閑話休題③ レオンハルトが好きなもの
閑話休題。
短めですが、たぶん、内容は濃いかと思います。いや、薄いかな?
閑話休題②の後の時間軸のお話しです。
「ごめんね、アンネちゃん。慣れるまでは劣等感を刺激しないであげて」
運動場で走りまくっていたら、コナー先輩からそう言われた。疲れ知らず、と詠唱をしたお陰で、いくら走っても疲れない。そんなわたしを見て体力自慢の同僚達がショックを受けた、らしい。
気分を害したい訳じゃないから、先輩の勧めに従って運動場を出た。
普段は運動ができる方じゃないから、こんな風に身体を動かせるのは楽しい。だから他の所へ走りながら移動しようと、移動魔法を使って適当に流していた。
「ニャー」
「ん? 猫の鳴き声?」
走る足を止め、鳴き声の主を捜す。いつの間にか王宮内の中庭みたいな所に来ていたらしい。
キョロキョロと周囲を窺って歩いていると、意外とすぐ近くにいた。
……まさかっ!?
思わず、さっと木の後ろへ隠れる。
でも、今見た光景が信じられなくて、恐る恐る木の陰から顔を出す。
……え、可愛いんだが。
視線の先には、猫と戯れるレオンハルトさんがいた。キジトラの長毛種で鉤尻尾の猫が、レオンハルトさんが振る猫じゃらしのような玩具で遊んでもらっている。
いや、レオンハルトさんも全力だ。お互いに楽しんでいるみたい。
猫に向ける笑顔が弾けていて、思わず猫よりもレオンハルトさんに視線を奪われる。
あの猫、野良かな?
長毛種だから、首輪があるかどうかわからない。遠目から見て、首回りにファーを巻いているみたいに見えるから、首輪はあるかも。 それなら、誰かが飼っている猫だ。誰かの猫を預かっているのかな?
ジリジリと近づいていってしまっていることに気づき、ハッとなる。
レオンハルトさんの事を全てわかっているわけじゃない。でも猫に対して全力で遊んでいる姿は、知り合いに見られたくないんじゃないかな。周囲に人はいないみたいだし。
貴重な姿を、本人にはばれないように見守ろう。そんな風に思った時、一人だけわたしと同じような老人を見つけた。あの人、どこかで見たような……?
その老人も、レオンハルトさんに見つからないように生け垣の裏に隠れている。仲間を見つけたと思い、近づく。
「こんにちは」
声をひそめながら低姿勢で近づくと、その老人はビクつきながらも声を上げなかった。
「レオンハルトさんのあんな姿、珍しいですよね」
「お主もそう感じるか。わしもそう思う。あの子は昔から根を詰めすぎる所があるから、気にかけてはおるのだが。なかなか、様子を見に来られなくてな」
「……あの、もしかして成人の儀の時にスキルの判定をしてくれた方ですか」
「覚えておったか。すまなかったね、わしの発言により不自由な生活を強いられただろう?」
「星渡人かどうかの判定のためには、必要な時間でした」
「そういってもらえて何よりだ」
レオンハルトさんを見る老人の目は優しい。まるで孫を見守る祖父のような感じがした。
「……もしかして、レオンハルトさんのお祖父さんですか」
「そうだとも。アンネさん。これからも、孫の事をよろしく頼む」
「あっ、いえ。わたしは、レオンハルトさんの部下なだけなのでっ……ご迷惑をかけてばかりで」
「良い良い。あの子はもっと周りに気を使うべきだからね。どんどん甘えてやっておくれ」
「そ、それはっ……」
お祖父さんと話しこんでいたら、急に陰った。目線を向けると、猫を抱き上げていたレオンハルトさんと目が合う。
こっそりと見ていた事が後ろめたくて、思わず目をそらしてしまった。
どうしようかと思っていたら、お祖父さんが立ち上がる。
「タマの世話、助かったぞ」
そう言って、猫――タマちゃんをさっと抱き上げてこの場を去って行ってしまった。
大人しく抱えられているタマちゃん、偉いな。可愛いな。
そんな事を思っていたけど、レオンハルトさんからの鋭い視線からは逃れられない。
「覗き見して、すみませんでした!!」
「いや、それは別に良いのだが……」
「お叱りは受けます。さぁどうぞ!」
ピシッと手を揃えて背筋を伸ばす。せめて叱られる恐怖を見ないように目をギュムッと瞑っていた。
でも、レオンハルトさんの溜息のような声が聞こえて、恐る恐る目を開ける。
「貴殿は、私がそこまで厳しい人間だと思っているのか」
「え、えっと、それは……」
「私室で猫と遊んでいた訳じゃあるまいし、外で遊んでいた姿を見られたとて何も責は問わない。ただ……」
「た、ただ?」
「普段は廷臣法官長として威厳を保たないといけないから、今日見た事は口外しないでもらえるとありがたい」
口外しないですともッ!! えぇ、絶対に!!
言い淀んでいたレオンハルトさん。少々照れていたように見えたのは、幻か!?
残りの休日を有意義に過ごすようにと言って、去って行く。
去り際、いつも一分の隙もなく撫でつけられているレオンハルトさんの髪が一房、おでこに落ちていた。
これで、二章が終わりました。
次からは第三章へと移ります。
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