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十二属性戦士物語【Ⅴ】――幽霊屋敷の亡霊と四神龍――  作者: YossiDragon
第五章:『四霊獣の最期と四神龍の封印』篇
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第四十三話「交渉と後継者」・8

 ミーミルは夜の回廊を歩きながら、考えに沈んだ。

――もし、フィヨ達の子を王位継承者とすればどうかしら。フィヨも私もリスマード王家の血を引いているわ。産まれる子もまた、正統の血筋。それは、妃愛の子よりも遥かに“表立って正統”とされる存在になるわ。



 だが同時に、それは妃愛が自らを犠牲にして身籠った意味を無に帰す行為だった。

 ミーミルの胸は激しく揺れる。


「……私は、母として間違っているのかしら」


 夜風が答えをくれはしない。

 その後、ミーミルは信頼出来る者達を集めた。

 巫女族の侍従長でもある鈴華に、その御付きでもある雲雀と朱雀、そしてフィヨ本人。

 奥まった部屋に灯る篝火の下、女達は円座となり語り合う。


「月牙の子を次代に据えるのが筋ではあるわ。けれど……」


「確かに、血統と立場を考えれば、フィヨ様の子の方が安全です」


「家臣達は妃愛様を狙うでしょう。ですが、フィヨ様の子ならば……むしろ歓喜して受け入れるやもしれません」


 鈴華の言葉に、ミーミルは深く俯いた。

 フィヨは苦々しく口を開いた。


「……あたしは望んでこの子を後継に据えたい訳じゃないわ。元々王位継承だって無駄な争いの火種にしかならないと思ってたから一線を引いてたのもあるし……。ただ、もしそれが王国の安泰を意味するのなら……」


 沈黙。

 やがて、ミーミルが顔を上げた。


「決めましょう。夢鏡王国の三代目正統後継者は――フィヨ、あなたの子とするわ」


 その言葉に、篝火がぱちりと爆ぜた。

 誰も声を出さず、ただその決断の重さを噛みしめた。

 こうして、リスマード王家の女達による密かな政変は決定された。

 まだ誰も知らない。だが、この決定こそが後に夢鏡王国の運命を大きく変えていくことになるのだった。

 城の奥、誰も近寄らぬ静かな離宮の一室にて。

 ミーミルは妃愛と、従姉であるフィヨを呼び寄せ、閉ざされた扉の中で小声の相談を続けていた。


「……つまりね、フィヨ。あなたの身籠りを“私の懐妊”として公に伝えるのよ」


 ミーミルの声音は低く、しかし揺るぎなかった。

 フィヨは思わず眉をひそめる。彼女は王国警備隊長にして、ミーミルの従姉――その気高い立ち居振る舞いから“姫騎士長”と呼ばれる存在だ。


「あたしの子を……ミーミルの御子と偽るってこと? それは……」


 躊躇の理由は明白だ。

 姫騎士長が孕んでいるのは、誰にも言えない子――世間には決して理解されない実の弟との禁忌の果てに宿した命。

 もし露見すれば、王家の威信どころか一族そのものが破滅しかねない。


「承知の上よ」


 ミーミルはまっすぐにフィヨを見据えた。


「だけど、血筋を……皆を守るためにはこれしかないの。……妃愛に背負わせた罪を、私はこれ以上重ねさせたくないのよ」


 その言葉に、妃愛はハッと顔を上げた。


【母上……!】


 彼女の声は震えていた。自分の体を犠牲にしてまで王家を繋ごうとした行為を、“無駄にしたくない”――母のその決意が胸を打つ。

 しかし、フィヨはなおも首を振った。


「だけど……ミーミル、月牙が戻ってきた時、もし真実が露見すれば――」


「――だからこそ、周到に偽装するのよ。それにね、フィヨ。あなたは月牙の事をちゃんと理解していないようね? あの人になら、例えバレたとしてもきっと理解してくれるわ。あの人は……そういう男だもの」


 ミーミルは囁くように言った。




 その後、ミーミルは最も信頼できる巫女族の侍従数名と、医療に従事する初代毒属性戦士――猛毒雲猛辣を呼び、密やかな策を練った。

――方法はこうだ。

  ミーミル自身はしばらく公務から退き、“体調不良”を理由に寝所に籠もる。

 巫女族達が定期的に"懐妊の兆候がある"と噂を流す。

 フィヨは警備を理由に甲冑で体を隠し、腹の膨らみが目立たぬよう徹底。

 ミーミルが“懐妊”を発表する頃には、フィヨの体は自然に腹が膨らんでいて、違和感はなくなる。


「問題は……誰に、どう伝えるか、ね」


 ミーミルは扇で口元を隠しつつ呟いた。

 相談の場に居合わせた鈴華が答える。


「まずは、月牙の信を得ていない近臣には知らせない事。知らせれば、必ず口を滑らせるでしょうから」


「逆に……王位に興味のないミーニルやニョルズ達には、早めに伝えるべきね」


 妃愛が口を開いた。


【彼らは“母上が懐妊した”と知れば、下手に接触もしないだろう。むしろ、王家の人間は基本的に協力的であるように思えるからな。むしろ、中止すべきはその配下――家臣達であろうな】


「ふふ……我が娘ながら、よく見ているわね」


 ミーミルは微笑んだ。

 フィヨは胸を押さえ、深いため息を吐いた。


「……あたしの子が、三代目の玉座を継ぐだなんて。あんまり実感が湧かないわね……」


 ミーミルは彼女の手を握り締めた。


「背負うのはあなただけではないわ。その子が成人するまで、私達皆で支えるのよ。……それこそ、家族というものでしょう」


 沈黙の後、フィヨはゆっくりと頷いた。


「……分かったわ。乗り掛かった舟だもの。それなら、あたしも腹を括ろうじゃない」


 こうして、ミーミルの密謀は動き出した。

 偽りの懐妊劇――それは、誰にも悟られてはならない命懸けの駆け引きであった。




 数日後の朝。

 王城の大広間には、諸侯や文武百官、王国警備隊の将らが整列していた。

 月牙の不在を補うため、政務を司る執政官が声を張り上げる。


「皆の者に告ぐ! ――ミーミル王妃殿下、ついにご懐妊あそばされた!」


 その言葉が響いた瞬間、ざわめきが広間を満たした。


「な……王妃様が……!」


「これは……まことに吉兆ではないか!」


 ざわつきの中にも、表情には複雑な影が走る。

 王家の血統を巡る争いが水面下で続いていた事を、誰もが知っているからだ。彼らにとって都合がいい人物、悪い人物が少なからずいる。だからこそ、彼らの中にも、リスマード王家で派閥が広がりつつあった。それが、ヘーニルの子であるミーミル&ミーニル派、ヒュニールの子であるフィヨ&ルーギュン派、メリーナの子であるニョルズ&ニョルーラ派だ。しかし、無論当人達にそんな争いの意思は微塵もない。だからこそ、現王政についているヘーニル派閥以外の二つの派閥は、苛立っていた。早く、自分達の派閥の子孫を次の王へ即位させ、自分達の思惑通りにこの国を動かしたいのだ。

 無論、その黒い側面はリスマード王家にも認知されている。しかしながら、決して排除はしきれなかった。潰しても潰しても次の闇が生まれるその悪循環に、ついには先代王も辟易して諦念してしまっていたのだ。

 そして、それは二代目である月牙も同様の事。故に彼は、彼らの進言を一切合切無視して、自身が良く知る人物達からの情報のみを駆使して政治を行ってきた。それもあってだろう、他派閥だけではない、本来味方であっただろうヘーニル派閥の家臣達も、月牙の存在を疎みだしていた。そこに来ての、彼の冥霊界への出立――そして長期の不在。いつ戻ってくるか、明確に判明していない今こそ、彼らにとっては好機だった。

 と、各々が心の内で次なる暗躍を企む中、一歩前に出たのは――姫騎士長フィヨ。

 甲冑に身を包み、いつもと変わらぬ涼しい顔で頭を垂れる。


「ミーミル王妃様の御身を守ること……これより最優先と致します」


 その言葉に誰も疑念を抱かない。彼女は忠義の象徴であり、王家の楯であったからだ。

 しかし、その腹に宿っているのが“真の後継者”であることを知るのは、今はミーミルとごく一部のみ。




 その夜――。

 ミーミルの寝所では、再び秘密の集まりが行われていた。

 彼女は湯気を立てる薬草茶を前に置き、低い声で言った。


「……思ったより反応は穏やかだったわね、不気味なくらいに」


 妃愛が苦笑する。


【むしろ、恐れていた派閥争いが収まったようにも思える。母上の御懐妊を知れば、皆、下手に動けんからな】


 フィヨは腕を組み、僅かに安堵の息を吐く。


「だけど、油断は出来ないわ。王位を狙う派閥は、必ず“真実”を暴こうとする。……あいつらの目は鋭いから、注意すべきよ」


 ミーミルは頷き、扇で口元を覆った。


「ええ……だから、伝える相手を慎重に選ばないといけないわ。――例えば、次に知らせるべきは……」


 ミーミルは視線を細め、鈴華に耳打ちした。


「……先代女王――母様です。母様は口が堅いし、一族の女達の影響力は強い。そこで囁かれれば、噂は自然と“既成事実”になるわ」


 妃愛が小声で尋ねる。


【だが……月牙が戻った時どうする?】


「その時は――」


 ミーミルは一瞬言葉を切り、静かに娘の頭を撫でた。


「私がすべて引き受けるわ。……きちんと、今度こそ包み隠さず正直に、月牙に伝える。例え、それであの人に嫌われる事になってもね」


 その決意の響きに、部屋の空気が張り詰めた。

 フィヨはぎゅっと拳を握りしめる。


「ミーミル……それなら、あたし達も共に覚悟を決めるわ」


 こうして、ミーミルの懐妊の報せは城内に広まり、各派閥は動きを止めるどころか水面下で新たな思惑を練り始めた。

 だが、その渦中で密かに進む“真実の懐妊”は、まだ誰の耳にも届いていない。




 場所は変わり、ミーミルの私室。

 分厚い帳が閉ざされ、僅かな燭火がゆらめいていた。集まっているのは、ミーミルとその従姉である姫騎士長フィヨ、そして初代女王――ヘーニル・D(ディニメラ)・リスマード。緊張感の中で、ひとつの議題が持ち上がっていた。


「……母様、実は妃愛の子に関してなのだけど」


 ミーミルが口火を切ると、皆の視線が集中した。


「無下には扱えないわ。あの子は“神の血”を引いているの。万が一、神族の眼に触れれば……築き上げた親交は脆くも崩れ去るかもしれない」


 ヘーニルは深く頷き、椅子の肘掛を握りしめた。


「そのとおりね。神族は私達を“友”と見なしているわ。だけれど、その血を汚すような真似をすれば、友は一転して裁きを下すやもしれない」


 場の空気が沈む。

 しかし、フィヨは静かに口を開いた。


「それなら――あたしの後を継がせましょう。妃愛様の産む子を、王国警備隊の次代騎士隊長として育てるのです」


 ミーミルは目を見開く。無論、事前に聞いていなかったからだ。自分では考えもしなかった考えが提示され、驚愕する彼女は思わず呆気に取られた様子で声を漏らす。


「……騎士隊長に?」


「ええ」


 フィヨは真っ直ぐに言い放った。


「ミーミルの子――いえ、あたしの子が三代目となるのなら、その傍らで剣を振るう者が必要でしょう。王を守り、国を支える柱として。神の血を引く妃愛様の子は、その任を担うに相応しいと思います」


 沈黙が落ちた。

 ヘーニルは目を閉じ、長く思案に沈んだ後に低く呟いた。


「……悪くないわね。むしろ、最良かもしれないわ。騎士隊長という立場は、王を最も近くで守る者。そこで執政を学び、戦を知り、人を知る。やがては、その経験を糧に王となる道も開けるかもしれない。そう遠くない未来に……」


 ミーミルは安堵の吐息を漏らし、膝の上で指を組んだ。


「そうすれば、妃愛の自己犠牲も決して無駄にはならない……」


 皆の胸に僅かな光が差し込んだ。

 だが、次の問題はすぐに立ちはだかる。


「問題は――どう広めるかね」


 ヘーニルが重々しく言った。


「既に、王宮にはミーミルの懐妊が発表されているわ。けれど、実際この王宮に産まれる命は一つではなく、二つ。ともなれば、絶対に怪しむ者がいるはずよ。もう一人は、一体誰の子供なのかと。場合によっては、遺伝子鑑定を行われる可能性もある。もしそれで真実が明るみに出れば、流石の私でも庇いきれないわ。全ての派閥を納得させられるだけの材料がなければね。だからこそ、話は慎重に広めていくべきよ」


 フィヨが眉を寄せる。


「確かに……。ならば、段階を踏むべきかと」


「そうね」


 ミーミルも頷く。


「まずはごく近しい者だけに伝え、次に臣下の中でも理解のある者達を選び……そして、少しずつ外へ広げていく事にしましょうか」


 それでも迷いが消えぬミーミルの様子を見て、ヘーニルは静かに立ち上がった。


「……いいわ。あの人に――コーガリックに話しましょう。初代国王陛下の決断ならば、誰もが従わざるを得ないでしょうから」


 ミーミルとフィヨは驚いた表情を見せた。


「と、父様に……?」


「こ、国王陛下にですか……?」


 ヘーニルは小さく頷いた。


「夢鏡王国の父たる初代国王。その声は何より重いわ。彼が“これが夢鏡王国の未来だ”と断ずれば、例え老臣とて逆らえはしないでしょう。それに、もし逆らえばどうなるか……思い知らせてあげればいいしね? うふふ♪」


 さらりと口にした恐ろしい発言に、堪らずミーミルは深く頭を垂れた。流石母だ、到底逆らえないし頭があがらない。


「……母様。なら、私も一緒に行ってもいいかしら……?」


「ええ勿論。一緒に参りましょうか」




 夜更け、王の私室。

 長き戦乱を治めた初代国王――コーガリック・T(トゥカルメス)・ソムニエール・リスマードは、白髪混じりの頭を上げ、娘や妻達を迎えた。


「して、何をそこまで隠す顔で参った」


 ヘーニルが一歩進み出て、すべてを語る。

 妃愛の子の存在、その血の意味、そしてフィヨの子を後継とする策。

 沈黙の後、コーガリックは低く笑った。


「……成程。娘達よ、お前達はよく考えた。神の血を蔑ろにせず、かといって国を割らぬ道を選んだか」


 深く腕を組み、やがて力強く頷いた。


「よかろう。妃愛の子は次代の騎士隊長とせよ。未来の三代目王、或いは女王となる者を守らせ、その傍で学ばせる。――それがこの国の未来と定める」


 ミーミルとフィヨは一斉に頭を垂れる。


「わかったわ」


「陛下の意のままに……」


 コーガリックは二人を見据え、声を低める。


「ただし――情報は慎重に広げよ。同時期に二人子が産まれるのは怪しまれる。二卵性の双子という扱いで、表向きは切り抜けるが良かろう。まずは王家の血を知る者のみ。次に、古くからの重臣。外へ漏れるのは、さらにその後だ。……国は嘘で潰れる。だが嘘を守り抜けば、国は強くもなる」


 その夜、この場にいる者達の間で密約は固められた。

 新たな後継の姿はまだ世には伏せられている。だが確実に、歴史の歯車は動き始めていたのだった……。

というわけで、今回の話で二代目の話は終了になります。まぁ、厳密的には次のⅥの前半では時代が進んで成長した彼らの話も出る訳ですが。二代目の時代では殆ど話題に上がらなかった斑希の件に関して、ここでようやく触れられましたが、彼女はまだ冥霊界に囚われています。よって、月牙は自ら冥霊界へ赴く事に。しかし、六代目の時代でも彼は姿を見せていません。……まぁ、そう言う事です。これに関してはもっと後で話されます。

そして、二人の子供が出来ました。妃愛の子供とフィヨの子供です。この子供たちに関してはⅥで触れます。

次回予告、エピローグとして視点は再び六代目の時代に進みます。久々に彼らが喋ります。そのあとは、登場人物の情報を更新して、今回のⅤの話は完全に終わりです。更新予定は来週予定です。

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