第7話「吹雪とS級魔物だらけですが、私は温かいココアを頂きますわ」
列車は、
雪山ルートを走っていた。
窓の外は真っ白だ。
吹雪。
暴風。
灰色の空。
時折、
ごぉぉ……!!と、
山鳴りみたいな風の音まで聞こえる。
「……寒そうですわねぇ」
私は展望車のソファへ沈み込みながら呟いた。
でも。
車内は暖かい。
暖炉の火。
ふかふかの絨毯。
柔らかな灯り。
窓際には、
新しく増設した大きなソファ。
その上で、
毛布に包まる。
最高だ。
「こんな場所、
本来なら三分で凍死しますよ」
ノアが青い顔で窓の外を見ていた。
「そうなんですの?」
「そうなんですの!?じゃないです!」
今日も騒がしい。
「普通の防寒結界でも、
この吹雪じゃ維持が難しいんですよ!?」
「でも暖かいですわよ?」
「だからそれがおかしいんですって!!」
ノアが頭を抱えた。
そこへ。
「ほら」
アベルが湯気の立つカップを置いた。
甘い香り。
「……まあ」
私は目を輝かせる。
「ココアですわ!」
「冷える日はこれだろ」
「最高ですわね……」
両手でカップを包む。
あったかい。
しあわせ。
一口飲む。
「~~~~っ」
甘い。
濃厚。
身体の芯まで熱が広がっていく。
「生き返りますわ……」
「死にかけてたのか?」
「気分の問題ですわ」
アベルが呆れた顔をした。
その時だった。
吹雪の向こうに、
ぼんやりと黒い影が見えた。
「……あれ」
ノアが目を細める。
雪に埋もれかけた、
古い軍用列車だった。
動いていない。
車体には氷が張りつき、
窓の向こうでは、
兵士たちが慌ただしく動き回っている。
「立ち往生してますわねぇ」
私はココアを飲みながら呟く。
「この吹雪ですから、
動力炉が凍ったんでしょうね……」
ノアの顔が青ざめた。
「王都の軍用列車でも、
こうなるんですよ……」
白銀列車は、
吹雪を弾きながら、
その横を静かに通り過ぎていく。
暖炉の灯り。
湯気の立つココア。
ふかふかの毛布。
窓の向こうでは、
兵士たちが呆然とこちらを見上げていた。
「いや、
止まらないんですか!?」
「止まったら、
せっかくのココアが冷めますもの」
「理由が終わってる!!」
ノアが叫ぶ。
でも。
列車の中は暖かかった。
暖炉の火が、
ぱちぱちと静かに鳴っている。
窓の外では、
吹雪が荒れ狂っているのに。
まるで別世界だ。
私は毛布へ埋まりながら、
ココアをもう一口飲んだ。
「……しあわせですわねぇ」
「その感想が出る環境じゃないんですよ普通は……」
ノアが遠い目をした。
その時だった。
どぉんっ!!
重い衝突音が、
窓の外から響いた。
「きゃー」
「悲鳴が適当すぎません!?」
ノアが叫ぶ。
雪煙の向こう。
巨大な白い獣が、
列車へ牙を剥いていた。
四本角。
真っ赤な目。
雪山ほどもある巨体。
「S級魔物……
フロストベヒモス……」
ノアの声が震えていた。
「本来なら、
騎士団クラスが出動する相手ですよ……!」
「大きいですわねぇ」
私はココアを飲みながら頷いた。
どぉぉんっ!!
再び激突。
しかし。
結界が、
淡く光っただけだった。
車内には、
振動すら来ない。
ココアの表面も揺れない。
「…………」
ノアが固まった。
「いや待って」
「?」
「なんで無傷なんですか」
「快適なティータイムの邪魔を
されたくありませんもの」
「理論が雑!!」
ノアが頭を抱えた。
「軍用列車の装甲なら
一撃で紙くずですよ!?」
どぉぉんっ!!
再び巨大な魔物が結界へ激突する。
しかし。
列車は、
びくともしなかった。
ココアの表面すら揺れない。
「…………」
ノアの顔が引きつる。
さらに。
吹雪の向こうから、
新たな影が現れる。
二体。
三体。
五体。
「増えましたわね」
「終わりだ……
普通なら国家級災害ですよこれ……」
でも。
列車は、
静かに走り続けていた。
暖炉の火が、
ぱちぱちと優しく鳴っている。
外では怪物が咆哮しているのに。
まるで別世界だ。
ルークは窓際に立ち、
静かに外を見下ろしていた。
その横顔は、
いつものように冷たい。
「……全部まとめて来ても、
問題ありません」
低い声。
怖いくらい静かだった。
でも次の瞬間。
彼は私の肩へ、
そっと毛布を掛け直した。
「窓際は冷えます」
「ありがとうございますわ」
「いえ」
ノアが、
信じられないものを見る顔になる。
「なんでその人、
魔物よりお嬢様優先なんですか……」
「当然でしょう」
ルークが真顔で答えた。
冗談が一切通じない、
本気の目だった。
その重さが、
少し怖い。
でも。
なぜか安心するんですのよね。
どぉぉぉんっ!!
再び魔物が激突した。
けれど。
列車はびくともしない。
「この結界、
物理法則無視してません!?」
「快適性重視ですわ」
「快適性で世界法則を書き換えないでください!!」
ノアが悲鳴を上げる。
私は少し笑った。
窓の外では、
巨大な魔物たちが必死に咆哮している。
でも。
こちら側は。
暖かくて。
甘いココアがあって。
ふかふかの毛布がある。
「……やっぱり、
この列車は最高ですわねぇ」
私はソファへ深く沈み込んだ。
列車は今日も、
吹雪の雪山を静かに走り続けていた。
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さて、明日も【12:00】と【21:00】の豪華2話更新を予定しております!
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それでは、明日の12時にまた暖かい車内でお待ちしております!




