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【三章完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第三章 「四季禁忌」ハプスト領内乱事件

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025件目 求めるのは違う事


「夜は、寝るべきだ!」


 至極当然の主張が繰り返される。

 まるで拡声器を使われているみたいだ。声の主を捜してみたら、平屋の影から緑髪の男性が現れた。なるほど、風に自分の声を乗せて遠くまで響かせているんだね。


「アンネさん、気をつけてください。あの人、ストイの治憲院にいた時、見た事があります」


 エイダさんから教えてもらい、ずっと同じ主張を続けている男性を見た。前世で言う不良みたいな格好をしている。いや、前世でも見ないかな。あんなリーゼント。


「あの男が言うように、もうじき暗くなる。領主の館へ戻ろう」

「放っておくんですか」

「今の段階では、あの男を罰する事はできない」


 エイダさんと別れ、領主の館へ戻る。近衛も全員来ているけど、エイダさんは何かされないかな。

 心配になって振り返ったら、拡声器男がついて来ていた。良かった。エイダさんには被害がなさそう。


「これは、つきまとい行為にはならないんですか」

「現段階では何とも。領主に用事があると言われるだけだろう」

「くっ……絶対に何かしてきそうなのに」

「犯罪を犯していない者を罰する事はできない。そして、犯罪を犯すように動くのも駄目だ」

「そうですよねぇ……そういう理由で、潜入捜査の是非を討論しました、し?」


 あの時はそのまま深く考えなかった。国家権力の介入はダメだって話しだったのに、特に責任を問われていない。

 ハッと気づく。


「レオンハルトさん……すみません、今理解しました。今回のハプスト村出張は、潜入捜査をしたからですね?」

「アンネ殿の領分ではない」


 否定しなかった。

 という事は、本来は禁止されている潜入捜査を陛下が命じた事にしたんだ。それで親子間では不適切かもしれないけど、「貸し」ができたという事じゃない?

 これは、ますますハプスト村の内乱をどうにかしないと。

 決意をし直し、領主の館へ入る。最後にまた振り返ったら、拡声器男がニヤリと笑ったような気がした。


 夕食を済ませる。すると、ハプストさんが数日家を空けると伝えてきた。料理人は置いていくという事だから、今後の食事も問題ない。

 各自部屋に戻る。スーザンが待っていてくれたけど、スーザンも疲れ切ったような顔をしていた。


「スーザン。夜、どうしようか」

「そうですね……アンネ様の安眠のためにも、あの迷惑な男を処分するしかないのでは」

「待って待って。そんな物騒な事はしないで。ただ騒いでいるだけだし、もう少ししたらいなくなると思う」


 夕食を取っている間も、今も、拡声器男は同じ主張を繰り返す。魔法が使われているからか、建物の中に入ってもその騒音は小さくならない。

 このまま続けられてしまったら参っちゃうけど、さすがにあの人も夜は寝るはず。だって、そうするように自分で主張しているんだもん。


「また明日もあるから、わたしは寝るね。おやすみ、スーザン」

「お休みなさい、アンネ様」


 万が一建物内に侵入されたとしても、スーザンがいるから大丈夫。

 そう思ってベッドに入ったけど、拡声器男の主張は止まらない。全く同じ主張を繰り返す。

 このままじゃ寝られないから注意をしようとベッドを出た。


「アンネ様。私も一緒に行きます」

「ありがとう」


 二人で部屋を出る。すると同じタイミングでレオンハルトさんも近衛の三人も出てきた。


「あの男への交渉は私が行おう。アンネ殿はグラディア卿と一緒に部屋で待機していてくれ」

「いいえ、わたしも廷臣法官です。交渉の現場を体験させてください。スキルでも何か協力できるかもしれません」

「そうか。それなら、私の前に出ないように」

「わかりました」


 レオンハルトさんなら、あの拡声器男問題を解決してくれるだろう。

 そう思って、レオンハルトさんの後に続いて外へ出た。


「当然の事を主張して何が悪い! 国は民を犠牲にするのか! 言論の自由を保障しろ!」


 これはあれだね。自分の主張はするけど他人の話は聞かない人だ。周囲への迷惑を考えずに声高に主張して、注意も受け付けなくて、軽犯罪で捕まったのかも。

 学ばない人だね。それも相手は廷臣法官長のレオンハルトさんだ。同じ事をしたら再犯って事で重い刑罰を下されるのに。

 面倒なタイプだ。その証拠に、あのレオンハルトさんが交渉に手間取っている。男の主張は続き、終わりそうにない。

 安眠のためにも、早く主張を終わりにしてもらわないと。


「レオンハルトさん。わたしがやってみます。ささっとやってしまうので。その後はお願いします」

「アンネ殿の力であれば、それも可能か」


 レオンハルトさんが半歩後に下がった。

 許可が出たって事で、早速オノマトペを考える。

 お口にチャック的な事を考えていたら、あのニオイがした。甘く焦げた、煤けた油のようなニオイ。気になったけど、今はそれよりも拡声器男の主張を止める事が優先だ。

 男性に手を向ける。その時、男性が突然ポケットに手を入れた。何をするのかと思いつつ、詠唱をしようと口を開ける。


瞬速の魔弾アポカリプス・ブリッツ!」

「っ!? ケホッ……」


 すぐ横にいたレオンハルトさんですら反応できない速度で、何かがわたしの口の中に入った。口の中で風が渦巻くからすぐに吐き出そうとしたけど、すでに呑み込んでしまったのか咳しか出ない。

 喉の奥が熱風に焼かれてているみたい。


「暴行罪で現行犯逮捕する!」

「あっひゃひゃっ! 後はこれを噛み砕けば!!」


 拡声器男が突然狂気じみた笑い声を出したかと思うと、レオンハルトさんがわたしを抱きしめた。


 え、何?? どういう事??


 レオンハルトさんは着やせするんだな、なんて呑気な事を思っていたけど。

 レオンハルトさんが謝罪しながら離れる。ランタンの明かりに照らされ泡を吹いて倒れている男性の周囲に、いくつか暗褐色の玉が転がっていた。ブレスレットでも着けていたのかな。

 それよりも、今の状況だよ。もしかして、わたしにこの人が死ぬ瞬間を見せないために抱きしめられた?


 え、何それ?? ドンナ状況!?


 思わず片言になってしまうほど、現状を理解できずに首を傾げるばかりだ。

 でもレオンハルトさんは至極冷静に、村の墓地への埋葬を指示している。ロゴスさんとウィグネスさんが死体を運んでいく。


「アンネ殿。すぐに治療を開始する。ソイルも準備を開始しろ」

「ち、治療ですか??」

「犯人は自害してしまったが、その間際に何か口へ入れられただろう? 風の魔力がその何かを包んでいた。今の所症状は見受けられないが、体内に入った異物は早めに出さないといけない。何か体調に異変はないか」

「呑み込んじゃった瞬間は喉が焼かれているみたいでしたが、今は平気です」

「ソイル。アンネ殿の意見も加味し、治療を頼むぞ」

「かしこまりました」


 四人で移動する。

 ベッドに寝るように指示され、従う。


「治療に移ります。アンネ様は体内の血流を意識し、私が流す魔力と同調をお願いします」

「ちょっとソイル! そんな説明じゃアンネ様がわからないじゃない! アンネ様。身体の中で何か違和感があっても、それを拒絶しないでもらえたら問題ないです」

「あれ? 二人は姉弟?」

「アンネ殿。二人の血縁関係よりもまずは治療が優先だ」

「あ、はい」


 レオンハルトさんに注意されてしまった。それぐらい、当事者感がない。普通に話せているしね。

 ソイルさんが寝ているわたしに手を向ける。


「大気を巡る水のマナよ、水属性魔法師ソイル・グラディアが命じる。アンネ様の体内の異常を捜せ」


 詠唱が終わると同時に、体内を巡る冷たい感覚が始まる。これが、ソイルさんの魔力って事だね。

 あっ、もしかしてソイルさんがやっているような事ができれば、自分でも治療できるんじゃない?

 確か、魔力を流して異常を捜すんだよね。全身をスキャンする感じ?


 口に出さなくても魔法の効果を出せるのは実証済みだ。だから何も問題なくできると思ったんだけど。


「異常を検知! アンネ様、いけません!!」

「カハッ……え?」


 吐き気みたいなものを感じて身体を起こしたら吐血した。その影響か、喉が焼けるように熱い。口元を拭った手に血がついた。


「アンネ殿!?」

「アンネ様!?」


 レオンハルトさんも焦るなんて珍しいなと思っていたけど、喉の熱がまだ消えない。口から空気を入れるのもつらかった。


「アンネ様、身体を横にしてください」

「ソイル!? ちょっと、どういう事よ!? 説明しなさい!!」

「姉上、少し黙ってください」


 鼻呼吸はできる。だから深く息を吸って気持ちを落ち着かせた。姉弟のやり取りで、ちょっとほっこりする。


「アンネ様、先程異常を検知しました。魔法を使おうとされましたか」

「そうです。内側と外側からやれば早いかと思って」

「お話になれるという事は、今は異常がないですか」

「あ、そうみたいです。さっきまでは口を開けたらつらかったんですけど」

「アンネ様の喉に異常を検知しました。それを取り除きますので、口を開けてまた横になっていただけますか」

「わかりました」


 ソイルさんの指示に従う。体内から異物を取り出す詠唱をした後、わたしの口から水に包まれた何かが出てきた。

 異物の周囲を水で固めたソイルさんが、それをレオンハルトさんに見せる。


「暗褐色……まさか」


 レオンハルトさんが慌てたようにベッドに乗り、わたしの額や手首に指を当てる。


「あ、あの??」

「はっ。すまない。アンネ殿の脈が正常かどうか確認させてもらった」

「レオンハルトさんもそういう事ができるんですね」

「本格的な治療は単一属性しかできない。私は複合属性のため、できるのは脈の確認だけだ」


 異常なしと診断したのか、レオンハルトさんがベッドから降りる。

 レオンハルトさんがあんなに取り乱すなんて、何かあるはず。そう思って聞くと、少し躊躇ってから話してくれた。


「王宮内連続窃盗事件の犯人を覚えているだろうか」

「はい、もちろん。テネシィさんですよね」

「アスドート伯爵令嬢は母上と話した後、毒で死んだ」

「死……? え、いやいや、おかしいですよ! あの時、テネシィさんは暗褐色の指輪を外したじゃないですか!!」

「ああ。だから油断していた。しかし検死官によれば、死因は毒だそうだ」

「え?? 何で……」

「そして先程の男の死因も、恐らく毒だ。暗褐色の玉を口にしたのだろう」


 突然言われた事に混乱する。二人の死因とされる暗褐色の部品がわたしの中から出てきたから、レオンハルトさんは焦ったんだね。

 暗褐色の部品が風に包まれていたから難を逃れたのかもしれない。噛んでいたら、今頃生きてはいなかったかも。


「陛下からの勅令ではあるが、ここは危険だ。警護が十分な王宮へ戻ろう」

「……いえ。わたしは大丈夫です。ハプスト村の内乱を解決しましょう」


 本音を言えば、怖い。気合いを入れるための拳も震える。でもここで帰ったら、わたしが来た意味がない。


 わたしが、星渡人とハプスト村の因縁を止める。







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