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断罪された悪役令嬢、辺境の地で【走る豪華ホテル】を作ります 〜不便な馬車旅が嫌だったので極上の魔導列車を作ったら、王都が勝手に困り始めました〜  作者: 白崎ことは
第1章 王都決別編

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第6話「大陸の常識が壊れたらしいですが、私は雪景色を見ながら紅茶を頂きますわ」

 朝。


 食堂車には、

 焼きたてパンの香りが満ちていた。


 暖炉の火。


 紅茶の湯気。


 窓の外には、

 一面の白い雪景色。


「……優雅ですわねぇ」


 私はソファへ沈み込みながら、

 紅茶を飲んだ。


 幸せ。


「今日は何個目だ」


 アベルが呆れた声を出す。


「クロワッサンなら三個目ですわ」


「まだ増やせるな」


 追加のパンが置かれた。


 しかもバター多め。


「もう十分では?」


「十分じゃねぇ」


「そうですの?」


 アベルは腕を組んだ。


 じーっと私を見る。


「前から思ってたが」


「?」


「あんた、

全然肉ついてねぇんだよ」


 私は瞬きをした。


「王城って、

もっとこう……

毎日豪華なもん食ってるイメージだったんだが」


「食べてはいましたわよ?」


「そのわりに細すぎる」


「…………」


 言われてみれば、

 そうかもしれない。


「ちゃんと寝てたのか?」


「三時間くらいでしたわね」


「は?」


「忙しかったので」


 アベルが無言になった。


「十二歳くらいから、

寒波予測表を書かされてましたし」


「待て」


「物流調整もありましたわ」


「待て待て」


「王妃教育の合間に、

予算の再計算も――」


「なんで子供が国回してんだ!?」


 食堂車へ悲鳴が響いた。


「……やっぱり、

おかしいですわよね?」


 私は紅茶を見つめる。


「最近になって、

ようやく分かってきましたわ」


「分かってなかったのかよ……」


「周りみんな、

普通の顔してましたし」


「周りが終わってる」


 アベルが即答した。


「おかわり食え」


「はい?」


「もっと食え。

今すぐ食え」


 追加のベーコンまで増えた。


「栄養不足だろ完全に……」


「そういうものかしら」


「そういうもんだ」


 向かいでは、

 ルークが静かに紅茶を置いた。


「…………」


 空気が冷たい。


 怖いくらい冷たい。


 彼は窓の外――


 遠い王都の方角を、

 じっと見ていた。


「ルーク?」


「……いえ」


 でも。


 私へ向き直った瞬間だけ、

 声が柔らかくなる。


「今日は冷えます。

毛布を追加しましょう」


「お願いしますわ」


「かしこまりました」


 本当にこの人、

 私にだけ甘いですわね……。


 その時だった。


 どんどんどんっ!!


 扉が勢いよく叩かれた。


「開けてください!!」


「!?」


 アベルが立ち上がる。


 ルークの目が細くなった。


「騒がしいですわね」


「斬りますか」


「待ちなさい」


 私はため息をついた。


「とりあえず、

開けてみましょう」


 扉が開く。


 そこに立っていたのは、

 十代半ばくらいの少年だった。


 銀髪。


 丸眼鏡。


 工具だらけの鞄。


 そして。


「な、なんですかこれぇぇぇぇ!!」


 開幕絶叫だった。


「床が揺れてない!!」


「は?」


「車輪の振動が!!

完全に消えてる!!」


「…………」


 少年が床へ這いつくばる。


 ぺたぺた触る。


 怖い。


「普通は衝撃吸収魔法を

三重に重ねても、

微振動は残るんですよ!?」


「そうなんですの?」


「王家の専用列車ですら、

完全には消せないのに!」


「そうなんですの?」


「そうなんですの!?じゃない!!」


 少年が叫んだ。


「しかもこの結界!

外部衝撃を完全分散してる!!」


「快適な睡眠の邪魔を

されたくありませんもの」


「理論が雑!!」


 でも。


 少年の目は、

 完全に輝いていた。


「うそだろ!?

雪の下の廃線、

そのまま使ってるのか!?」


「使えるものは、

使った方が便利でしょう?」


「便利で済ませるな!!」


 ノアが叫ぶ。


「まあ、

最初は生成してましたけどね」


「は?」


「その方が楽かと思ったんですけど、

毎回やるの面倒でしたの」


「生成もできるの!?」


「できますわよ?」


「できますわよ!?じゃない!!」


 ノアが頭を抱えた。


「王家の技師連中が見たら、

卒倒しますよこんなの……!」


「また増えたな」


 アベルが呆れた顔になる。


「変なのが来ましたわねぇ」


「変なのはそっちです!!」


 ノアが即ツッコミした。


「こんなの、

魔導工学の歴史に残りますよ!?」


「そうなんですの?」


「だから反応が軽い!!」


 その時。


 私は窓の外を見た。


 一面の雪景色。


 白銀の世界。


「……あら」


 ふと思う。


「景色を見ながら、

お茶を飲めたら最高ですわね」


 次の瞬間。


 ごごごごご……!!


 列車が震えた。


「えっ」


「またですか」


 アベルが遠い目をする。


 列車の最後尾。


 新しい車両が、

 白銀の光と共に組み上がっていく。


 全面ガラス張り。


 ふかふかのソファ。


 琥珀色の照明。


 巨大な窓。


 雪景色を、

 一望できる空間。


「……展望車ですわ」


 私は満足げに頷いた。


「景色を見ながら、

紅茶を飲めますもの」


「待ってください」


 ノアの声が震えていた。


「今、

増やしました?」


「ええ」


「車両を?」


「ええ」


「走行中に!?」


「快適さは大事でしょう?」


 ノアが、

 ぷるぷる震え始めた。


「…………天才だ」


「?」


「いや違う、

化け物だ……」


 でも。


 その目は、

 完全に尊敬へ変わっていた。


「弟子にしてください!!」


 勢いよく土下座した。


「この列車、

一生見てても飽きません!!」


「まあ」


「給料いりません!」


「ブラック労働は禁止ですわよ?」


「そこなんですか!?」


 私は少し笑った。


「名前は?」


「ノアです!」


「そう」


 私は紅茶を飲む。


 暖炉の火。


 雪景色。


 ふかふかの椅子。


 そして。


 騒がしい新入り。


「……賑やかになりましたわねぇ」


 白銀の世界を、

 列車は静かに走っていた。

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