102.天水のサボテン
私たちはオアシスの周囲を慎重に見回り、他に魔物が潜んでいないか確認していった。
途中、小型の魔物と数度遭遇したものの、どれも脅威になるほどではない。ケインたちと一緒に手際よく仕留め、短時間で周囲の安全を確保していく。
そして――。
「よし、これでひとまず安全だな」
周囲を見渡しながら、ケインが大きく息を吐いた。
「じゃあ、本命を探そう。天水のサボテンだ」
その言葉に、私たちは気を引き締める。天水のサボテン。
砂漠でも限られた場所にしか生えない希少植物で、背丈は五十センチほど。平べったい葉を何枚も重ねたような独特の形をしているらしい。
ただ問題は――この広いオアシスの中から、それを見つけなければならないということだった。
「草に埋もれてたら厄介だな……」
「色も周囲と似てるって話だったよね」
「踏み潰さないよう気をつけろよ」
声を掛け合いながら、私たちは捜索を開始した。背の高い草をかき分け、水辺の近くを確認し、岩陰まで丁寧に見て回る。
湿った土の感触が靴裏に張り付き、葉の間からは小さな虫が飛び立っていく。風が吹くたびに草木が揺れ、視界の端で何かを見つけた気になることも何度もあった。
「あっ――いや、違うか……」
似た形の植物を見つけるたびに近寄って確認するが、どれも普通の雑草や別のサボテンばかり。天水のサボテンらしき姿は、一向に見つからない。
時間だけが少しずつ過ぎていった。オアシスの周囲を半周し、さらに奥まで調べる。
水辺の近く。倒木の影。草が密集している場所。怪しい場所は一つずつ潰していったが、成果はなかった。
「……見当たらないな」
ケインが眉をひそめる。額には汗が滲み、いつもの余裕も少し薄れていた。
「まだ見落としがあるんじゃない?」
「いや、かなり細かく探してる。これで無いなら……」
仲間の言葉に、ケインは難しい顔で周囲を見回した。それでも諦めず、私たちは再び捜索を続けた。
草をかき分け、膝をついて地面を確認し、ときには這うようにして茂みの奥まで覗き込む。
けれど――一周。さらに確認も兼ねてもう一度周囲を見回ったが、結局それらしい植物は発見できなかった。
静かなオアシスに、重たい空気が流れる。
「……そんな、ないの?」
誰かがぽつりと呟く。苦労してここまで来たというのに、肝心の天水のサボテンが見つからない。
「やっぱり、希少なサボテンだけはあるわね。そう簡単には見つからない」
「落ち込んでいても仕方がない。明日、違うオアシスに探しにこう」
セリウス兄妹はそれほど落ち込んではいない。それだけ、探すのが難しい素材のようだ。
二人の様子を見て、私たちも気持ちを切り替えた。大丈夫、他のオアシスに必ずあるはずだから。
そして、日が暮れ――その日はオアシスで一晩を過ごした。その翌朝、軽く朝食を取った私たちはすぐさま砂船に乗り込んだ。
「じゃあ、次のオアシスまで行くわよ! 大丈夫、他のオアシスの場所も分かっているから」
そう言って、ロイザが砂船を動かす。砂船は風魔法の風を受けて、飛ぶ鳥のように砂漠を進んでいった。
そうして私たちは各地に点在するオアシスを求めで移動をした。
移動中、魔物に襲われることもあり、その道中は平坦なものじゃなかった。だけど、現地人のセリウス兄妹がいてくれるお陰で、難関も突破出来ていた。
襲い掛かってくる魔物は次々と倒し。砂嵐を察知すると、方向転換をして回避。魔物と自然の驚異からセリウス兄妹は守ってくれていた。
そして、肝心のオアシス。やはり、希少な素材とあって、中々見つからなかった。二か所目、三か所目。次々とオアシスを渡り歩くが中々見当たらない。
それでもセリウス兄妹は元気なままだ。それを見ると、私たちもやる気が溢れてくる。こんなところでめげちゃいけない。
そうして、四か所目のオアシスへとたどり着いた。
「よし、魔物は全部倒したな。天水のサボテン探しを開始するぞ」
ケインの言葉に私たちは頷く、動き始めた。私たちは四人に分かれ、オアシスの捜索を開始した。
何度も繰り返してきた作業だ。けれど、だからといって気を抜く者はいない。
「見逃さないよう慎重にいこう」
「少しでも怪しかったら呼んで」
声を掛け合いながら、それぞれ距離を取りつつ歩いていく。
背の高い草をかき分け、水辺の近くを調べ、岩陰や木の根元まで丁寧に確認していった。天水のサボテンは普通のサボテンと見分けがつきにくい。
だからこそ、怪しい植物を見つけるたびに立ち止まり、鑑定スキルで確認を行う。
「……違う。これは砂棘サボテン」
「こっちも別物ね」
「紛らわしいな……」
期待しては落胆する。その繰り返しだった。それでも、誰も諦めてはいない。草をかき分ける音だけが静かなオアシスに響く。
私は再び茂みの中へ視線を向ける。
「……ん?」
ふと、草の奥に何かが見えた。緑色の平べったい葉。何枚も重なるように伸びた独特の形。
資料で見た天水のサボテンに、あまりにもよく似ていた。心臓が大きく跳ねる。
「み、みんな……!」
思わず小声で呼びかけながら、私は慎重に草をかき分けた。すると、そこには一本のサボテンが静かに生えていた。
大きさは五十センチほど。薄い青緑色の葉には、朝露のような透明感がある。まるで水を内側に溜め込んでいるかのような、不思議な瑞々しさだった。
「これ……」
ケインたちも息を呑む。誰も軽々しく触れようとはしなかった。もし違ったら、また振り出しに戻る。
そんな不安が全員の表情に浮かんでいる。私はごくりと唾を飲み込み、震える指先をサボテンへ向けた。
「……鑑定」
スキルを発動する。情報が頭の中へ流れ込んできた。
【天水のサボテン】
・サンドリーナ乾燥地帯の砂漠のオアシスにだけ映えるサボテン
・正常な機能に戻す成分が含まれている
「天水のサボテンだ! ようやく、見つけたよ!」
私の声に他の三人も沸いた。とうとう見つけた、天水のサボテン。私は【道具召喚】でシャベルを取り出すと、天水のサボテンを丁寧に掘り起こして採取した。
「やった、一つ目の素材……入手!」
これで、残りはカイザルスコーピオンだ。




