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【完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第五章 「四季の魔女」暗殺未遂事件

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閑話休題⑦ 責任の所在

閑話休題、ということで短めです。

息抜きとしてお楽しみください。


 レオンハルトさんが部屋を訪ねてきたのは、朝の早い時間だった。


「アンネ殿の意識がない時にした不埒な行為について、責任を取りたい」


 突然の言葉に、わたしはぽかんとしてしまった。

 スーザンが対応してくれたけど、訪問者がレオンハルトさんだとわかるとソイルさんを連れて慌てて部屋を出ていく。扉は開けられたまま。


「責任……ですか?」

「そうだ。アンネ殿の胸に触れ、唇を合わせた。これは紛れもない事実だ。私はそれを、娶ることで責任を取ろうと思う」


 レオンハルトさんは至極真面目な顔でう。

 わたしは一瞬固まり、次の瞬間、顔が熱くなるのを感じた。


「ちょ、ちょっと待ってください! あれは人命救助です! 責任を取る必要なんてありません!!」

「アンネ殿が不快に思うのは当然だ。しかし、私は——」

「レオンハルトさんは次期王太子になる可能性が極めて高いんですよ? わたしはただの星渡人、しかも前世では庶民でした。そんな相手と結婚だなんて、到底認められるはずがありません」


 必死に説得するが、レオンハルトさんは考えを変えない。


「身分の問題は既に母上に確認済みだ。星渡人は神々より与えられた客人である以上、身分など関係ないと言われた」

「え……そ、そうなんですか……?」


 少し動揺していると、レオンハルトさんが静かに続けた。


「アンネ殿には好きな相手がいるのだろうか? もしそうなら、潔く引くつもりだ」

「い、いませんけど……!」


 思わず本音が出てしまった。

 レオンハルトさんの表情が、ほんの一瞬だけ柔らかくなる。それを見て、わたしはさらに動揺した。


「そうか……それは、良かった」


 その笑顔が反則すぎて、わたしは思わず目を逸らした。

 扉の外から、スーザンが小さく「きゃーっ」と声を漏らしたのが聞こえた気がする。


「とにかく、責任を取る必要はないんです! レオンハルトさんが、いつも通りのレオンハルトさんでいてくれれば、それで十分です」

「しかし、私はアンネ殿に不適切な行為をした。放っておくわけにはいかない」


 レオンハルトさんは頑固だった。

 わたしが大怪我をさせた罪悪感をぶつけると、彼は「それはアンネ殿のせいではない」と真顔で返してくる。

 お互いに「自分が悪い」と主張し合い、堂々巡りになった。


「……レオンハルトさんに大怪我をさせてしまったこと、本当に申し訳ありませんでした。洗脳されていたとはいえ、許されることじゃないと思っています。だから、せめてレオンハルトさんの傍にいられる限り、ずっと謝り続けたいんです」

「アンネ殿……」


 レオンハルトさんが、珍しく言葉に詰まった。

 そのまま数秒の沈黙の後、彼は静かに口を開いた。


「アンネ殿がそこまで言うなら……今回は引こう。ただし、もし心に傷が残っているのなら、いつでも言ってほしい。私はアンネ殿の力になりたい」


 その真っ直ぐな眼差しに、胸がトクンと鳴る。

「…………はい」と、小さな声で返事をするのが精一杯だった。

 レオンハルトさんは満足したように頷き、ふと柔らかい表情を浮かべる。


「それと……先ほどの『好きな相手はいないのか』という質問は、忘れてくれ。少し、取り乱していた」


 ……もう遅いんですけど。

 顔を真っ赤にしたまま、わたしは小さく頷くことしかできなかった。

 レオンハルトさんが部屋を出ていくと、すぐにスーザンとソイルさんが飛び込んでくる。


「アンネ様ぁぁ! 今のはどういうことですか!? 責任って、結婚って……!!」

「姉上、興奮しすぎです。アンネ様が困っています」


 スーザンは興奮気味にまくしたて、ソイルさんはいつものように冷静に突っ込む。

 わたしはベッドに突っ伏したまま、耳まで熱くなっているのを感じていた。

 責任とか、娶るとか……レオンハルトさん、急にどうしたの……?


 人工呼吸の記憶が、急に鮮明に蘇ってくる。

 目を開けた時のレオンハルトさんの真剣な顔。胸に当てられた手の温もり……。

 わたしは枕に顔を埋めて小さく呻いた。

 自覚してしまった恋心と、罪悪感。

 そしてレオンハルトさんの不器用で真っ直ぐな責任感。

 全部がごちゃ混ぜになって、胸が苦しい。

 でも、どこかでほんの少しだけ——嬉しくもあった。

 レオンハルトさんが、わたしを特別に思ってくれている気がしたから。


 ……この気持ち、どうしたらいいんだろう。 黒幕が姿を消した今も、状況はまだ落ち着いていない。

 それなのに、心の中はレオンハルトさんのことでいっぱいだった。

 わたしは枕に顔を埋めたまま、静かにため息をついた。





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