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【完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第六章 呪いの契約事件

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閑話休題⑨ 姫の未来計画


「はぁ……いいわ」


『義務で娶られたはずなのに、公爵様の視線だけが優しすぎます』を読み終えて閉じる。

 この物語は政略結婚をした二人が、やがて愛し合うという物語だ。ルリアーナが持つ蔵書の中でも特に気に入っていて、何度も読み返している。


 この二人の関係性は、アンネとレオンハルトに似ている。特に何でもできるのに恋は不得手という所が、レオンハルトにそっくりだ。

 もし、アンネが物語のヒロインなら。様々な試練を乗り越えて、奥手なヒーローの手を取るような強いヒロインになるだろう。

 そんな妄想をしていたら、侍女と護衛がノックの後一緒に入室してきた。



「姫様。お手紙をお持ちしました」

「ありがとう、チェルシア」


 礼儀作法を学ぶという事で、チェルシアは三年前からルリアーナに侍女として働いている。茶色い髪は動きやすいようにしっかりと纏められていた。

 銀盆に載せられた手紙を受け取り、差出人を見る。


「姫様、嬉しそうですね」

「愛しの宰相様か?」

「ちょっとフラテル。許可はしているけれど気安くてよ」

「はい、すみません」


 謝罪しつつ、フラテルの茶色い瞳からはからかうような色が見える。

 チェルシアとフラテルは婚約者同士。二人とも伯爵家だが貴族会議に出る伯爵達についてきていたから、昔からよく顔を合わせていた。だからこそ気心が知れているし、公の場以外での不作法も許している。


「ゼルヴァン様は、何と?」

「ゼルヴァン様とのやり取りは、わたくしだけが知っていればいいわ!」


 二人に背を向けて、ルリアーナは手紙を開く。


***


親愛なるルリアーナ姫


拝啓 新緑の候、ルリアーナ姫におかれましてはますますご健勝のことと存じます。

 さて、婚姻による二国間合意の時機についてですが、ルリアーナ姫から承った内容にて了承しました。新たな王太子が立太子される日をお待ちしています。


 追伸

 ルリアーナ姫がお好きだと言っていた料理を、現在練習中です。まだまだ提供できる基準を満たしてはいませんが、いつの日かルリアーナ姫の笑顔を見られたら幸いです。


ゼルヴァン・モント


 ***


 この文面からすると、ゼルヴァン自らが料理の練習をしているように思う。それならば、自分も菓子作りに挑戦しようかと、ルリアーナは手紙を見ながら笑みをこぼす。


「姫様が幸せそうで何よりです」

「了承してもらえたか」

「えぇ。そういえば二人はこの先どうするのかしら。今はこうしてわたくしに付いてくれているけれど、さすがにダクウィンには行けないわよね?」


 チェルシアもフラテルも、気まずそうな顔をしてはっきりとした言葉を口にしない。


「いえ、良いのよ。ゼルヴァン様からも、向こうで侍女をつけてくれると聞いているわ。気心の知れた二人が一緒だと心強いけれど、わたくしだってわかっているの。何より、ずっとわたくしを支えてくれた二人だもの。あなた達の幸せを願うわ」

「姫様……」


 チェルシアがうるうると茶色の瞳を潤ませ、フラテルも鼻を擦って顔を背けるようにしている。


「姫様が嫁がれるまで、精一杯勤めさせていただきます!」

「よろしくね。あ、そうだ。ちょっと二人に相談があるのだけれど、聞いてくれるかしら」

「何なりと!」

「ダクウィンには連れて行けないけれど、二人の婚期が少し遅れてしまうのは許してもらえるかしら」

「どういう事ですか?」

「二人には、アンネの世話や護衛を頼めないかと思って」

「アンネ様のですか!?」


 興奮気味に前のめりになったのは、チェルシアではなくフラテルの方だ。目をキラキラと輝かせ、組んだ腕の下で手をシャカシャカと動かしている。


「……フラテル。落ち着きなさい」

「はっ、すみません。ですがなぜ、そのような大役を俺達に?」

「アンネの護衛兼侍女選抜で、間者が入ってしまったと知っているわね? 以降、専属の者はついていないわ。今後の事を考えると、いずれ専属を選ばなくてはいけないでしょう。そのときに、信頼できる人間が傍にいてほしいの。フラテルはチェルシアという婚約者もいるし、レオンお兄様も安心すると思うのよ」

「なぜそこで、レオンハルト殿下が?」


 質問したフラテルの背中を、チェルシアがパシンと叩く。抗議するフラテルを無視し、チェルシアが握った拳を胸に置いた。


「お任せください。アンネ様の側付きとあればまた厳正なる審査がされると思います。ですが、その審査に勝ち進むと約束いたします」

「心強いわ。フラテルは?」

「お、俺だって! アンネ様の魔法を身近で見られるのなら!!」


 少々動機は不純だが、敵対する事はないはず。そう思いつつ、チェルシアを見た。


「では、私達は失礼します。何かあればお呼び下さい」

「ありがとう」


 チェルシアはフラテルと共に、ルリアーナの前から辞した。部屋を出る前に、グッと拳を握ったチェルシアは、きっとフラテルに伝えておいてくれるだろう。

 レオンハルトとアンネの関係性は、応援はしても騒いではいけないと。


(できる侍女を持って幸せだわ)


 ゼルヴァンからの手紙を見ながら、次の内容はどうするかと考える。そしてふと、思うのだ。

 ゼルヴァンとレオンハルトは、考え方が似ていると。それならば、今後の関係性に助言ができるかもしれない。


 愛する婚約者、ゼルヴァン様。

 そう書き出した手紙を前に、ルリアーナは手を止めた。聞こうとした内容を考えて熱くなった頬を、両手で包む。


(こ、こんな事を聞くのは、はしたないかしらっ!?)


 ゼルヴァンとの仲は、深まっていると自信がある。けれども、ルリアーナのどこを好きになってくれたかと聞くのは不作法かもしれない。


(……でも、心を読めるわけじゃないのだもの。聞かないと、わからないわよね?)


 まだ手紙のやり取りだけで、顔を合わせた事はない。しかし手紙から滲み出る人柄の良さに、ルリアーナは惹かれた。


(そうよ! 今こそ、アンネからの助言を生かす時よ!!)


 ルリアーナは、再び手紙に向き合う。そして自分の事を伝えてから、ゼルヴァンがルリアーナのどこに好感を持ってくれたのかを聞いた。

 これも全て、アンネが幸せになるため。火照った体を手で仰ぎながら、他には何を書こうかと悩み始めた。

 これからアンネは、様々な局面に立たされる。神々との契約、暗殺者の一件。他にもまだ、問題は出てくるだろう。

 そんな時、良き相談相手になりたい。義理の妹として。そして、友人として。





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