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エピローグーフローレンス

 私は夢を見ていた。

 懐かしい夢だ。


「お義兄さま、婚約を破棄して、私と結婚して」

「わがままなことを言わないでおくれ」

 若い頃、10代前半の私達が言い争っているのを、私は横で見ていた。

 ということは、私の妹ジェーンの視点なのだろうか。


 自分の身体の病気を自己診断するという行為は、決して人に勧められる行為ではない。

 だが、この世界の医療の水準を考えれば、私はそうせざるを得なかった。

 自分の病状から考えるならば、私の病気は、ガンしか考えられなかった。

 そして、ガンから来る痛みを和らげるために、かつて私の従姉を狂死させた阿片系の麻薬を、私は服用せざるを得ない有様だった。

 もちろん、中世技術レベルのこの世界に、私の前世のように、高濃度に生薬を精製する技術等、あるわけがない。

 天然モノといえば聞こえはいいが、微妙に効き目が違う薬を私は使わざるを得なかった。


 痛みからくる生活レベルの低下を、私は食い止めることはできていたが、どちらにしても自分の命が遅かれ早かれ尽きるのを覚悟せざるを得ない状況だ。

 そして、薬の効き目が違うということは、時として適量の薬を使用したはずが、効き過ぎて幻覚を私に見せるという副作用を引き起こしていた。

 その幻覚というのが、皮肉なことに私の若き日々のことが多いのは、神様の皮肉なのだろうか。


 もう、私も100歳が近い。

 子どものいない私にとって、もっとも近い身内である兄弟姉妹どころか、甥姪さえ義理も含めて、私より先立ってしまった。

 妹のジェーンが先立って、20年以上が経ち、私の人生のパートナーともいえた義兄にして妹婿の皇帝エドマンドが妹の後を追って亡くなってからでも、10年以上、いや、20年近くが経つのだ。


 来世でエドマンドに逢えたとして、エドマンドは私と同年代なのだろうか、そんな疑問が、麻薬による幻覚に包まれた私の脳裡に浮かんだ。

 エドマンドが死んですぐに転生していたならば、私が死んですぐに転生したとしても20歳近い歳の差が生まれてしまう。

 お互いの転生に気づき合えたとしても、20歳近く年上のエドマンドは既に誰かと結婚していて、私は彼と不倫関係を結ぶしかない可能性もある。

 できたら、神様の差配で、同年代に生まれ変わり、エドマンドと再会して結婚したいものだ。

 あらためて、病床で私は神に祈りを捧げた。

 教皇たる私が、何と罪深い祈りを捧げているのだろう。


 この世は悪魔が造った地獄と、聖書には書かれているのに。

 最後の審判における神の救いを信じて、善行を積まねばならないのに、幸せな恋をこの地獄でして結婚したいと祈りを捧げるなんて。


 でも、それが人間の宿業なのかもしれない。

 好きな人と結ばれたいと願うことが。


 私の意識が戻ったことに気づいたのか、私の介護に当たってくれている修道女が、私に声を掛けてきた。

「お体の具合はどうですか」

「何とか痛みは治まっているわ。痛みがひどくなったら、声を掛けるから」

 私はそう答えて、また、自分の世界に戻った。


 来世では、エドマンドと公私共に過ごせる社会に生まれ変わりたいものだ。

 この世界では、エドマンドと結婚できたとしても、私生活しか共にできなかった。

 妹のジェーンなら、それで満足できたが、私は公私共に最愛の人と過ごしたいのだ。

 

 ストーカー一歩手前ね、と私は私自身の想いを笑いつつ、最愛の人と公私共に過ごしたいと願って、どこが悪いの、と私は自分に反論していた。

 後、何日、この世界で生きられて、エドマンドのいる来世に赴くことになるのだろうか。

 そうして、今度こそ、私はエドマンドと結婚にこぎつけたいものだ。

 私はそんな取り留めのない想いを馳せながら、薬による夢の世界をまた漂うことにした。 

 結局、主な登場人物ごとの視点の後日談を、エピローグとして投稿しました。

 これで、本当に完結させます。

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