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【三章完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第三章 「四季禁忌」ハプスト領内乱事件

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027件目 神の否定は極悪人


 ディアマンディさんの屋敷を出た。少ししてから、屋敷内から次々と使用人達が駆けていくのが見える。

 ディアマンディさんが指示をしているみたいで、貯蓄食糧と思われる物を村に配るみたい。ディアマンディさんの声は良く通る。だから何をしているのかすぐにわかった。


 視線を向けていると、ディアマンディさんから貴族として行動しているからそれを報告しろという顔をされる。きっかけはどうあれ、村のために動いてくれたんだったら報告しておこうか。


 そう思ってレオンハルトさんを見ると、柔らかな表情をしていた。何を見ているのかと視線の先を追ったら、井戸から汲んだ水を運ぶ少年がいる。木桶を上下に動かしているから、筋トレの一環としてやっているのかも。

 こうして村の内部から変わっていけば良いなと思っていたけど。


 バキッッッと不穏な音が聞こえてきた。少年が桶を置いてその音の元へ駆け寄る。レオンハルトさんと頷き合い、現場へ向かう。


「変化は神の意志に反する!! そんな事もわからないのか、このクソガキが!!」

「待ってください!!」


 オルディちゃんを殴ろうとしていた老人の腕を、少年が止めた。でも反対側の手で殴り飛ばされてしまう。

 すぐに駆け寄る。


「大丈夫?」

「べ、別にこれくらい、問題ない」

「後で腫れちゃうね。ソイルさん、この子に治療をお願いします」

「ガキ扱いすんな! おれはテッドって名前があるんだ!!」

「そうか、ごめんね。テッド君、オルディちゃんを守れて偉かった。男の子だね」


 頭を撫でようとしたら、パシンと弾かれてしまった。これも子供扱いだって怒らせちゃったかな?

 苦笑しつつ、テッド君をソイルさんの所へ連れて行く。竹籠を壊されてしまったオルディちゃんを抱き上げて老人から距離を置いた。


「ごめんな、さい。お姉さ、のカゴ……」

「大丈夫だよ。材料はまだあるから、また作れば良い。お手伝いしようと思ったんだね。偉いぞ」

「お主だな? 外からやってきて村の事情なんて知らずに引っかき回す奴は」


 剣呑な空気を隠そうともしない老人。確か仕立て屋の男性が、マルケスさんと呼んでいたかな。


「引っかき回すなんて思っていないです。村が良くなればと思って」

「この偽善者め。じゃから星渡人は悪なんだ」


 レオンハルトさんが前に出ようとする。でもそれを手で止めて、マルケスさんから話を聞く。


「どうして星渡人は悪だと思うんですか」

「神は変化を望まない。神の意志に背いた結果が、この村じゃ」

「でも、ハプスト村ではずっと考えが二極化していると聞きます。それは、変化を求める人がいるからじゃないんですか」

「若い内は未知の物に憧れるのじゃろう。じゃが成長する内に、現実を知る」

「星渡人を否とする考えで統一されているなら、まだわかります。でも若い人が憧れるのは、誰かがそういう噂を流しているからじゃないんですか」

「そんな事は知らぬ」


 変化は悪。だから原因も探らないって事?


「お主が行う事は、全て無駄だ。村の問題を解決できる訳もない。そうしてまた、村は時を重ねていく」

「そんな事はないです! 変化する事は良い事だってわかってもらえたら!」

「星渡人は悪。それは変わらぬ。前の星渡人は流通を変えて放置。そしてお主は変化をもたらして放置するのじゃろう? お主の力は、まるで遅効性の毒のようじゃ。新しい事を示し、知識を秘匿して優越感に浸っているのか」

「そんな事は……」

「お主の決意が確かならば、証明してみせよ。村内でくさくさしている者達の考えを変えてみるが良い。どうせ何も変わらないじゃろうがな」


 マルケスさんはそう言い放つと、ふんっと不機嫌そうに笑って家の中へ入ってしまった。


「マルケス氏は昔からこの村にいる。氏が村内の変わりたくない派閥の筆頭と言えよう。彼を納得させられれば、村の内乱も収められるかもしれない」

「なるほど……なかなか、手強そうですね」

「お姉さ、ん! わたし、覚える!」


 レオンハルトさんと話していたら、オルディちゃんが挙手をしてくれた。覚えるのは竹籠かな。


「力仕事が必要なら、おれも協力する。身体も鍛えられるしな」

「オルディちゃん、テッド君……。ありがとう。そうだよね、このままじゃ村の雰囲気も暗いままだしね!」

「まずは何をするか決めよう」

「そうですね……やっぱり村に産業があれば活気も出てくると思います。タケニタケで色々やってみましょうか」


 竹籠一つとっても、色々とやり方がある。前にレオンハルトさんが言っていたみたいに、組み合わせ方によってデザインも変わるよね。

 それに、形。深めにしたり、鞄もできるかも。今は製作しやすいように全ての項目を飛ばせるオノマトペでやっちゃっているけど、村の産業にするならそれも見直した方が良いかもしれない。


「お姉さ、ん! 教えて!」

「私も教わろう。村へ広めるには指導する人間は多い方が良い」

「わかりました! ひとまず、基本から!」


 レオンハルトさんに預けておいた魔道具を受け取り、切り倒しても問題無さそうな竹を切っていく。その作業に目を輝かせたテッド君にも使ってもらうと、楽しいけど筋トレができないと言われた。

 ある程度材料が集まったら、基本の竹籠作り。七人での作業は、多いと思っていた材料もすぐになくなっちゃう。材料を追加した時の継ぎ目の処理とか、小さな笊のように大きさを変化させたりとか。適宜やり方を伝える。


 作業をしている内に時間が経って、周囲が暗くなってきた。また明日作業をしようと約束し、完成した物をそれぞれが持って帰路に着く。


「レオンハルトさん。思ったんですが、産業とするにはタケニタケの量産が必要かもしれません」

「そうなると、領主の許可が必用だな。タケニタケは繁殖力が高すぎる。今はまだ人が暮らせているが、量産となるとタケニタケを生産する場所が必要だ。植え方を間違えると人が住めなくなる」

「あと、今は工程をすっ飛ばしちゃっているんですけど、製造の幅を広げようと思うとそれだとダメだと思うんです。ある程度はオノマトマトぺでどうにかするにしても、すっ飛ばしちゃっている工程を組み込める設備が必要だと思います」

「なるほど。それも領主が戻ってから相談してみようか」


 相談しながら領主の館へ戻る。夕食を取り、部屋へ行く。

 スーザンに夜番を頼み、また明日からの作業にワクワクしながら就寝した。




 翌朝。

 朝食を取っている最中から、外が騒がしかった。手早く朝食を済ませ、レオンハルトさん達と一緒に外へ行く。


「変わらない村の安寧を!」

「二度と被害を被らない!」

「何もするな、さっさと出て行け!」


 昨日は静かだった村人達が、何人も集まっている。マルケスさんに聞いたのかな。

 話すため前に出ようとしたけど村人達から守るように、レオンハルトさんや近衛達が立ってくれている。

 人の壁に守られたわたしからは見えないけど、レオンハルトさんが今、睨みを利かせているのかな? 壁の隙間からは、先頭の人がたじろいでいるように見えた。


「と、とにかく、もう昔のような状態になるのは嫌なんだ」

「でも、昔から村は二極化してますよね?」

「そんなの、若い内だけだ。年を取っていけば村に馴染む」

「あなた方は、なぜ村が二極化しているか知っていますか」

「知らねえよ。昔からそうなんだ。外から人が来なければ、俺達はそれなりにやっていけているんだ」


 外から人が来る事が刺激になっている。それは、わかるけど。そもそも二極化していて村の雰囲気が悪いから、こうして視察に来る。

 村人達が変化を望まないのなら、なぜ星渡人や村の外に憧れる人が絶えないんだろう。


 考えこんでいる内に、殺伐とした雰囲気の村人達がいなくなっていた。

 内乱、と言っても村内に暴力が蔓延している訳じゃない。初めこそ石を投げられたけど、今思えばそれも当たらないように調整されていたような気がする。村人同士なら助け合ってもいるし。

 いっそのこと、変わりたくないのならその方向で統一できれば良いのかもしれない。そうすれば少なくても、村内の問題は収まる。

 こうして、外から人が来る事もなくなるよね。


 でも、それはつまらなくない? 朝晩がある事は否定しないのに、変化は恐れる。

 そんなの、何もできなくなるじゃん。朝晩みたいに、変化する事が当たり前になれば良いんだけど。


 村人達の考えを改めてもらうためにはどうすれば良いのかと思っていたら、館の壁際にひっそりと咲く野花が目に入った。

 こういう、何の変哲もない植物が転機になるんじゃない? 野花でも花が増えたら気持ちも華やぐような気がするし。

 んー、そうするとオノマトペは何になるかな。


「ふわりふわりと、ほころりよ。小さな命を広げてく」


 野花に手を向けて詠唱をすると、優しい風が吹き始めた。その風が吹くたびに、野花がポンッ、ポンッと咲いていく。


「アンネ殿! 今すぐ、その魔法の解除を求める! 四季の想起は危険だ!!」

「えっ??」


 今まで、わたしが使う魔法でレオンハルトさんが反対する事なんて一度もなかった。

 わたしが困惑している間にも、ポンッと野花が増えていく。よくわからないけど、レオンハルトさんの様子がおかしい。指示に従った方が良いかもしれない。

 起点となる野花に手を向けて魔法解除をした。でも増えてしまった野花達は咲いたまま。


 レオンハルトさんを見たら、今まで見た事がない形相で咲いてしまった野花達を摘んでいく。捨てる事は忍びなかったらしく、異空間に仕舞った。

 作業を終えたレオンハルトさんの手は、土で汚れている。特に左手だけにしている白手袋は真っ黒になってしまっていた。


「レオンハルトさん。手袋の替えはありますか? 汚れちゃいましたね」

「手を洗うついでに替えようか。アンネ殿。その後に話があるから、部屋まで来てもらえるか。ロゴスは、昨日の二人に午後から行くと伝えてくれ」

「かしこまりました」


 真面目な話があるのかもしれない。レオンハルトさんは先に館の中へ戻った。

 わたしも追うように後に続く。


 レオンハルトさんが使っている部屋まで行ったけど、残っていた近衛の二人は扉の外で待機するみたい。

 どんな話をされるのか、ドキドキしながら待つ。


 レオンハルトさんが綺麗な手袋を鞄から取り出し、左手に持った。

 あれ? つけ直さないんだね。てっきり、何か見せたくない何かがあるのだと思ったけど。

 レオンハルトさんに勧められ、斜向かいでソファに座る。


「先程は声を荒げてすまなかった」

「い、いえ……レオンハルトさんがそうするなら、それだけ重要な事があったんだと思います」

「理解してもらい、痛み入る。説明するよりも、まず私の左手を見て欲しい」


 差し出された、レオンハルトさんの手の甲。そこには四つ葉の模様があり、その内の一枚だけ青く塗りつぶされている。

 残りの三枚は、緑、赤、茶色の枠だけ描かれていた。







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