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【四章完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第四章 ▲隣国スパイ潜入事件▲

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閑話休題⑥ アンネの日常と、街での噂


「また星渡人様に助けてもらっちゃった」

「すごいわよねぇ、星渡人様のお力って」

「ずっと走り続ける体力もおありだぞ」

「遊びに来た俺の子供ももてなしてくれた」


 宮女や兵士の間では、アンネの話題で持ちきりだ。そんな状態を、当然だと腕を組みながら頷くスーザン。


「星渡人様が活躍される事によって、城内にも活気が出てきたように思う」

「本当に! 第二王子殿下なんて、特にそうじゃないかしら」

「あなた、見た事ある? あの刃物のように鋭かった第二王子殿下の目元が和らぐのを!」

「……ただ、最近の星渡人様は元気がないように見えるんだよな」


 将来を見据え、王妃主導で行われたアンネの側仕え選抜。そこで勝ち抜いた二人は、二人とも間者だった。その一件を踏まえ、アンネの側仕え選抜は先送りにされている。

 先に告発されたダクウィンの間者はアンネと友好関係を結んだようだったが、もう一人の間者はいつの間にか消えていた。そのせいで、アンネが落ちこんでいるのだ。


 アンネの警護は複数名の交代制で、スーザンはなるべくその役を引き受けたいと申請している。何度も担当する中で、アンネはよく一人になりたがった。扉の隙間から様子を窺った時、落ち込んでいるかのような背中を見たのは一度ではない。

 側仕えの二人がいた期間は短い。しかしスーザンよりも長く一緒にいた。ハプスト村での事は、スーザンはアンネが寝る前に二言三言をかわすだけ。側仕えほどの濃密な時間を過ごせていない。

 だから、悔しいのだ。友好的に話しかけてもらえても、アンネの瞳から寂しさが消えないから。

 アンネはきっと、傍にいる人間に心を配る。心を汲む。だからこそ、突然姿を消した側仕えを思って落ち込む。


「あっ……ぶ、ない」


 思索にふけるスーザンは、持っていた手紙用具一式を落としてしまいそうになった。これはアンネがダクウィンの間者に出すために頼まれたもの。すんでの事で破損を免れた。

 アンネに早く届けて少しでも気分が明るくなってほしい。そう思っても、スーザンの足取りは重い。間者に手紙を送るなんて、と。

 しかし、と思い直す。

 アンネは、親しくなった相手には心を砕く。だから元気になってもらうために、たとえ間者でも手紙を出す事に反対なんてできない。元より、スーザンはただの近衛。国の行く末すら左右する星渡人であるアンネの行動に意見する資格もない。


(……私がアンネ様のお側にお仕えするためには、どうすれば良いでしょう)


 近衛職は、王もしくは王妃に実力を認められると就ける職だ。グラディア家は領地を国に返還するほど困窮しているが、長年王家に仕えてきた。その功績が認められ、本人達の実力もあり、姉弟揃って近衛職に就いている。

 ただ、近衛は王族を守る盾。アンネがどれだけ特別な相手でも、王族とは違う。交代制で守る事はできても、専属では守れない。ずっと側に居続けることはできないのだ。


(いっそ、第二王子殿下と……っは、いけない。私ごときが、王族の婚姻を考えるなんて)


 不敬な考えを振り払うために頭を振っても、スーザンの中で願う気持ちは消えない。

 宮女が言っていたように、第二王子とアンネは端から見ても良い雰囲気のように思えるのだ。全てに鋭い視線を向け、関わるためには事件を起こさないといけないとまで言われた、第二王子。その人が、柔らかな眼差しでアンネを見ている。

 これは、本人の自覚がないだけで将来性のある話では。


(……いけない。またそんな考えをしてしまいました)


 これ以上の思索はアンネを待たせてしまう。

 スーザンは胸元に抱えた手紙用具一式をしっかりと持って、早足でアンネの元へ行った。



 ▲▲▲


 ここは、一番街西地区にある酒場兼食堂、琥珀樽亭アンバーキャスク。酒も食事も美味いと評判の店だ。

 そこで酒を飲む三人の男達。風の魔法師が一人、風と火の複合魔法師が一人、風と土の複合魔法師が一人という構成だ。


「なあ、お前ら。どう思うよ?」

「何が?」

「レオンハルト殿下とアンネちゃんの事だよ」

「お前……星渡人様を自分の友達みたいに軽々しく名前で呼ぶなよ。不敬だろ」

「んな事よりもよ」

「はい、お待ちどう! うちの店で食べるなら良識を持っておくれよ!」


 店主自ら煮込み料理を持ってきて、赤ら顔の男達に釘を刺していった。

 煮込み料理をつまみに、男達は話を続ける。


「で、どう思うよ?」

「そうだなあ……巡回しているのを見た事あるが、確かに殿下と星渡人様は良い雰囲気に見えたな」

「だろう? もしかしたらレオンハルト殿下が最初に成婚するんじゃねえか?」

「お前……」


 絶対ではないが、王族の結婚といえば年齢順というのが通例だ。王太子よりも先に成婚はないのでは。そもそも一庶民が、王族の婚姻について語る事すら不敬になるかもしれない。


「……まあ、その話はともかくだ。星渡人様のお力はすごいの一言だよな」

「そうそう。解毒も傷の治療もあっという間だった。あれは、奇跡の力だよ。本当にすごい」

「何だよお前ら。語彙力がねえなあ? 酔ってんのか」

「それなら、お前は星渡人様の事をどう表現するんだよ」

「そうだな、俺だったら……素晴らしい! だな」

「結局は同じ意味じゃねえか」

「それもそうだな」


 赤ら顔の男達は豪快に笑い、また酒に手を伸ばす。そして、その器を置いた。


「俺はな、思うんだよ。アンネちゃんが幸せであれば良いのにって」

「何だよ、星渡人様が幸せじゃないってのか」

「いや、聞いたところによるとアンネちゃんって成人の儀をきっかけに首都へ来たんだろ? それから家族の元に帰れてねえんじゃねえのかなって」

「おれは、アンネ様は天涯孤独の身だったって聞いたぞ」

「二人とも、飲み過ぎだ。そもそもそんな情報、どこから聞いたんだよ」

「ツテがあるんだよ」

「ぼくは、王宮内に知り合いがいるんだ」

「……庶民のオレ達にもそんな情報が流れてくるんだ。星渡人様は国民全てに注目されて、さぞ大変だろうな」

「違いねえ。だから願うんだよ。アンネちゃんの幸せを」

「そうだな。星渡人様の幸せを願おう」


 男達はまた酒をあおる。

 こうして日夜、琥珀樽亭ではアンネの話題が出るのであった。

 良くも悪くも。


 ▲▲▲



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