結びの花 龍神様の愛し方
「それで、弟君は元気にやってるの?」
私は素早く判をつきながら、リサーに尋ねる。
「はい! ご隠居様や族長からは、初めて教わることも多いようで、楽しく過ごしているみたいですよ」
今も護衛役を担っているリサーは、華やかな笑顔で言い切る。
狐族の長候補の件は、あれからあっという間に解決していた。
それは、祝言での騒動から数日後のこと。なんと、リサーの弟であるレムートにも、三つ目の尾が生えたのだという。
リサーを『狐の女帝』としないために、ヴィート君は色々と動いてくれていたのだが、こちらから手を回す前に、次の長候補はレムートにすり替わっていたらしい。
「できれば男児に継がせたかったでしょうから、みんなも安心したはずです」
リサーは晴々とした面持ちで語るのだが、私は納得しきれていないところもあった。
「君が『女帝』を避けられたことは、よかったとして。それでも素直には受け入れられないよね」
「どうしてですか?」
リサーの瞳に、不機嫌な顔をした私が映り込む。
「だって君のほうが、先に三尾になっていたんだよ? 『女帝』を目指していなかったとはいえ、長となる権利は、レムートと君に等しくあるはずだ。なのに、リサーは一方的に候補から外されていた。ずいぶんと勝手だとは思わない?」
「うーん、そうですか?」
悩むそぶりを見せつつも、リサーの顔には笑みが溢れていた。
「あまり気にしていなかったです。私は、龍神様のおそばにいられることが幸せですから」
可愛らしい発言に、思わず胸がときめく。
「ねぇリサー。今からデートでもしない?」
「そんなの駄目に決まってますからね、龍神様……?」
聞き耳を立てていたヴィート君が、背後から囁きかけてくる。
「ちぇっ、仕方がないなぁ。でもちょっとぐらいは、休憩させてくんない?」
「はぁ……十五分だけですからね」
ぶつくさと文句を言いながらも、ヴィート君は足早に退室する。
部屋にはリサーと私の、二人だけが残された。
「おいで、リサー」
彼女を招き寄せ、ひざの上に座らせる。ふわふわの尾は、嬉しそうに左右に揺れていた。
「この仕事さ、今日で一段落つくから。明日はお休みにして、二人でゆっくり過ごそうよ」
髪飾りを指先でいじりながら、リサーに提案する。
「龍神様。二人でっていうのは、その」
「ん?」
リサーは目線を逸らしたまま、遠慮がちに口を開く。
「龍神様のお部屋で、ですか?」
「……うーん。どうしようねぇ」
少し悪戯な気持ちになって、私は尖った耳にそっと触れる。
「あっ!」
ここが彼女の弱いところだというのは、よく知っていた。
「リサーはどうしたい?」
「それは、……っ」
耳の付け根をさすりながら尋ねると、リサーの両目がうっとりと細まっていく。
さらに唇を耳に這わせると、彼女はびくりと全身を震わせた。
「やめてください。そんなことされたら、んぅっ……うまく答えられないでしょお!?」
リサーは立ち上がり、こちらに向かって全力で叫んだ。
「ごめんごめん! つい、リサーの可愛い姿が見たくなっちゃって」
「もう! 早くお仕事に戻ってください、そんなんじゃ、明日までに終わりませんからね!?」
ぷりぷり怒っているリサーの腕を引き、手の甲に口づけを落とす。
「じゃあこれを片付けたら、続きをしてもいい?」
低い声で囁くと、リサーの体が真っ赤に染まった。
「え、ええ! ちゃんと全部終わらせたのなら、ですよ!? それまでは私も、好きに過ごしますからね!」
彼女は逃げ出すように、部屋を飛び出していく。
「ふーむ。そうと決まれば、のんびりしてられないよね」
机の上に積み重なった書類へ、勢いよく腕を伸ばす。
どうやらリサーは、この仕事を片付けるまでに、相当時間がかかると踏んでいるらしい。
なら、とびきり早くに終わらせるしかないよね。
「そろそろいいですか、龍神様?」
ぴったり十五分後に戻ってきたヴィート君は、真面目に働いている私を見て、満足げに腕を組んだ。
「これだけやる気になってくれるのなら、席を外した甲斐がありますね」
「まあ、リサーを待たせるわけにはいかないし。さっさと終わらせよう」
承認済みの書類を持ち上げ、ヴィート君は満足げにうなずく。
「いいですね。龍神様が本気を出せば、昼前にでも片がつくでしょうから」
「はははっ! 本当にヴィート君は、私のことを分かってくれてるよね」
書類を捌きながら、微笑む。
仕事終わりにすぐ追いかけたら、きっとリサーは驚くだろうな。
目を丸くしているリサーを、思い切り抱きしめて。それからどうしよう?
柔らかい耳は丹念にほぐして。三つの尻尾にも、順番に触れてあげて。
それから、全身愛してあげるんだ。この世でたった一人だけ、龍神の番となった彼女のことをね。
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今作は甘さに全振りしましたが、3/28に完結した『双面の贄姫 〜身代わり令嬢はどうにかして悪役を回避したい!〜』(全137話)でも、違った形の『龍』を物語に描いています。
「身代わり」×「タイムリープ」×「全員救済 (ハッピーエンド)」
処刑される未来を回避するため、少女は再び“偽りの令嬢”を演じる。
前世とは異なる事件をいくつもくぐり抜け、運命の修正を試みる歩みは、いつしか国を揺るがす大きな謎へと繋がっていく──。
『双面の贄姫』は、広義の謎解き(ミステリー・サスペンス)要素を含んだ、異世界恋愛ファンタジーです。
リンクはページ下部にございます。愛と救済のドラマを、ぜひお楽しみください!




