サンタと!(クリスマス小ネタ)
ハッピーメリークリスマス!
皆様のところにサンタさんが訪れましたように(事後)。
「戦争屋、はっぴいめりいくりすます! 所望のプレゼントを述べよ!」
「平和な一日が欲しい」
蝶番に必殺技を食らわせながら入室して来た巨体。
普段と違う装いをしているのが視界に映った刹那に素早く目を逸らすことで命を永らえさせたリンデンは、己が無意識に紡いだ言葉に眉を寄せた。同じく入り口から目を背けたお馴染みの男の同情の視線が痛い。
巨体ことマリーゴールドが、きょとんと目を瞬かせた──ような気がした。生憎リンデンの視線は一心に窓枠へと注がれているので実際のところは分からない。
「そういったものは持参しておらん」
「近所にあったと思うんだが、覇王が来たからどっか行った……プレゼント?」
「うむ。何でも昔、メリイクリスという若者がマスなる計量具を開発した日だとかで、我が国では盛大に祝われている」
「もっと他に祝うものなかったか?」
鷹揚な返事と補足。絶命した扉を片手に、悪夢が歩を進めるのが振動で感じられた。
白くでかい袋と、赤い服が視界の端にチラリと映る。顔を青褪めさせ、慌てて視界をシャットアウト。何か、何かは分からないが、見てはいけないものだと本能が警鐘を鳴らしている!
「えーと、覇王さん。リンデンが小鹿のように震えてるから、ちょっとそこで止まってくんないか?」
「不調か、戦争屋」
「心の不調かなー」
「魂の消滅の危機だ」
覇王が出て行ったらたちまち元気になるから、今すぐ視認してしまった裾の白い綿毛を翻して出て行くと良い。
このときばかりは、クインスともあろうものが、実に頼もしく思えた。そっと様子を窺うと、覇王に向けた視線がそわそわと泳いでいる。
恐れおののいた。この男が。赤の主従のラブラブ風景を微笑ましげに見守ることができるというオリハルコンの肝を持つクインスが、直視を憚る事態だと。
手が剣を探して彷徨った。無意識の挙動を、労わりを込めてクインスの手が押さえる。深い哀れみを湛えこちらを見る目。ゆっくりと諭すように振られた首に、戦闘職の本能が承知する。そうだよな、対象を視界にも入れられないのに切れるわけないよな。
強く目蓋を閉じて精神を統一する。
要は見なければ良いのだ。いつもだって見ればダメージを負う兵器であるのだから、本日はちょっと破壊力が増して最終兵器と化しているであろうだけの覇王なのだ。見なければいつもの覇王である。
まあ良い、と覇王はリンデンの苦悩をあっさり脇にどかす。全く良くないのだが。
「欲しいものを言え」
ひとまず治まった震えに息を吐き、平静を成してリンデンはマリーゴールドに顔を向けた。
「平和な一日」
「持参しておらん。戦争屋、何ゆえ目を閉じている」
「そういう些事は良いんだ。じゃあ清々しい景色」
「持参しておらん。人と話すときは目を見て話せと教育を受けなんだか」
「そんな恐ろしい教育は受けなんだ。覇王に相応しい格好をした覇王」
「活目せよ!今にも我が襲い掛かるかもしれぬぞ!」
「もう止めたげてよお!」
子を守る親のように広げた腕に収められるのは屈辱極まりないが、こればっかりは仕方がないと思う。
どうしてこいつ、今日はこんなに頑ななんだ。もしかしておニューの服を見せたいのだろうか。そうだよな、おんなのこだもんな。リンデンの知識とは、女の部分も子の部分も掠りもしないけれど。
「……見ないと終わらないのかこのやり取り」
「ええと、そうかも」
絶望を背負って両手で顔を覆う。背を叩かれるのが無様だが心地良い──僅かな憩いを壊すように、クインスは言った。
「控えめに言って精神が崩壊するかも」
「ひかえめにいって!」
大げさに言うとどうなるんだ。世界の終わりとか。
だが恐怖してばかりもいられない。己を鼓舞して先を願う。
「……ちょっとだけ、いいか、ちょっとだけだぞ。ショックを受けない程度で解説を頼む」
「俺にあれを直視して吟味しろと仰る」
今日ばかりはクインスの肝と勇気を崇め讃える必要があるだろう。引き攣った顔をしながらも果敢に覇王に挑む雄姿には感謝しかできない。
数秒間視線を固定。頬を伝い、顎から落ちた汗の滴が空中で輝く頃、真剣な瞳がこちらに戻ってきた。
神妙に唾を飲んで、心の準備を整える。
「まず大体赤い」
「ああ」
「上から、三角帽子」
「あもう駄目だ止めて」
「一回転するとヒラリと翻るケープが愛らしい」
「一回転したのか? したのか!?」
「ロングブーツは光を反射してなまめかしく」
「おまえ私を道連れにしようとしてないか、おい、止めろ、手を離せ。どうして耳を塞がせまいとする!」
「そして──ミニスカートだ!」
「うわあああ、止めろおおおおおおおおおおおおおおッ!」
「おのれら」
うっかり普通に視線を向けた。いかにも憮然とした顔の覇王が、怒気を露わにこちらを睨み付けている。
ありがとうクインス。窮地を察してどこからともなく取り出した大判の布で覇王の足元を覆ってくれて本当にありがとう。今日の夜くらいまでは決して忘れない。
岩のごとき握り拳がリンデンに向けられて、反射的に身構える。神経が研ぎ澄まされ、今度こそ右手に剣を触れさせた。
「後がつかえているのだ。早めに欲しいものを言え」
「あ、俺、小腹が空いた」
「そういえばのどが渇いたな」
スリリングな時間を過ごしたが、相当優雅なティータイムを設けられたのは平和と言えなくもなかったかもしれない。
でもメリイクリスとやらは二度とマスなんぞ作らんように。




