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【完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第六章 呪いの契約事件

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056件目 再来の約束と自分達の力


 わたしの幸せ捜しを食事からしてみようとなってから、二日目の夜。初回以降、レオンハルトさんと一緒に食べれていない。わたしが、そんな空気にしちゃったから。

 ……わたしの部屋に運ばれてくる豪勢な料理を見ていると、胃がキリキリする。本当の願い事を言えないから、料理人の人達の時間を――契約履行を願うレオンハルトさんの時間を、奪っているって事だから。

 でも、願いは言えない。そんなジレンマに陥っている。


 今日の夕食は、鶏肉の姿焼き。きつね色をしているし、ナイフを入れたら肉汁が出てくるから、絶対に美味しい。

 無理やり、切った鶏肉を口の中に入れる。でも食べられたのはその一口だけ。美味しいはずの料理が、重たい責任となって喉を通っていく。

 前の星渡人がおにぎりを望んでお米が生産できるように戻ったのは、たぶん、それを心から望んだからだ。


 神々に、わたしの願いは違うと見透かされているんだと思う。

 でも、言えるわけがない。本当の願いなんて。

 罪悪感から食事に手を出せない。かといって一口しか食べないんじゃ、体調が悪いのかと心配させてしまう。だから、ナイフで切ってフォークで鶏肉を刺す。

 鶏肉を見つめる。肉汁の滴るそれが、まるで石のように見えた。ごつごつとして、喉を詰まらせるんじゃないかと思う。


 フォークを置く手を止めたまま、窓の外をぼんやりと見つめる。

 ぼーっとしていたら、思わぬ訪問者がやってきた。すぐにフォークを置いて部屋の扉を開ける。するとそこには、以前タマちゃんと会った時に遭遇したレオンハルトさんのお祖父(じい)さんがいた。


「アンネさん。こんな時間に訪問してすまないの」

「いいえ、お気になさらず。どうされたんですか」

「レオから話を聞いた。契約を履行するため、協力してくれるのじゃろ?」


 お祖父さんと話をしている時、とっさに周囲を窺った。今は引退しているとはいえ、お祖父さんも王族。話を聞いてはいけないだろうと、声が聞こえない範囲にまで護衛の人達が離れている。


「不器用な孫に代わり、わしが謝罪させてもらう」

「えっ、いえ、そんなお祖父さんに頭を下げてもらう理由がわかりません」

「その呼び方でも嬉しいが、まだ先の未来にとっておこう。わしの事はルクシェル、もしくは大公と呼んでくれ」

「わ、わかりました。では大公様。その、謝罪というのはどういう事でしょう??」

「レオが、大分冷たい言い方をしたようだと。アンネさんを傷つけてしまったと反省しておった。どうか、許してやってもらえないか」

「ゆ、許すも何も……」


 あの時わたしは、確実に仮面魔法をしていた。だから表情は装えていたはずだけど……。

 レオンハルトさんは廷臣法官長。表情だけでなく、声の調子や仕草でも相手の思考を探る。もしかしたら表情以外の所でばれてしまっていたのかもしれない。

 それなら。


「あ、あー……えぇと、確かに落ち込みました。わたしの願い事が国の未来を左右させちゃうんだって思ったので」

「そうか。アンネさんは今年成人の儀をしたのなら、十六歳じゃろ? それならとても重く感じてしまうじゃろうが、気軽に考えてくれれば良い」

「それは難しいですよ」

「ふむ……まあ、それもそうか。ところでアンネさん。レオから契約の話は全て聞いていないと思うが、間違いないかの」

「はい。最後の項目が残っています」

「ではあの子に頼まれているし、わしが紹介しよう。明日、時間を取れるじゃろうか」

「はい。問題ないです」

「では明日。アンネさんをある場所まで案内しよう」

「は、はい。よろしくお願いします」


 大公様は笑顔で手を振ると、わたしが使っている部屋を離れていった。左手は、特に手袋をしていないみたい。王族でも、手袋をしない人もいるんだね。


 気軽に、かぁ。

 レオンハルトさんと話している時はわたしが言っちゃったけど、王族の人から言われると心が軽くなるような気がする。そこまで気負わなくても良いのかなって。

 もしかしたら最後の項目次第では、わたしの願いも叶えやすくなるんじゃないかな。そんな希望を持った。




 翌日。

 朝食の時間が終わる頃に大公様がやってきた。その訪問に合わせて、見知った四人の近衛と兵士が数人待機している。


「アンネさん。息苦しいかもしれないが、君を守るためじゃ。我慢してほしい」

「みなさん、いつもお勤めありがとうございます。そして、大公様。この人数で移動となると、向かうのはお城の外ですか」

「ご名答。大神殿に向かうからの」

「大神殿?」

「そこにディトリカルという場所がある。ようは、わしの研究室じゃ」


 研究と聞いて、王太子様を思い出す。大公様の研究魂は、きっと王太子様に受け継がれたんだね。

 そんな事を思いながら、大人数で大神殿へ向かった。二回目だけど、ファンタジックな内装はずっと見ていたくなる。

 観光は色んな事が終わってからだと自分に言い聞かせ、大公様の後を追う。すると、以前声通しを行った時よりも教会関係者の人数が減っているような気がした。黒幕かもしれない人物に教皇様とガッドム枢機卿がいるから、その二人についていったのかもしれない。


 大公様は、広い廊下を進む。どこにあるんだろうと思っていたら、地下へ続く階段があった。


「あれ、地下なんですね」

「すまないの。国としては星渡人の事をもっと堂々と研究したいのじゃが、歴史は神殿関係者も知っておる。星渡人を良く思っていない者もおってな」

「そうなんですね……」


 レオンハルトさんから歴史を聞いた。

 確かにあの話だと、星渡人は戦争のきっかけになったと取られてもおかしくない。そんな星渡人の研究は、戦争の火種になりかねないと予測できる。

 ましてや、暴走してしまったヴァランタン内部で研究者は王族。大公様が悪いわけじゃないけど、地下に追いやられるのもわかってしまう。

 過去の出来事は変えられない。でも、未来は変えられる。だからわたしが動くんだ。


 大公様の後を追い、薄暗い石造りの廊下を進む。その先にあった部屋の扉横に、「星史堂(ディトリカル)」と鏡文字で書かれていた。星渡人の歴史、って事だよね。

 看板を見ていたら、大公様が好奇心を抑えられないような目を向けてきた。


「アンネさん、もしかしてこの文字が読めるのかの?」

「え? はい。大公様も読めますよね? ここが、研究室ですよね?」

「もちろん、わしも読める。じゃがこれは古代文字を研究する中で解析して、見よう見まねで書いたものなのじゃ」

「これが古代文字……」


 元日本人だからか、これが古代文字と言われてもピンとこない。ついて来ていた護衛の人達に目を向けても、みんな首を傾げるばかり。

 確か王太子様と一緒に不出管理監獄塔(アビス・プリズン)に入れられているパティアも、わたしが読める事に興奮していた。鏡文字は、読みづらいのかもしれない。


「アンネさん。長らく立たせてしまった。さあ、中に入ろうかの。中は狭い。兵士達はこのまま外で待機。近衛は続いて中へ」


「部下」へ対する指示出しが、いかにも王族という感じがする。わたしに対しては優しいお爺ちゃんという感じだから、ちょっとだけ違和感があった。

 大公様が扉を開ける。山積みになった書類や巻物と一緒に、部屋の左隅に柵で囲われている所が見えた。その中ですやすやと寝床で丸まっているのは、前に見たキジトラ鉤尻尾の猫、タマちゃんだ。ここで暮らしているんだね。


「アンネさんに見せたい物はこちらにある。近衛達。ここは入口が一つじゃ。不審な人物を通さぬように」

「はっ。かしこまりました」


 近衛隊長のロゴスさんが代表して返事をして、四人全員が角度を合わせた礼をした。

 わたしは、大公様に続いて隣の部屋へ行く。そこには、瓦礫に見える石壁が置かれていた。よく見ると、かすれているけど鏡文字で何かが書かれている。


「この瓦礫は、モルルモア大戦争が起きた後ここに置かれたと考えられているのじゃ」

「置かれた? 誰が??」

「それは今もわかっていない。ただ、この瓦礫をこの場所から持ち出せないのじゃ」

「重そうですもんね。男の人がたくさんいてもダメだったんですか」

「そもそも、この瓦礫に触れる事すらできぬよ」

「なるほど。それなら運び出すのは難しいですね」

「アンネさん、何を……!?」


 大公様と話ながら、書かれている鏡文字が気になって近づく。驚いているような大公様に、慌てて手を引かれる。


「アンネさん、この瓦礫に近づいてはいかんのじゃ。かつて運ぼうとした人間が、数週間寝込んでおる」

「えっ、そんなに危ないやつなんですね。大公様も、危険ではないですか」

「わしは問題ない。近づかないからの」

「でも、気になりませんか? あそこに鏡文字……えぇと、古代文字が書かれていますよ?」

「何!? それは本当かの!?」


 興奮した様子の大公様が、瓦礫に近づく。わたしがさっき近づいたぐらいまで距離を詰めると、急に膝をついた。


「大公様!! 大丈夫ですか!」

「うぬ……どうやらわしでは、これ以上近づけぬようじゃ。アンネさん。この瓦礫に書かれている古代文字を書き写してくれないかの?」

「わかりました。協力させていただきます。大公様は、瓦礫から離れてください」


 大公様の手を引き、そのまま瓦礫部屋の端へ移動する。扉のすぐ横にあった椅子に大公様を座らせ、大公様から紙とペンを受け取った。

 石の床はザリザリして書きづらかったけど、読み取れた鏡文字を書き写していく。式とか渡とか。レオンハルトさんから聞いた歴史を踏まえ推測を立ててから、そのメモを持って大公様の元へ行った。


「読み取れるものを書き写しました。もしかしたらこれは、星渡人を召喚する儀式の場にあったものではないでしょうか」

「何とっ……!! ありがとう、アンネさん。これで研究が進む」

「でも、どうしてこの場所へわたしを案内してくれたんですか? 神々との契約の、最後の内容を教えてもらえるんですよね?」

「その通り。アンネさんが読み取ってくれたように、この場所は千百年前の星渡人と関係がある場所だ」


 大公様曰わく、瓦礫部屋が最初にあったらしい。それから上の大聖堂が建てられたんだって。


「しかし……研究の結果、この場所が関係有りと判断はできるのじゃが、問題の儀式が行われた場所がどこにあるのかわからないのじゃ」

「神様が関わっている事なので、何かこの瓦礫に意味があるのかもしれないですね」

「かもしれないの。この瓦礫がここにある限り、どうしてもこの瓦礫に注目してしまう」

「あの、大公様。それで神々との契約の、最後の項目は何でしょうか」

「アンネさんには伝えておこう。神々はかつて、王族に約束した。また星渡人を贈る。だから再来したら、申請された願いを自分達の力だけで叶えよと」


 神々からの最後の契約内容に、期待した。もしかしたらわたしの願いを言いやすくなるような内容なんじゃないかって。

 でも実際は、より責任が重くなったような気がする。

 四項目の内、すでに達成している青の項目以外は全て星渡人に関することだ。

 星渡人に願いを言わない事。星渡人の自主性を重んじる事。星渡人が再来したら、申請された願いを自分達の力だけで叶える事。

 つまり、全ての契約内容を知ったところで、わたしの願いは言えないって事だ。

 ……結局、全部が『言わせない』ための契約だったんだ。わたしの恋心ごと、縛りつけるように。







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