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第4話「薄壁の隙間、泥の自慰」

詩乃の部屋の木製ドアは、完全に閉まりきっていなかった。

二センチほどの隙間。換気のためか、あるいは家に弟しかいないという油断からか、わずかに開かれたその亀裂から、むせ返るような生ぬるい空気と、唾液の混じり合う湿った水音が漏れ出していた。


僕は廊下の壁に背を張り付かせ、息を殺してその隙間へと片目を寄せた。


薄暗い室内のベッドの端に、遠藤が下着もつけない全裸の状態でふんぞり返っていた。太く筋張った脚を広げ、浅黒い股間から猛り狂った太い剛直が天を突いている。

そして――その男の股の間に、あの白石詩乃が跪いていた。


「ほら、詩乃。もっと喉の奥まで突っ込めよ。歯当たってんだよ」

「んむ……っ、じゅる……んちゅ……っ」


心臓が凍りついた。

講義室で凛とした声を響かせ、誰もが近づけない孤高の気品を放っていた詩乃が、床に膝をつき、両手で男の太ももを掴みながら、卑しい獣のように男根を貪っていた。

無防備に乱れた黒髪の間から見える横顔。

頬をすぼめ、唾液を口端から垂れ流しながら、遠藤の粗暴な要求に応えて喉の奥深くまで肉塊を呑み込んでいる。


「ふー……っ、相変わらず喉締めんの上手いじゃん。大学の奴らが見たら卒倒すんな、このしゃぶり顔」

「んぐっ……ゲホッ……! あんな、馬鹿ばっかりの大学の奴らと一緒にしないで……んちゅ、ちゅぷ……っ」


吐き出された唾液の糸を引きながら、詩乃は嘲るように言った。

男の機嫌を取るためだけの、媚びと侮蔑の混ざり合った下品な声。

そこにロマンスの欠片などない。互いのステータスを誇示し、ただ溜まった性欲をぶつけ合うためだけの、乾いたルーティン。


「お前さ、弟に金投げてたけど、あいつ本当に気づいてねえの?」

「あんなトロい奴、何も考えてないわよ。昔からぼーっとしてて、お母さんの操り人形みたいな出来損ないなんだから。……それより、隼人、早くして。濡れて気持ち悪くなってきた……」


詩乃は自らミニスカートを腰まで捲り上げ、びしょ濡れになった純白の下着を片足から引き抜いて床に放り捨てた。

露わになった白く艶やかな秘裂。

男たちの視線すら拒絶していたはずのその場所は、すでに遠藤の粗暴な匂いと自らの蜜でグチョグチョに濁り、泡立っていた。


「おいおい、がっつくなよ。ほら、四つん這いになれ」

「ん……早く、奥まで突っ込んで……っ」


遠藤が背後から詩乃の腰を掴み、猛り狂った先端を濡れそぼる割れ目へと力任せにねじ込んだ。


グチャリ、と鈍く生々しい肉の結合音が響いた。


「あ゛っ……! んん゛――っ!」


詩乃の口から漏れたのは、清楚な令嬢のものとは思えない、濁った嬌声だった。

遠藤がシーツを掴ませた詩乃の腰を乱暴に引き寄せ、容赦のないピストンを叩き込む。激しく打ち付けられる肉と肉の音。バチン、バチンと、太ももがぶつかり合う暴力的なリズム。

詩乃は背中を反らせ、舌先をだらしなく突き出しながら、快楽の波に呑まれて腰をくねらせていた。


「あ、そこ……っ、隼人のそこ、すき……っ! もっと、もっと突いてぇ……っ!」


僕の脳内で、何かが決定的に、音を立てて砕け散った。


吐き気がした。胃液が喉元まで逆流してくる。

僕が半年間、夜も眠れずに想い焦がれ、神のように崇拝していた聖女。

傘を差し出した僕を虫けらのように睨みつけ、「気味が悪い」と言い放ったあの女の正体は、粗暴な男の下で涎を垂らし、快楽に貪欲な一匹の牝犬に過ぎなかったのだ。


(汚らわしい……死ねばいい……こんな女、死んでしまえばいい……!)


怒りと屈辱で視界が涙で滲んだ。

だが――。


グッと下腹部に走った熱狂に、僕は息を呑んだ。

僕が借りている白石蓮の若い肉体は、ドアの隙間から溢れ出る淫靡な匂いと、目の前で繰り広げられる実の姉の醜態に、凶悪なまでの生理的反応を示していた。

スウェットのズボンを押し上げる、硬く猛り狂った剛直。


(なんで……!? やめろ……こんな女に、反応するな……っ!)


拒絶しようとすればするほど、脳裏に焼き付いた詩乃の淫らな顔が、血流を加速させる。

自分を拒絶した女が、目の前で他人の肉棒に貫かれ、無様に喘ぎ狂っているという事実。

その倒錯した背徳感が、僕の理性をドロドロに溶かしていった。


僕は震える手で、スウェットのウエストに指を掛けた。

布地の中に手を突っ込み、熱く張り詰めたペニスを直接鷲掴みにする。


「……っ……!」


薄壁一枚を隔てた廊下の暗がりで、僕はドアの隙間に視線を貼り付けたまま、自らの肉茎を激しく上下にしごき始めた。

ジュク、ジュクと、部屋の中から聞こえるピストン音と、僕の擦り上げる皮膚の摩擦音が重なり合う。


詩乃が「あぁっ、イく、イっちゃう……っ!」と叫び、背中を弓なりに痙攣させる。

その瞬間、僕の喉からも声にならない絶望の呻きが漏れた。


涙が頬を伝い落ちるのと同時に、僕の手のひらの中に、焼けるような白濁が勢いよく迸った。

ドクドクと脈打ちながら、廊下の床と自らの指先を汚していく熱い体液。


ドアの向こうでは、事切れたように倒れ込む二人の荒い息遣い。

手についた精液を見つめながら、僕は冷たいフローリングの上で膝をついた。


偶像は死んだ。

胸の中に残ったのは、淡い初恋の残骸ではなく、ヘドロのように淀んだ冷酷な憎悪。


(許さない……絶対に、許さない……)


僕の手を汚す白濁を拭いながら、僕の唇は、自分でも恐ろしいほど冷徹な歪みを描いていた。

お前が信じるその傲慢な日常を、お前が踏み躙ってきた人間の手で、跡形もなく解体してやる。

そのための生贄の姿が、僕の脳裏に鮮明に浮かび上がっていた。

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