↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第六章 呪いの契約事件

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/81

051件目 穏やかな日常と小さな違和感

第六章、スタートしました。

ストックができたら更新頻度を上げるつもりでしたが、最後まで作ってしまおうと思います。

それまで時間がかかりますが、ブックマーク登録をしていただけると幸いです。


 教皇様とガッドム枢機卿が姿を消した。それなら、この二人がわたしを狙っていた暗殺犯の黒幕という事かな。様々な人達に狙われたけど、黒幕が逃げたなら、しばらくは殺される心配がないって事だよね。

 不意に訪れた、一時的な安息。心に余裕ができると思い出してしまう。レオンハルトさんに人工呼吸をされた、あの時の事を。


 唇にそっと手を当てる。

 あの時のわたしは夢の中にいたけど、視界だけは認識できていたみたい。ソイルさんにやり方を聞いて人工呼吸をしてくれるレオンハルトさんの美顔が何度も迫ったのを覚えている。

 でも。

 惜しいなぁと思うのは、触感は無意識だった事。どんな感じだったんだろう。


「? 何かご用ですか」

「いや……」


 廷臣法官長室で書類仕事を前にボーッとしていたら、レオンハルトさんが何か言いたそうな顔をしていた。冷静に見えるように対応しているけど、内心ではドッキドキだよね。視線を感じて顔を上げれば、レオンハルトさんと目が合うんだもん。

 でも、レオンハルトさんの様子がおかしい。

 今みたいなやりとり、今日はもう三回目だ。レオンハルトさんが言葉を濁すなんて滅多にないから、絶対に何かあるんだと思うんだけど……。

 レオンハルトさんは、白手袋をした左手を何度か触るだけで何も話してくれない。


 左手、って事は……確か、神々との契約のやつだよね。何か契約に進展があったのかな。

 んー……でも、それなら話してくれるよね? そうじゃないって事は、違う内容??

 首を傾げるけど、話してもらえない事をどれだけ想像しても意味はない。わたしを狙った黒幕集団はしばらく現れないだろうと予測を立てて、今日は午後から街の巡回が入っている。

 もちろん、万全を期すために離れた所に護衛の人達が待機するらしい。もう命を狙われる事なく、日常に戻って行けたら良いな。




 午後になり、巡回の時間になった。わたしはレオンハルトさんと組んでいるから、当然二人で行く事になる。

 これは仕事。それは、わかっているんだけど……。離れた場所に、護衛の人達がいるというのもわかっているんだけど……。

 やっぱり、好きだと自覚した後の巡回って、ちょっとした街ぶらデートだって思っちゃうよね!

 進む足取りが軽くなって、レオンハルトさんよりも少し前を歩いちゃう。弾む足取りのまま一番街東地区へ行く。そこへ着いた時、気を引き締めた。


 この場所は、第二の暗殺犯火の魔法師が暴れた街。多くの屋台があって賑わっていたここは、今は復興作業の最中だ。

 わたしにとっては一時の安息。でも街の人達にとってはまだまだ安心できないよね。街ぶらデートだなんて、そんな浮ついた気持ちじゃ失礼だ。

 各所に兵士の姿が見える。国が復興作業を推進しているけど、わたしも何か手伝えないかな。


 自分にできる事はないかと考えていると、レオンハルトさんからの視線に気づいた。でもまた、話してもらえないんだろうな。

 そんな風に思っていたら。


「……アンネ殿に伝えておかなければいけない事がある。今夜、仕事が終わってから時間をもらえるだろうか」

「は、はい。どこに伺えば良いですか」

「書類仕事を終えてから、アンネ殿の部屋へ行く。そこで待っていてほしい」

「あ、はい! わかりました!!」

「? よろしく頼んだ」


 レオンハルトさんが、夜、わたしの部屋に来る。その内容だけで、うっかり想像してしまった。

 レオンハルトさんは不思議そうに首を傾げる。だからこれ以上不審がられないように、キリッと真面目な顔をして残りの勤務時間を過ごした。




 + + +


「……べ、別にそんなんじゃないからね?」

「ふふふ。私は何も言っていませんよ?」


 夕食が終わって、これからレオンハルトさんを迎える。いつ来るかわからないから、ずっと部屋の中をうろうろとしていた。

 それだけじゃなくて、鏡に自分の姿が映る度に前髪を直したり服に染みがないかを確認したりする。そんなわたしは、誰から見ても落ち着きのない感じだったと思う。

 一度両腕を失って増血剤を食後に飲んでいるけど、星渡人の力か自然治癒力が高いのか。もう制限もなく動き回れるようになっている。一応、グラディア姉弟がまだわたしの傍にいてくれているけど……スーザンが、素晴らしい笑顔でわたしを見ていた。

 何というか、見守ってくれているのだろうけど、その生温かい視線がむず痒い。でもその視線は、わたしがあからさまな態度を取っているからされてしまうんだ。レオンハルトさんに人工呼吸の責任は取らなくて良いと伝えてあるし、もっとシャキッとしないと。


「ッ!」

「入っても良いだろうか」

「ど、どうぞ!!」


 扉が叩かれた。わたしが応えると同時にスーザンがソイルさんをつれて部屋を出ていく。代わりに入ったレオンハルトさんに礼をして扉を閉めようとしたけど、彼がそれを止めた。

「未婚の男女が夜に二人きりなのは良くない」って、相変わらずレオンハルトさんらしい。そう思うと同時に、勝手に膨らんでいた期待も萎む。

 いや、普通に考えてそうでしょ。

 自分を慰めつつ、レオンハルトさんをソファへ案内する。斜向かいに座って、話を待った。


「アンネ殿に、提案を持ってきた」

「提案? 何でしょう?」

「……アンネ殿。王子妃、つまり、私の妻にならないか」


 バンッと、すごい音がした。そちらへ目を向けると、スーザンが扉を掴んでこちらを食い入るように見ていた。そんな姉を、ソイルさんがたしなめている。

 そうだよね、びっくりするよね。わたしも驚いた。


「え、えっと……そのお話は、一度流れましたよね??」

「あの後、考えた」

「な、何を?」

「アンネ殿を確実に守るためには、どうすれば良いかと」

「そ、それはありがとうございます。でもなぜ、それで王子妃というお話に??」

「今、例外でグラディア姉弟を傍に置いているが、あの二人は近衛。本来であれば王族の守護者だ。しかし王子妃ならば、王族と考えられるのではないかと考えた」

「な、なるほど……」

「そして王子妃となった暁には、二人の間に子も運ばれてくるだろう。男子ならば、左手の甲に契約の印も現」

「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!?」


 突っ込みどころが満載過ぎて、思わずレオンハルトさん話を止めた。ひとまず深呼吸をして、心を落ちつかせる。こんな時のためにすぐに使えるオノマトペを考えておこう。

 そう思いつつ、尋ねる。


「あ、あの……色んな話が突然すぎるのですが……」

「それは失礼した。私としては順序立てたつもりだったが、アンネ殿に伝わらなければ意味がないな。どの話をしたら、アンネ殿が納得できるだろうか」

「えぇと……(何もかもですけど)。まず、王子妃というのは確定ですか」

「いや。護衛の事や神々との契約のために最も効率の良い方法だと考えた」

「その、契約っていうのは、前にも見せてもらったやつですよね? その話をしたいのはわかりました。でもその契約の話は、これから解決していくもののはずです。わたしとレオンハルトさんが結婚する必要はないと思うんですが」

「……確かに」


 天然か!!

 今気づいたかのような顔をしたレオンハルトさんに、心の中で思わず突っ込んでしまった。

 レオンハルトさんからは、義務的な雰囲気を感じる。わたしの事が好きという訳でもあるまいに、どうしてそれが効率的だと思ったんだろう。

 わたしに指摘され、レオンハルトさんが首を傾げる。


「レオンハルトさんがしたい事を要約すると、神々との契約についての話がしたいという事ですよね?」

「その通りだ」

「それなら、王子妃とかそんな話は関係ないですね」


 レオンハルトさんが眉間にシワを寄せ、首を傾げている。

 え? 関係ないんだよね? どうしてそんなに悩んでいるんだろう。もしかして、もしかする??

 結婚したら子供ができる。その子供に契約の印が出るだろうから、神々との契約の事を話さなくてはいけない。そんなロジックが組まれているのではないかと、期待してしまう。


「星渡人は神々から与えられた客人だ。しかしその賓客はいつでも現れ出でるという訳ではない。また千年単位で与えられるとも限らず、手を打てるのならば今、解決したい」


 責任感の強いレオンハルトさんらしい。そこに、微塵も甘い雰囲気はない。

 まぁ、わたしが人命救助だから気にしなくて良いと言ったのだけど。少しは、気にしてほしいと思ってしまった。


「『星渡人』のアンネ殿がいる間に、神々との契約を終わらせ、たい」

「レオンハルトさん?」


 レオンハルトさんとの感情の差に勝手に落ち込んでいると、不自然に言葉を途切れさせた。目を向けると、足の上に載せていた左手をグッと力強く掴んでいる。それだけじゃなくて、何かに耐えるように目に力が入っていた。

 近寄り、レオンハルトさんの左手を白手袋越しに触る。


「熱っ! え、レオンハルトさん、これ、やばいやつじゃないですか!?」

「大丈夫、だ。問題ない」

「問題大ありじゃないですか! え、どういう事ですか??」


 玉のような汗を拭おうとして、自分の女子力の低さに辟易した。でもそれに落ち込んでいる暇はない。長袖の袖を引っ張って、レオンハルトさんの汗を拭く。

 でも、恥ずかしそうに身体を離される。


「レオンハルトさん、汗を拭かせてください」

「い、や……っく」


 レオンハルトさんが、また顔をしかめた。もしかして今、痛みか熱が増したのかも。

 え、何で??

 レオンハルトさんが苦しまないように、頭をフル回転させる。わたしが拭かせてと言って、それを口頭で拒否された。その前の身体を離すだけじゃ、何も変わってなかったよね。

 それなら、口に出した事が関連しているんじゃない? ……もしかして、わたしが「願って」、レオンハルトさんが「拒否」したから……??

 一つの仮設にたどり着く。それは、前にも考えていたやつ。


「……もしかして、星渡人の願いを叶えろっていう契約ですか」

「それも、ある」

「それなら、他は? 契約の内容を知らないと、レオンハルトさんを苦しめるだけじゃないですか」

「私は何も、問題な、い。この痛みを、ここで絶つ。絶たなければ、いけ、ない。絶ちた、いッ」

「わかりました! わかりましたから!! それ以上話すと、レオンハルトさんの左手が使い物にならなくなってしまいます!!」


 袖から見えているレオンハルトさんの左手が、パンパンに腫れ上がっていた。それだけ神々との契約に違反しているという事なのかもしれない。でも、どれが当てはまるのかわからない。


「協力、感謝、す……」

「レオンハルトさん!?」


 脂汗を浮かべていたレオンハルトさんが、突然こちらに倒れ込んできた。何とか受け止めたけど、手だけじゃなくて左の肩の方まで熱くなっている。


「スーザン! ソイルさん! お願い!!」


 弟にたしなめられこちらの様子を確認していなかったスーザンと、姉と一緒に待っていたソイルさんを呼ぶ。

 すぐに対応してくれた二人は、レオンハルトさんを部屋のベッドへ運んだ。すぐにソイルさんが治療を開始する。

 あのレオンハルトさんが気絶してしまうほどの、強い契約。その全容は、一体どんな物なのだろう。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。