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【三章完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第三章 「四季禁忌」ハプスト領内乱事件

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024件目 勇気は人を成長させる


 配給が終わり、片付けを始める。レオンハルトさんが次の配給時期について魔法師に伝えているみたい。

 レオンハルトさんが終わるまで待っていようかなと思ったら、女性と目が合った。最初は驚いたみたいだったけど、軽く拳を握ってずんずんとわたしに近づいてくる。

 何か話があるのかと思っていたら、レオンハルトさんがさっと前に出た。


「何か?」

「あ、あ、あ、あああ、のっ」


 レオンハルトさん、もしかして今、眼光が鋭い感じ?

 女性は顔面蒼白になって汗を大量に流している。あのままじゃ倒れちゃう。そうなる前に、レオンハルトさんの後ろから顔を出す。


「どうかしましたか」

「あ、あの……」


 やっぱり、何か言いたい事があるみたい。ちらりとレオンハルトさんを見るけど、鋭い眼光が飛んできたのか、短い悲鳴を上げる。

 うーん……これは、男性が苦手な感じかな?

 身体を震わせながらも、この場から動かない。いや、動けないのかな? どちらにせよ、この女性から話を聞いた方が良さそう。


「レオンハルトさん、三歩ほど下がってもらえますか。その距離なら、すぐに対処できると思うので」

「三歩? わかった」


 レオンハルトさんとの距離が開くと、女性はホッとしたように表情が少し柔らかくなった。


「申し訳ありません。この距離以上は離れられないんですけど、あなたのお話はわたし以外に聞かれても大丈夫ですか」

「は、はい……ありがとうございます」


 グッと右手を左手で包む仕草をしている。まるで、何かから自分の身を守ろうとしているみたいだ。

 立ったままなのも疲れちゃうかと思って、領主の館の前にあった平たい石に座ってもらう。二人くらいは余裕で座れそうだったから、わたしもその隣に腰を下ろした。レオンハルトさんや近衛達は、一定の距離を空けてくれている。


「あ、あの……あなたが村に来てから、ずっと見てきました。あたしも、変われるでしょうか」

「もちろん。こうして、勇気を出して話しかけてくれたじゃないですか」


 可変派に前向きな女性だ。まだ二十代に見えるし、未来も明るい。


「もしも何か悩みがあるなら、お話聞きますよ?」

「ありがとうございます……」


 女性は、エイダと名乗った。二十四歳だそうで、バツイチみたい。


「あたしは、元々ストイで暮らしていたんです。幼なじみが商人をしていて、三年前に結婚しました」

「元旦那さんとは、どうして?」

「……あたしが、何の取り柄もない平民だったから、だと思います。商売を続ける内に貴族様と知り合い、捨てられました」

「酷い……。そんな人、別れて正解でしたよ」

「……結婚する前までは、あの人も優しかったんです」


 エイダさんの語り口に、不穏な気配を感じる。


「……結婚してから、あの人はあたしに暴力を振るうようになりました」

「それは、許せませんね。でも、廷臣法官に訴えてくれれば対処できたと思います」

「……何度も、訴えました。ですが聞き入れてもらえませんでした」

「そんな……」


 思わず、レオンハルトさんを見る。

 レオンハルトさんは、廷臣法官長だ。市民からの訴えを無視するような廷臣法官は、厳しく注意してほしい。

 わたしの願いが届いたのか、レオンハルトさんはエイダさんから少し視線をそらして聞く。


「失礼。貴女がいたのは、ストイのどの地区だ?」

「っ……ひ、東地区、ですっ」

「了解した。東地区の治憲院だな。当該の職員には厳しく注意する。名前や特徴を覚えているか」


 エイダさんはぶるぶると震えながら、わたしの後へ隠れるように移動した。

 エイダさんの視界にレオンハルトさんが入らないように抱きしめ、背中を擦る。


「エイダさん。レオンハルトさんは、廷臣法官長です。エイダさんの訴えを無視した廷臣法官のトップです。きちんと注意をしてくれますよ。だから、エイダさんを苦しめた廷臣法官の事を教えてください」


 わたしの腕の中で震えていたエイダさんは、ぽつりぽつりと答え始めた。わたしぐらいにしか聞き取れないような小声だったけど、その特徴をレオンハルトさんに伝える。


「報告、感謝する。その者達には、厳重注意をしておく」


 レオンハルトさんがすぐに伝令鳥を作る。そして何か伝えた後、誰かに向けて飛ばす。ケビンさん辺りに連絡して、職務怠慢な人をリストアップしておくのかな。


 エイダさんに目を戻すと、まだ震えていた。

 きっと、元旦那さんからの暴力を思い出しちゃったんだ。それぐらい、男性が怖いんだね。

 エイダさんが少しでも落ちつけるように、背中を擦る。


「アンネさん……ありがとうございます……」

「男性がみんな、元旦那さんのように暴力的な人なんかじゃないですから。少しずつ、慣れていきましょう。特に、ここにいる人達はみなさん紳士的な人ですよ」


 震えが小さくなったエイダさんに見えるように身体をずらす。

 レオンハルトさんもロゴスさんも、他の二人の近衛も柔らかい表情を作る。レオンハルトさんは少しぎこちないけど、エイダさんから悲鳴は聞こえないから問題ない。


「……ストイの人が、皆さんみたいな人だったら、あたしだって犯罪者にならなくて済んだかもしれないのに」


 エイダさんの発言を聞き、レオンハルトさんが断りの言葉を告げてわたしの手を引いた。近衛の三人も剣に手をかける。


「ちょ、ちょっと待ってください! 皆さん、冷静に!」


 一気に臨戦態勢になった四人に声をかけ、わたしはレオンハルトさんの前に出る。心配する声が聞こえたけど、エイダさんの前まで戻った。


「エイダさん、まだわたし達に伝えていない事がありますよね? ゆっくりで良いので、話してみてください」


 見上げるエイダさんの隣に腰を下ろし、話しやすいように軽く微笑む。

 すると、エイダさんが話してくれた。


 曰く、結婚してから変わってしまった暴力元夫の事を、治憲院に訴えていたらしい。ストイは転移街で発展している。

 治憲院は警察署と裁判所が一緒になったみたいな所。格式は高いけど庶民も入れる。

 エイダさんだって、やられてばかりではなかった。訴え続けたけど、元夫がやってきて虚偽申告だと言われちゃったみたい。

 男性が強い世界観の所だから、エイダさんの主張よりも元夫の話が通ってしまった。


「……あたしは、虚偽の通報を何度もしたと捕まりました」

「そんな事って!?」

「軽犯罪法に則ったものだ。凶器の隠匿、のぞき、ゴミのポイ捨て、虚偽の通報等々細かいが捨て置けない行為が対象となっている」

「……些細な事から、重大な事件に繋がっちゃう可能性もありますもんね」

「そういう事だ」

「エイダさんに関しては、冤罪だと思います。確かに、虚偽の通報を悪意ある意思でやったら混乱が生じてしまうと思いますけどっ」


 暴力は、軽くない。立派な犯罪だ。

 どうしてエイダさんが女性というだけで、訴えを聞かなかったんだろう。

 顔も知らない廷臣法官に怒りが収まらない。

 鼻息荒くしていたら、エイダさんがそっとわたしの腕に触れてきた。


「……アンネさん、あたしのために怒ってくれてありがとうございます」

「最悪な人との別れは、もしかして捕まっている時に?」

「そうです。長く訴えていたので一月近く、外に出られない時に」

「最っ低な奴!! エイダさん、そんな奴と別れて正解でしたよ!!」

「そうですね。あたしも、そう思います」


 話す事で、いくらか気は晴れたんだろうか。

 エイダさんはにこっと笑ってくれた。


「少し良いだろうか。身内を庇うわけではないが、暴力を受けていたのならばその痕を見せれば良かったと思うのだが」

「……あの人は、外で見せられるような位置には残さなかったので」

「確信犯じゃん! 許せない! 女性が弱い立場だってわかっているから、そんな事をするんだ!!」


 ストイなら馬車で三日。少し時間はかかるけどエイダさんの悔しさの報復くらいはできるはず。

 鼻息荒くその場から動こうとしたら、レオンハルトさんと目が合って首を振られた。


「差し支えなければ、不当な動きをした元配偶者の名前を教えてもらえるか」

「協力してくれるみたいですよ! 復讐してスカッとしちゃいましょう!」

「……いいえ。あの人とは、もう関わりたくないと思っています。なので、お伝えする事はできません」


 エイダさんが震えている。まだ怖いんだね。


「今後の貴女の幸せを願おう。もしまた不当な扱いを受けた場合は、少し遠いが首都まで来てもらえれば対応する」

「わたしもいますし!」

「アンネさんも?」

「はい! わたし、こう見えて廷臣法官なんですよ!」

「それは頼もしいですね。女性が対応してくれたら、あたしみたいな被害者も減ると思います」


 エイダさんからの話を聞き、バッとレオンハルトさんを見る。


「そうですよ! 女性の廷臣法官も増やしましょう!」

「アンネ殿は特殊だ。力を使う事も多い。身体の構造上、難しいだろう」

「現場じゃなくても良いじゃないですか! エイダさんみたいな被害者から話聞く。それだけでもかなり違うと思います!」


 グッと拳を握って力説する。わたしの訴えが届いたのか、レオンハルトさんは考えこむように口元に手を当てた。

 女性だけの部署だとか、世間の目だとか聞こえる。考えてはくれているみたいだけど、現実は難しいかな。

 でも、わたしが女性の廷臣法官の先駆けになれれば!


「検討をしてみたが、今はまだ難しいだろう。アンネ殿を前例として扱えれば良いが、そうなると星渡人だという前提もしくはそれに準ずる力が必要になる」

「そうですよねぇ……純粋な力じゃ、男性に勝てないですしね。わたしはレオンハルトさんが守ってくれていますが、女性の廷臣法官に一人誰かをつけるんじゃ、効率も悪いですしね」


 わたしですら、紅一点って事で天秤宮にいた同僚達が盛り上がったんだ。婚活市場にでもなっちゃったら、それこそ職務の妨げになっちゃう。

 現実は厳しい。


「……アンネさんが羨ましいです。身近にいる男性が、頼もしい方で」

「エイダさんにも現れますよ。頼れる男性が」

「そうだと良いんですけど」


 はにかむ笑顔は、エイダさんが未来を悲観していない証拠。でも、ちらっとレオンハルトさんを見たのは何でかな。

 ちょっとだけ、モヤッとした。何だろう。胸の病気?

 そういえばオノマトペ魔法って万能だと思うけど、治療系はできないよね。治療ができそうなオノマトペって何だろう。

 胸にちょっとした違和感があったけど、気にしない事にした。病は気からって言うぐらいだし、ストレスで本当に病気になっちゃうかも。


 エイダさんを家まで送る事になって、みんなでぞろぞろと歩く。

 竹のない安全な平屋に到着すると、近衛の一人が前に出た。緑の髪だから、風属性のウィグネスさんだね。


「セオ・ウィグネスと申します。私には妹がおりまして、年下の女性が困っているのを見過ごせません。エイダ嬢。どうか私にあなたを守らせてはもらえませんか」

「え、えっと……」


 もしかしてカップル誕生!?

 エイダさんの様子を見る限りすぐには成立しないかもしれない。でも、あんなに真っ直ぐな言葉を受けたんだ。関係性は変化するかも。


「夜は、寝るべきだ!」


 これからの展開にワクワクしていたら、至極当たり前の主張が聞こえてきた。




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