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第23話:空飛ぶおもちゃと、極上の貢ぎ物

全力の脚力で跳躍し、僕は一直線に空へと跳び上がった。


……風を切り裂き、ぐんぐんと高度を上げていく。

人間の体というのは汎ゆる面で不便だが

この『器』の持つ馬鹿げた跳躍力だけは、狩りの時に非常に役に立つ。


「よし……捕まえた」


あっという間に、僕は上空を旋回していた巨大な鳥

狂乱鳥獣クルイドリ』とやらの目の前まで到達した。


……この巨大な鳥は

突如、目の前に『人間が跳び上がって来たこと』に驚いたのか

バチバチと不気味な光を放つその両目を大きく見開いた。


ギィ、ギィヤァァァァァァッ!!


至近距離で、あの精神を狂わせるという甲高い鳴き声と

呪いの眼光が僕に向かって放たれる。

眼下の里では、その余波だけで獣人たちが苦しげに呻き声を上げていた。


だが……空中、且つ

眼前でその直撃を受けた僕の感想は、ただ一つ。


「耳元で鳴くな……五月蝿い」


……僕は空中で身を捻りながら

鳥の巨大なくちばしに向かって、無造作に右手を振り抜いた。


バキィッ!!


「ゲェッ!?」


僕の手の甲が直撃した瞬間

巨大な鳥の『クチバシ』は無残にも半ばからへし折れ

それと同時に耳障りな鳴き声もピタリと止んだ。


鳥は衝撃と痛みに不自然に首をのけぞらせ

無機質な丸い目をパチクリと瞬かせた。


さて……一番やかましい『音の原因』は壊した

次はいよいよ……『遊び』の時間だ。


「ギェェェギェェェッ!!! 」


鳥は、パニックに陥り

刃のように鋭い無数の羽を逆立て

僕を切り裂こうと翼を激しくバタつかせた。

だが、そのヒラヒラと細かく動く羽の動きは

僕の猫としての『本能』をさらに強烈に刺激するだけだった。


「よし……こっちの羽も、そっちの羽も

動かすなら……全部叩き落とす」


僕は空中で姿勢を制御しながら

両手を残像が見えるほどの速度で繰り出した。

前世で、目の前をチラつく『じゃらし棒』を

狂ったように連続で叩き続けて居た、あの連続の平手打ちだ。


パパパパパパパパンッッッ!!!!!


無数の衝撃波が弾け飛んだ……僕の手が直撃するたびに

巨大な鳥の自慢の『刃の羽』が

まるで枯れ葉のように根本からボキボキと折れ、空中に散らばっていく。


「ギャッ、グェ、ギョエェェェッ!?」


鳥は何とか逃げようともがくが、僕は逃がさない。

羽をむしり取り、遊び疲れた僕は

最後に鳥の太い首根っこを両手でガッチリと掴んだ。


「なんだ……もう動かないのか。つまらん」


おもちゃが動かなくなったことで一気に興味を失った僕は

そのまま鳥の首を掴んだ状態で、重力に従って眼下の里へと落下していった。


ズドォォォォォォォォンッ!!


……広場の中央、僕の指定席である

『聖なる岩座』のすぐそばに、凄まじい地響きと共に土埃が舞い上がった。


「ば、バースト様ァァッ!?」

ミアの叫び声が響く……だが、土埃が晴れた瞬間

無傷で静かに立ち上がる僕と、その足元で

自慢の羽をむしり取られ『クチバシ』を折られ

完全にぐったりとしている巨大な魔鳥の姿に気付くと――


「「「……っ!?」」」


――獣人たちは目を見開き、声すら出せず硬直して居た。


僕は服についた鳥の羽をパンパンと払い落とし

足元に転がる巨大な鳥の死骸(まだ息はあったかもしれないが、どうでもいい)

その首根っこを片手で掴み、ズルズルと引きずりながら歩き出した。


……向かった先は、未だに膝をついて震えている『灰色のボス』の前だ。

僕は『灰色のボス』の足元に、巨大な鳥をドサッと無造作に投げ出した。


「……ほら」


僕は短くそう言い、顎で鳥の死骸をしゃくった。


……僕たち猫という生き物は

狩りで獲物を仕留めた時、それを自分の飼い主や

群れの仲間達に『見せびらかしに行く』という習性がある――


『お前たちにはこんな立派な獲物は獲れないだろう?

僕の狩りの腕前を褒め称え、感謝しろ』


――という、一種の『誇示行動』だ。


「こ、これは……」


『灰色のボス』は、足元に転がる空の暴君と

僕の顔を交互に見比べ、ワナワナと唇を震わせた。


「あ、あの『狂乱鳥獣』を……空に跳び上がり

素手で打ち落とし……あの呪いの眼光と鳴き声を至近距離で浴びて

一体、なぜ平然としていられる……っ!?」


「あっ、わかりましたっ!」

この瞬間、ミアがまたしても両手を握り締め

目をキラキラさせながらしゃしゃり出てきた。


「……バースト様は伝説の勇者様です!

きっと、どの様な呪いも防ぐ加護をお持ちなのですっ!

ただ、地上にいる私達はその限りではありません……だからこそ

バースト様は身を呈し、刃の羽を全てへし折り

魔鳥の心をも完全にへし折ったのですっ! ……」


ミアは感極まったように『灰色のボス』に向かって深く頷き

更に続けた


「……バースト様は、この里を長年苦しめてきた元凶を打ち倒し

それを『貢ぎ物』としてあなたの足元に捧げられた。


それは……彼があなた方を真の『家族』として認め

永遠の庇護を約束されたという証です!!」


「おおお……っ!!なんという……

なんという……っ!」


『灰色のボス』の目から大粒の涙が溢れ出した。

彼は……鳥の死骸の横で深く平伏し

それに同調するように、周囲の獣人たちも次々と地に額を擦り付けた。


「……我ら『牙の氏族』の命

そしてこの里のすべて! 今日より、新たなる王バースト様に捧げます!!」


「「「王に栄光あれェェェェェッ!!」」」


里中を揺るがすような、獣人たちの熱狂的な歓声が響き渡る。


だが、待て……家族? 同盟?

相変わらず大げさでやかましいが、まあいい。

要するに、僕の『狩りの腕前が凄い』と褒め称えているのだろう。

獲物を貢いでやったのだから、当然の反応だ。


「分かったから落ち着け……うるさくするなと言ったはずだ。

僕は……寝る」


僕は熱狂する獣人たちを放置し、再び

『聖なる岩座』へピョンと飛び乗った。


……『おもちゃ遊び』で少し疲れた。

それに、太陽はまだ高い。

昼寝の続きには充分な時間だ。

彼らからの絶対的な忠誠と最高の寝床を確固たるものとしたのだ。


これで、漸くのんびりと出来る――

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