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【三章完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第三章 「四季禁忌」ハプスト領内乱事件

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028件目 老翁の固執


 レオンハルトさんの左手をじっと見る。


「これは、王族の直系且つ男系にのみ現れるものだ。青の葉が現れているのは、神々との契約を満たしている項目だ」

「手の甲に直接描かれているみたいですけど……痛みはないんですか」

「全くない。一歳の誕生日を迎えると、この模様が現れる」

「四つ葉で、一つは達成済み。他の三項目は?」

「……申し訳ないが、残りの項目をアンネ殿に伝える事はできない。なぜならば、内容を聞いた事によってアンネ殿が受け取る考えに偏りが生まれるからだ」


 わたしが聞く事によって、解釈が変わっちゃうのかな? なかなか面……大変そうな契約みたい。


「では、達成済みの青の項目の内容は?」

「これは、『戦争を犯した罪を償い、民を飢えさせない事』という項目になる」

「飢え……この村はどうなのでしょう? 他にも同じような場所があるかもしれません」

「この項目が達成されていると神々が判断しているのならば、問題ないのだろう。貧困の問題はあっても、それが直接生死に関わるほど深刻ではないと」

「なるほど……神々というのは、太陽神ソゾン様と月女神ルーナント様という事ですか」

「そうだ。その神々と、以前の星渡人が来た時にされた契約という事になる」


 レオンハルトさんが冗談を言うわけはないと思うし、何より顔が真剣そのものだ。それなら、この話は事実なんだと思う。

 そしてその契約がたぶん、レオンハルトさんが声を荒げた理由。


「その契約は、どういう物なんでしょうか」

「この契約を全て履行する事で、神々の怒りを静めると伝えられている」

「神々の怒り……。わたしの前の人がいた時の事、教えてもらえますか」


 レオンハルトさんが知る伝承曰く。

 星渡人という制度は、神々が人へ与える褒美のような物。二~三百年に一度、モルルモア大陸のどこかに送られる。ようは、その周期で転生者が現れるって事だね。


 星渡人は異文化をもたらし、国を新たな方向へ導く存在。だから前の人の時、国は総力を上げて歓待した。前の人も日本人だったみたいで、その歓待に戸惑ったみたい。

 レオンハルトさんが口ごもる。たぶん、その先を聞いたら解釈が変わっちゃうって部分なんだと思う。


「えぇと、教えていただいた情報だけで考えると、星渡人を巡って戦争か何かが起きたって事ですかね? 神々の使徒を困らせた、みたいな」

「……ヴァランタンが、当時の大戦争を引き起こしたとされている。その戦争はモルルモア大陸全土を巻きこむような争いだったとされ、その責任を取る形となったらしい」

「責任……もしかして、四季がないのも深夜から朝方に絶対雨が降るのも?」

「そういう事になる。春ぐらいの気候が残されたのは、神々による慈悲だ」


 星渡人。星を、渡る人。確かにそれは、神様くらいの大きな力が介入しないとできないと思う。

 神々によって封じられた、四季。つまり。


「四季に関わる魔法が、ダメだという事ですね」

「厳密に言えば少し違う。今を生きる人々はモルルモア大戦争の事を知らない。ただ、王族と神殿だけは伝承を続けている」

「でもハプスト村みたいに、星渡人を悪とする場所があるのなら、四季を悪とする場所もあるかもしれないって事ですか」


 レオンハルトさんが気まずそうに頷く。

 人の口に戸は立てられない。ハプスト村のように、子々孫々受け継がれる考えがあるかもしれない。そんな場所に、わたしの魔法がばれてしまったら。そしてそれをきっかけに、かつての大戦争が再び起きてしまう可能性もある。

 今まで自由にオノマトペ魔法を使えたのは、ただ四季を思い起こさせるような内容じゃなかったからだ。


「あれ、でもそうすると廷臣法官は大戦争のを知っているって事ですか? 前にザドルさんがいる前で、夏の太陽光線ってやりませんでしたっけ?」

「カンカン照りの太陽光線、というやつか? あれは夏の事なのか」

「わたしは聞き馴染みのある言葉ですけど、こちらではそういう表現をしないですかね」


 日本はオノマトペ大国だからなぁ。それも、四季があるから表現が豊かになったのかも。


「あ、それならもしかして、わたしが王宮で隔離されていたのも、あの月桜が春を連想させるからですか」

「なるほど。報告で聞いてはいたが、あの花は春の物なのか。あの時は単純に、これまで記録されてきた魔法の中にはなかったスキルだという事と、アンネ殿の見た目だ。黒髪黒目は、星渡人と伝えられているから」

「わたしの前にいた人が、ヴァランタンにとって初めての星渡人だったんですか」


 わたしの問いに、レオンハルトさんが頷いた。それなら黒髪黒目ってだけで大聖堂に移動させられたのもわかる。

 モルルモア大陸の全土って把握できていないけど、音の響き的にはユーラシア大陸って感じかな? そうすると多くの国がある。そんな中で一回目も二回目も星渡人が日本人だなんて、ヴァランタンと縁があるのかもしれない。


「これまでアンネ殿に注意事項を言わず、すまなかった」

「オノマトペで表現できる幅を知らなければ、対策もできません。教えてくれて良かったです」

「花畑があるだけならば、そこは群生地というだけ。住人がいる場所での群生は確認されていない」

「なるほど、わかりました。それなら、月桜も解除した方が良いですよね」

「月ザクラが大聖堂の中庭で出されたため、国民にその存在は知られていない。あの場所に入れるのは限られた人間だけだ」


 教えてもらった事にホッとする。オノマトペで出しちゃうくらい、桜の花は日本の心を思わせる。それを消さなくて良いなら、それに越した事はない。

 今後は、紅葉とか雪とか、四季っぽいのは避けよう。


「お話、わかりました。これからスキルを使う時、四季に関わらないような物を考えますね」

「そうしてもらえると助かる」


 左手に新しい白手袋をしたレオンハルトさんと外へ出た。


 ロゴスさんに案内され、オルディちゃん達の元へ行く。今日はオルディちゃんの家の近くで作業をしているみたいで、ベッドにいるニュイカさんも製作に携わっているみたい。

 そこに、新しい仲間も加わっていた。仕立て屋の男性は、ティルトさんと言うらしい。構想として考えていたけど、やっぱり普段から服飾の事を考えている人は違うね。簡単な作り方を教わっただけで、鞄を作れるみたい。

 変わる事を受け入れたのか、初めて会った時とは違って表情が豊かだ。刺々しい雰囲気もない。


「アンネさん、お話は聞きました。おれも作ってみたんですが、どうでしょう?」

「良いと思います」

「このまま素朴な見た目も良いですが、着色をしたら購入層の幅が広がると思います」

「なるほど。確かに」


 ティルトさんと商品談議をしていると、マルケスさんが遠くから様子を見ていた。このまま竹で様々な品物を作れるようになったら、村を活性化できると思う。それは、マルケスさんにも実感してほしい。

 そういえばティルトさんはマルケスさんの所へ配給品を持っていっていたっけ。


「ティルトさん。マルケスさんの事、何でも良いので教えてもらえませんか」

「何でもと言われましても……」

「変わる事は怖い事じゃないと、マルケスさんにも知ってもらいたいんです。マルケスさんの考えを変えられるような……ご家族の話とか、趣味の話とか」

「家族と言えば、ストイにマルケスさんの娘さん夫婦が営むパン屋がありますよ」

「……マルケスさん、独身じゃなかったんですね」

「奧さんを亡くしてしまってから、娘さんと仲が悪くなってしまったようで。村の思想とも合わず、出て行かれました」


 マルケスさんを説得するためには、その娘さんに協力してもらった方が良いかもしれない。

 そんな風に思っていると、ティルトさんが実に有益な情報をくれた。マルケスさんの娘、ケリィさん夫妻が営むのは、馬車乗り場の近くのパン屋さんだと。


「もしかして、五歳くらいの女の子がいるお店です!?」

「そうですね。それくらいだったと思いますよ」

「情報、ありがとうございます!」


 ティルトさんから聞いた情報を持って、レオンハルトさんの元へ行く。レオンハルトさんは手先が器用みたいで、竹紐ぐらいの細い竹を使って熊の編みぐるみ……じゃなくて、竹ぐるみを作っていた。

 竹紐はオノマトペでやっていないけど、応用力があるな。そんな事を思いつつ、作業が終わったらしいレオンハルトさんと相談する。


「……なるほど。そういう事ならば、伝令鳥を飛ばそう。アンネ殿は、シトロン侯爵令嬢の時のような物を出してもらえるか」

「わかりました」


 コウモリ型カメラを出し、レオンハルトさんが出した伝令鳥と一緒にストイへ飛ばす。休みなく飛んでいったその二つは、その日のうちの夕方に伝令鳥だけ戻ってきた。

 正確に言えば、レオンハルトさんの物とは違う伝令鳥だ。魔法師がアフロなのか、飛んできた伝令鳥も頭がアフロになっている。


「準備が整いました。マルケスさんの所へ行きましょう」


 竹で製造する作業も、今日はここまで。可変派にまた明日と告げて、わたし達はマルケスさんの家へ行く。

 外に二人の近衛が立ち、中にはロゴスさんとレオンハルトさんが一緒に入った。


「何じゃ何じゃ。こんな大人数で押しかけよって」

「マルケスさんに、変化の結果を見てもらおうと思って」


 白い壁じゃなかったから、こちら側で映す方のコウモリ型カメラのサイズを変える。その様子に驚くマルケスさんだったけど、映された映像を見て言葉を失う。


「あれ、これって普通に話せば良いんですか」

「そうです。そのまま話して下さい」

「わっ、本当に話せるんだ」


 ケリィさんは表情が豊かな人だ。見ていて飽きないけど、やりたい事はそれじゃない。

 画面の下の方で、ちょろちょろと髪の毛が動いている。


「ケリィさん。マルケスさんに紹介してあげてください」


 声をかけると、ケリィさんが小さな女の子を抱き上げた。膝の上に乗せてもらったのか、女の子ドアップが映し出される。


「コリンナ、それは玩具じゃないの」


 バシバシと叩かれている。コリンナちゃんは元気な子だね。

 ちらっとマルケスさんを見れば、顔が緩んでいた。でもわたしが見ていた事に気づいて、さっと表情を引き締める。


「お父さん。村に籠もってばかりいないで、ストイに来たら? コリンナとも触れ合いたいでしょ?」

「ふ、ふんっ。そんな軟弱な生き物なぞ知らん」

「それならそれで良いけど。えっと、アンネさんでしたっけ? これで言われた事は達成できましたかね?」

「はい。ご協力ありがとうございました」


 コウモリ型カメラを終了させる。

 その瞬間、マルケスさんが名残惜しそうに画面があった方を見たのを見逃さなかった。


「マルケスさん。ストイに旅行へ行くのはどうでしょう? 馬車で行って、その乗り場に近いパン屋さんで何か買ってみてください」

「ふんっ。そんな戯れ言など聞かぬ」

「わたし達もハプスト村に来る前に買って食べましたけど、とっても美味しかったですよ」

「……この偽善者め。目的を果たしたのならばさっさと出て行け」


 マルケスさんはわたし達に背中を向けてしまった。その背中は、どことなく小さく見える。これ以上は出しゃばりすぎだと思い、マルケスさんの家を出る。


 それから二日経ち、可変派が少し増えた頃。

 ハプストさんが帰ってきた。





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