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【四章完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第四章 ▲隣国スパイ潜入事件▲

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閑話休題⑤ キリカのその後


 アンネ誘拐犯の捕縛劇が行われている日中、キリカは手紙を残してひっそりと王宮を出ていた。最後に挨拶をしないでこの場を去るのは、キリカなりの心の整理の方法だ。

 アンネ達と過ごした日々は短いながらも濃厚な日々で、可能ならばそのままずっと傍にいたかった。

 しかし、それは叶わない。キリカの役目は、星渡人を第四王子ラミルの婚約者として連れて行く事。そしてそれに伴う、星渡人の調査。


(……アンネ様と第二王子殿下は、お似合いだすだ)


 王宮を出る前、名残惜しくてアンネの所へ行った。その時に目撃したのは、アンネを気遣う第二王子の姿。やる気に満ちあふれるアンネを第二王子が優しい眼差しで見ている、というような様子だった。

 そんな二人を離別させるような事は、キリカにはできない。だから星渡人というのはどういう存在かという情報だけをパルレへ持ち帰る。


(……これは、すごいだすだ)


 アンネから以前の星渡人の情報を聞いてから知った、時空転移の門。それは星渡門と言うらしいが、その力の検証も兼ねてキリカは星渡門からストイへ向かった。

 星渡門から出てすぐに、ヴィエザ山が見えている。まるで動物の耳のように尖った山頂は見間違えるはずもない。

 本来は、首都から二週間かかる距離。それを、僅かな時間で移動した。


 星渡人の驚異的な力に改めて驚くと共に、どんな条件がそろえば星渡人が自国へやってくるのか。そんな事を考えながら、ストイの先の村を越えてヴィエザ山に入っていく。

 山へ入ると同時に雨が降り始め、キリカの足跡を消す。

 こうして、キリカはヴァランタンを出てパルレへ戻った。




「――では、弁明を聞こうかの?」


 緑豊かな庭園がある、ラミルの離宮。そこへ戻ったキリカは、厳しい顔つきのラミルの護衛騎士ガルヴェインに問いつめられていた。

 濡れた服を着替え、一晩明かしてからの詰問。傍にはピリつく空気に戸惑っている様子のラミルがいた。金色の垂れ目は、見ているだけで癒やされる。

 現在の状況としては、星渡人についての情報を伝えたばかりの時機。つまり、ガルヴェインはなぜ連れてこなかったのか、と聞いているのだ。


「今の星渡人ほすわたりびとのアンネ様のお力は、誰にも真似できません。従来ずうらいの魔法の理を覆すお力だす。人当たりも良く、力におごらない。とても貴重なお方だす」

「ならば、何故?」

「……アンネ様は特別な存在だからこそ、その命を狙われていますた。パルレではアンネ様の安全を確保できないと思いますた。それに、アンネ様の守護者は第二王子殿下だす。あの二人の仲を引き裂くごとは、わたすには無理だす」

「なるほどの。それならば仕方なし、か」

「ガルヴェイン……? どういう事? 僕、何も聞いていないよ?」

「申し訳ありませぬ、ラミル様。わしの勝手な判断で……老い先短い時間の中で、ラミル様が幸せになれるように先走ってしまいました」

「何言っているの。ガルヴェインは僕よりも元気じゃない。まだまだ一緒にいてよ」

「ラミル様……」


 御年六十。涙腺が弱くなっているのか、ガルヴェインは滝のような涙を流した。そんなガルヴェインを見て微笑むラミル。

 美しい光景だ。

 そんな風に思っていたキリカだったが。

 ガルヴェインがキリカを見る。


「ヴァランタンに来た星渡人が駄目だったならば、ラミル様が暮らしやすいように他の方を捜さねば」

「それならば、ヴァランタン以外の国だすね。アンネ様と同い年の上の姫様は他国に嫁ぐらしいだす」

「いや、待て。確かヴァランタンにはもう一人姫様がおったような……」

「ロジェナ様はラミル様よりも七つも年下だす。ラミル様は、年上に引っ張ってもらう方が良いだす」

「いいや、それは早計じゃろう。ラミル様は自然を愛する優しいお方だ。年少の者の方が相性が良いじゃろう」

「いいえ、ここは譲れないだす! ラミル様は末の王子様だす! 年上の方が甘えられると思うだす!」

「そこが違うじゃろう。末子だからこそ、年少の者を愛する気持ちが生まれる。年上では他の姉兄様方と同じように、ラミル様が萎縮してしまう」


 ラミルにはどんな相手がふさわしいか。それについてはガルヴェインと相容れない。しかしラミルの姉兄達の話を出されてしまうと、キリカも納得せざるを得ない。

 しかし、と思うのだ。アンネのような心優しい相手であれば、年上でも良いだろうと。

 ガルヴェインに反論できないでいると、ラミルが言う。


「二人が僕のことを真剣に考えてくれているのはわかったよ。でも、僕はまだそういうのは良いかな。姉さま達や兄さま達が先に結婚すると思うから」

「「ラミル様……」」


 姫が二人、王子が三人上にいるから、ラミルは遠慮してしまう。わがままは言わず、常に周囲の様子を確認する。そんなラミルには、幸せになってほしいと思ってしまう。


「ラミル様! 気になる方ができますたら、すぐにこのキリカへお伝えくださいね。わたすの全力でその方をお調すらべすますから!!」

「ありがとう、キリカ。頼りにしているよ」


 ラミルがふわりと笑う。

 キリカはその笑顔を見て、その笑顔が曇らないように動く事を改めて決意した。







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