022件目 作る事は世界を変える
星渡人のわたしだから、できる事。それは、オノマトペ魔法を使って村人達の悩みを解消する事じゃないかって。
そう思ったわたしは、筋肉に憧れた少年のように顔色が違う人を捜した。できれば、将来性のある若者が良い。若い力は、村の雰囲気を変えてくれるかもしれないから。
村の中をと見回すと、わたしと目が合いそうになった村人達がさっと目をそらす。
周囲の大人はさておき、変わりたいと思う人はいないかと捜した。すると、ボロボロの籠を持った女の子を見つける。中には野菜が入っているのか、時々籠の穴からぽろりと転がっていく。
足下に転がってきたジャガイモを拾い、女の子に渡しがてら近づいた。
「こんにちは。お手伝い、えらいね」
女の子と目線を合わせるようにしてジャガイモを渡したけど、ビクつかれてしまった。何度もお辞儀をする女の子はジャガイモを受け取ると、穴の空いた籠を持って走り去っていってしまう。でも、何度もジャガイモを転がしてる。
ひとまず、女の子のお手伝いを手助けする事にした。
女の子を追いかけると、井戸の前にいた。小さい身体で縄を引き、水を汲もうとしている。見ていて危なっかしくて、すぐに駆け寄った。
「手伝うよ」
「あ、ありがとうございます……」
「まだ小さいのに、お手伝いなんて偉いね」
「わ、わたしの家は、わたしが、がんばらないと、いけないです」
女の子の手を見ると、とても子供の手とは思えないほど傷んでいた。手伝いというレベルじゃない。もっと、日常的に家事をしているような感じがする。
「お父さんとお母さんは?」
「お、お母さんだけ、います。でもお母さん、あまり長く、動けないです」
「そっか……。お母さんを助けてあげているんだね。偉いぞ」
女の子の頭を撫でる。少し恥ずかしそうにしながらも、はにかむような笑顔が可愛い。
こんな健気な子が暮らしやすいような村にしたいよね。
周囲を見る。目に入ったのは、竹のような植物。井戸から近い、平屋を貫いている植物群に近づく。
節があって、本当に竹そっくり。これが竹と同じような性質を持っているなら、これで村を豊かにできるかも。
「アンネ殿に協力しよう。何をしようとしている?」
「ありがとうございます。あの女の子もそうですけど、村全体がどんよりとした空気になっている気がするんです。村が活性化したら、そんな空気も変えられるんじゃないかって」
「なるほど、一理ある。それで、アンネ殿はどう動く?」
「この植物を使って、どうにかできないかなって」
「タケニタケ? これは繁殖力ばかりが著しく、有効活用はできないように思うが……アンネ殿の世界の知識か」
「わたしもそこまで詳しくないですけどね」
前世で、何となく流し見していた竹の加工方法。色々な工程があって、結構大変そうなんだよね。
でもそこは、ファンタジーって事で省略できると思うんだ。わたしの、オノマトペなら。
乾燥させたり、竹を割ったり……。面倒だと思ってしまう工程は、初めてやるには億劫になるだけ。
だから、一手間ぐらいで製作できるようになれば良いと思うんだ。
周囲に鋭角な物はないかと捜す。タケニタケ……竹で良いか。竹が貫いた時にそのまま放置したのか、平屋の崩れた石壁があった。それが丁度、手に握りやすい刃物みたいに思える。
それを拾い、両手で挟む。
「スパッとザクッと切り倒せ。パキパキ細かく割いた後、しなっとつるりと積み上がれ!」
よし。これで後は、この道具を竹にあてれば……。
「おお。さすがだ」
レオンハルトさんが感嘆の声を漏らしてしまうほど、わたしの理想通りに竹が積み上がった。
スパパパパッと斬られた竹が、割られ、細工しやすい幅と厚みになり、少しの力で曲げられるようなしなやかさを持っている。長さはあるけど、長い方が途中で継ぎ足さなくても良いよね?
貫通していた竹が平屋を支えていたらしい。持ち主に申し訳なく思いながらも、崩れた平屋の前で座りこんで竹の編み込み作業へ移る。
互い違いになるように竹を置き、女の子が持てるくらいの籠になるまで編み込んでいく。そして一番上の部分を怪我しないように処理をして、完成。
竹を切るやつは、レオンハルトさんに預かっていてもらう。
「素晴らしい技術だ。しかし、これでどうやって村を活性化させる?」
「竹籠って、結構頑丈だと思うんですよ。タケニタケは繁殖力が強いんですよね? ボロボロになってきても新しい籠を作れるし、穴が空いたらその部分だけを補修もできる。それで、ハプスト村で作られた物を外で売れば、活性化するかなって」
「なるほど。そういうことか」
レオンハルトさんが耐久度を見たいという事で、竹籠を渡した。上下から見たり、拳で軽く叩いてみたり。
初めの内はそんな感じだったけど、段々編み込み方のアレンジ方法まで呟き始めた。裏表を変える、二マスおきにする等々。
「……何だかまるで、レオンハルトさんが作り手みたいな目線ですね?」
「っ! そ、そんな事はない。丈夫で良くできている」
「ありがとうございます」
焦っているように思えるレオンハルトさんから竹籠を受け取り、井戸の方から視線を向けていた女の子の方へ行く。
興味津々という感じで、目を輝かせていた。
「この籠、作ってみたくない?」
「作り、たいです。でも、ダメです。認められない、です」
変わる事は悪、っていう村の風習だよね。新しく作り出す事も、変化するって事だから難しいかな。
「じゃぁ、この籠はあなたにプレゼントするね。穴が空いたままじゃ、毎日のお手伝いも大変でしょ?」
「ありが、とうございま、す」
パッと明るい笑顔を見せてくれた女の子は、受け取ったばかりの竹籠に井戸で汲んでいた水をザパッと入れた。そこまで密に編み込んだ訳じゃないから、当然水がポタポタと落ちている。でも女の子としてはダバーッとこぼれない事が良い事だったらみたい。驚いたような顔をすると、その中にジャガイモを入れてジャブジャブと洗い始めた。
本来の用途とは違うような気がするけど……考えてみたら、ザルとボウルが一緒になっている感じかな? 斬新だけど合理的だ。
ジャガイモを洗い終えた女の子はとても満足そうな顔をして、竹籠を傾けて水をこぼした。そして、ウキウキと足を弾ませながら籠を持って移動する。
時々振り返るから、ついて来てという事かと思って女の子の後に続く。
着いたのは、竹が屋根をかすっている平屋。ここも竹によって建物が支えられているパターンかな?
「コホッ、コホッ……オルディ、帰った……??」
「こんにちは。オルディちゃんにお呼ばれしました」
オルディちゃんのお母さんが、わたし達を目の当たりにして驚いている。それもそうだよね。これまで視察で人が来る事はあっただろうけど、まさか自分の家にまで来るなんて思いもしないだろうから。
レオンハルトさんが前に出る。
「お初にお目にかかる。私はレオンハルト・ヴァランタン。この度はハプスト村の視察にやって来た」
うん。いつでも立場を明らかにするのはレオンハルトさんらしいけど。
それは、今じゃないかな。
「王、族……の、方……」
「お母、さん!」
ふらりと倒れそうになったオルディちゃんのお母さんに駆け寄り、支える。そのままベッドの方へ行って、座ってもらった。
「も、申し訳ありません……」
「こちらこそ、気を使わせてしまって」
わたしはすぐにレオンハルトさんの元へ行き、小声で話す。
「すみません、レオンハルトさん。王族の人がいると緊張させてしまうと思うので、一度外へ出ていてくれませんか」
「それはできない。アンネ殿を一人にするわかけにはいかない」
「お家の周囲に気を配ってもらえれば」
「そうか……。それならば、そうしよう」
レオンハルトさん達には外で待機してもらい、オルディちゃん達の元へ戻る。その間にも、オルディちゃんは竹籠の事を嬉しそうに報告していた。
オルディちゃんのお母さんは、ニュイカさんというらしい。わたしも自己紹介をして、話を聞く。
「オルディに籠を頂いたそうで……何もお返しができず、申し訳ありません」
「いいえ、気にしないでください。オルディちゃんが手伝っていて、偉いなと思っただけなので」
「その……アンネ様は、星渡人なのでしょうか」
「そうです。やっぱり、わかりますか」
ニュイカさんが頷く。
曰く、この村が星渡人を厭うのは前の星渡人が影響しているらしい。
「ハプストは、ヴァランタン国の東端の村。ここに集まる者達は、かつて星渡門によって生活を追われた人間達の子孫です」
星渡門は、劇的な物流ルートになった。
馬車でしか移動できなかったし、物を運べなかった昔。転移街であればいつでも人が移動できるようになってしまった。
商人が時間をかけて運び、人件費や運送費などを加味してつけられていた物の値段。それは人が移動できる事で価値を失い、より多くの顧客を得るためには価格を下げるしかなかった。
そして稼げなくなった商人が行き着いた先が、ハプスト村。
「……わたしがした事じゃないですけど、それなら星渡人が悪魔と言われてもおかしくないですね」
「いいえ。それはただ、昔の事を引き合いにして変わる努力をして来なかった方々の言い訳です」
「(なかなか言うね、ニュイカさん)」
「以前の星渡人がいたのは、遙か昔。それから時間はたっぷりありました。かつての偉業を悪行と言えるのは、今では領主様くらいだと思います」
「それは、確かに」
ニュイカさんの言葉は、説得力があった。
前の星渡人がいたのは、千年以上前。子々孫々に恨みを言い伝えるとしても、かなりの代を重ねている。
それでも、ハプスト村では星渡人を悪く思う人が多いのが現状。根強い思想がやっかいだ。
ニュイカさんとオルディちゃんに別れを告げて、外へ出る。周囲には悪意を持った村人達が平屋を囲んでいた。
「レオンハルトさん、確認したい事があるので場所を移しましょう」
「わかった」
ロゴスさんら近衛に守られながら、領主の館へ戻った。そしてレオンハルトさんが使う部屋に、全員入る。
わたしとレオンハルトさんが座った。近衛の二人が入口を守り、ロゴスさんがレオンハルトさんのすぐ後に立っている。
「それで、確認したい事とは」
「はい。オルディちゃんのお母さん、ニュイカさんから聞いて思ったんですけど……」
わたしは疑問に思った事を伝えた。
ハプスト村の現状を知り、今でも恨みを持つ人の方が多いのはおかしいと。
「私は、それほどおかしいとは思わない。子々孫々、口伝のように受け継がれてきただけだろう」
「そっか……レオンハルトさんがそう言うなら、そうなのかな」
「アンネ殿は納得していないようだな」
「はい。何というか、人々の恨みが続くように意図的に悪い噂が村内に流されているんじゃないかって思うんです」
「意図的に? なぜ?」
「それはわからないですけど……誰かが、得をするとか?」
「得……か」
レオンハルトさんが考えこむ。こうしてわたしの話を受け止めてくれるのは、良い上司だよね。部下の意見を一刀両断するような上司だったら、働くのも一苦労だろうし。
考えて伝えるだけなら、わたしもできる。でも、最終的に案を実行するかしないかの決定権は、レオンハルトさんにしかない。
わたしは、レオンハルトさんについて行く。




