エピローグーエドマンド
男主人公の晩年のある日になります。
「それでは、お互いに署名し、この協約を発行させることに異存はないですね」
立会人のコナン・バーフ大宰相が、私と彼女に再確認した。
私は無言のまま肯いて署名した。
彼女も同様だった。
「政教協約」の締結。
これまで、慣習法となっていた国家と教会の関係が、明確に成文法として定められることになる。
教皇である彼女が発案し、皇帝の私も同意した。
慣習法のままでは、分かる人にしか分からないままになる。
教皇の彼女としては、枢機卿や司教の任命に、国家が口を挟まない事、宗教教育に国家は口を挟まない事、教会の福祉事業に国家は介入しない事、教会の土地に対する課税は承認されるが、福祉事業を行う関係から軽減されたものとし、改訂される場合には、議会の承認を得る事、等を求めた。
皇帝の私は、国家の政治に教会は、議会を除いて、一切口を挟まない事、世俗教育に教会は口を挟まない事、教会の免税特権は永久に廃止されること等を求めた。
お互いのバックにいる上級貴族や枢機卿等の中は、いろいろと反対意見を言う者もいたが、私と彼女の二人三脚が功を奏し、終にこの日にこぎつけたのだった。
協約締結後、私と彼女は、別室に移動し、くつろいだ会話を交わした。
「お互いに老けましたな」
「そうですね」
私の問いかけに、彼女はそう答えた。
私より三歳年下の彼女と言えど、70歳を過ぎようとしている。
私が皇帝に即位してから50年余りが経ち、彼女が聖職者の道を歩んでから、60年近くが経とうとしているのだ。
私が皇帝となって、政治改革を志してから、彼女は当初は枢機卿として、後には教皇として、私の良き協力者になってくれた。
「薄く広く課税する」
私のモットーだ。
荘園の廃止、私兵を廃止しての中央軍の創設、都市の商工業者に対する新たな課税等々、抵抗は色々と大きかった。
不満を少しでも抜くための僧侶、貴族、大納税者の平民の3つから成る身分制議会の創設、政教協約の締結等、彼女の協力が無かったら、何一つなしえなかったろう。
幸か不幸か、私の治世は50年以上もあった。
彼女から教えられた、おもしろい言葉として、
「長生きするのも神の助けの一つ」
というのがある。
抵抗勢力が強すぎると見たら、しばらく待ち、抵抗勢力が弱まるのを待つ。
私と彼女は長生きすることで、それを成し得た。
彼女は若かりし頃の絶世の美女の面影を残した品の良い美しさを未だに保っていた。
彼女の美貌に転んで味方した枢機卿が数多いるという噂もむべなるかなだ。
もし、彼女が当初の希望通り、私と結婚して皇后になっていたら、どうだろうか。
彼女はよき皇后になったかもしれないが、その場合、私の政治改革はほとんどできずじまいだったろう。
彼女が教皇となったことで、私は政治改革を成し得た。
「皇帝は太陽、教皇は月」
「今の皇帝と教皇は、精神的には琴瑟相和す名夫婦」
そういう蔭口めいた話が私の耳に届く。
彼女の耳にも、当然、届いているだろう。
そういう話を私は笑って流している。
何故なら、事実としか言いようがないから。
彼女も同様なのではないだろうか。
「妹が亡くなって、3年経ちますかね」
彼女はいきなり切り出した。
「そうですね。皇后が亡くなって、3年ですね」
彼女の妹、皇后のジェーンが崩御してから、3年が経つ。
「私もあなたも、年老いました。来世では、あなたと逢えますかね」
「逢えるといいですね」
私と彼女は短い会話をさらに交わした。
ジェーン、済まない。
君は良き妻、皇后だった。
だが、来世では、君の姉、教皇のフローレンスと今度こそ、結婚して幸せになれる社会に産まれたい。
彼女は夫の横で輝く女性なのだ。
彼女もそう思っているのだろう。
私は彼女の話から推察した。




