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その後のお話① ある従者の仕事

1つ目のおまけ話しは、アルフレッドがどのようにマリアをストーカーしていたかと、その後の様子を従者視点でお送りします。

思ったより長くなりましたが、分けたくなかったので1話にしました。

よろしくお願いします。

 ぼくの名前は、ヒューゴ・トラヴィス。トラヴィス子爵家の三男坊。

 卒業間近になっても、就職先も婿にもらってくれる婚約者も見つけられず、将来を悲嘆していたぼくに声を掛けてくれたのが、ハビエル・ゲイド。


「ヒューゴ! 俺と一緒に、騎士団に入らないか?」


 言われた時は、何の冗談を言っているんだと思った。


 ハビエルは、何もかもがぼくと違う。

 ゲイド伯爵家の次男坊。恵まれた体格と優れた剣の腕で、2年の時には騎士団に入団が決まっていた。さらに頭もよく、誰にでも親切にできる人の良さと、それゆえの人望。そんな、ぼくなんかと正反対の男が、何を言ったのか本気で理解できなくて。


「は? ぼくなんかが、騎士団に入れるわけないじゃん」


 少々ぶっきらぼうな口調になってしまったのは、仕方ないと思う。


「えーっと……正確には、騎士団と少し違うんだが……とにかく! 優秀な人材を探しているのは本当なんだ! 1回、面接を受けてみないか?」


 騎士団に誘ったのに、騎士団じゃないとは、どういうことだ? 上手く説明できないようだが、本気で誘ってくれているというのが分かった。何より、卒業後の進路について悩んでいたのもあったため、ぼくは一も二もなく返事をした。


「受ける! 受けます! 受けさせてください! お願いします!」



 面接にはあっさり受かり、卒業後、すぐに王宮で働くことが決まった。

 ハビエルが、ぼくを優秀だと言った理由と、面接にあっさり受かった理由が同じだったことに少し引っかかったけれど、無事就職できたことを素直に喜ぶことにした。




 王宮での仕事に慣れ始めた頃、ぼくはある辞令を受け、2年と少し前に卒業した学園へ出向することになった。


「おう! 久しぶりだ! あ、えっと……友よ!」


『こいつ、ぼくの名前を忘れてやがる』


 失望を押し殺して、愛想笑いで答える。


「久しぶり、ハビエル。ヒューゴ・トラヴィスだよ」


「そうそう、ヒューゴだ! 元気にしてたか? 仕事はどうだ? 大変じゃないか?」


「おかげさまで、ぼちぼち上手くやってるよ。ハビエルの方はどうだ? 王子の護衛騎士なんだろ?」


「そうなんだ。卒業して間もなく戻って来たなって、先生たちには笑われたよ」


 軽快に笑うハビエルの顔は、学生の頃と変わらないように見える。爽やかで明るく、誰にでも気軽に話しかけてくれる親切な奴のままだ。


「ところで、ぼくは今日、なんで呼ばれたんだ?」


「聞いていないのか?」


「なにも。ただ、学園に出向だとだけ言われた。仕事の内容は、現地で聞いてくれとのことだったんだが。ぼくは、何をすればいいんだ?」


「えーっと……」


 ハビエルは少し考えた後、意を決したような顔で言った。


「俺からは言えない。直接、王子に聞いてくれ」





 そうして案内されたのは、男子寮の一画。広くて高級そうな調度品が並ぶ玄関を通り抜け、一番奥の部屋に連れて行かれた。そこに、第二王子がいるのだろう。

 ハビエルが、軽くノックをして言う。


「アルフレッド様。ご希望の者を連れて参りました」


「入れ」


 中から聞こえて来た重みのある声に、自然と背筋が伸びる。王族と顔を合わせるなんて初めてのことで、否が応でも緊張する。

 ハビエルに続いて中に入り、すかさず頭を下げる。


「は……はじめてお目にかかります。私は……」


「ハビエル。そなたが連れて来た友というのは、どこにいる?」


「…………」


 ハビエルは、黙ったまま返事をしない。ぼくも頭を下げたまま、声を押し殺して微動だにしない。

 泣き喚きたい気持ちを必死に抑える。いくら向こうに非があるとはいえ、相手は王族だ。心のままに怒ったりしたら、不敬になるのは分かってる。


『またかよ! おまえもかよ! ぼくを呼び付けたくせに、ぼくの存在に気付かないのかよ!』



◇◇◇◇◇



 ぼくは、なぜか認識されにくく、忘れられやすかった。

 クラスメイトに、名前や顔を覚えてもらえない。そこにいることすら、認知されない。授業で当てられたこともない。試験の用紙が配られないことも多数。

 ぼくに就職の斡旋をしてくれたハビエルは、ぼくがずっと同じクラスに在籍していたことを知ると


「えっ? 3年から編入してきたんじゃないの?」


 と、悪気なく聞いてきた。



 クラスメイトや教師なんかはまだいい。所詮、他人だから。ひどいのは、ぼくの家族だ。


 長兄の結婚式。長兄夫婦に言われた言葉は、一生忘れない。


「えっ? 弟さん? もう1人いたの?」


「えっ? あー! そうそう、もう1人いたんだった! 5つ下の……えーっと……そう! ヒューイだ!」


『ヒューゴだよ! そんで、あんたの7つ下だ! 5つ下は、次兄のヒューイットだ!』


 その後、両親がいろいろフォローをしてくれたけど、今も許してない。

 そもそも、長兄の婚約発表のパーティで、義姉に挨拶したはずなのに、すっかり忘れているのはどういうことだ?



 ぼくの在学中に決まった次兄の婚約。婚約発表のパーティには、呼んでもらえず(学業で忙しいと思って、呼ばなかったとか言ってたけど、ぼくの存在を忘れてたに違いない!)任務のために行けなかった結婚式の代わりに、後日、お祝いを持って行ったら


「どちら様ですか?」


 と、不審者と間違えられかけた。


 ぼくは、幼い頃から存在を忘れられがちだった。兄2人がやんちゃで、ケガばかりしていたから、大人しくて手のかからないぼくの影が薄くなることは、ある意味仕方ないかなと思っていた。

 だけど、学園に入学して以降、影が薄いとかいうレベルではなくなっている気がする。寮住まいのせいか、本気でぼくの存在を忘れている時があるんだ。

 父親に、卒業後の進路について相談した時も


「卒業? ああ、学園に通っているんだったな。それで、卒業はいつだったかな? 来年か? 再来年か?」


「今年だよ!!」


 と叫んだことは、記憶に新しい。



◇◇◇◇◇



「殿下。よく見てください」


 がっしりと、両肩を掴まれる。


「彼は、ここにいますよ」


 強い力で肩を引っ張られ、無理やり体を起こされる。


「うわわっ!」


 引っ張られた勢いで後ろに倒れるかと思いきや、ハビエルの大きな体に抱き止められた。


「おいっ! ハビエ……」


 ハビエルの強引なやり方に、言いかけた文句が途中で遮られる。しかも、思ってもいない人から、思ってもいない言葉で。


「素晴らしい!」


「は……い?」


 つい先ほど、ぼくの存在に気付きもしなかったアルフレッド第二王子殿下が、きらきらした目でぼくを見ている。


「優秀だとは聞いていたが、ここまで身を隠す術に長けているとは! ハビエル! よくぞ、連れて来てくれた!」


「恐れ入ります。ヒューゴは、学生の頃から隠密活動に長けていましたので、きっと良い働きをしてくれるに違いありません!」


「は? 何? なんの話?」


 殿下の説明を要約すると、ある女子生徒の監視任務の人員として、ぼくが抜擢されたわけだ。

 監視対象の女子生徒は、1年のマリア・ローズ。肩までのピンクブロンドの髪の小柄で愛らしい少女という。

 監視期間は未定。時間は、朝、寮を出た時から、寮に戻るまで。授業中も、外から出来るだけ様子を見ること。生徒、教師に関わらず、他人と話しをした時は、出来るだけ内容も報告すること。


 一体、マリアという女生徒が何をしてこんな厳しく監視されるのかと思いながら監視をして数日。これがただの監視でないことに気付いた。




「マリアは、どこに行った?」


 ハビエルに背負われたまま、殿下が聞く。


「向こうの校舎裏の方に行きました」


「分かった」


 殿下は、ハビエルの背中から飛び降りると、ぼくが指差した方に走って行く。




 マリア様はものすごい方向音痴で、放っておくと、いつ教室に辿り着くか分からない。監視初日、見るに見かねて教室まで案内したことを報告すると、殿下は


「明日からは、私が案内する!」


 と言い出した。


 殿下が女子寮前で待つなんて目立つことはできないため、ぼくがマリア様の動向を監視し、後で来た殿下に、マリア様の現在位置を教える形になった。




「あのさ……」


 マリア様に声をかける殿下を遠目で見ながら、ハビエルに話しかける。


「馬代わりにされてるけど、いいのか?」


『自分で走るより早いし、息が乱れない』


 なんて理由で、殿下はハビエルの背中に乗って移動している。護衛騎士じゃなく、完全に馬扱いだ。

 殿下に直接言えないなら、ぼくから騎士団長に相談しようかと思ったら


「別にいいよ。護衛の任務のついでだし」


 と、全く気にしていないようなので、ぼくも自分の任務に専念することにした。




 何日かすると、マリア様にもご友人ができた。赤毛の背の高いご令嬢だ。マリア様と並んでいると、大人と子どもみたいに見える。

 2人は一緒に寮から出て、迷うことなく1年棟に行った。その後も見ていると、一緒に行動して、赤毛のご令嬢がマリア様の面倒を見ているみたいだった。ますます親子みたいだなと思った。

 マリア様にご友人ができたことを報告すると、殿下は


「それは良かった」


 と言いつつ、なぜか機嫌が悪そうだった。




 マリア様にご友人ができてから、ますますマリア様の監視が厳しくなった。マリア様に接触した相手とそのやり取り、授業中の様子、果ては、取られた食事の内容と食べている時の様子まで事細かに説明を求められた。

 そんな細かい報告でも不十分だったのか、ついには、マリア様の自室に忍び込み、マリア様宛の手紙を持ってくるように命じられた。


「あの……さすがに、女性の部屋に忍び込んで、手紙を持ってくるなんて……」


「どうしても必要なことなのだ。手早く中を確認したら、すぐ返すから」


 どうしても必要だと言われたら、逆らえるわけがない。授業が行われている時間にこっそりマリア様の部屋に忍び込み、引き出しの中から数通の手紙を見付け、それを殿下に差し出した。

 殿下は手紙を受け取ると、差出人を確認した後、少しのためらいもなく中の手紙を出し、ざっと目を走らせる。

 手紙の差出人は、全て父親だ。父親相手ならそんな変なことは書かれていないだろうと思っていたら


「なんだと!?」


 殿下が、突然大きな声を上げた。

 人畜無害で天真爛漫に見える美少女マリア様の、とんでもない秘密をとうとう暴くことができたのかと身構えていたら


「マリアのドレスを、用意できないだと!?」


「は?」


 意味不明な言葉に、思わず声が漏れた。


「火急の用だ! これらを戻しておけ!」


 ぼくの失言を全く気にしない殿下は、読んでいた手紙もまだ読んでいない手紙も一緒くたに、ぼくに押し付ける。手紙にしわでも付いて、持ち出したのがバレたらどうするのかと恨めしい気持ちでにらむも、殿下の目に、ぼくの姿は映っていない。


「こうしてはいられない! マリアに最高級のドレスを用意しなければ!」


 こういった、殿下の意味不明な言動にはもう慣れた。

 ぼくは一礼だけすると、手紙を返すためにその場から離れた。



 それからも、殿下は手紙を検め続けた。いずれも差出人は父親で、そのことに満足しているようだった。

 マリア様本人とも、頻繁に接触もしている。偶然を装って話しかけたり、ぼくが拾ったり、こっそり盗んだ物を届けたりして。

 殿下がここまでマリア様を監視し、接触を試みる理由が、未だに分からない。

 殿下がマリア様を憎からず思っているのは、見ていれば分かる。だが、殿下にはちゃんとした婚約者がいる。

 なぜ、マリア様を執拗に監視するんだ?

 なぜ、マリア様の動向をいちいち知りたがるんだ?

 マリア様には、どんな秘密が隠されているんだ?

 そんな、もやもやした疑問を抱えながら監視任務を続けたある日、事件が起きた。




「婚約破棄を言い渡す!」


 あの日、ぼくも会場にいた。正装して、会場の隅からひっそりみていた。誰にも声をかけられない、見られない、気付かれない。隠れてないのに(泣)

 そうやって、ぼくは全部を見ていた。そして、ようやく理解した。


「殿下って、すんげーバカだったんだ……」


 なんてことはない。惚れた女のことを知りたい、よく思われたい、必要とされたい、尊敬されたい……なんて欲求の手伝いをさせられていただけだった。

 王子の立場を使えば、男爵家の子女なんか、いくらでも好きにできるのに、こんなバカ騒ぎを起こすなんて。


「バカバカしい」


 思わず本音が漏れたが、その声は誰にも届いていない。

 熱狂的な拍手が鳴り響く会場を、そっと抜け出す。

 これで、ここでの仕事は終わりだ。新人とはいえ、ぼくは数少ない王家の影だ。戻ったら、どんな任務が待っているのだろう。

 結果、くだらない任務だったとはいえ、隠密行動と監視の技術は上がったと自負している。読唇術も、少し習得できた。今度は、もっと大きな任務を任されるかもしれない。

 そう思っていたのに、今でもぼくは、学園にいる。





「本日もアルフレッド様は学業に専念なされて、マリア様や他の女生徒に近付くことなく……」


「アルフレッド様のことは、もういいわ。それより、他の生徒たちの様子はどう? トラブルなんかは起きてない?」


「はい。小さなトラブルもなく、至って平和でした。クラウディア様」



◇◇◇◇◇



 ぼくの新しい任務は、アルフレッド様の監視だ。あれだけのことを起こしたのに、学園を去ることなく、普通に授業を受けていられるのは、王族だからというより、クラウディア様の温情によるところが大きい。学園をやめさせるより、学園に残って多くを学び、より良い人脈を作ってもらう方が自分への贖罪になり、尚且つこの国に役立つ人材になると、王様たちを説得したそうだ。

 とはいえ、クラウディア様任せではいられない。残り少ない学園生活で、アルフレッド様がまたバカなことをしないよう、ぼくが監視任務を仰せつかった。

 監視のために、アルフレッド様の近くを付いて歩いてたら、なぜか、クラウディア様に見つかってしまった。

 仕方がなく、ぼくの素性と任務の説明をしたら


「じゃあ、アルフレッド様を監視するついでに、学園内でのトラブルにも気を配っていただけるかしら? これから、男子生徒と女子生徒の諍いが増えていくでしょうから」


「はあ……」


 聞いた時は半信半疑だったけど、結果、クラウディア様の言う通りだった。舞踏会の日以降、男女間のトラブルが散見した。ちょっとした言い争いから、女子生徒に暴力を振ろうとする男子生徒まで出てくる始末。口論や暴言程度なら、後にクラウディア様に報告。その後、クラウディア様、もしくは教師が対処する。

 一方、激昂した男子生徒が女生徒に手をあげようとした場合は、とにかく声をかけて静止しろとの命令だ。


「任務中に声をかけて、ぼくの存在を知られたらまずくないですか?」


「女性に暴力を振るうような男は、他人が見ている場所では、他人に咎められるような行いは決してしないわ。だから、ちょっと声をかけるだけで良いの」


 任務を盾に、暴力沙汰に介入するのを避けようとしたのを気付かれたような言い方で、ぐうの音も出ない。さらには


「少し声をかけたくらいで、正体を見破られるようなヒューゴじゃないでしょ?」


 と、美しく微笑まれたら、頭を下げて


「はい。仰る通りでございます」


 としか言えない。



 少し言葉を交わしただけで、ぼくのことを覚えられる人がいるわけがない。そんな人は、ちゃんと隠れていたのに


「あなた、いつもアルフレッド様の近くにいるけど、どういうつもり?」


 と、声をかけてきたクラウディア様くらいのものだ。


 3年間一緒に学んだ学友の中にも、ぼくの顔を覚えなかった輩が多数いる中、クラウディア様は、数日でぼくを認識してぼくの顔を覚えてくれた。

 あの時、詰問する言葉を聞きながら『この人にお仕えしたい!』と思ったことは、秘密だ。



◇◇◇◇◇



「あ! トラブルではないんですが……」


「何かしら?」


「今日の昼、食堂の裏の方に向かって行くライラ様とニーナ様を見かけたんで、後を付いて行ったんですが……」


「2人だけ? 他に連れはいなかったの?」


「先に教室に帰らせていました。なので、少し気になって付いて行ったのですが、とても楽しそうに談笑なさってただけでした」


「楽しそう? どんな風に?」


 クラウディア様の目が少し細くなる。


「えっと……ニーナ様にしては珍しく、頬を赤くして照れてる様子でして、ライラ様は、そんなニーナ様の肩を叩きながらからかっているようでした。あんなお2人の姿は、舞踏会の時以来ですね」


 あの日のニーナ様とライラ様は、本当にすごかった。殿下を懲らしめ、クラウディア様を助けるための演技だという話だけれど、今日のお2人の様子を見ていると、あれが本来のお姿なんじゃないかと思ってしまう。淑女の鑑のようなお2人も、ごく普通の少女なんだと思える、そんな姿だった。


「全く、あの2人ったら……」


 クラウディア様が、腕を組んで低く呟いた。少し怒っているようだけれど、何か余計なことを言ってしまったんだろうか?


「あの、クラウディア様……」


「ああ、ごめんなさい。今日はもう下がってもらっていいわ。ご苦労様。明日もよろしくね」


 優しく労いの言葉をかけてくれる時には、いつもの優しい笑顔に戻っていた。


「はい、ありがとうございます。失礼いたします」


 詮索しない、余計なことは言わない、命じられたことだけをやる。それが、良い影の者だと教えられたぼくは、何も聞かずに部屋を辞した。




 与えられた部屋に戻る途中、殿下を背負って歩くハビエルを見かけた。マリア様の尻を追っかけていた時とは違い、ハビエルの歩く速度はかなり遅い。そして、背負われている殿下は、ぐったりしている。今日も、ナブラチロワ辺境伯令嬢にしごかれたようだ。


 初めてナブラチロワ辺境伯令嬢の行う『柔術』を見た時は、剣術とは違う身のこなしに驚愕し、殿下を投げ飛ばした時には血の気が引いた。令嬢が罪に問われないかと。

 そんなことを考えるぼくや、周りの生徒たちの心配をよそに、投げ飛ばされた殿下は、少しの不機嫌さを見せることなく再び令嬢と対峙し、再び投げ飛ばされた。

 それを何度も繰り返し、殿下が起き上がれなくなったところに、クラウディア様が歩み寄る。そして、少し言葉を交わしただけで殿下は起き上がり、再び令嬢に挑んで投げ飛ばされる。

 それを数度繰り返し、本当に起き上がれなくなった殿下を、ハビエルが部屋まで背負って届けるまでがセットだ。


「今日も、殿下はがんばったご様子だ」



 殿下にバカな任務をさせられたと知った時は憤慨したけれど、それでもぼくは、殿下を嫌いにならなかった。

 それまでの付き合いで、殿下は頭が悪くて思い込みが激しいだけで、根は素直で良い人なんだろうと思ったし、今のがんばりを見ると、その思いに間違いはなかったと確信できた。


「それとも、単に廃嫡されるのが嫌なだけか?」


 あんなに酷かったマリア様への執着が嘘のようになくなり、今はクラウディア様一筋になっている。

 このまま何事もなく卒業してご成婚されて、ぼくもこのまま殿下とクラウディア様にお仕えできれば良いなと思いながら、殿下を背負うハビエルの後を付いて歩いた。

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