041件目 崩壊の工兵
第五章、スタートです。
この機会にブックマーク登録をしていただけると幸いです!!
この章は全体的にシリアス。
その分、閑話休題は甘め(当社比)となっていますので、お楽しみに!
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ヴァランタン国の一番街北地区の、とある邸宅。その大広間には一つの旗が飾られていた。太陽と月が照らす先の道が崖になっている旗を、目出し帽を被る男が見ている。男は、限りなく黒に近い茶色の瞳をしていた。
玄関が賑やかになってきたようだ。男は同胞を迎えるため、大広間から玄関へ行く。
やって来たのは、十一人。それぞれが姿を消すローブを着て目出し帽を被っている。同胞らと、男は大広間へ移動した。
今日は、週に一度の会合の日。ヴァランタンの未来を考える日だ。
「魔法の価値が、どんどん下がっているように思いますな」
「然り然り」
「本来であれば、魔法を自在に操るのは我ら貴族であり、平民は貴族に寄付をして教えを請うべきである」
「議論は白熱しておりますが、本日の議題に移ります。皆様のお耳にも、届いているかと。今日の議題は、悪しき魔女についてです」
「ああ、あの星渡人の事か。あれはいけない。魔法とは、四属性の応用だ。それ以外は認められない」
「然り然り」
「では、悪しき魔女は排除する方向でよろしいですかな」
大広間に集まった面々が、同時に頷く。そして解散の合図「正しき神の名の下に、裁きは下される」を唱和。その後それぞれが活動資金を男に渡し、今週の会合はお開きとなった。
面々を見送った後、男は姿を消すローブを羽織り、北地区にある鍛冶場へ行く。そして一人だけしかいない鍛冶場主、スミスの肩を叩く。
「わかっているな?」
「は、はい! 必ず成功させます!! なので、三ヶ月分の家賃の免除を、お願いしますっ」
「わかっているとも。ただし、それは成功報酬だという事を忘れるでないぞ」
鍛冶場を出た男は、空気に紛れるように姿を消していった。
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「アンネ様、ご気分はいかがですか」
「ありがとう、スーザン。もう大丈夫」
わたしの専属侍女や護衛選抜の一件は、城中で気を使われている。わたしがいる所でその話題は出ないし、みんなが心配するようにわたしを見ていた。
こんなにたくさんの人に心配をかけているようじゃ、まだまだだな。そう思いつつ、優しい周囲の人々に感謝する毎日。
キリカさんとは話せなくなってしまったけど、リズさんとは手紙のやり取りができる。それによれば、今リズさんはルリアーナ姫を迎え入れた時のために勉強をしているみたい。
リズさんとは、姫様の成婚時にまた会えると思う。キリカさんとも、またどこかで会えると良いんだけど。
そんなこんなで、二人と別れてから二週間が経とうとしていた。さすがに立ち直らなければ。そう思って、精力的に内勤をしていた。内勤時は、わたしの護衛も兼ねられるようにレオンハルトさんの近くにいるようにしている。
そんなある日。天秤宮内にけたたましい警告音が響いた。
「何事ですか!?」
廷臣法官長室で鳴り響いた警告音に驚いていたら、伝令鳥が飛んできた。レオンハルトさんが誰かからの伝令を受けている。
誰かの伝令鳥が飛んでいくまで待っていると、レオンハルトさんが深刻な面持ちでわたしを見た。
「アンネ殿、緊急出動だ。五番街北地区にて連続爆破が起きた」
「えっ!? それは、すぐに行かないと!」
「以前のシトロン侯爵令嬢失踪時の教訓を踏まえ、緊急時に限り廷臣法官はそれぞれの検問を免除されるようになっている。至急、現地へ向かう」
「わかりました! すぐに向かいましょう!!」
レオンハルトさんが風魔法で運んでくれようとする。わたしはそれよりも先に、頭にずっとつけていた羽根の髪飾りを両手で挟む。そしてすぐに、靴の踵部分に羽根が見えた。手の平には、羽根のマークも浮かんでる。
「行けます!」
「さすがだ。では行こう」
レオンハルトさんと一緒に天秤宮を出る。疲れ知らずの韋駄天にと詠唱して作った魔道具だから、継続して走り続けられた。
そして、二時間ほどで五番街の北地区に到着。
「報告によれば、今朝方よりこの地区で何度も爆発が確認されている」
「被害は?」
「今の所、人的にも建築物にも被害は出ていない」
「それは良かった。でも、どうして爆発が?」
「何度かの爆発は、何もない平野で突然発生したらしい。どこに仕掛けられているのかわからず、手を出せない」
「なるほど。それで、わたしの出番って事ですね」
「よろしく頼んだ」
「わっかりました!」
何もない平野で突然の爆発。考えられるのは時限式の爆発物が地中に埋められているって事だ。それなら、時限式の地雷を除去するようにしよう。
五番街北地区は、家々が点在している状態。家と家の距離があって、例えるなら前世でいう田舎のような場所。その地面のどこかに、時限式の地雷がある。今はまだ被害が出ていないみたいだけど、いつ被害者が出るかわからない。
わたしは顔を左から右に動かし、可能な限り視界を記憶する。そして地面に両手をついて、以前秘密通路で使った罠解除魔法を発動させるために集中した。
「ささっと、パパッと……完全解除! 時限式地雷を取り除け!」
詠唱と同時に、箒型の魔力波が前と左右に広がっていく。秘密通路の時ほど数は多くなかったみたいで、間を開けながら「ポンッ………ポンッ」と罠が解除される音が聞こえた。
立ち上がると、背後がざわつく。いつの間にか多くの廷臣法官が集まっていたみたい。
「これで左奥の二階建ての建物から、右奥の平屋までの罠を解除できました」
「さすがだ。アンネ殿、この調子で他の箇所もよろしく頼む」
「わかりました! 全力で取り組みます!」
ぐっと拳を握って気合いを入れる。
レオンハルトさんは集まっている部下達に住民の避難を誘導するように指示を出してから、わたしと移動した。
その後一時間ほど、五番街北地区の時限式地雷を除去。これでこの地区は安全になったはず。
「ふぅー、終わりました。他の地区も罠解除魔法を発動させて起きますか」
「念には念をと言いたいところだが……北地区は、五番街で一番人が少ない地域だ。だから混乱なく実施できたが、他の地域では同じようにはいかないだろう」
「パニックって、一番厄介ですよね。冷静な判断ができなくなる」
ひとまず北地区の安全を確保できたと安心できたからか、一つの疑問が浮かんだ。
「レオンハルトさん、質問しても良いですか」
「何だ」
「今回の時限式地雷……誰が仕掛けたと思いますか」
「誰かが仕掛けた事は明白だが、なぜ時限式だと思った?」
「時限式だと思ったのは、被害がないからです。現状、ただ連続爆発が起きただけ」
「だから時限式だと? そうなると、こちらの様子がわかるような場所に犯人がいるという事になる」
「そうですよね。レオンハルトさんの考えを踏まえて思うのは、もしかしたらここへ誘い出されたんじゃないかなって」
わたしの指摘に、レオンハルトさんがハッとなって周囲を窺う。
「……アンネ殿の命を狙っている相手か」
「そうなんじゃないかな、って思います」
爆破犯は、今もわたしをどこからか見ているかもしれない。実際の爆発の規模がどれくらいのものかわからないけど、小さな爆発だって大惨事になる。
そんな風に狙われるほど、わたしは何かをしてしまったのかな。
落ちこんでいると、レオンハルトさんが「失礼する」と断りの言葉を告げて、わたしの肩を叩いた。
「貴殿の事は私が守ろう」
「ありがとうございます」
レオンハルトさんの言葉が心強い。何でもこなせちゃうレオンハルトさんだから、その言葉を信じられる。
「犯人は、どこからかわたしを狙っているんですよね。それはどこでしょう」
「報告にあった、実際の爆発現場の周囲を当たってみよう。その場所が見える位置に犯人がまだいるかもしれない」
レオンハルトさんと一緒に、現場へ向かった。
そして、五番街北地区の大通り沿いの家々を訪問していく。
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五番街北地区の大通りを目視できる二階建て空き屋に侵入していたスミスは、ボロボロのカーテンの隙間から外を見ていた。
(やばいやばいやばいやばいやばい……)
赤髪を掻きむしり、緑の瞳は動揺で揺れる。スミスは窓際に座り込み、頭を抱えた。
家賃三ヶ月分の免除だけで依頼を受けるほど、スミスが営む鍛冶場は存続の危機に陥っている。祖父の代から続いた鍛冶場を、自分の代で終わらせるわけにはいかない。
そう思って、星渡人殺害の依頼を受けた。該当人物以外の被害が出ないように慎重に場所を選択した結果。標的は来たが、一人ではない。
さらには、まさか星渡人が女性だなんて考えもしなかった。早くに亡くなった母を大事にしていた父を見習い、スミスも女性に暴力を振るいたくない。スミスが成人するまで闘病していた父の意志に、背きたくない。
しかし、やらなければ鍛冶場は潰れる。
(どうしよう……どうすれば……)
極限まで悩んだスミスは、自分の手元に残る爆弾に目を向けた。
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「な、何!?」
爆発現場周辺の家々を訪問していた時、突然爆発音が響いた。それはちょうど訪問しようとしていた二階建ての建物。その一階の右端の部屋から煙が上がっている。
「人がいるかもしれません!! レオンハルトさん、至急応援連絡をお願いします!!」
「アンネ殿!! 一人で行くな!」
レオンハルトさんが伝令鳥で応援を呼んでくれる事を信じ、わたしは目の前の建物へ急ぐ。爆発の規模は小さかったみたいで、該当の部屋まで問題なく行けた。
「ッ! 大丈夫ですか!!」
倒れている人を発見した。すぐに駆け寄る。
「ア……ァ……」
「大丈夫です。すぐに人が来ますからね。無理に話さなくても良いですから」
どうにか被害者を外へ運び出せないかとオノマトペを考える。その事に集中しすぎて、被害者が手を上げている事に気づくのが遅れた。
「アンネ殿!!」
「レオンハルトさん!?」
崩れていた天井からわたしを守るように、レオンハルトさんがいた。膝をつくほど迫る天井は大きく、その一部で怪我をしたみたい。つーっと、一筋の血が頭から流れていた。
すぐに身体の向きを変え、持っていなかったハンカチの代わりに服の袖をレオンハルトさんの頭に当てる。
「ど、どうしよう……血が……」
「命に支障はない。これ以上崩れる前に、建物から出るんだ」
「で、でもっ……」
「早く!」
強く言われ、ビクつく。
でも自分の浅はかな行動でレオンハルトさんに怪我を負わせてしまったと思い、どうにか挽回できないかと考える。
瓦礫を破壊、もしくは早急にレオンハルトさんの怪我の治療。どちらができるかと思った時、思いついた。
レオンハルトさんが背負う崩れた天井に手を向ける。
「チクタクチクタク、天井の時を遡れ!!」
詠唱すると、天井はゆっくりと元の場所へ戻っていく。これで安心だと思ったのも束の間、手を下ろすとまた天井が落ちてきた。すぐにまた手を向けるけど、打開策を考える時間を取れない。
何も改善できないまま時間が過ぎる。でもレオンハルトさんがしてくれていた応援要請に応じた廷臣法官達がやってきて、ようやく外に出られた。
被害者も運び出され、一番街の大聖堂で弔いの儀が行われるらしい。
爆発事件の二日後。儀式終了後に、レオンハルトさんから衝撃的な事を聞いた。
被害者が、犯人だったと。




