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【三章完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第三章 「四季禁忌」ハプスト領内乱事件

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021件目 変わることは恐ろしくない

第三章、始まりました。

この章は全体的に重たい雰囲気の内容となっております。

閑話休題にて息抜きができると思いますので、ブックマーク登録をして待っていただけると幸いです。


 貴族令嬢誘拐事件が終わり、天秤宮でレオンハルトさんと合う度に猫と戯れていた事を思い出してしまっていた。もちろん、あの場で見たことは誰にも話していない。


 そんな平和な日を過ごしていたある日、レオンハルトさんが陛下に呼び出された。

 そして戻って来るなり、出張の勅令が出たと話してくれる。


「出張……それは、わたしも一緒に行くんですよね?」

「そうなる。何日かかるかわからない案件のため、数日分の服を用意してほしい」

「わかりました。行くのはすぐですか?」

「近衛達も四人連れて行く。アンネ殿の準備もある。明日の朝に出発だ」


 長期出張という事で、今日はこのまま休みになった。


 服の準備をするため、与えられた部屋へ向かう。部屋へ入り、早速準備を始める。

 でもすぐに手を止めて、隣室を見た。

 レオンハルトさんからの、名前呼び。だいぶ慣れてきたと思うけど、まだ少し恥ずかしい。


 レオンハルトさんが名前で呼んでくれた事で、ハーシプの顔なんて吹っ飛んでった。

 できる人だよ、レオンハルトさんは。部下のトラウマにも対処してくれる。

 出張先では、わたしもレオンハルトさんに頼ってもらえるように頑張ろう。




 翌朝。

 王宮の東門前に集合するため、レオンハルトさんと一緒に向かう。

 そこにはすでに近衛達が来ていて、髪色からするとそれぞれの属性が一人ずついるみたい。

 その四人に近づくと、肩で切りそろえた赤髪の近衛が前に出た。


「アンネ様ですね!? お初にお目にかかります! 私はスーザン・グラディアと申します!! スーザンと呼んでください!!」

「グラディア、下がれ」

「はい、ただいま!!」


 茶髪のポニーテール風に髪を纏めている御仁に言われたスーザンが、ピッと敬礼して下がった。

 レオンハルトさんが、御仁に目線を向ける。


「アンネ殿も見た事があると思う。シャング・ロゴス。近衛隊長をしている」

「連続窃盗事件の際には、お世話になりました」

「あ、はい」


 正直、覚えていない。でもたぶん、王宮の秘密通路を行っていた時にいた人だと思う。

 レオンハルトさんはスーザンと他の二人の近衛を紹介していく。その後、目線を向けられた。


「あ、えっと、アンネです。改めて、よろしくお願いします」

「この六名で、ハプスト領へ行く。ハプストは東端の村で、近くまでは星渡門を使う」

「星渡門?」

「星渡門とは!!」


 疑問に思ったら、スーザンが興奮気味に教えてくれた。

 曰く、前の星渡人が作った転移門みたい。前の人は、空間を操れる系のスキルだったのかな?


 星渡人のすごさを絶賛する舌が止まらないスーザンが、またロゴスさんに叱られてた。何か、わたしとレオンハルトさんを見ているみたい。コナー先輩もこんな気持ちだったのかな。

 少しだけほっこりしてから、星渡門がある三番街へ向かった。


 星渡門は、星渡殿っていう建物の中にあるみたい。

 一番街から三番街に向かう途中、坂を下るようになっている。星渡殿は大きな星のような形に見えた。以前の星渡人の趣味かな?


 疑問に思いつつ星渡殿に入ると、既視感があった。目の前の光景が、まるで前世のアトラクションを待つ行列みたいだ。


「アンネ殿。東の街ストイは緑線の先だ」

「あ、はい」


 足を止めていたら、レオンハルトさんが足下を指差した。緑の線が行列の先まで続いている。

 首都全体が白の建物が多いから、もしかしたらストイって所は緑の建物が多いのかも。そんな事を思いながら進む。

 レオンハルトさんは王族だけど、星渡門は身分問わず無料で使えるんだって。だから王族といえども、順番は守らないといけない。


 星渡殿は首都から離れた東西南北の街へ転移するみたいだね。

 わくわくしながら、順番を待つ。

 そして、薄い板のような物に六つの椅子が設置されているやつに乗る。安全ベルトを腰回りに装着した。板が浮いて、星渡門に入っていく。


 歪んだ時計みたいなやつがいくつもある、移動空間。

 星渡門は、馬車移動で二週間ぐらいかかる距離の街を、十分くらいで繋ぐみたい。

 乗り物から落ちると二度と戻ってこられないから絶対に暴れてはいけない、と注意を受けた。

 全てを確かめたい好奇心に駆られながらも、どうにか安全に東の転移街ストイに到着。


 予想した通り、ストイは緑を基調にした街並みだった。全体的に抹茶のような色合いの壁が並ぶ。

 ストイからハプストへは、馬車で移動することになるみたい。馬車乗り場で待つ間、近くのパン屋さんで軽食を買った。ロジェナちゃんくらいの女の子がお店を手伝っていて、ほっこりする。


 近衛の四人が御者と護衛のため馬に乗り、わたしとレオンハルトさんが馬車で移動するみたい。

 レオンハルトさんの手を借りて馬車に乗り込む。


「これから行く場所は、厄介な場所だと認知しておいてほしい」

「厄介な場所、というと?」

「陛下が視察をした直近の場所で、昔から村が二極化している。アンネ殿にとっては、居心地が悪いかもしれない」

「なるほど……?」


 着いてみればわかるという事で、そのまま馬車に揺られて移動した。


 途中で休憩と野営を挟み、ハプストには三日目に到着。

 馬車から降りるなり、どこからか石が飛んできた。それをスーザンが即座に拳で砕き、わたしを守るように前に出る。


「この悪魔! ハプストから出て行け!!」


 投げられた言葉は、わたしに向けて? え、何で??

 確かに黒髪で黒目だけど……そこまで言う?


「第二王子殿下、ハプストにようこそ。拙宅へご案内します」

「ハプスト領主、視察が終わるまでよろしく頼む」


 ハプストさんは恭しく礼をすると、わたし達一行を領主の館へ案内した。馬と馬車も敷地内に停めさせてもらう。

 通されたのは来賓室。こじんまりとした場所で、必要最低限の家具類しかない。


「つい最近まで陛下がいらしていましたが、今回はどんな事を見ていかれますか」

「陛下より、村の内乱を抑えるようにと命を受けた」

「それはそれは。ご足労ありがとうございます」


 糸目のハプストさんは、何を考えているのかわからない。片方の口角だけ上がっているのは、気のせいかな。丁寧な言葉遣いに違和感がある。まるで、わたし達が来ても無駄だと言っているかのように。


 来賓室を出る。そしてわたしとレオンハルトさん、そして近衛の四人に三部屋を使うようにとハプストさんが言って去って行った。

 最奥がわたし、その隣がレオンハルトさん。残りの部屋で近衛が寝泊まりすることになった。


「アンネ様。入室してもよろしいでしょうか」

「どうぞ」


 数日分の服を入れた鞄を置いていると、スーザンが入ってきた。スーザンの手にも、鞄がある。


「第二王子殿下より、命を受けました。ハプスト滞在中は私と同室……のような形になります」

「形? どういう事ですか」

「はい。私はアンネ様の夜間護衛を担当します。昼間はその分、同じ部屋にて睡眠を頂きます」

「なるほど。そういう役割分担なんですね」

「アンネ様は私よりも上の身分の方です。私相手に敬語はいりません」

「え、でも……スーザンってわたしよりも年上ですよね? 名前だって、本来は呼び捨てじゃダメなのに」

「いいえ! アンネ様は星渡人という貴重な人材! 王族方よりも遥かに上、神の御使い様です。そんな方から敬語を使われたら、落ち着きません」


 パチンとウィンクをされた。年上の彼女なりの配慮なのかもしれない。それに甘える事にした。


「それじゃぁ、スーザン。これからよろしくね」

「はい!!」


 ピッと敬礼をされた時、スーザンの右手が一部赤くなっていた。きっとわたしを守ってくれた時の物だろうと思い、鞄からハンカチを取り出してその部分を包むように結ぶ。


「ひとまず、赤みが引くまでって事で」

「ありがとうございます!! アンネ様は女神様ですね!!」

「いや、わたしは神様じゃないから」


 興奮気味のスーザンは、星渡マニアらしい。本当はわたしのオノマトペ魔法を見たかったらしいけど、活動時間が違うんじゃダメだよね。

 スーザンを部屋に残し、外へ出る。レオンハルトさんと近衛の三人が待ってくれていた。


「早速、村の現状を見てもらおうか」


 そう言い、領主の館を出る。するとそこには、今にも襲いかかってきそうなほど剣呑な顔つきの村人達が集まっていた。


「この悪魔!! さっさとハプストから出て行け!!」


 石が飛ばされる。でもロゴスさんが剣で弾いてくれた。

 レオンハルトさんは村人に構わず、わたしを案内する。連れられるまま歩くと、村の現状が見えてきた。


 どんより、という言葉が合うような村の中。どこもかしこも、湿った空気が家々を包んでいる。

 中には豪華な家もあるけれど、それは一軒だけ。他は平屋のような家が並ぶ。それに何軒も、竹のような植物が家を貫通していた。


 進むわたし達に合わせて、村人達も移動する。周囲を近衛達が守ってくれているから安心だけど、いつその均衡が崩れるかわからない。そんな、危うい雰囲気。

 そんなハプスト村だったけど、一部違う顔色の人がいた。建物の影に隠れるような場所にいるけど、興味津々という感じ。

 何人かいる中の、一番近い少年に近づく。


「こんにちは。そこで何をしているのかな」

「べ、別に何もっ」


 そう言いつつ、中学生くらいの少年はロゴスさんを見ている。その目は、憧れというような感じ。


「もしかして、騎士になりたい?」

「違う! そんなんじゃ、ない」

「目指すのは自由だと思うよ」

「変化は悪だ! 今のままの生活をすれば良い!」


 少年の言葉に、周囲の村人達が頷く気配があった。という事は、これが村の思想?

 変化は悪だとすれば、こうしてわたし達外の人間が来ることもダメなのかもしれない。でも、それでわたしが悪魔だと言われる理由に説明はできない。

 もしかしたら、この村と星渡人は因縁があるのかも。だからわたしを派遣するために、レオンハルトさんに出張令が下されたのかもしれない。


 星渡人のわたしだから、できること。

 それは何かと考えていたら、少年はロゴスさんに何度も目を向けていた。今は鎧を着ているけど、腕や足は一部筋肉の付き方が見える。同じ部分を、少年が触っているように見えた。

 もしかして、と思い、少年に両手を向ける。


「ムキムキマッチョはすごマッチョ!」

「!?」


 肉体改造魔法を受けた少年は、驚きながらも目をキラキラと輝かせている。やっぱり、筋肉に憧れがあったんだね。

 それを確認してから、肉体改造魔法を解く。少年は、ショックを受けたような顔をした。


「どう?」

「な、何が」

「ロゴスさんみたいな筋肉、良かったでしょ? 変わることは悪くないと思わない?」

「そ、それは……」

「今から少しずつ、自分の成長に合わせて身体を動かせば、ロゴスさんみたいな体格になれるかもしれないよ?」

「ふ、ふんっ……お前の指図は受けない!」


 去り際、少年は何度か腕を曲げ伸ばししているように見えた。

 少年の将来に期待していると、周囲の村人達からそわっと落ち着かないような空気を感じて目を向ける。さっと目をそらされたけど、何人かは村の思想に反する気持ちを持っているみたい。


 村の思想は、根深いと思う。でも、一人ずつ変えていけたら。







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