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【四章完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第四章 ▲隣国スパイ潜入事件▲

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035件目 星渡人の脅威はこれらしい


「アンネ殿はしばらく、天秤宮での内勤を頼む」

「わかりました」

「今日は精神的に疲れただろう。午後は休むと良い」

「ありがとうございます……」


 この後の護衛は頼んだと任され、リーズンも頷いた。

 落ちこんでいるように見えるアンネを、どうしようかと思う。今ならば弱っているし、キリカも休みでいない。もしいたとしても、リーズンが間者だと知っている。星渡人は各国にとって脅威で、排除を止められる事もないだろう。

 そう、思うのに。リーズンはその行動に出られないでいた。


(……今は、時機が悪い。それだけだ)


 自分の中で今やらない理由を挙げ、アンネの隣に座る。


「命を狙われるのは、初めてか」

「……危険だな、と思う事は多々ありました。植木鉢が落ちてきたり、階段の手前で滑ったり。でも、死を想像してしまったのは初めてです。ハプスト村の時は自覚がなかったので」

「ハプスト? 今、ハプストと言ったか」

「はい。ヴァランタンの東端の村です」

「(……偶然か?)ハプストというのは、ありきたりな名前なのか」

「どうでしょう? そこまでこの国の事情に詳しい訳じゃないので」

「それなら、星渡人については? アンネはどういう存在なんだ」

「わたすも、知りたいだす!」


 二人きりだと思っていた応接室。私服のキリカが突然現れた。どうやらキリカは、気配を読む事も消す事も得意らしい。

 気配を読めなくて、毎回驚かされる。


「キリカさん。どうしたんですか? 今日はお休みですよね」

星渡人ほすわたりびとの事を話すと聞いて、わたすも知りたいので手を上げますた」

「聞いて……? あれ、キリカさんはいつからこの部屋に??」


 リーズンですら驚いたのだ。アンネもキリカの気配を全く感じていなかったらしい。

 キリカはパルレの間者。休みを利用して情報収集していたのかもしれない。


「おはなすするなら、準備すてきます。お待ちください」


 そう言って、キリカは来賓室を出て行く。何の準備かわからないが、すぐには戻って来なかった。

 星渡人の事を知りたがっているキリカが来る前に話すのもどうかと思い、戻るまで待つ。すると制服に着替えたキリカが、ワゴンを押して戻ってきた。上には、アップルパイとティーセットが置かれている。


「おまたせすますた。アンネ様、ひとまずこれを食べてください」

「ありがとうございます。これは、キリカさんが?」

「えぇ。だすが、アンネ様は今大変な状況なんだすね。調理過程全てに監視がつき、身体すんたい検査も受けて冷めてすまいますた」

「あぁ、それなら……ふわっとサクサク、出来たてほやほやに!」

「おぉお!? すごいだすね、アンネ様のお力は」


 アンネが詠唱すると、シナモンの香りが鼻に届いた。切り分けられていたアップルパイをキリカから受け取る。早速食べてみると、中のリンゴが蕩けて熱かった。


「リズさん。目上の人から食べるものだす」

「気にしなくて良いですよ、キリカさん。美味しい物は美味しい内に食べないと。キリカさんも食べましょう?」

「いぃえ。わたすは侍女だすから、そういう訳にはいかないだす」

「侍女ってのは面倒だな」


 あっという間に一切れ食べて、次のピースに手を伸ばす。ぴしゃりとキリカに手を叩かれた。


「せめてアンネ様が食べてからだす」

「良いじゃねぇか。美味いぞ、キリカのアップルパイ」

「わたしもいただきます。気遣ってくれてありがとうございます、キリカさん」

「アンネ様……」


 キリカが来賓室に潜んでいたとすれば、アンネが命を狙われているという事も聞いていただろう。そんな状況で労われ、キリカが感動しているように見えた。

 リーズンが五切れ、アンネが一切れ食べた後キリカが紅茶を入れる。常温の紅茶を一口飲んだアンネが話し始めた。


「星渡人というのは、違う世界から来た人間の事を言います。特にヴァランタンでは、黒髪黒目の人物を指します」

「違う世界? それはどういう事だ?」

「神様の導きによって、違う星からこちらの世界へ呼び寄せられるようです」

「なるほどな。だから星を渡る人間って事か」

「星渡人には、わたしもそうですけど特別なスキルが与えられるみたいです」

「前回の星渡人は? どんな力だったんだ」

「以前の人は、時空を操れたみたいです。首都から東端のハプスト村に行くための転移街に馬車で行けば二週間ほどかかりますが、それを十分ぐらいで繋ぎます」

「二週間を、十分……!? そんな事、あり得ない!」

「わたしも構造はわかっていないので、体験した時はすごいなと思いました」


 二週間を十分で繋げる時空操作。そんな事をされたら危険すぎる。

 そこまで考え、ふと疑問に思う。


「……そんな芸当、ヴァランタンが一強じゃないか。それなのに、どうしてモルルモア大戦争は起こったんだ?」

「言われてみれば、確かにそうですね。当時の文献が残っていれば良いですけど……レオンハルトさんにあるかどうか聞いてみます」


 アンネが移動するため、リーズンもキリカもついて行く。

 天秤宮で事務仕事をしていた第二王子に伝え、王宮内図書室まで案内してもらった。司書に伝えた後、第二王子は仕事に戻っていく。

 閲覧席で待つように言われ、三人で待つ。

 そして、司書は一冊の分厚い本を持ってきた。貸し出しは禁止のようで、図書室で読まなければいけないらしい。

 アンネが開き、座った椅子を隣に寄せてリーズンも覗く。細かく書かれた文字でうんざりし、ふいっと目をそらした。キリカは、どんな情報を得られるのかと立ったまま目を輝かせている。


「えぇとですね……この本によると、千百年前のヴァランタンは、星渡人が来たと各国に自慢したみたいですね」

「……自慢? まさか、それが戦争の引き金になったってのか」

「星渡人は異文化をもたらし、国を新たな方向へ導く存在だそうです。それで国の発展を望むあまり、星渡人を周辺国へ派遣したみたいですね」

「つまり、権力を得るために使われたのか」

「そうかもしれないです。……あぁ、これなら戦争も起きちゃうかも」

「何だ? 何があった?」

「星渡人が星を渡って一年は、星渡人の様子を見るために神様と星渡人が繋がっている状態だったみたいです」

「神様に直接願いを言えるんだ。それは確かに、星渡人を求めて戦争になるな」


 星渡人が戦争を引き起こした。

 事実からすれば、それは間違っていない。しかし、星渡人は巻きこまれただけ。人々の、黒い欲求に。


「アンネも今、神様と繋がっているのか」

「それはないと思います。この本の記述をかみ砕いてみると、以前の星渡人は転移者だったみたいなので」

「テンイ者? どういう事だ」

「えぇと、転移というのはある程度年を重ねてからこちらにやって来るという事ですね」

「?? どういう……」

「んー……以前の人が来た瞬間の事が書かれている訳じゃないので想像ですけど、神様が作った魔方陣とかそういうやつで異世界に来ちゃうやつですかね」

「それは……突然人が失踪したら大事件じゃないか」

「そうですね。前の人はどうだったんだろう。こういう転移者に選ばれる人って、天涯孤独な人が多いんです」


 アンネは当たり前のように話す。

 もしそれが事実だとしたら、アンネがいた違う世界は異常じゃないか。


「……アンネは、神と繋がっていないんだよな?」

「そうですね。わたしは、前世の記憶を成人の儀で思い出しました。でも、それまでずっとこの世界で生きてきた記憶もあります。だから転移ではなく、転生だったと思います」

「テンセイなら、繋がっていないのか」

「産まれてすぐくらいなら、繋がっていたかもしれないですけど。もう十六歳ですから。とっくに神様のとの交信は切れていると思いますよ」

「……そうか」


 アンネの話を聞き、リーズンはホッとした。

 それがなぜかと考えるまでもない。アンネと共に過ごせば、アンネが悪人ではないとわかる。星渡人を排除せねばと思っていたから、それを実行できない理由を探していた。

 神と繋がっていないのであれば、戦争の引き金にはならないだろう。そう思っても、その事実を各国は知らない。


「前回の扱いを考えると、このままこの国にいるのは危険なんじゃないか」

「んー……それはどうですかね。今ヴァランタンは、戦争を引き起こした責任を償うために努力している最中です。前回のようにはならないと思います」

「責任って、具体的には何を償うんだ」

「それが、わたしも教えてもらっていないんですよね。わたしが聞いちゃうと、解釈が変わっちゃうらしくて」

「アンネの話だと、アンネ……というか、星渡人が関わる話なのに、その内容を聞かされていないって事か? 怪しくないか」

「え、怪しいですか」

「秘密にするって事は、それだけアンネに負担がかかるって事じゃないのか。もしかしたら、生け贄としてアンネを捧げろという話かもしれない」

「えぇ……。そんな怖い話ですかね」

「神が関わっているんだ。あり得ない話じゃない」


 星渡人に秘密にする理由。それはどんな内容であれ、当事者のアンネにとって不都合だからだ。

 特殊な力を持ち、相手の懐に違和感なく入り込む。見目も良く、裏表のない性格。これが、星渡人の脅威だ。

 こんな、権力を欲する人間にとって「善良な」星渡人。神と繋がっていなくても狙われる。


(……いっそのこと、ダクウィンに連れて行くのはどうだ)


 ゼルヴァンに事情を話せば、匿ってもらえる。その後アンネの力に頼らなければ、星渡人欲しさに傍に置いているなんて言われないはず。

 そう思ったが、すぐに否定した。

 気配を消す事も読む事も得意な、キリカがいる。キリカの対策を考えなければ、実行はできない。

 星渡人を得る事は、国を栄えさせる事。ヴァランタンも黙っているはずがない。リーズンがアンネを連れて行く事で、第二次モルルモア戦争を引き起こす可能性もある。それは、避けるべきだ。


 平和的交渉ができれば、全ては解決する。しかし、それができない。

 アンネは善人だが、星渡人は脅威だ。アンネの命が狙われている今、迂闊に離れられない。


「そういえば、あたしは夜帰るだろ? 夜の護衛はどうしているんだ」

「夜は近衛や兵士の皆さんが、交代で見回ってくれているみたいです」

「そうか。それなら安心だ」


 アンネは今、誰から命を狙われているのか。

 第二王子と一緒にいるからと嫉妬に狂う令嬢程度なら、まだ心配はいらない。アンネも言っていたように、何度も見かけて一回行動するぐらいだから。

 問題は、今日のような命を狙ってくる相手だ。怪我なんかで軽く済ませる気がない。確実に殺そうとしている。それは、相当の恨みを持っているという事だ。

 キリカと話すアンネを見る。

 アンネ自身は、そこまで恨みを買うような人間ではないはずだ。だとすれば、アンネではなく星渡人に恨みを持つ人間か。


 考えてはみたが、以前の星渡人がいたのは千百年前。そんな前の事を恨むような人間はいない。しかし、アンネは実際に襲われている。


(……調べてみる必要がありそうだ)


 その後そのまま三人で過ごし、アンネを部屋に送り届けたリーズンは王宮を出た。







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