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【完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第五章 「四季の魔女」暗殺未遂事件

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046件目 影の暗殺者


「アンネ様、まだ身体を動かすのはきついですよね? 食事を運ぶので、口を開けてください」

「アンネ様、顔色が悪いようです。元気になるには内側から。きちんと食事をされてから、治療しますね」

「あ、ありがとう……二人とも……」


 スーザンが「あーん」をしてくれて、ソイルさんが常にわたしの様子を窺ってくれている。正に至れり尽くせり。

 何だけど……。


 尽くされれば尽くされるほど、自分の思い上がっていた考えを痛感する。

 身体強化だけで大丈夫だと思っていた。だって、王太子様特性の毒霧でも大丈夫だったから。高いところから落ちても、大丈夫だったから。

 でも、ダメだった。

 わたしを狙う人達からわたしを――周りの人達を守るためには、わたしだけの力で対処できるようにしないといけない。

 でも今は、血が足りないせいか身体の稼働率が五十パーセントって感じ。これを百パーセントに戻して、かつ暗殺者の人達と一瞬で勝敗をつけられるような力を得なければ。


「アンネ様。食べ終えたら増血剤を飲んでください」

「ねぇ、スーザン。どうやったら強くなれるかな」


 笑顔で増血剤を渡してくれていたスーザンも近くにいたソイルさんも、わたしの言葉を聞いて直角に腰を曲げた。


「申し訳ありません!! 私達が側にいながら、アンネ様には大怪我を負わせてしまいました」

「自分達の非力さは痛感しています。アンネ様が安心できるよう、さらに精進します」

「あ、いや……ごめんなさい。二人に謝らせたかったわけじゃないの」


 二人にとっては、責める言葉に聞こえてしまったかもしれない。そうとらえられてしまうかもしれないと考えられなかった、わたしの落ち度だ。

 スーザンもソイルさんも、近衛として十分働いてくれていると思う。


 こうして命を狙われ続けている状況で、ふと思う。

 わたしは、多くの人が時間を割いてくれるほどの価値はあるのかと。星渡人というだけで優遇されて良いのかと。

 星渡人は、神々がもたらしたギフトのようなもの。ヴァランタンの発展のために、尽力しないといけない。

 今のわたしは、思うように身体を動かせない。それならせめて、守ってくれる人達の負担を少しでも減らせれば。


「アンネ様? まだベッドから出てはいけません」

「身体を動かさないと、鈍っちゃうよ。部屋の中くらいは大丈夫」

「そうですね。激しく動き回らないのであれば、アンネ様の身体にも良いと思います」


 ちらりとソイルさんを見たら、身体を動かす事を快く許可してくれた。だから、わたしは窓際へ行く。

 二階にあるこの部屋は、近くに木もないし窓からは入ってこられないと思う。でも、バルコニーがある。魔法がある世界だし、意外と簡単に侵入できちゃいそう。今まで部屋にいる時に狙われなかったのは、運が良かっただけ。


 手を何度か握り、まだ少し違和感はあるけど魔力自体は減っていないと確認する。そして、バルコニー全体や裏庭、部屋の入口を見た。両腕を左右に広げる。


「カラカラ知らせよ不審者を。鳴子のように鳴り響け」


 詠唱を終えると、小さい板に細い竹の管を糸で吊って並べた鳴子が現れた。設定した縄の高さは、成人の膝下ぐらい。


「警報装置……とまではいかないかもしれないけど、この仕掛けを知らない人が来たら鳴るようにしてみた」

「素晴らしいです! これで敵の侵入に即時対応できます!」

「他の人と会う時、この仕掛けの事を伝えてあげてね」

「かしこまりました。通達しておきます」


 今できる事をやった。すごく褒めてもらえて、有頂天になっていたと思う。

 もっと何かできるんじゃないかって、お城の中に暗殺者の内通者がいるかもしれないって、考えもしなかったのだから。




 + + +


「窓からの侵入なし、入口もきちんと仕掛けてある。うん、安心して眠れるね」


 夜。寝る前に仕掛けの確認をする。これが最善の策だと信じて疑わないわたしは、自分が仕掛けた鳴子魔法に満足していた。

 ずっとわたしの側にいてくれているグラディア姉弟が仮眠を取れるように、夜は六人態勢だ。派遣された兵士四人は、何回か見た事がある人。ちょうど四属性に別れてる。


「警護ありがとうございます」


 一番近くにいた風属性の兵士に声をかけ、ベッドへ入る。大きくて弾力のあるベッドは、今までならすぐ眠りへ誘ってくれた。でも今は、いつ狙われるかわからない緊張から上手く寝付けないでいた。

 それでもゴロゴロと寝返りを繰り返している内に、強烈な睡魔がやってくる。




 ▲▲▲


(眠った、か)


 星渡人の夜間護衛任務。絶好の機会を逃すまいと、怪しまれないように何度も参加してきた。

 そして、王宮内が寝静まり応援要請も届きづらい時間に勤務できるようになっている。毎日では怪しまれていただろう。だから三、四日空けては周辺護衛という立場を勝ち取ってきた。

 兵士として侵入を果たしていたルジャンは、星渡人が本当に寝ているかどうか確認するためベッドへ忍び寄る。


(……星渡人でなければ、幸せに暮らせただろうに)


 ルジャンは、金さえもらえればどんな依頼も受ける。確実に任務を遂行するため、下準備も疎かにしない。

 結果、今までの成功率は百パーセント。その実績から前金を報酬の三割ほどもらえている。


 成功率を下げないために、ルジャンは注意深く現場の状況を確認していく。

 四六時中一緒にいる近衛の二人も、内側警護の二人も、扉の外側で周囲を警戒している一人も、全て部屋の中で眠っている。全ては、微弱な風に乗せて散布していた睡眠薬の効果だ。

 そしてルジャンは、自分の周囲にだけその微風が来ないようにしていた。


(完璧だ。これで失敗はしない)


 勝利を確信したルジャンは、脛を保護する防具の中から短剣を取り出す。それを握り、眠る星渡人に突き立てようとした。


(……何だ? 誰かが近づいている?)


 風が、周囲の変化を伝えてきた。王宮内はすでに寝静まる時間だ。夜間警護の面々も、建物の外を警戒しているはず。

 扉の近くで気配を辿ると、誰かがこちらへ近づいていた。

 これは、まずい。

 星渡人の室内警護の人数は決まっている。にも関わらず、部屋の外にいるはずの兵士がいないとなれば。怪しんだ人物が、中へ踏みいるだろう。


(ばれる前に!!)


 成功率にこだわったルジャンは、即座に行動する。寝返りを打った星渡人の背中へ短剣を突き立てようとした時、仕掛けが鳴った。


 ▲▲▲




 ん……何か、いる?

 寝返りを打った時、すぐ近くに気配を感じた。まさかベッドまで近づいてくるなんて思ってもいなくて、寝ぼけながら身体を起こそうとする。

 その瞬間。仕掛けた鳴子がカラコロと音を立てた。


「ぐあッ」

「レオンハルト、さん??」

「すまない。遅くなった」

「っ! ぐるぐる巻きにしてしまえ! 身動きできない蓑虫に!」


 目を開けた瞬間、すぐ目の前でレオンハルトさんが暗殺犯を抑えこんでいた。まだ半分寝ぼけていたけど、暗殺犯を逃がさないためにすぐに詠唱する。

 シーツでぐるぐる巻きにされた暗殺犯は、詠唱の通りに動けなくなった。それどころか、レオンハルトさんが首の後ろを叩いて暗殺犯を気絶させる。

 もう襲われないと思ったのか、レオンハルトさんはわたしの元へ駆け寄ってきた。いつもだったら必ず一声かけるけど、今日のレオンハルトさんはその余裕がなかったみたい。がしっと両肩を掴まれた。


「怪我は!?」

「だ、大丈夫です」


 わたしの両肩を掴むレオンハルトさんの手が震えている。それだけ、心配をかけてしまったんだね。


「レオンハルトさんはどうですか」

「私なら、何の問題もない」

「それなら、良かったです。でも、こんな夜中によく駆けつけられましたね」

「貯まっていた書類を片付けていたらこの時間になってしまった。せめてベッドで寝ようと思った判断は間違っていなかったようだ」


 レオンハルトさんと隣室で良かった。もしそうじゃなかったら、わたしは死んでいたかもしれない。

 ブルッと、身体が震える。パティアの時は一瞬過ぎて実感があまりなかった。死ぬかもしれないと思った時は、本当に死んだと思ったし。

 でも今は、レオンハルトさんに助けてもらって思考もはっきりしている。自分の死がこれほど近いとは思わなかった。

 遅れてやってきた恐怖で身体を震わせていると、レオンハルトさんが冷静さを取り戻したらしい。


「失礼する」

「ッ――!? え……!?」


 すでに肩を掴んでいるし、と思っていたら。断りの言葉を述べた後抱きしめられた。見た目からはわからないがっしりとした腕に抱きしめられて、最初は戸惑う。

 でも、キュッと優しく抱きしめられると、レオンハルトさんの香りが鼻に届く。仕事帰りなのに爽やかさを感じるのは、ずるいと思う。

 そんなん、張り詰めていた気持ちも緩んじゃうじゃん。


「ぅっ……怖かった……怖かった、です……」

「アンネ殿を失わなくて良かった」

「助けてくれて、ありがとう、ございます……」


 レオンハルトさんの腕の中で、声を上げて泣いてしまう。泣くのは迷惑をかけてしまうとわかっているのに、涙が止まらない。

 ひとしきり泣いてしまった後、眠らされていたらしい他の人達を起こしていく。そして侵入していた兵士――暗殺者は、気絶した状態のままで牢屋に入れられた。




 ▲▲▲


「ぅっ……ック……」


 レオンハルトの腕の中で、アンネが泣いている。

 命を狙われた恐怖で震えていたアンネを慰めたいと思った。だから、行動している。

 しかし、抱きしめたのは良いものの、アンネからは石鹸の香りがした。その香りを自覚してしまった途端、腕の中で泣くアンネの存在を意識してしまう。

 アンネは、女性の星渡人だと。


 星渡人は、国を挙げて守護するべき存在。それはわかっているのに、それ以上の何かを感じてしまった。叶うのなら、自分一人だけでアンネを守り抜きたい。そう、思ってしまった。


(……おかしい。一人で守るよりも、大人数で守護する方が効率が良いはずだ。一人ではどうしても限界がある。それは、わかっているはずなのに)


 星渡人のアンネを狙う黒幕が、まだはっきりしていない。牢屋に入れている暗殺者は黒幕に恩義があるらしく、尋問を受けてもその名前を吐かない。

 では、アンネの魔法を頼れば良いのでは。そう思っても、それができないでいる。

 アンネの魔法は、精神にも影響を出せた。だからそう、例えば「ぺらぺら」のように何でも話したくなるような魔法を使ってもらえたら、すぐに解決するかもしれない。

 しかしもし、万が一にもその魔法を使う事でアンネに危害が及んでしまったら?


(……おかしい。おれはずっと、健康体だった。風邪も引かぬよう、日々の鍛錬を怠った事はない。それなのに、なぜ胸が痛む?)


 記者魔法師達に施した魔法の事を思い出した瞬間、レオンハルトの胸がチクリと痛んだ。思わず胸に手を当ててみるが、風と水の複合属性ではその原因まではわからない。

 ソイルに相談してみるのも良いだろう。そう思いつつ、腕の中にいるアンネが落ち着くまで待った。


 ▲▲▲




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