039件目 名誉挽回の機会を与えられたらしい
「は……何で??」
「リズさん! 素直に答えてくれてありがとうございました! 交渉成立です」
「そういえば、交渉って何だ」
「隠し事なく全ての質問に応えたら、それこそ誠実な証って事です! それなら、護衛としての最後の力を使ってもらおうって」
最後の力。なるほど、名誉挽回の機会を与えられたらしい。バクデスを捕まえたら、正式にリーズンへの沙汰が出るのだろう。
護衛としての力は認められている。それならば、全力で取り組むのみ。
「今、外から内部へ繋がる出入り口には、全て人員を割いている状態です。忍び込んだ犯人は逃しません。ミスがあってはいけないので、しっかりと一晩休んでから犯人捜しをします」
「わかった。決行の時間になったら、あたしの全力でバクデスを捕まえる」
「では、明日。よろしくお願いします」
独居房の扉が閉められた。リーズンは今、首の皮一枚が繋がっている状態。その皮の行方は、明日の働きにかかっている。
翌日。
罪人としては好待遇の、食事付きの一晩を明かした。そして朝食も取り終えると、アンネ達がやって来る。
「リズさん。バクデスって人を捕まえる前に、リズさんの能力を教えてください」
「あたしは、常に自分の足へ注意を払っている。長距離は判断が難しいが、近距離なら人数や性別の把握を地面越しにできる。後は材質が全て土であれば、空間把握も可能だ」
「すごい! まさに捕縛にうってつけの力ですね!」
アンネと話していると、第二王子やコナーがリーズンの事を睨んできた。ザドルもいるが、無表情で感情がわからない。
「リズさん。これから秘密の通路を使って犯人を追います。中へ入るまでは動きづらいと思うんですけど、目隠しをさせてください」
「あぁ。問題ない」
黒い布を目の上に当てられ、視界が遮られる。進みますよ、というアンネの声が少し前から聞こえた。
では誰が先導してくれるのかと思っていたら、骨張った手がリーズンの右手を掴む。
「足を上げるとか注意するべき所は伝えるから」
「わかった」
どうやらコナーがリーズンの手を引くらしい。
声の調子から、態度が硬いように思える。それもそうだろう。コナーが想いを寄せるアンネの身を危険に晒した間者なのだから。
恐らく、一昨日の時点で第二王子辺りからリーズンを見張れと言われていたはず。であるならば、リンガル家の事情はリーズンを油断させるための嘘だったかもしれない。内輪の問題を、怪しいと思っている人間には伝えないはず。
コナーに手を引かれ、地下牢を出る。階段、小さな段差、絨毯のシワまで、細かく教えてもらえた。
そうして着いたらしい、秘密の通路の入口。化粧品のような匂いがするから、女性王族の部屋だろうか。
手を引かれたまま入ると、足下が少し柔らかくなった。この感じは土かもしれない。秘密の通路へ入ったのだろう。
背後で何かが閉まる音がして、ようやく目隠しを外された。
「……明るい場所なんだな」
「本当は暗いところですよ。でも捜索するのに不便なので、あらかじめ入口の所に暗視効果がある魔法をかけているんです」
「暗視……」
属性がわからない魔法は、アンネがかけたものなのだろう。そう予測できるが、本当にアンネの魔法は規格外すぎる。
アンネが善人で良かった。
「この通路は、色んな所で分岐しています。罠は大体解除していると思いますが、漏れがあるかもしれません。先頭には立たないでくださいね」
「その解除も、アンネが?」
「そうですね。前にもここで犯人を追いかけた事があるので」
「そんなに知られているなんて、やばくないか」
「そうなんですよ。その辺は今、対策を考え中です」
「というか、何であたしにそこまで教えてくれるんだ。間者だぞ?」
「リズさんは大丈夫ですよ」
アンネは確証があるように言った。その表情は自信に満ちあふれていて、逆にリーズンが戸惑う。
「毒矢で狙われた後、毒の塊を素手で取ろうとしてくれましたよね。スパイだと知った時はショックでしたけど、リズさんは優しい人だって知っていますから」
「べ、別に、あたしは優しくなんてない」
「自分の事は、外からの評価の方がわかると思います」
にこっと、無邪気な笑顔を向けられる。その笑顔を見ていると、面映ゆい気持ちになった。
「さ、早速行くぞ。……大地に眠る地のマナよ、地属性魔法師リーズンが命じる。付近の空間を把握させろ」
「リーズンさんって言うんですね。今まで通り、リズさんって呼んでも良いですか」
「す、好きにしろ」
「ではリズさん。先へ進みましょう」
ざわつく気持ちを落ち着かせるために一呼吸入れても、またアンネに乱される。間者として捕まっていたのに、アンネはリーズンの手を取り進んでいく。
そんなアンネの人懐っこさは、武器で有り弱点だ。まだアンネほどリーズンの事を信用できていない他の面々が、苦い顔をしている。
(なるほど、確かに。自分の事は外からの評価の方がわかる、だな)
アンネは強い。自分が信じた相手の懐に入り、些細な行動ですら見逃さずに評価する。役割や立場ではなく、自分で見た事実を真実として考えられるのは稀有な存在だ。
そして、それを自然な行動としている。だからこそ嫌味がなく、振り回される事すら心地良いと思ってしまう。一緒にいると、次はどんな事をするのかと心が踊る。
「リズさん、どうですか? この辺からだと何かわかりますか」
期待しているかのような、そんな眼差しを向けられる。その期待に、応えたいと思ってしまう。
リーズンは地面に手を置き、空間を把握した。
今いるのは、三方向に分かれ道がある分岐点。三方向ともそれなりに先が続いている。その左の方向に、ゆっくりと動いている何かがいた。
「左の道……あー、範囲外になった。左に何かがいるようだ。距離があって、それが何かまではわからない」
「左ですね、了解です! ささっとパパッと掃除する。邪魔な異物は取り除く!」
リーズンから聞くや否や、アンネが左の通路へ両手を向けて詠唱した。なるほど、これが罠解除の魔法か。
「ちゃんと全方位カバーしました! この先、罠はないですよ!」
「さすがだ。では行こうか」
第二王子を先頭に、アンネ、リーズンと続いていく。リーズンのすぐ後ろにはコナーとザドルがいる。逃げるつもりはないが、万全の布陣だ。
リーズンは土壁に手を当てながら進む。すると、また索敵の範囲内になった。
「前方、左斜め前。ゆっくりと動く何か……この感じは、成人男性だ」
「左斜め前……何もないな。未発見の道があるのか?」
「相手は水属性ですよね? コナー先輩、この壁って魔法でどうにかできるものです?」
「んー……できなくはないと思うけど、相当強い魔法でないと崩せないと思うよ。緊急時の避難経路だし」
「それなら、今回の犯人もテネシィさんみたいに魔法力が優れているのかもしれません。水魔法で土壁を削りつつ、それがばれないように来た道を塞いでいるのかも」
「なるほど、策士だな。各々、警戒を怠るな」
ヴァランタンの廷臣法官は、現場主義のようだ。その場で考え、最善策を捜す。その姿勢は、これまで塩獣を討伐してきたリーズンとも通じる部分がある。会議室で対策を立てた所で、現場で通じなければ意味がない。
「どうやって探し当てましょう? リズさん。犯人はどの方向に行っていますか」
「確認する。……今は右に、いや、左に??」
「ぐるぐる回っているって事ですか?」
「そういう風に思えなくもないが……」
「陽動作戦、ですかね?」
アンネの言葉に、一同が息を呑む。もし本当に何らかの意図があって動いているとすれば、相当頭が切れるという事になるが。
果たして、バクデスの真意は。
▲▲▲
ヴァランタンでの拠点としている家から出たバクデスは、正面に塩獣討伐隊統括長を発見した。その隣にいる男性二人は、その雰囲気からただ者ではないとわかる。
ダクウィンでは実力主義だ。常に出る塩獣の討伐隊は花形で、バクデスも入隊したかった。
が、結果は不採用。
恨みを募らせ、くさくさと過ごしていたある日。バクデスは出会ってしまった。彼の実力を認めてくれる、断罪刻印団の団長に。
――君からは絶大なる力を感じる。どうだろう。君さえ良ければ、私のために動いてくれないか――
他国での連絡係に任命され、潜伏してもうすぐ二年。日雇いの仕事をこなしながら繋いだ、教皇との縁故。
さらに、重要そうな謎の道も発見という副産物もついている。これでダクウィンに戻った時、バクデスの地位は確固たるものになるだろう。
(ふふふ。今頃現場は混乱してるだろうな。団長みたいに余裕のある様子を見せたから)
バクデスは自分の行動に大層ご満悦である。自分が理想とする断罪刻印団の団長の真似ができたという事だけで。
事実は違う。
墓場の隣の小屋は、断罪刻印団に正式入団後の必殺技を考えていたらうっかり破壊してしまっただけ。そして他国の物を壊した事で捕まらないため、後処理をした。
そして、この通路に入ってから追われる事を懸念して魔法で道を作ったら、背後の土が崩れてしまっただけ。
不幸中の幸い。これで追われないぞと思って先へ進めば、現在地がわからなくなる始末。
そう。バクデスは魔法力は強いが、思考力が伴わないのである。
そんなバクデスが、ひたすら進む。そして、ついに道のような場所に出た。
「こいつだ!」
「ヒュルンヒュルンと捕縛せよ! 怪しい人物捕縛せよ!」
「むぐっ……」
詠唱に聞こえる意味不明な言葉が聞こえた瞬間、飛んできた縄に全身をぐるぐる巻きにされてしまった。その縄は、バクデスの口も押さえつける。
「容疑者を連れて行くぞ」
青髪を撫でつけた男の指示により、バクデスは茶髪の男の肩に抱えられた。そして周囲を青髪の青年、統括長が固める。そして黒髪の美少女が指示者の隣に立って歩き始めた。
途中目隠しをされたかと思うと、粗っぽくどこかに下ろされる。目隠しを外されると、美少女の姿が見えない立ち位置で三人の男と統括長がバクデスを睨んでいた。
茶髪の男が前に出て、バクデスの口に噛ませている縄を荒い手つきで外す。
指示者の男が一歩前に出る。
「黒幕はどこの誰だ」
「そんな事、話すわけがないでしょう」
「この状況でまだ余裕があるか。それなら」
「長。おれがやりますよ」
そう言うと、青髪の男が前に出た。そして無詠唱且つ無表情で、バクデスの顔周りに水を発生させる。
「ぼぼすぼおあ!!」
何をするんだと叫んでしまったせいで、水が口から入り込む。途端に息ができなくなり、苦しくなった。
「何か苦しそうな声がしましたよ!?」
美少女の声が聞こえた。人垣をかき分けるように前に出てくる瞬間、水攻め魔法が解かれる。
美少女が、バクデスの傍で膝を折った。
「大丈夫ですか。すぐ乾かしますね。ふわっと仕上げて服乾燥!」
「……女神か」
思わずした発言により、美少女以外の面々から睨まれた。
その後、バクデスは美少女に聞かれるまま答える。ヴァランタンに来た目的、誰と繋がったか。
しかし、その繋がりは証明される事はなかった。教皇が、バクデスなんて知らないと言ったから。
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