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【四章完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第四章 ▲隣国スパイ潜入事件▲

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033件目 勤務地の確保ができたらしい


 どこにハプストの監視の目があるかわからない。だから提示されていた一番街東地区三番の二階の正面、四番の四階を拠点とした。これで、リーズンのすぐ後ろを尾行されない限りは、三番の二階に住んでいると誤魔化せるだろう。


 借りたばかりの部屋には新品の寝袋以外は何もない。ヴァランタンにやってきた最大の目的はアンネの抹殺。それができれば良いのだ。

 危険から守るための護衛が、まさか命を狙ってくるとは思わないだろう。その油断を突く。


「城内の警備も頭に入れておかないとな」


 逃げ道の確保、警備状況。それらを調べるには大変だと思っていたが、まさしく天の采配。専属護衛だそうだから、近くにアンネがいれば怪しまれる事もない。

 朝からの勤務のため、リーズンは寝袋に潜り込んだ。




 城へ行くと、まず制服として白無地の上下服を渡された。服の大きさを確かめ、後日別の制服が支給されるらしい。

 護衛対象となるアンネの事を知る。それが、一日目の仕事。

 いや、さすがに緩くないか。

 そんな事を内心で思いつつ、衝立の奥で制服に着替える。


「リズさん。ちょっと良いですか」

「何か?」


 声をかけてきたアンネは、衝立からぴょこんと顔を出す。その目線が、リーズンの胸元へ行っている気がした。

 条件反射で、思わず胸を隠すように腕を置く。


「あぁ、すみません。じろじろと見てしまって。リズさんは護衛として任命されていますが、そのお胸で問題ないですか」

「問題、とは」

「ご自身の身体なので動かし方はお手の物だと思うんですけど、動く時に枷にならないですか」

「そんな事、考えた事もない。いらないと言った所で、何もできないでしょう」

「動きづらいという事ならば、わたしに案があります!」


 ちょっと待っていてくださいと言ってどこかへ行ってしまった。いや待て、護衛対象! と叫びたかったが、生憎リーズンは着替えの最中だ。衝立から飛び出す事を躊躇ってしまった。

 ババッと着替えてアンネを捜して部屋を出たら、扉の前でぶつかる。


「リズさん! お待たせしました。中へ!」


 生き生きとした顔を見せるアンネは、衝立の奥へリーズンと一緒に入った。アンネは巻かれた状態の包帯を両手に持つ。


「ぎゅぎゅっときゅっと胸押さえ、形状記憶で快適に!」

「(……は?)」

「これでサラシができました。使い方はですね、端を持ってリズさんの胸の辺りにピッと当ててもらうと包帯が勝手に身体に巻きつきます」


 意味がわからない。内心の声を出さなかったのは奇跡だ。

 意気揚々と包帯を持ったまま、アンネは何度も素振りしている。それが手本を示しているのだとわかるが、あんな詠唱があってたまるか。


「あれ、リズさん? 聞こえてますか」

「あ、あぁ……」

「はい、どうぞ。わたしは部屋にいるので、やってみてください。苦しい場合にはサラシと胸の間に指を入れてもらえれば、余裕を持った感じになるようにしました」


 リーズンに包帯を渡したアンネは、衝立から出て行く。

 渡された包帯を手にしたまま、リーズンらしからぬボーッとしていた。そんな時、突然背後に気配を感じてそちらを見る。


「リズさん。星渡人ほすわたりびとの力は、不思議ふすぎだす」

「うわっ。キリカ、いたのか」

「気配を消すのは、得意なんだす」


 どうやらキリカも制服に着替えていたらしい。ついさっきまで全く気配を感じなかった。いつからいたのか。

 衝立の中から出ていったキリカは、昨日見た時よりも肌つやが良かったように見えた。あの言葉からすると、その効果はアンネの力という事になる。


(……人体に影響及ぼすほどの、水魔法、か? しかし、渡されたこれは何属性になるのかさっぱりわからない)


 モルルモア大陸全土で共通しているのは、水、火、風、土の四属性。その法則に縛られないのが、星渡人なのかもしれない。

 未知すぎる星渡人の事は、もっと知っていかなければいけない。

 とにもかくにも、実験してみる事にした。上を脱ぎ、渡されていた包帯の端を持つ。そして手本で見せられていた時のように、胸に向けて包帯を当てた。


「ッ!?」


 その包帯はまるで意志があるかのように、ぴったりとリーズンの胸元を隠した。ぎゅっと胸を押さえられているが、苦しくない。

 それどころか、十二を超えた頃から共にあった胸の容量が減っている。足首の方まで見えた。


「マジか……」


 苦しくない、というのが一番驚愕だ。普段通りの呼吸ができるのに、長年見続けた光景が変わる。

 リーズンからすれば、得体の知れない魔法だ。こうして実験してみたからこそわかる。

 今回は特に害のない魔法だったから良かったものの、もしこれが攻撃だったら? 毒を染みこませた布だったら?

 アンネからは悪人のオーラを感じない。だから油断してしまうが、これは安心して良い技術じゃない。


 不審に思いつつ衝立から出ると、アンネがパッと笑顔を見せた。


「どうですか、リズさん。違和感はないですか」

「違和感がない事に驚きだが……いや、驚いていますが」

「わたしは気にしないので、話しやすい話し方で良いですよ」

「それは、助かる」

「わたすも、助かりますた。訛りは、直せるものだもないのだ」

「特徴があって良いですよね」


 キリカが、アンネと談笑している。いつの間にそれほど仲良くなったのか。訛っているのは素だと言っていたが、それが作戦なのかもしれない。

 田舎者が、まさか星渡人のアンネの事を探っているなんて思いもしないだろうから。


「リズさんにとっては長年一緒にいた身体なので、今は違和感がなくても身体を動かす時は違うかもしれません。運動場に行ってみますか?」

「そうだな。試してみよう」

「では、キリカさんも一緒に行きましょうか」


 女三人連れ立って、アンネを先頭に運動場へ移動する。昨日、運動能力を見た試験会場だ。


「アンネちゃん! どうしたの?」

「コナー先輩! 非番ですか」

「いや、午前だけね。午後からは街の巡回が入ってる」


 アンネと楽しそうに話すコナーは、リーズンやキリカの事など一切見ない。様子からするとアンネの、同僚か。

 ひとしきり話した後、アンネがリーズン達の方を見た。手招きされ、キリカと二人で近づく。


「先輩、紹介します。わたしの専属護衛のリズさんと、侍女のキリカさんです」

「専属って事は、出張先での事?」

「あの時はレオンハルトさんやスーザンを初め、守ってもらえたので問題なかったんですけど……ここ最近、危ない目に遭う事が多くて」

「アンネちゃんは特別な存在だからね。国を挙げて守らないと」

「んんー……やっぱり、自分でも身を守れるように考えないとダメですよね。迷惑をかけてばかりです」

「別に、迷惑なんかじゃないでしょ。それが仕事だから」

「それは、そうかもしれないですけど……」


 一度話すと長い。コナーが話の先を促すのが上手いのかもしれない。というよりも、アンネと話していたいだけの可能性もある。

 コナーとアンネの関係性について推察していると、アンネがリーズンの方を見た。


「リズさん、キリカさん。こちらはわたしの先輩、コナー・リンガルさんです」

「どうも。コナーって呼んでください」

「はぁ……」


 握手を求められ、首を傾げる。

 今はアンネの魔法のおかげで、今までのように胸元にコナーの視線が行かない。それを不思議がっていたら、コナーがキリカへ手を差し出した。ぺこっとお辞儀をしただけのキリカを見て、どこか居心地が悪そうな顔をする。

 胸元を見なかったコナーに不義理だと思ったが、握手を求め直すのは今さらだ。軽く頭だけ下げておいた。


「それで、今日はどうしたの?」

「あ、はい。リズさんが身体を動かすって事でこちらに来ました」

「ふうーん……そっか……」


 コナーが、ちらりとリーズンを見る。それは今まで受けてきた下心があるような目じゃない。しかしそれ以上に、馬鹿にされているような気がした。

 ここで騒ぎを起こして注目される訳にはいかないため、口角を上げつつコナーを睨み上げる。


「何か?」

「いや……リズちゃんってさ、こう……」

「背が低いから何もできないと?」

「い、いや、そういう訳じゃないんだ」

「それなら、どういう意味だ?」


 コナーが背の高さを表すような手の動きをした。それがカチンとくる。

 リーズンは、ダクウィンで塩獣討伐隊統括長を勤め上げた。男社会の中の頂点にいたのだ。リーズンの事なんてコナーが知る由もないが、これまでの功績を馬鹿にされたのでは黙っていられない。


 一発決めるか。

 そんな物騒な事を思っていたら、コナーが急に頭を下げた。


「ごめん! 見た目でリズちゃんを判断していた」

「先輩、リズさんはすごいんですよ! 護衛選抜の結果を聞いたら、体力も組み手も複数対人戦も、全部一位だったんですから!」

「へえ。それはすごいね」

「そうだす。リズさんはすごいんだす!」

「同じ試験を受けたキリカちゃんが言うなら、そうなんだろうね」


 キリカまで参戦してきた。

 褒められる事になれていないリーズンは、照れを隠すためにコナーに宣言する。


「あたしの実力、自分で確かめてみるか?」

「いや、止めておくよ。女の子と戦うなんてできないから」

「ほぉ? それは残念だな? アンネにかっこいい所を見せられないな?」


 リーズンが挑発するように言うと、コナーがピクッと反応した。やはり、コナーはアンネに気があるようだ。

 職場内恋愛なんて面倒な事をよくやるなと感心する。

 ひとまず運動場に来た目的を果たそうと、柔軟を始めた。すると、コナーがリーズンの横に立つ。


「長から許可は出ているし、できる時にアンネちゃんにアピールしておこうかな。協力してもらうよ」


 許可って何の許可だと思いつつ、柔軟を終えたリーズンはコナーと向かい合う。

 キリカがアンネを誘導し、運動場の端まで行った。


「レディファーストでどうぞ」

「ちなみに、魔法は?」

「ご自由に。ただ、おれも死にたくないからね。命に危険がないもの限定にしよう」

「了解した」


 先手必勝! とばかりに、リーズンはパンッと合わせた両手を地面に当てる。ぐらりと地面が揺れ、コナーの身体が傾ぐのが見えた。

 その隙を逃さず、低い姿勢で近づき足払い。靴の下に水の足場を作っていたコナーはその動きをかわし、流れる水のようにしなやかな動きでリーズンの背後を取った。

 コナーの動きを追いながら身体の向きを変えたリーズンは、攻撃しようと大股で近づいたコナーの軸足の脛を爪先で蹴る。


「ッ!?」

「勝負あったな」


 脛を押さえて蹲るコナーは、降参したというように両手を上げた。

 拍手喝采をしながら、アンネが近づいてくる。


「リズさん、すごいですね!!」

「これぐらい、朝飯前だ」

「いや、本当にすごいよ。女の子だと思って甘く見ていた」

「それはどうも」

「身体の感じはどうでした? いつも通り動けました?」

「問題なく。それどころか、視界が良好だった」

「それは良かったです」


 リーズンに負けた事が悔しかったのか、アンネに良いところを見せられなかったからか。

 コナーはアンネに軽く声をかけて運動場から出て行った。







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