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【完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第七章 レオンハルト失踪事件

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069件目 ▲レオンハルトの心▲


 大聖堂から出たレオンハルトは、副長官のケビンの席に委任状を置いてから三番街へ急いだ。

 星渡門を使って北へ行き、クホイへ行く。大公の研究室で見つけたメモは、「北の辺境にて、神々より力を授けん」とあった。


 北の辺境とは、ダクウィンとの国境の事だろう。そう判断したレオンハルトは、旧友のルベルが村長を務めるロテインへと向かった。

 クホイから馬に乗って、野を駆ける。二時間ほど走り続けると、ロテインが見えてきた。

 馬を村の厩舎に預け、ルベルのもとへ行く。


「レオンじゃないか! 久しぶりだな。どうした」

「ルベル。この付近にある神殿の場所を知らないか」

「神殿? 何だ、それは。そんな立派な建物があったら、ロテインはもっと発展していると思うぞ」

「そうか……」

「訳ありか」


 国立魔法師養成学校で、星渡人の事を学ぶ。だからルベルには伝えても良いだろうが、神々との契約の事は伏せなければいけない。

 どうするべきかと悩んでいると、お腹の大きな女性が大量の焼き菓子を持ってやってきた。


「ルベル……って、ごめんなさい。お客様がいたのね」

「ポアル。またそんなに作ったのか」

「だって、ものすごく食べたくなるんだもの。この子はきっと、甘い物が大好きなのね」

「ルベル、もしかして……?」

「ああ、そうだった。レオンには紹介しておこうか。おれの嫁の、ポアルだ。もう少しで子供が産まれる」

「それは、おめでとう」

「サンキュー。あ、そうだ。なあ、レオン。ポアルのお腹に触ってやってくれないか」

「何故だ」

「呪(まじな)いみたいなもんだよ。レオンに触ってもらったら、健康な子に育つかもしれないだろ?」

「そうか、ルベルの言い分はわかった。問題ないか?」


 ルベル以外の男に触られるなんて嫌だろうとポアルに確認すると、にっこりと微笑んだ。


「失礼する」


 焼き菓子が入った籠を受け取ったルベルが横にずれ、レオンハルトが近づく。そしてポアルの腹部に手を当てた。


「あ……動い、た?」

「おお、さすがはレオンだな。おれが触る時は滅多に蹴らないのに」

「蹴る? それは母堂の身体は大丈夫なのか」

「問題ない。むしろ、そうやって蹴るのは元気な証拠なんだってさ」

「なるほど。人体の神秘だな」


 感心しながらレオンハルトが触り続けていると、ポアルが半歩退いた。顔を見れば、笑顔の硬さを確認できる。許可されたとはいえ、触りすぎたとすぐに手を離した。


「ポアル。もう少しレオンと話すから、もう少し待っていてくれ」

「わかったわ。失礼します」


 ルベルは焼き菓子が入った籠を持ち、一礼したポアルと一緒に一度奥へ消える。

 戻ってくると、レオンハルトを応接室へ通してくれた。


「それで?」

「……今、星渡人関連で動いている。神殿を知らないならば、他に何か知らないか」

「何か、ねえ……。例えば、特別な力を感じるとか?」

「! それだ! それは、どこだ!?」


 レオンハルトが前のめりになって聞くと、ルベルは驚いたように瞬く。

 それから両手を軽く振って座るように促す。


「落ち着けよ。レオンが声を荒げるなんて珍しいじゃねえか。星渡人は国賓っつっても、レオンがそこまで世話をしなくちゃいけないのか」

「母上から、アンネ殿を任されている」

「ふぅーん……その子って、レオンとどういう関係だ?」

「どういうも何も、私は王族だ。星渡人のアンネ殿を守護しなければいけない」

「本当にそれだけか?」

「どういう事だ?」

「レオンが女子の名前を呼ぶなんてそうそうないだろ? それなのに呼び方が板に付いているように感じた」

「それは別に、何も難しくない。アンネ殿とは長く一緒にいるからな」

「なるほどねえ……それで、その子がピンチって事か? こうして傍を離れている理由は」

「それは……」

「何だ、違うのか?」


 ルベルから自分の至らなさを指摘されたようで、身体がカッと熱くなる。


「まあ、レオンが冷静さを欠くなんて珍しいよな。それだけ切羽詰まっているって事なんだろう。神殿かどうかわからねえけど、さっき言ったみたいに特別な力を感じる所はあるぞ」

「それは、どこだ」

「ロテインの収入源、塩獣(ザルソイ)の狩り場があるんだが、その先の洞穴から何か感じる時があるんだ」

「毎回じゃないのか」

「洞穴の近くまで塩獣を狩りに行った時だけな。普段は、そこまで深追いしなくてもあいつらは出てくるから」

「なるほど。そこへの行き方は」

「案内してやるよ」

「いや、お前は奥方についていてやれ。場所だけ教えてくれれば良い」


 こうしてレオンハルトは塩獣の巣穴までの道のりを聞いた。馬で入ると逆に動きづらくなると追加の情報も得て、ロテインを出た。




 + + +


「暗いな」


 塩獣が出てくる洞穴にたどり着いたレオンハルトは、未知の危険に対応するため壁際に寄る。火属性は持っていないため、明かりを用意しなければいけない。

 が。身勝手な行動をしている自覚はある。時間はなるべく節約しないといけない。


「逆に、今後の事を考えると備えた方が早いか……ん?」


 肌寒さも感じていた所に、風の流れを感じた。まるでレオンハルトを誘うかのように動くその風は、足下を回っているような気がする。

 風の分析をするため触れようとすると、グッと引っ張られる感覚があった。あまりにも急で強かったため、レオンハルトは思わず転びそうになる。両手をついてそれを免れた。

 しかし立ち上がってその場から退こうとすると、またグッと引かれる。


「何だ……? この先に進めと言う事か?」


 暗く、肌寒い洞窟内。不安要素は多いが、レオンハルトは何かに導かれるようにして洞窟内を進んでいく。

 白い開けた空間に出ても風の導きは続き、やがて地底湖にたどり着いた。


「……この先か」


 風は地底湖に潜るようにして気配を消した。

 湖面を覗けば、ぼんやりと建物のような物が見える。恐らく、あれが神殿だろう。


「大気を舞う風のマナよ、風属性魔法師レオンハルト・ヴァランタンが命じる。私の周囲に風を纏わせ……ッ!?」


 呼吸の確保のために詠唱をしたが、それを邪魔するように地底湖から水鉄砲が飛んできた。おかげで、全身ずぶ濡れだ。


「……なるほど。すでに試練は始まっているのか」


 洞穴の入口からここまで導いてきたのも、先程の水鉄砲も、恐らくは神の意志。それならば、その意志に従うまで。

 覚悟を決めたレオンハルトは、大きく息を吸い込んで湖に入った。




 + + +


 選択の扉で藍色を選んだレオンハルトは、何もない空間で突如として現れた幻影(アンネ)を見て身構える。

 これが試練か。そう思いつつ、表面上は警戒している様子を見せないように装う。


「……アンネ殿。なぜここへ?」

「レオンハルトさんを助けたくて」

「私を? どういう事だ」

「レオンハルトさんが急にいなくなって、わたし、ようやくわかったんです」

「わかったって、何を?」

「わたしにとって、どれだけレオンハルトさんの存在が大きいかって事です」


 幻影はぐっと距離を詰めると、レオンハルトの胸に手を置いてきた。


「レオンハルトさんは、わたしの事……どう思っていますか」

「アンネ殿の事は、守護すべき相手だと思っている」

「そんな……わたしは、レオンハルトさんからしたら対象外ですか?」

「どういう意味だ?」


 幻影が顔を上げる。相手はアンネ本人ではないとわかっているのに、その上目遣いに思わず息を呑む。


「わたし……わたし、レオンハルトさんを助けたいです! 神様から聞きました。レオンハルトさんを助けるためには、わたしが必要だって」

「どういう意味だ」

「レオンハルトさんは、力が欲しいんですよね? ここでわたしが身を捧げれば、その力を得られるんですよ」

「身を、捧げる……?」


 幻影の言葉に疑問を持っていると、どこからか金色と藍色の幻獣が現れた。その数は一目ではわからないほど大量で、その全てが幻影に視線を向ける。

 目の前にいるのは幻影。そうわかっていても、その姿はアンネだ。その先の展開を良しとはできない。


「止めろ!」

「どうしてですか? わたし、レオンハルトさんの力になりたいです」

「自分の身を犠牲にするな」

「力が、欲しいんですよね?」


 幻影は、やはりアンネではない。その証拠に、星渡人の自主性を重んじていなくても左手の甲は痛まなかった。


 それから、レオンハルトは幻影と対峙する事となる。




 + + +


「駄目だ! それはできない……」

「どうしてですか?」


 もう、何度目の攻防かわからない。幻影は、変わらず自分を犠牲にしろと言ってくる。その内に魔法が使えるとわかり、何度も幻獣達を消してきた。

 しかし、何度も何度も現れる。まるで、レオンハルトに選択を迫るように。今もまた、幻獣達は攻撃の意思を幻影に向けていた。

 一度詠唱すれば、何度でも使える。それはレオンハルトにとって自信に繋がっていた。しかしそれは、事が終わればという話。


 魔法の使いすぎで、そろそろ魔力が尽きそうになってきた。足の力さえ入れづらくなり、ふらりと身体が揺れる。

 グッと堪えてはみるものの、このままではいけないと理解できた。


「レオンハルトさん。わたしを捧げると言ってください。そうすれば、力を得られるんですよ?」

「駄目だ……。そんな事、できるわけがない……」

「どうしてですか? 力が欲しいんですよね?」


 幻獣達から守るように背に庇っていた幻影が、レオンハルトの手を握る。不意の接触に、思わずビクッと肩をふるわせた。

 背後から囁かれるその声は、まるで悪魔の囁きのように甘い。それでも、レオンハルトは意思を曲げなかった。


「私はアンネ殿を犠牲にはしない」


 宣言すると、ついっとどこかへ視線を投げるような幻影の動きを感知する。その視線に釣られてしまってから戻すと、幻影が正面に来ていた。

 すぐに離れようとする。しかし、右手を絡め取られて叶わない。それでも尚後退しようとして、膝の力がガクッと抜けた。尻餅をつき、両手を前に出して幻影を止める。


『レオンハルトさん』


 声が重なったように聞こえた瞬間、また新たに幻獣が現れた。牛と猪をすぐに排除したが、同じ方向から次々と現れてくる。

 何度も何度も幻獣達から幻影を守った。魔力が、底を突こうとしている。それでも立ち上がり、幻影を背に庇う。


「どうして、わたしをそんなに守ろうとするんですか」

「それは……?」

「――レオンハルトさん――」


 幻影からの質問を投げられた瞬間、アンネの声が聞こえた気がした。幻影ではなく、聞き慣れた耳触りの良い、春の日だまりのような声。

 その声に釣られて視線を向けると、幻影も幻獣もいつの間にか消えていた。




 ▲▲▲


 教皇のもとへ、一人の使徒がやってきた。


「ツーツグ伯爵か。何事だ」

「教皇様の計画実行の日が近いと思います。万が一に備え、逃走ルートを確保しました」

「何? ツーツグ伯爵は、わしの計画が失敗すると?」

「い、いえ、そういうわけでは……」

「逃走ルートなんぞ、いらんいらん。わしの計画には成功しかあり得ん!」

「そうですとも!」


 教皇の発言に、ガッドム枢機卿が乗る。

 そんな二人を見て、ツーツグ伯爵は自分の出る幕ではなかったと潔く身を引いた。


 ▲▲▲







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