺とアマリアで引き付ける。ルイとロイザは後方から魔法支援だ」
「分かったわ。ルイは後方にいてね。絶対よ。前に出ちゃいけないんだから」
「わ、分かったから。二人とも、前はよろしく」
ケインは槍を握りしめ、アマリアお姉様は大剣を持つと、駆け出していった。そして、ロイザとすれ違うと、カイザルスコーピオンの前に出た。
カイザルスコーピオンは二人の前へ立ちはだかると、巨大な両腕のハサミを勢いよく振り上げた。
空気を裂くような轟音と共に、鋭い一撃が放たれる。
「速っ……!」
思わず息を呑む。五メートル級の巨体だというのに、その動きは信じられないほど俊敏だった。
だが――二人の動きは、それをさらに上回っていた。
ケインは身体を低く沈め、地面を滑るように回避。アマリアお姉様は後方へ跳びながらハサミを避け、そのまま左右へ分かれて駆ける。
一瞬でカイザルスコーピオンの側面へ回り込んだ。
「おらぁっ!!」
ケインが槍を横薙ぎに振るう。
ガギィィンッ!!
硬い外殻に火花が散る。しかし、その一撃は確実に脚部を捉えていた。
カイザルスコーピオンの身体が僅かによろめく。その隙を、アマリアお姉様は見逃さなかった。
「はぁぁぁぁっ!!」
大剣を大きく振りかぶり、渾身の一撃を叩き込む。
ドガァァンッ!!
重い衝撃音。側面の甲殻が大きく裂け、深い傷が刻まれた。
「ギシャァァァァッ!!」
怒り狂ったように、カイザルスコーピオンが咆哮する。次の瞬間、巨大なハサミを滅茶苦茶に振り回し始めた。
暴風のような連撃。まともに食らえば、人間なんて一撃で潰される。
けれど。
「甘いっ!」
「見えているわ!」
二人はまるで動きを読んでいるかのように攻撃を避け続けた。紙一重で回避し、地面を蹴り、翻弄する。
凄い。迫力がありすぎて、思わず見入ってしまう。
だけど――。
「……っ、違う!」
私は慌てて我に返った。見ているだけじゃ駄目だ。魔法支援をしないと。
でも、どこを狙えばいい? そう考えながら戦いを見ていると、ふと気付いた。
カイザルスコーピオンは上側の甲殻は非常に硬い。だけど、下側は比較的柔らかそうに見える。
なら――。
「……ひっくり返せば、大きな隙が出来るんじゃ」
思わず呟く。その瞬間、隣にいたロイザさんがこちらを見た。
「ロイザさん、一緒に風魔法でカイザルスコーピオンをひっくり返そう」
私が提案すると、ロイザさんはニヤリと笑った。
「名案ね。二人の力が合わされば、出来そう」
すぐに杖を構える。私も四属性金属リングへ魔力を通した。魔力が指先から流れ込み、リングが淡く輝き始める。
ロイザさんは静かに詠唱を開始した。
「風よ、渦巻き、荒れ狂え――」
空気が震え始める。周囲の砂が舞い上がり、風が収束していく。私も魔力を高めながら、タイミングを待った。
そして――カイザルスコーピオンがハサミを振り回した反動で、大きく身体を横へ向ける。
「今っ!!」
「ええっ!!」
二人同時に、風魔法を発動した。
ドォォォォォッ!!
二つの暴風が重なり合い、巨大な突風となってカイザルスコーピオンの側面へ叩き付けられる。
「ギシャァァッ!?」
巨体が大きく揺れた。さらに風が押し込む。砂を巻き上げながら、暴風が下から持ち上げるように吹き荒れる。
そして――ズゴォォォンッ!!
ついにカイザルスコーピオンの巨体が横転した。
「やった!!」
巨大な身体が完全にひっくり返り、柔らかい腹部がむき出しになる。
その瞬間。
「ナイスだ!!」
「今なら通るわ!」
ケインとアマリアお姉様が、一気に踏み込み二人は地面を強く蹴った。
バンッ!! と砂が舞い上がる。
ケインは槍を構えたまま一直線に跳び、アマリアお姉様は大剣を頭上へ振りかぶる。
「これで終わりだぁぁぁっ!!」
「はぁぁぁぁぁっ!!」
裂帛の気合と共に、二人は同時に武器を振り下ろした。
ドゴォォォォンッ!!
凄まじい衝撃音が響き渡る。柔らかい腹部へ、槍と大剣が深々と突き刺さった。
「ギシャァァァァァァッ!!」
カイザルスコーピオンが絶叫する。だが、その悲鳴は長く続かなかった。
次の瞬間――腹部が大きく裂け、内部から体液が噴き出す。
さらに、アマリアお姉様の大剣が内部を切り裂き、ケインの槍が深く貫いた。
そして――ボゴォンッ!!
腹部が耐え切れず破裂した。大量の体液と肉片が飛び散り、砂地を汚していく。
カイザルスコーピオンの巨体がビクリと震えた。しかし、それも数回だけ。
やがて、巨体は完全に力を失い――動かなくなった。砂漠に静寂が戻る。
「……倒した?」
恐る恐る呟くと、ケインが槍を引き抜きながら笑った。
「ああ、討伐完了だ」
アマリアお姉様も大剣を肩へ担ぎ、小さく息を吐く。
「ふぅ……流石に硬かったわね」
だけど、その表情には余裕があった。
「やったわね、ルイ」
「ロイザさんもね」
後方にいた私たちは喜びのハイタッチをした。




