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【四章完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第四章 ▲隣国スパイ潜入事件▲

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036件目 本当の悪人は夜に動くらしい


 複数の目で夜を警護をする。それならばこれから、夜は情報収集に当てるべきだ。

 そう考えたリーズンは、王宮を出てハプストの自宅へ向かう。

 アンネが言っていた、ハプスト村。それと同じ名前なのは何かあるのかもしれない。アンネは、そこでも命を狙われたと言っていた。


「兄貴。これでようやくオイラ達も断罪刻印団ジャッジメントシールの一員になれるって事っすよね」

「ああ。これから話を聞きに行く、バクデスさんからの任務を成功させればな」

「今から楽しみっすね。兄貴が幹部になっても、オイラはついて行くっす」


 時刻は酒場が栄える時間帯。酒でも入っているのか、リーズンが密入国した時に借りた幌馬車御者の二人組が大声で話している。

 断罪刻印団。リーズンがヴァランタンに来た二つ目の理由だ。

 尾行されているなんて微塵にも思っていない二人組の後をついて行く。向かった先は、何と大聖堂だった。もしかしたらここでハプストとも繋がるのかと思ったが。

 二人組は、大聖堂の横の道へそれていく。そこは墓場のようで、隣接されていた小屋に入っていった。

 入口とは反対側に回り、窓越しに中の様子を窺う。


「誰にもつけられていませんね?」

「あたぼうよ! これでもダクウィンの最前線で塩獣ザルソイ狩りをしてきたんだ。気配には敏感だぜ」


 建物が古いらしく、隙間から声が聞こえてきた。その内容に訝しんで二人組の兄貴と呼ばれた方の顔を見る。

 リーズンは、討伐隊統括長を勤めていた。全隊員を覚えてはいないものの、最前線にいたのならば覚えがあるはず。そう思ったが、蝋燭に照らされるほど光る頭は全く見覚えがない。


 最前線、という考え方は二通りある。誰よりも前で戦う、文字通りの内容。もう一つは、最前線のグループにいた物資供給係というだけの話。

 筋肉の付き方は、隊員に近い。しかし塩獣は野生の魔獣。人間が本調子の時に来てくれる訳じゃない。だから最前線にいたのならば尚の事、万が一に備えて酒を飲まないはず。

 歴戦の隊員ならば酒を断つ事は習慣になっている。それが例え、ダクウィンから離れているとしても。


「ほう、塩獣の。それなら期待できそうですね」

「おう! 期待してくれや。それで、任務は!?」


 バクデスと呼ばれた青髪の男は、リーズンがいる窓に背を向けている状態だ。だから先の発言をどんな顔で言ったかわからない。

 もしこれが禿頭男が言ったまま信じるような相手ならば、リーズンにとっては排除しやすいという事になる。


「これはとても難しい任務です。あなた方であっても、達成できるかどうか……」

「断罪刻印団に入れるんだ! どんな難しい任務だってこなしてみせるぜ」

「では、その心意気を見せてもらいましょうか。任務は、星渡人の誘拐です」


 バクデスがした発言に、耳を疑った。断罪刻印団がなぜアンネを必要とするのか。


(……なるほど。箔付けか)


 星渡人は、戦争を引き起こすほどの魅力がある。千百年前は時空を操る力を持ち、アンネもまた、特異な力を持つ。バクデスが神殿関係者として潜伏しているのなら、情報も得やすいだろう。

 特異な力を持つ星渡人を手中に収めているとすれば、各国も迂闊に手を出せなくなる。ましてや、今の星渡人はアンネ。つまりは女性だ。子供なんてできた日には、断罪刻印団の影響力はモルルモア大陸全土に及ぶかもしれない。


 やはり天が味方についている。

 そう感じてしまう。アンネが誘拐される前に捕まえてしまえば、戦争も回避できる。

 二人組は捕まえやすそうだ。しかしバクデスは、そう簡単ではないとリーズンの直感が告げている。

 ハプストには及ばないが、悪人のオーラがしっかりと出ている相手だ。二人組は、王宮内の警備状況を確認するための捨て駒の可能性が高い。

 で、あるならばリーズンがやる事は一つ。二人組が王宮に到達する前に捕まえる事。そしてそのまま、兵士に突き出せば即牢屋行き。しばらくは出てこられないはずだ。


 窓から様子を窺う。バクデスが窓に近づいてるのを見て、さっと移動する。

 窓が開けられる音がした。


「……ふむ。気のせいでしたか」


 バクデスは、あの二人組よりかは気配を読めるらしい。見つかるようなヘマはしなかったが、もしキリカならばれていた。それぐらいの、実力。

 リーズンは小屋から離れ、二人組を追った。



 やはり禿頭男は、最前線のグループにいただけのようだ。

 物陰に隠れて周囲を窺う様は、見ていて滑稽ですらある。間もなく雨が降り始める時間だ。当然人も歩いていないし、身を隠す必要もない。こうしてリーズンが物陰から二人を観察しているが、そんな警戒すら必要ない。

 さっ、さっ、と動きだけは派手に隠れる姿を、弟分の男が手を叩き褒める。

 これは、遊びと見せかけてリーズンは誘い出されているのだろうか。そんな疑いすら出てくる。


(……さて、こいつらはこの後どうするんだろうな)


 リーズンは身体能力を生かし、高低差のある崖も城壁も登った。しかし二人組はそんな事はできないと思える。

 城門までは、上り坂一本。身を隠せる場所もない。

 二人組は、坂にかかる前の最後の建物の影から出られないでいる。このまま放置しても害はないように思うが、小さな芽も摘んでおくべきだ。


「あ、兄貴……どうするっす?」

「くっ……夜ならば警備の数も減ると思ったが、俺の読みが甘かったようだっ」


 実は、観劇か何かを見せられているのかもしれない。それほど大仰な仕草で大声で話している。それでも、門の兵士にまでは声が届かないらしい。坂の下を覗き込むような動作は見えなかった。

 二人を気絶させる事はできる。しかし、それを兵士達の所にまで運ぶ事はできない。禿頭頭は筋肉がついていて、重そうだ。

 方法を考え、実行する。


「大地に眠る地のマナよ、土属性魔法師リーズンが命じる。男二人を窪みに嵌め、坂上まで運べ」


 詠唱後、地面に両手をつく。ボコッと盛り上がった地面が、二人組の周囲まで及ぶ。くるりと一周したかと思うと、段差を作った。

 二人組は、まだ気づかない。

 地面についた手をくるりと回すと、二人組を捕らえている窪みが一段深くなる。くるり、くるり。合計五段分深くなり、ようやく気づいたようだ。


「あ、兄貴!? 何か変っすよ! 周りが見えないっす」

「慌てるな。こんな時こそ冷静な判断が必要だ」

「兄貴……さすがっす!」


 何が「さすが」なのか全くわからないが、もしかしたら禿頭男よりも弟分の方が能力は高いのかもしれない。

 リーズンが地面から手を浮かせると、窪み分だけ少し浮く。件の場所には穴ができてしまうが、後で埋めれば良い。

 窪みの中で騒ぐ二人組を、門の近くまで運ぶ。


「よしっ。分析したぞ! この壁は土だ。だから俺のうなる拳をぶつければ……ってえ!! 何だこれ、超固いぞ!?」


 だだ漏れの声を聞きながら、合わせて窪みを強固にする。普段から身体能力を魔法で上げているリーズンからすれば、そんな事は朝飯前だった。


「兄貴! おいらもやってみるっす! 兄貴は、この後の星渡人誘拐まで力を温存してくださいっす!」

「(はい、終了)」


 弟分が決定的な言葉を告げる頃、リーズンは門の前に到達していた。土の塊の中から聞こえる声と、それを操るリーズン。騒がれると思ったが、呆気にとられていたらしい。

 しかし兵士達は、中から聞こえた声に反応して剣に手を添えている。そして一人が、肩当てを外して上空へ投げた。それから少し間を置いてから、上空が昼間のような明るさになる。閃光弾だろうか。


 こんな仕組みもあったのかと思っていると、予測通り雨が降ってきた。発動は早いが解除するまでに時間がかかるリーズンに、ここでも天が味方をしたようだ。

 土塊の解除をしつつ、雨に当てる。リーズンが解除をするよりも早く、土の窪みが浅くなっていく。


「やっと、解放、され……え?」

「星渡人誘拐未遂で捕縛する」


 兵士二人に剣を突きつけられる二人組。そして、城内から次々と兵士達がやってきた。

 なるほど、危険を察知してやってきたのか。

 想像していたよりもしっかりとした仕組みになっている。その仕組みに感心していると、第二王子もやって来た。


「マグルト嬢。話を聞きたい。こちらへ来てもらえるか」

「わかりました」


 第二王子の後に続き、門の近くにあった部屋に入る。そこは普段兵士の詰め所として使われているのか、防具立てや剣立てが置かれていた。

 兵士達が行き交う気配がわかる付近に、机を挟んで向かい合って座る。


「あの二人組は?」

「自宅へ帰ろうと思った時、大声で話しているのを聞いて捕まえました」

「アンネ殿の誘拐を、大声で?」


 大声で話していたのは断罪刻印団の事だがそれはダクウィンの事情。話す事でリーズンも間者として捕まると思い、問われた事に対して頷くだけにする。

 その間をどう取ったのか。第二王子はリーズンを観察するように目を向ける。その圧力は強く、思わず目線をそらしてしまった。


「そうか。では黒幕がいるはずだ。犯罪行動を声高に叫ぶような輩が、誰かの指示なく動くわけがない」

「大聖堂の隣にある、小屋の中で話をしていました」

「大聖堂? マグルト嬢の自宅はそちらなのか」

「あ、いや……自宅に戻る途中、大声で話しているのを聞いて、追跡した結果というか」

「なるほど。その黒幕の姿は?」

「教会関係者のような出で立ちで、水属性持ちでした」

「年は?」

「声の感じからすると三十代くらい、かと」

「協力感謝する。雨が降り、もう夜も遅い。今日は城内で寝ると良い。手配するように伝えておく」

「あ、どうも……」


 必要な情報を得ると、第二王子は部屋から出て行った。

 これでバクデスも捕まるだろう。そう思っていたが、翌日になってもその一報は届かなかった。




 ▲▲▲


 雨が降り人々が眠る深夜。ハプストの家の戸が叩かれた。深夜の訪問者に、ニヤリと笑う。

 相手を待たせるようにゆっくりと玄関へ向かい、扉を開ける。


「ようこそ、おいでくださいました。王太子殿下」

「誰に聞かれているかわからない。ここでその呼称は止めてくれ」

「これは失礼しました。では、畏れ多くもリュカ様と。わしの事は先導者とお呼びください」

「許可する。それで、この手紙の内容は事実なのか」

「お話ししましょう。まずは、応接室へ向かいましょうか」


 優秀な第二王子の影に隠れる、王太子。立太子できたのは、単純に早く産まれたからだと言われている。

 何もしなくても時期がくれば王となるが、弟の功績と周囲が比べていると聞いた。四属性持ちという稀少さだけでは、周囲が次代の王とは認めない。

 だから、焦る。何か功績を残そうと。

 だから、誘った。四属性持ちだからこそできる事があると。


(ふっふっふ。星渡人の登場で少々予定は狂ったが、わしの栄華は約束されたようなもの)


 悦に浸りながら、王太子を応接室へ通した。そこで、作ってほしい魔道具の図面を見せる。


「噴煙噴射機? これで、本当に私がレオンよりも認められるのか」

「これだけではありません。いくつか、作って頂きたい物があります。リュカ様でないとできないのです」


 持ち上げるように言うと、王太子は満更でもなさそうな顔になった。

 王太子を見送る。ローブを被った瞬間、王太子の姿が消えた。


 ▲▲▲


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