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【完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第七章 レオンハルト失踪事件

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064件目 相棒への道標(みちしるべ)


 韋駄天魔法で駆けていたら、村の入口が見えてきた。細い木の枠と柵で作られた境を抜けると、ムワッとした空気に包まれる。

 足を止め、韋駄天魔法を解く。まるで部活後の更衣室のような熱気を感じるのは外なのにどうして、と思っていると。


「次の挑戦者は誰だ!!」


 村の中央にある広場から、威勢の良い声が聞こえてくる。そちらに目を向けると、広場の周囲には体格の良い人達がゴロゴロと転がっていた。

 広場には、水の魔法師がいる……んだけど。魔法師というには、いささか体格が良すぎるような気がする。細マッチョよりもさらに鍛えられた体つきの、なぜか袖がちぎれているシャツを着た男性がいた。

 もしかしたら、ロテインでは常時肉弾戦イベントが発生しているのかもしれない。だから、青い線の上に並んだ人達の体格が良かったんだ。


「ルベル。お客様がいらしたみたいよ」

「ポアル! 出産が近いんだから、家に居ろって言っただろ」


 星渡門で見た人の事を分析していたら、お腹が大きい風の魔法師がルベルさんに近づいていた。緑の巻き髪は、まるで貴族の人みたいな印象を受ける。でも、ロテインは身体を鍛えている村人しかいないみたい。ポアルさんも、妊婦とは思えないほどしっかりとした体格をしている。

 そんなポアルさんに、ルベルさんが心配そうに駆け寄った。そのまま腰を支えて行こうとして、ポアルさんに注意されたらしいルベルさんがわたしを見る。


「珍しい姿の客人だな? 何か用か」

「えっと、人を捜しています」

「話を聞こう。ひとまず、このままついて来てくれ」


 ルベルさんの指示に従い、後を追う。すると村の中の小高い場所へ向かうのか、ルベルさんはポアルさんを軽々と抱き上げた。


「もう、ルベルったら大げさなんだから」

「前にずっと厨房に立っていただろ? あの時はヒヤヒヤしたんだかからな」

「(ラ、ラブラブだ……)」


 ルベルさんがポアルさんの顔に、自分の額を優しくくっつける。二人の視線が絡み合って、まるで二人だけの世界にいるみたいだった。絶賛片思い中のわたしには刺激が強すぎて、思わず目をそらす。

 正面から視線を外しつつ進んでいると、煉瓦造りの塔が四隅にある立派な邸宅が見えてきた。村は、石造りの壁に木の屋根という感じで素朴な造りだった。村長さんの家が頑丈そうなのは、緊急時の避難先になるのかな。


 ポアルさんを寝室まで送り届けてくると言って、応接室に通された。部屋の中は簡素な感じで、調度品とか絨毯とかもない。最近は王宮内の豪華な感じに慣れちゃっていたけど、成人前に一人で暮らしていた家に似ていて落ち着く。

 椅子に座るかどうか悩んでいたら、袖のあるシャツに着替えてきたルベルさんが戻ってきた。


「待たせたな」

「いいえ、問題ないです」

「それじゃあ本題に入ろうか」


 手で座るように示され、頭を下げて腰を下ろす。


「人を捜しているという事だったが、どういう人物だ?」

「はい。青髪を撫でつけている緑の瞳を持った魔法師なんですけど……」

「待て。もしかして君が捜しているのはレオンか?」

「レオンハルトさんを知っているんですか!?」


 机の上に身を乗り出すように、期待を込めて聞く。そんな前のめりな姿勢のわたしに驚いたように、ルベルさんが瞬いた。


「知っているも何も、レオンは二日前にロテインを出て行ったぞ」

「二日前に!?」


 昨日宿屋で一泊したけど、二日前って事は……大公様の研究室でメモを見つけてから、一直線にここまで来たって事だ。

 大公様は村の先に神殿があるって知られていないって言っていたけど、レオンハルトさんは王族だもんね。真っ先に思いついたのかも。


 考え込んでいたら、ルベルさんからじぃっと見られているような気がした。


「あの、何か?」

「お嬢ちゃんの髪と瞳の色。それは天然か」

「そうですよ。というか、お嬢ちゃんなんて年齢じゃないです。こう見えて、今年成人した十六歳なんですから。背だって高いでしょう?」

「そうか! それはすまなかったですな。見た目が若く見えるから、もう少し下だと思っちまったです」


 パンッと両手を合わせてすぐに頭を下げる様子は、ルベルさんの人柄の良さを示しているような気がする。


「それで、お嬢さんは……お嬢様は、レオンとはどんな関係だ、ですか」

「どうして急にそんな話し方をするんですか」

「いや、ほら……お嬢様は、星渡人だろ、ですよね?」

「クホイでもたくさんの人に注目されましたけど、黒髪黒目っていうのが星渡人だって知られているんですね」

「いや、それは違う。おれが知っているのは、昔魔法師学校で学んだからだ」

「魔法師学校?」

「魔法師学校は魔法師であれば誰でも行ける場所なんだが、貴族が多い場所でな。全員が行ける訳でもないんだ」

「へぇ……そんな所が。あっ、というか、わたしはアンネです。お嬢様なんて呼ばれるのは慣れていないんで、名前でお願いします。あと、わたしの方が年下ですよね? 敬語もいらないですよ」

「そ、そうか? いやー、めったに使わないから口に出す言葉が気持ち悪くてよ」


 そう言いながら、ルベルさんは腕にサブイボが立ったと見せてきた。


「えっと、それで魔法師学校では星渡人の事を学ぶんですか」

「そうそう。国の中枢で働く事を目的にするやつも多いからな。最重要人物として学ぶんだ」

「なるほど……クホイにはそこで学んだ人が多かったという事ですね」

「いや、違うと思うぞ?」

「でも、何人もの人から交際を申し込まれましたよ?」

「星渡人の事を学んでいる魔法師だったら、畏れ多くて最重要人物に交際なんて申し込めねえよ」

「……え?」

「本当にわかっていないのか? アンネは整った容姿をしているだろ?」

「へぇ……」

「淡泊な反応だな。鏡を見ないのか」

「いや、見ますけど。こんなもんだと思いますよ?」

「……こりゃ、レオンも苦労しそうだ……」

「え、今、なんて?」


 ルベルさんがぼそっと呟いた内容を聞き取れなくて、聞き返した。でもルベルさんは、ふっと笑って誤魔化す。


「そういやさ、アンネは星渡人だろ? 村に一人で来たみたいだが、護衛はどこにいるんだ?」

「護衛はいないですよ。自分の身は自分で守れるので」

「マジかよ、強えな。レオンは村を抜けた先の塩獣(ザルソイ)の巣穴に向かったぞ」

「塩獣の巣穴? そんな所があるんですか」

「案内してやるよ。ついてこい」

「ありがとうございます」


 ルベルさんを追って、応接室を出る。すると足を止めていたルベルさんに顔をぶつけた。


「ポアル!!」


 お腹を押さえて壁に手をついていたポアルさんの所へ、ルベルさんが駆け寄る。心配になってわたしも近づくと、ポアルさんの足下が濡れていた。


「ポアル、どうした!!」

「ルベルさん、大変です。ポアルさん、破水しているかもしれません」

「何!? はすい、って何だ!?」

「もう少しで子供が産まれてくるって事です。産婆さんはいますか」

「予定日として聞かされていた日がまだだから、今はいない」

「ルベル……」

「ポアル、しっかりしろ。大丈夫だ」


 ルベルさんはポアルさんの身体を支える。


「産婆さんはどこに?」

「三日後に様子を見に来る予定だったから、クホイにいるはずだ」

「では、わたしが迎えに行ってきます。産婆さんはどこにいますか?」

「廷番所の近くにある宿屋に泊まっているって話だ」

「宿屋の特徴は?」

「た、確か、香辛料の利いた料理を出すから気に入っているって言っていたような……ああ、それと、ぬいぐるみが宿屋の入口にあるらしい」

「わかりました! すぐに連れてくるので、それまでポアルさんを支えてあげていてください!」

「連れてくるって、アンネ!?」


 叫ぶルベルさんの声を背中で聞きながら、即座に韋駄天魔法を発動する。瞬間移動ができれば一番良いけど、それはまだできない。

 だから、韋駄天魔法の走力を可能な限り上げる。ジャンプを三回繰り返して、ロケットスタートをした。


 レオンハルトさんを捜すために走ってきた景色が、色つきの線のように通過していく。あっという間にクホイの街の前の石橋まで到達した。街中を全力で走るのは事故が起きるから、手の平を二回擦って速度を落とす。

 そして、昨晩泊まった宿屋に向けて走って行く。


「おや、何か忘れ物かい」

「産婆さんはいますか!!」

「なんだい、何か用かね」

「ポアルさんが破水しました」

「何だって!? じゃが、ここからロテインまでは……」

「わたしの背中に乗って下さい。全力でポアルさんの所まで送ります」


 宿屋の一階で食事をしていた産婆さんの前で背中を見せてしゃがむ。戸惑っている様子の産婆さんに、思いついた魔法を唱える。


「ふわりと包むは防御膜。砂も礫も当たらずに、ぐわっと力が漲るぞ」

「おや、何だか力が湧いてくるような……」


 淡い金色の膜が産婆さんを包み込んだ。すると彼女の表情が、一瞬で驚きから安心へと変わる。


「産婆さん! わたしの背中に!」

「あぁ、頼んだよ」


 背中に乗ってくれた産婆さんをしっかりと持ち、宿屋を出る。


「全力で走るので、舌を噛まないようにして下さいね!」


 言うや否や、わたしは産婆さんを背負ったままクホイの街を駆ける。そして街を出たら走力を上げて、風を切るようにして足を動かした。

 流れていく景色よりも前方に集中して、ロテインまで戻る。そしてそのまま、ルベルさんの家に向かった。


「ルベルさん! 産婆さんを連れてきました!!」

「早いな!?」

「ポアル、陣痛は!?」

「な、何回か……」

「間隔は!?」

「段々と、短く……?」

「村の女達をすぐに連れてきな! 男は外で待機だ!!」


 わたしの背中から降りた産婆さんが、ルベルさんに指示を出す。わたしはどうすれば良いかと思っていたら、産婆さんが言う。


「あんたは村のもんじゃないね? 出産は長丁場だ。付き合う気がないなら外へお行き」

「わ、わかりました」


 半ば追い出されるような形になって、ルベルさんの家を出る。その代わりに、ルベルさんによって集められた村の女性達が次々と入っていった。

 命を落とす事だってある出産だ。気になるけど、レオンハルトさんを優先したい。そう思っていたら、女性達を集め終えたらしいルベルさんが戻ってきた。


「あの、塩獣の巣穴ってどこにありますか」

「あ、ああ。そうだったな。案内する」

「いいえ、場所だけ教えてもらえれば。出産中に部屋の中には入れないと思いますけど、生まれたらすぐに駆けつけられる場所にいてあげてください」

「そ、そうか。悪いな」

「お気になさらず」


 ルベルさんからレオンハルトさんが向かったという塩獣の巣穴を教えてもらい、そこへ向かった。




 ▲▲▲


「ふむ……。今、魔女は王都にいないようだの」


 しとしとと雨が降る中、教皇は情報収集担当のアルマド子爵からの報告書を読んでいた。それによれば、今星渡人は護衛もなしに一人で行動しているのだと言う。


「教皇様。それならば、今のうちに討てば良いのでは」

「早まるな。わしらの行動を読み、誘い出されているのかもしれん」

「なんて卑劣な」

「まだ時間の猶予はある。様子を見る事にしよう」


 教皇は報告書に、蝋燭の火をつけた。


 ▲▲▲



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