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【完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第七章 レオンハルト失踪事件

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065件目 試練の影


 塩獣(ザルソイ)の巣穴までの道のりを聞いたわたしは、ロテインを出た。ルベルさんによれば、巣穴まではほぼ道なり。村を西から出た先を進めば、リヴィエリ山に入っていける。


「えっと、ここは……」


 獣道なのか、人が通れそうな道があった。道なりという事だったけど、この道を進むのかな。

 下手に進んで迷子になってはダメだから、この道をレオンハルトさんが通ったかどうか確認してみよう。


「ピピッと解析、ふわりと再現。ここを通った人は誰?」


 詠唱すると、青緑の煙が人型を取った。レオンハルトさんの背格好に似ているその煙は、右や左に手を向けながら獣道を進んでいく。


「うん。この道で合っているみたいだ」


 わたしが進むと、再現魔法も先に動いていく。その様子を見ていると、何度も塩獣と戦っているみたい。すぐに処理できているように思うけど……レオンハルトさんが求めているのは、こういう強さじゃないのかな。


「あれは……猪?」


 青緑の煙を追いかけていると、前方から薄ピンクの動物が土煙を上げながらこちらへ突っ込んできた。木々と雑草の間は、まるで突進するために開かれているように思える。これが獣道か。

 動物としては珍しい色をしていると思いつつ、撃退するためにはどんな魔法を使おうかと考える。


「さすが猪。猪突猛進だね」


 脇目も振らずただ直進してくる猪は、そのままわたしに捨て身タックルをかまそうとして……盾魔法で弾かれて木にぶつかった。

 猪は、そのまま倒れて動かない。


「おぉ……。これは楽だね」


 恐る恐る、猪を指で突いてみる。完全に気絶しているみたい。これなら突然襲われても問題はなさそう。安心して先に行ける。

 動かない猪を後にして、青緑の煙を追う。




 + + +


「はぁ……はぁ……」


 軽快に進んでいると思っていたのに、段々と足が重たくなってきた。不思議に思って振り返る。緩やかな坂になっていて、気づかない内に山道に入っていたみたい。

 山を登っている、と認識してしまったせいかな。ぐっと疲労が増した気がする。重たくなった身体を動かして、青緑の煙についていく。


「あれ? 何で急に……」


 先導してくれていた煙が、急に消えた。疑問に思って観察すると、洞窟のような穴が背の高い草の奥に見えた。草をかき分けて中へ入ったけど、暗くて何も見えない。おまけに、ひんやりとした空気で満たされていて少し寒かった。レオンハルトさんは準備して来たのかな。

 わたしは下準備がなかったから、魔法で照らして暖を取る事にした。


「ピカッと光って周囲を照らせ。ぬくぬく程良い温度に……?」


 詠唱の途中で止めた。いつもは言い切ってからすぐに効果が出ていたのに、周囲が光らない。洞窟という場所のせいか、わたしの声が反響しているような気がする。そのせいで、正確な詠唱として扱われていないのかも。

 そう思って、口に出さないで詠唱をしてみる。


 ピカッと光って周囲を照らせ。


 でも、何も反応がない。他の原因があるのかも。

 まだ洞窟で、神殿っぽい雰囲気はないけど……特別な場所だから、魔法が使えないのかもしれない。もしくは、わたしよりも上位の魔法がかかっているのかも。だから、入口の高い草も塩獣達が通るのに左右に分かれていなかった。


 え、どうしよう。そう言えば入口で再現魔法も消えちゃったよね。それなら、盾魔法も……?

 今襲われたら防げないかもしれない。そう思っていたら、前方から何かが来る気配がした。


「わっ!?」


 前方に意識を集中しすぎて、何かが来たと思った瞬間突き飛ばされた。重たい物にぶつかられた感覚は、盾魔法が消えていると証明している。うっすら見えたのは、牛だったと思う。

 幸い怪我はなかったものの、この先へ進むのに不安が大きくなった。


「どうしよう……」


 盾魔法が機能しない。そして、他の魔法も無効。という事は、身体能力を向上させていたやつもダメって事。それはつまり、純粋な筋力とかわたし自身の力だけで進まないといけないんだ。


「怖い……」


 声に出した途端、身体がガクガクと震えた。吐く息も白く、指先も冷えて固まってしまう。

 壁に身体を預けている状態の今も、いつ変化するか。突然壁が抜けて、奈落の底に落とされるかもしれない。

 壁から離れると、洞窟の奥から塩獣が出て攻撃される可能性がある。今の所敵意がむき出しになっているわけじゃなくて、ただ通行していく途中でわたしが道を塞いでいただけ。


「どうしよう……どうする……?」


 全ての魔法が無効なら、夜目を利かせる猫目魔法もダメ。場所は洞窟で、暗くて寒い。一歩先の安全すら、確保できてない状況。

 でも。

 この先にレオンハルトさんがいるんだ。それなら行かない理由は、ない。

 グッと拳を握る。


「迷路と一緒だ。壁に手をつきながら前へ進めば良い。万が一壁に仕掛けがあったら、それはその時に考えよう」


 方針を決め、動き始める。

 何か変なスイッチはないか、手でも足でも確認しながら一歩一歩着実に進んでいく。

 どれぐらい進めたのか、壁に当てていた手に違和感を覚えた瞬間。視界が変わった。


「わぁ……」


 ぽっぽっぽっぽと、小さな明かりのようなものがまばらに点いていく。暗がりに点いた複数の光。まるで星空を眺めているみたい。転生してからの記憶では、夜はずっと雨が降っている。だからそんな光景が懐かしく感じた。

 星空っぽいと思った一つ一つの光り方は僅かだけど、奥まで続いているから何となくの道がわかった。

 光源は何だろうと、壁に顔を近づける。


「……鉱石?」


 小指の爪ほどの小さな石が、洞窟の壁の中で目に付いた。触ってみると、まるでわたしの魔力に反応したみたいに点滅を始める。わたしが触った所を起点に奥まで点滅し、その後はまた点灯に戻った。


「この先に、神殿があるのかも」


 神殿は、神々の影響が出る場所。それなら、神々に呼ばれた星渡人のわたしが行く事で何か反応があっても不思議じゃない。

 鉱石の道標に従って、奥へ進んだ。




「これは、雪……?」


 ほんのりとした明かりでも、暗がりに慣れた目では塩獣の進撃も避けられた。

 進む内に、光源が減る代わりに壁が白くなっていく。そうしてたどり着いた、少し開けた空間。そこは真っ白な場所で、眩しいと感じるほど。

 目がその明るさに慣れてくると、天井が高いと認識できる。そんな天井からは軟らかそうに波打つ紐のようなものがぶらさがっていた。足下には、ふわふわとした見た目の白い何かがある。


「意外と固いんだ……」


 足下の白い何かを触ってみたら、その見た目に反して指で擦っても崩れなかった。広い空間を歩き、壁際に触れそうな高さの波打つ紐も触る。


「これって、もしかして結晶中って事?」


 波打つ紐も、当然のように固かった。天井から落ち、地面に広がっていく。空気に触れて固くなる。そんな、神秘的な光景になる一歩前の段階に思えた。

 幻想的な空間の効果に足を止めてしまったけど、今はレオンハルトさんが心配だ。神々から力を授かるために、無理をしていないと良いけど。


 白い洞窟を進んでいく。波打つ紐や雪のようなふわふわに見える地面はどこまでも続き、終わりが見えない。一体どこまで行けば神殿があるのかと思っていたら、目の前でポンッと鶏の塩獣が突然生まれた。


「えぇっ!? どういう事??」


 生まれ方と薄ピンクの色以外は普通の鶏のように、鳴きながらわたしが来た方向へと歩いていく。

 ここは確かに塩獣の巣穴だけど……あれ、ちょっと待って? 塩獣って確か、複数の動物がいるよね? 今日確認しただけでも、猪や牛や鶏。他にもいたと思うけど、そんな動物達が暮らすには餌がないよね。だから洞窟の外に出るのかな??


 疑問に思っていたら、またポンポンッと牛と兎が誕生した。その二匹は、迷わず外の方へ進んでいく。

 間違いない。塩獣は、ここで生まれているんだ。もしかしたら、神々の慈悲かもしれない。四季を没収して春だけ残したヴァランタンへ贈る、食糧なんじゃないかな。

 だとしたら、突然生まれる事も納得できる。味付けをしなくても塩味があるのも、と思った所で気づく。


「ここって、もしかして岩塩坑なんじゃない!?」


 岩塩坑で生まれるから、塩味がついている。そう考えたら自然だ。ここまで案内してくれた小さな鉱石も、もしかしたら岩塩なのかもしれない。岩塩が光るなんて聞いた事はないけど、きっと神々の力なんじゃないかな。


「っは、いかん。ついつい、ファンタジー世界に没入してしまった」


 もしかしたら他にも神々からのプレゼントがあるかもしれないと思ったけど、今はそれを捜す時間じゃないと気を引き締める。

 神々は今も影響があるとわかった。それならば、レオンハルトさんも力を授けられるはず。星渡人のわたしが傍にいたら、その手助けをできるかもしれない。

 改めて、レオンハルトさんの捜索を開始した。




 + + +


 岩塩坑の奥へ進んでいくと、地底湖に出た。そこは天井にだけ小粒の岩塩が散りばめられているような状態で、僅かなその光源にうっすらと湖面が見えている。


「うーん……途中で、曲がる場所なんてなかったよね?」


 壁に手をつかなくても進めるようになったとはいえ、開けた空間は徐々に小さくなり、人が二人通れるか通れないかぐらいの狭さになった。見落としていたとしたら、その狭くなる前。その奥の方にあったのかもしれない。


「ーー!」

「え? レオンハルトさん?」


 引き替えそうかどうか悩んでいたら、地底湖の方からレオンハルトさんの声が聞こえたような気がした。


「ーー!」


 幻聴かと思っていたけど、また聞こえた。二度聞こえたなら、これはレオンハルトさんの声だ。

 詳細はわからないけど、何かを叫んでいるような気がする。あのレオンハルトさんが叫んでいるとは、それすなわち。

 レオンハルトさんがピンチって事だ。


「どこから行くんだろう……」


 早く行かねばと目を凝らしてみると、地底湖の奥の方に何かが揺らいでいるような気がした。


「まさか……神殿は、地底湖の中にあるの!?」


 地底湖から聞こえた、レオンハルトさんの声。そして底に沈む、神殿と思わしき影。そこに行くには、どうしたら良いんだろう。




 ▲▲▲


 ヴァランタンの最西端ドンチ。その村に、教皇より命を受けたシェングル男爵がいた。


「使徒様。どうか、どうかこの村をお救いください」

「任されよ。先導者様と我ら十一人の使徒が、必ずやヴァランタンを新たな国へと導く」


 村長に続くように、村人達が布袋を持って列を成している。その袋の大きさは村長と比べれば小さいものの、必要な資金源だ。

 ドンチは、ギリギリ貧困ではないというような地域。そんな場所では、「今の国は腐っている。それを我らが変えよう」と言えば、いくらでもその資金を提供してきた。


(この村は、いくつめの資金源だったか)


 シェングル男爵は、ニヤリと笑った。


 ▲▲▲










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