101.オアシスを求めて
見渡す限り、砂、砂、砂。
果ての見えない広大な砂漠が、地平線の向こうまでどこまでも続いていた。風が吹くたびに細かな砂が舞い上がり、乾いた空気が肌を刺す。照り付ける太陽は容赦なく熱を降り注ぎ、焼けた砂から立ち上る熱気で景色が揺らめいていた。
水気など一切感じられない灼熱の世界。そこは、人を拒む死の大地だった。
そんな砂漠の上を、船が進む。風魔法によって生み出された強風が白い帆を大きく膨らませる。
ごうっ、と風を受けた砂船は、ざざぁ……と砂を滑るように進んだ。その姿は、まるで海原を航海する帆船そのものだった。
波の代わりに砂丘を越え、潮風の代わりに熱風を受けながら、砂船はゆっくりと砂漠を進んでいく。船体が揺れるたび、砂が波のように流れていった。
砂漠の海を渡る船。それを足にして、私たちは砂漠を進んでいた。
「んー、風が気持ちいいね」
「そうね。冷感クリームのお陰で、熱風がひんやりとした風に感じるわ」
船首に立ち、風を一杯に受ける。冷感クリームを塗っているお陰で、吹き付ける熱風が冷風に代わり、暑さを微塵も感じない。
「二人は冷感クリームどうだった?」
試しに、セリウス兄妹にも使ってもらった。すると――。
「これはいいな。腕や顔につけてみたけれど、涼しくて居心地がいい。熱風なんか屁でもねぇな」
「日差しも熱風も防げるのがいいわ。こんなに便利なアイテムがあるなんて、どうしていままで知らなかったのか悔しいくらい」
どうやら、二人は冷感クリームを気に入ってくれたようだ。とても、清々しい顔をしている。
「この時の為に錬金術で新しく作ったんだよ」
「その錬金術って凄い魔法なんだな。色んなアイテムを作れるって、めちゃくちゃ便利だ」
「もし、ルイが近くにいてくれたら、色んな物を頼むのになー」
錬金術の話をすると、二人は羨ましそうに呟いた。この世には他に錬金術が使える人がいないから、便利なアイテムがほとんどない。
こういった各地の問題を解決するアイテムを生み出すのも楽しいかもしれない。錬金術の需要はどこにだってありそうだ。
すると、アマリアお姉様が私の体をギュッと抱きしめる。
「ルイは絶対に渡さないから! 離れるなんて嫌よ!」
「あらら。ルイをこの地に勧誘しようと思ったが、先手を打たれてしまったな」
「それは残念ね。錬金術があれば、楽になれると思ったのに」
アマリアお姉様の態度に二人は苦笑いだ。私はしばらくはアマリアお姉様から離れられないらしい。私も大人になったから、妹離れをしてくれるのが助かるんだけど……。
「ルイ、いい? 誘われても、断るのよ。ルイには帰るべき場所があるんだから、ね?」
「わ、分かったよ……」
相変わらず圧が強い。アマリアお姉様を安心させるには、まだまだ力不足ってわけか。だったら、どんどん凄いアイテムを作って認めさせないとね。
「ははっ、仲がいい姉妹だな。俺たちも負けてられないな」
「そうね。私たちだって長年一緒にやってきたんだから、負けないと思うわ」
そんな声が聞こえてきた。セリウス兄妹も良いコンビに見えるから、一緒にいて安心する。
「さて、そろそろ始めのオアシスが見えてきてもいい頃なんだが……」
ケインが船首に立ち、辺りを見渡す。
「おっ、噂をすればなんとやらだ。始めのオアシスが見えてきたぞ」
指を差した先に小さな緑が見えてきた。船首がそちらに向くと、その緑がどんどん大きくなっていく。砂漠の中にぽつんとある緑、あれがオアシスか。
最初は小さなオアシスだと思っていたが、近づいて行くととても大きなオアシスが見えてきた。緑が何百メートルも広がり、その奥には大きな泉が見えた。
砂船が止まると、私たちは砂地に下りた。
「オアシスの中に入る前に注意だ」
「オアシスには魔物が水を求めて集まってくるの。だから、魔物に気を付けて、固まって行動するのよ」
なるほど、そうなのか。警戒もせずに入って行ったら、魔物に襲われるところだった。
「とにかく、厄介な魔物がいないか確認して、天水のサボテンを見つけるのはその後だな」
「じゃあ、先に索敵からだね」
「そういうこと。じゃあ、ここからは警戒して動くよ」
ケインが槍を握り、ロイザが杖を構える。それを見ていたアマリアお姉様は大剣を抜き、いつでも戦えるようにした。そうして、私たちはオアシスの中に入って行った。
中はとても涼しくて、ここが砂漠であることを忘れてしまいそうだった。木や草、花が所狭しと生えていて、少し歩きづらい。
警戒して進んでいると、魔物の鳴き声が聞こえた。ケインが黙って指を差す。その方向に進むと、泉の近くに猿みたいな魔物がたくさんいた。
「あれは砂ザル。いつもは砂漠を渡り歩いて、集団で狩りをするんだ」
「とにかく連係してくるのが厄介なのよ。だから、先手必勝で数を減らすわ」
「どんな、先手必勝をするの?」
「もちろん、魔法でよ。背後から魔法を放てば、必ず当たる」
なるほど、遠くから不意をつくってことか。
「だったら、私も魔法が使えるから役に立つよ」
「なら、二人で魔法で攻撃しましょう」
「魔法を放ったら、俺たちも出ていく。これでいいな?」
「もちろん。いつでもいけるわ」
作戦は決まった。私とロイザが前に出ると、魔力を高める。
「私が砂ザルの前に魔法を出すね」
「なら、私は後ろから狙うわ」
これで、魔法が相殺することはなくなる。泉に向けて四属性金属リングの力を宿す。そして、一気に魔法に練り上げる。
水を刃にして、砂ザルを仕留める。頭の中にしっかりと魔法をイメージをすると、魔法を発動させた。
泉から水が飛び出て、それは刃のように砂ザルに突き刺さった。その瞬間――。
「――風よ刃となって切り裂け!」
同じタイミングでロイザが風魔法を放つ。突然、前と後ろから襲われた砂ザルは水の刃と風の刃によって、十体以上もその数を減らした。
「よっしゃ、行くぞ!」
「分かった」
その瞬間、ケインとアマリアお姉様が飛び出す。一気に距離を詰めて、二人が武器を奮う。それで、数体の砂ザルが吹き飛んだ。
流れるような動きで、混乱している砂ザルを仕留めていく。砂ザルは奇襲されたことで、何も反撃が出来ないまま、その数を減らした。
そして――。
「よし、討伐完了!」
「ふぅ、なんとかなったわね」
あっという間に殲滅してしまった。
「やったね、ロイザ!」
「えぇ。ルイの魔法は凄かったわ」
「そういう、ロイザだって!」
後方で待機していた私たちはハイタッチをして勝利を祝った。




