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【四章完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第四章 ▲隣国スパイ潜入事件▲

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037件目 状況打破は観察力が鍵らしい


 星渡人誘拐未遂事件が起きた翌日。

 リーズンはその事件の黒幕と思われるバクデスを捜すため、コナーと大聖堂にいた。

 アンネは、天秤宮で内勤中。今日は近衛のスーザンがアンネの傍にいるらしい。第二王子もいるだろうから、危険は及ばないはず。


 常に二人組で動くという廷臣法官の決まりがあり、コナーの相棒ザドルもいるが、一緒にいるだけで喋らない。

 大聖堂に用事がある人々の列から少し離れ、壁際で話す。


「これから行うのは、声通し。事件の容疑者を秘密裏にあぶり出す方法なんだけど、通常は面通しって言うんだ。今回リズちゃんが顔を見てないって事で、声通し。対象は、水属性だっけ?」

「そうだ。しかし、声通しなんてできるものなのか?」

「ある程度の人数は問題ないと思う。ただ予定している所にいなかった時は、ちょっと大変かな」


 第二王子はその立場から、教会関係者であれば顔を知っている。だから訪れただけで相手を警戒させてしまう。

 その点、コナーとザドルはそこまで知られていないのかもしれない。リーズンは言わずもがな。だから、この三人が来た。


「さて、と……属性が絞れているのは良い事だけど、そもそも教会関係者って水属性が多いんだよね」

「確か教皇は、地属性じゃなかったか」

「良く知っているね。珍しいんだよ、教皇が地属性なのは。どこで知ったの?」

「そんなの、暮らしてりゃわかるだろ」

「まあ、それもそうだね」


 何か含みを持たせたような言い方をするコナーに首を傾げつつ、先導するコナーの後に続いて大聖堂内を歩く。

 入口から右に行く廊下の先には、いくつもの小部屋があった。コナー曰く、そこが水属性魔法師達の治療室らしい。奥に行くほど、治療師の中では地位が高いという事になるようだ。


 治療室の扉は各自開けられていて、廊下を進むごとに魔法師の声が聞こえてくる。これならば不審がられずにバクデスを探せるのでは。

 そう思っていたら、奥へ進むにつれコナーに頭を下げる案内役が増えてきた。

 最奥へ行く。そこだけは扉が閉められていた。ネームプレートを見ると、リンガルと書かれている。足を止めたリーズンとは違い、コナーはそのまま通過した。


「リズちゃん、どうだった? 該当の人間はいた?」

「いや、この廊下では聞こえなかったが……」

「そう。それなら他の魔法師を捜しに行こうか」


 リンガルといえば、コナーの姓だ。親族なのに挨拶をしないのかと思いつつ、足を止めないコナーを追う。

 身長差のせいで姿を見失うと、ザドルに礼拝堂へ案内された。聖歌隊の歌声が聞こえる最後部の椅子にコナーが座っている。

 隣に座った。


「……あそこにいるのは、父上なんだ。教皇に心酔していて、長兄が家督を継げる年になってからすぐ大聖堂で暮らすようになった」

「貴族なのに治療をしているのか。立派じゃないか」

「そんなんじゃないよ。父上が担当するのは貴族だけ。それも、教皇に寄付する多額の資金を持った相手だけなんだ。おれが子供の頃から、ほとんど家にいなかった」

「まぁ、その……何だ。ここに長居しないように早々にアンネを誘拐しようとした男を見つけ出そう」

「そこは、おれを慰めてくれる所じゃない?」

「そんな事望んでないだろ。慰めてほしいなら、とっとと仕事をこなしてアンネの所へ行けば良い」

「それは名案だね」


 笑って立ち上がったコナーを見て、ひとまずは大丈夫だろうと思う。

 礼拝堂には水属性の成人男性はおらず、他を捜しに行く。

 身廊を歩いていると、外に繋がる方から十五、六人の集団が近づいてきた。近くにいた教会関係者達は皆、足を止めてその集団の方へ頭を下げる。

 集団の先頭にいるのは、ハプスト。教皇だから皆が頭を垂れるのはわかるとしても、その周囲の取り巻き達はなぜいるのか。

 以前見た時よりも黒いオーラを発しているハプストを見ていると、コナーが一点を睨んでいた。その目線の先を追うと、集団の後方にコナーと面差しが似ている男性を発見。恐らく、この男性がコナーの父なのだろう。


「行こう、リズちゃん」

「あ、あぁ……」


 歩き始めたコナーと、通り過ぎていくリンガルの目線が交わる事はなかった。

 その後声通しを続けたが、バクデスの声は確認できず。今日が休みなのか、それとも不審がられて姿を隠しているのか。

 名前を出せばいるかいないかの判断くらいはできたかもしれないが、第二王子から質問を受けた際告げていない。ダクウィンの事を考えて告げなかったため、今さらその名を出す事はできなかった。


 大聖堂まで来たのだからと、リーズンが密談を聞いた小屋へ向かう。墓場の横を通り過ぎ、小屋があった場所まで行った、が。


「なっ!?」


 小屋は、綺麗さっぱりなくなっていた。墓場はあるのに、小屋だけがない。まるでそこには初めから小屋なんて建っていなかったかのように。


「長から聞いたけど、本当にここ?」

「ここだ! あの墓場の横を通ったし、外から声が聞けるくらい古い小屋が……は?? 一晩しか経っていないんだぞ??」


 リーズンが混乱していると、ザドルが地面に手をついた。なるほど、状態を確かめているのか。

 ザドルの行動を見て我に返ったリーズンも、小屋があった場所に手を置く。他と比べるため、墓場の方の地面も触って確かめた。


「小屋があった所、他よりも湿っている」

「なら、リズちゃんが声を聞いたっていう水属性魔法師がやったんだろうね。それならおれの出番だ」


 そう言うと、コナーは地面に手を向ける。


「大気を巡るマナよ、水属性魔法師コナー・リンガルが命じる。ここで魔法を使った人間の痕跡を示せ」


 コナーの詠唱が終わると、すぐにこっちだと言って進んでいく。リーズンには変化がわからないが、コナーの進み方には確信がある。

 導かれるまま進むと、城まで続く大通りに出た。そしてすぐ横の、一階が店舗になっている建物に入ったようだ。

 通りを挟んだ建物の正面から観察する。


「ここで暮らしているのかもしれないね。こんな大通りの人目がつく場所を根城にするなんて、良い度胸だ」

「それで、どうする?」

「ここで待ちたい所だけど……人の目がありすぎる。一番街南地区の治憲院に報告して監視してもらうように伝えておこう」

「ちょっと待て。一人、出てきたぞ」


 バクデスが潜伏していると思われる建物の中から、青髪の男性が出てきた。監視していた事がばれないように、さっと目をそらす。

 顔を見ていないから本人かどうかわからないが、遠目から見た容姿は声質から想像した三十代くらいに見えた。背の高さもあれくらいだった気がする。


「あっ、動いたぞ。追うか」

「相手はアンネちゃんを誘拐するなんて計画を立てた奴かもしれない。慎重に動こう。リズちゃんは、あいつが声を出すかもしれないから耳を澄ませて。ザドルは、似顔絵を描くためよく観察するんだ」


 コナーは指示を出しつつ、バクデスと思われる人物から目を離さない。

 これは、リーズンに与えられた天の采配だろう。ヴァランタンを守る廷臣法官の実力を測れる。

 尾行されている男性は、大通りを歩いて行く。そしていくつか区画を進むと、さっと路地の方へ入った。そのまま追いかけると、路地の角を曲がる所を目撃。しかしその先へ行っても行き止まり。


「お疲れさまでした」

「この声だ!」


 おちょくるような声だけ残し、バクデスは姿を消してしまった。すぐに上空を確認したが、いない。上に逃げたわけではないようだ。

 どこに行ったのかと周囲を探っていると、コナーがこの場を離れるように言うから、すぐに路地を出る。その際、緊張しているように見えたのは気のせいか。

 その後ザドルがバクデスの横顔の似顔絵を作成するため、一番街南地区の治憲院まで行く。

 しかし、リーズンは見逃さなかった。路地を出る前、ザドルがちらりとある方向を見ていた事を。そしてその目線の先に、不自然な壁があった事を。




 ▲▲▲


「リズちゃん。今日はアンネちゃんも王宮から出ないみたい。このまま午後休みで良いって長から言われているよ」

「そうなのか」

「家まで送るよ」

「別にまだ明るいし、問題ない」

「リズちゃんは女の子でしょ? 女の子を送らないなんて紳士の名が廃る」

「別にコナーがどう呼ばれても関係ないが、優しくするのはアンネだけにしておけ。誰にでも優しいのは恋が実らないぞ」

「肝に銘じておくよ。でも、それとこれは別の話」


 じっと、目の前の人物を観察する。顔に出やすいようで、これ以上断ると逆に怪しまれるかもしれない。そんな風に考えていると見て取れた。


「じゃ、じゃぁ頼んだ」

「頼まれた」


 移動を始める。

 コナーは、今日の出勤の前にレオンハルトから密命を受けていた。

 リズ・マグルトと名乗る護衛が怪しいから探れと。昨日の聞き取りの時に何かを隠していると、仕草から読み取ったらしい。

 もしかしたら誘拐犯と同じグループで、仲違いがあり元仲間を売ったかもしれないと。


 だから密談を聞いた小屋がなかった時、疑った。しかしその後の反応を見る限りでは、同じグループに所属していたとは判断できない。

 ただ、追いかける人物が消えた場所が問題だった。早めにその場から引き上げたが、もしかしたら秘密通路の存在を知られてしまったかもしれない。その通路を使ったら、黒とするしかないだろう。

 コナーは、願った。どうか、通路に気づかないでいてくれと。アンネと仲良くなったと知っているから。




 ▲▲▲


(……アンネ様は、十六歳。それなら、丁度良いだ)


 パルレ国の第四王子の侍女として働いていたキリカ。今回のヴァンラタン入りは、第四王子の護衛を務める魔法騎士から命じられた。

 第四王子が産まれた頃からずっと傍にいる魔法騎士は、御年六十。それでも尚健勝だが、年の影響も出始めた。

 そんな魔法騎士が気にする、第四王子。その立場上、いてもいなくてもさほど変わらない扱いを受けている。それを変えるのが、ヴァランタンに再訪した星渡人だった。


 かつて、モルルモア大戦争のきっかけとなった星渡人。

 近代のアンネは、人柄も容姿も申し分ない相手だった。第四王子よりも四つ年上だが、絶妙な年齢差だ。第四王子は優しすぎるため、年上のアンネに引っ張ってもらう方が良いだろう。

 アンネと過ごして数日。キリカはそんな結論に至っていた。


 キリカによる分析によれば、アンネは人が良い。情に訴えればヴァランタンから出る決断をしてくれるかもしれない。

 しかし、それを良しとしない国がある。

 出会った初日から強者の空気をかもし出す、リズの存在だ。貫禄ある態度に思わずキリカは出身国を告げてしまった。しかし、リズはどこから来ているのか言わない。リズという名前も、もしかしたら偽名の可能性がある。


 少なくとも、リズからは歴戦の猛者のような気配を感じ取っていた。常に戦わなければいけないような、ヴァランタンから近い国。それはダクウィンではないか。

 パルレからすると、山を二つ越えなければいけない国。風の噂で聞いた話では、常に魔獣が出てくるのだと言う。

 護衛選抜試験で全く歯が立たなかった。物理的に勝負を挑んでも、叶うわけがない。キリカが勝負できるのは、気配の操作だ。長所を生かし、リズの目をかいくぐるしかない。


 ▲▲▲







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